アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。後編。
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6. ネットワークの深夜トークのホスト交代の完了
基本的に深夜トークのホストは、在期が長い。10年20年はざらだ。だからこそその交代時にはニューズになる。そもそものアメリカの深夜トークを代表する顔だったNBCの「トゥナイト (Tonight)」のジョニー・カーソンが長期にわたってホストを勤め上げ、後継者のジェイ・レノ、その裏番組のCBSの「レイト・ショウ (Late Show)」のデイヴィッド・レターマン、深々夜の「レイト・ナイト (Late Night)」のコナン・オブライエン、「ザ・レイト・レイト・ショウ (The Late Late Show)」のクレイグ・ファーガソン、「ジミー・キメル・ライヴ (Jimmy Kimmel Live)」のジミー・キメル等、全員10年以上にわたってホストを担当した。
現在ではその全員がリタイアするか別番組に移るかしてホストが代わっているか、あるいはキメルの場合は別時間帯に移っている。また、その際「トゥナイト」に移って数字が稼げず辞めさせられたオブライエンのように、思い切り飛ぶ鳥後を濁した例もある。しかしそういうごたごたも一段落し、今では「トゥナイト」のジミー・ファロン、「レイト・ショウ」のスティーヴン・コルベア、「レイト・ナイト」のセス・マイヤーズ、「レイト・レイト・ショウ」のジェイムズ・コーデンと、全員収まるべきところに収まったという感触を受ける。さらにケーブルのTBSに移ったオブライエンの「コナン (Conan)」、HBOの「ラスト・ウィーク・トゥナイト・ウィズ・ジョン・オリヴァー (Last Week Tonight with John Oliver)」は、現在安定した人気を得ている。これでやっと今後10年は安泰か (と何かある度に言っている気もするが。)
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7. コメディ・セントラルのブラック-ブラック深夜トーク
アカデミー賞の主要俳優賞のノミニーが全員白人ということが物議を醸しているが、それはTV界とて同じこと。日中トークでは「ウェンディ・ウィリアムズ・ショウ (Wendy Williams Show)」とか、重鎮の「モンテル・ウィリアムズ (Montel Williams)」、そしてかつて最大の人気を誇った「ジ・オプラ・ウィンフリー・ショウ (The Oprah Winfrey Show)」等があったりするが、深夜トークに目を向けると、かつてのFOXの「ジ・アルセニオ・ホール・ショウ (The Arsenio Hall Show)」以外、黒人がホストの目ぼしい番組はない。
この事態に風穴を開けたのが、コメディ・セントラルの「ザ・デイリー・ショウ・ウィズ・トレヴァー・ノア (The Daily Show with Trevor Noah)」と、「ザ・ナイトリー・ショウ・ウィズ・ラリー・ウィルモア (The Nightly Show with Larry Wilmore)」だ。元々「デイリー・ショウ」のホストはジョン・スチュワート、その後に編成されていたのがスティーヴン・コルベアの「ザ・コルベア・レポート (The Colbert Report)」で、共に白人ホストだ。
それが二人が辞め、その後釜に編成された「デイリー・ショウ」と「ナイトリー・ショウ」ホストのトレヴァー・ノアとラリー・ウィルモアは、二人とも黒人だ。これはなかなかいい着眼点だと思う。黒人ホストはめったに見ないが、クリス・ロックだとかウーピ・ゴールドバーグだとか、黒人コメディアンは結構いる。それに、黒人視聴者という潜在的需要は結構あるはずなのだ。FOXの「エンパイア (Empire)」のような黒人発全米人気番組を構築できるか。
前回書いたブライアン・ウィリアムズのニューズ捏造スキャンダルがネットワークを代表するスキャンダルとすれば、「ナインティーン・キッズ・アンド・カウンティング」は、ケーブルを代表するスキャンダルと言える。
19人もの子を持つダガー夫妻に密着する「ナインティーン・キッズ‥‥」は、TLCどころかケーブルを代表する人気番組だった。しかし、一つ屋根の下、大家族健全リアリティ・ショウの代表と見られていた「ナインティーン・キッズ‥‥」に登場する長男ジョシュが、実は幼児虐待の前科があることが判明、しかも相手は自分の妹だったことが明るみに出て、こちらも番組はキャンセルされた。
だいたい素人密着型のリアリティ・ショウは、同じTLCの「ジョン・アンド・ケイト・プラス・エイト (Jon and Kate Plus 8)」にせよ「ヒア・カムズ・ハニー・ブー・ブー (Here Comes Honey Boo Boo)」にせよ、A&Eの「ダック・ダイナスティ (Duck Dynasty)」にせよ、最終的になんらかのスキャンダルが起きて番組がキャンセルされる結果になることが多い。人気番組になるとぼろが出るというか、あるいは元々叩けば埃の出るような人物だから逆に面白いキャラクターで人気が出るのか。いずれにしても実は「ナインティーン・キッズ‥‥」はこれで終わりではなく、今度はダガー家から独立した子供たちに密着する番組ができた。これがシリーズ化する可能性も大きそうだ。
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9. 過激度を増すサヴァイヴァル・リアリティ
もはや定番となった感のあるサヴァイヴァル・リアリティ、一昨年辺りから成熟期というか爛熟期を迎えた印象があったが、それで終わりではなく、過激度をさらに増している。一時ディスカバリーの「ネイキッド・アンド・アフレイド (Naked and Afraid)」や「マルーンド (Marooned)」等で、参加者を裸にしてサヴァイヴァルさせるという趣向が注目されたが、今ではそういうギミックも織り込み済みで、さらに危険度の高いサヴァイヴァル体験をさせるようになっている。
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•テザード (Tethered) ディスカバリー
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•100マイルズ・フロム・ノーウェア (100 Miles from Nowhere) AP
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•ザ・ラフト (The Raft) ナショナル・ジオグラフィック
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•ジ・アイランド (The Island) NBC
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•アローン (Alone) ヒストリー
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•メン・ウーメン・ワイルド (Men Women Wild) ディスカバリー
これらのサヴァイヴァル・リアリティは、一応は万が一のために近くに救護隊が待機している。さもなければ本当に遭難したり死んだりする可能性が高い。そして実際に、もうダメだとなって参加者が救急信号を発信して救助を求めるというシーンが、結構あった。実際に救助されなければ死んでいただろう。
さらには辺境でわざわざ家族のみで出産する者たちをとらえたライフタイムの「ボーン・イン・ザ・ワイルド (Born in the Wild)」では、今度は近くにどこにも救護隊はいない。万一の時でも誰も助けてはくれないのだ。これもある意味サヴァイヴァル・リアリティと言える。
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10. 世紀の決定的瞬間?
今秋、世紀の一瞬的なインパクトを狙った同系統の扇情的リアリティ・ショウが、生中継で何本も続け様に編成されて目を引いた。
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•フィアー: ベリード・アライヴ (Fear: Buried Alive) A&E
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•ブレイン・サージェリー・ライヴ・ウィズ・メンタル・フロス (Brain Surgery Live With Mental Floss) ナショナル・ジオグラフィック
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•エクソシズム: ライヴ! (Exorcism: Live!) デスティネイション・アメリカ
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•ビッグフット・キャプチャード (Bigfoot Captured) ヒストリー
「フィアー」は人を生き埋めにするというもの、「ブレイン・サージェリー」は脳外科手術の生中継、「エクソシズム」は悪魔祓い、「ビッグフット・キャプチャード」は雪男を生け捕りにするという企画だ。これらの番組がなぜ一時にまとめて現れたのかは知る由もないが、少しくは興味を惹かないこともないのは確かだ。しかし、少なくとも真面目な企画の「ブレイン・サージェリー」以外は、はっきり言って全部不発のトンデモ企画だった。ビッグフットを捕まえたと言っておいて、そんなのどこにもいないじゃないか。いったいどこに悪魔がいるんだ。等々、いったい何を考えてこういう企画を打ち出したのか、本当に理解に苦しむ。
番外: 小人が主人公
最初はかれこれ10年前にもなるTLCの「リトル・ピープル、ビッグ・ワールド(Little People, Big World)」だった。小人症のロロフ一家に密着する「リトル・ピープル‥‥」は、一般の人より苦境に立つ機会の多いロロフ家の日常生活をとらえ、一定の人気を勝ち得た。その後「リトル・カップル (Little Couple)」やAPの「ピット・ボス (Pit Boss)」も現れるなど、小人が主人公のこのジャンルは、ニッチ・ジャンルとして確立した感があった。それが昨年来、ライフタイムがこのジャンルに乱入したせいで事情が変わってきた。
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•アウア・リトル・ファミリー (Our Little Family) TLC
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•リトル・ウーメン: LA (Little Women: LA) ライフタイム
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•リトル・ウーメン: NY(Little Women: NY) ライフタイム
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•リトル・ウーメン: アトランタ (Little Women: Atlanta) ライフタイム
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•セブン・リトル・ジョンストンズ (7 Little Johnstons) TLC
この「リトル・ウーメン」フランチャイズは、「リトル・ワールド‥‥」よりも、どちらかというとブラヴォーが展開している「ザ・リアル・ハウスワイヴズ‥‥ (The Real Housewives...)」によほど近い。つまり、金と時間のある女性たちのつまらない見栄やパワー・ゲーム、異性獲得競争をとらえるもので、出演している者が小人の女性たちになったというだけだ。確かに登場する女性が小人ということからくる多少の印象や視覚的差異はあるが、それでもはっきり言って、これを見るのは単純に時間の浪費にしか思えない。ライフタイム、お前もかという感じだ。