ザ・ラフト   The Raft

放送局: ナショナル・ジオグラフィック・チャンネル

プレミア放送日: 4/5/2015 (Sun) 22:00-23:00

製作: エレクタス、ブライアン・カタリナ・エンタテインメント

製作総指揮: クリス・グラント、コーリー・ヘンソン


内容: 毎回見ず知らずの2組のカップルをバーミューダ海域上で救命ボートに乗せて一週間漂流させ、無事陸地にたどり着けるかを記録する。


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The Raft


ザ・ラフト  ★★1/2

いざという時に生き延びれるかのサヴァイヴァル技術を試すサヴァイヴァル・リアリティは、現在、一ジャンルとして確立している。CBSの「サバイバー (Survivor)」をその嚆矢と見なしてもいいかもしれないが、既にジャンルはさらに多様化し、多くはもっとシリアスなトーンを持つものへと変貌をとげている。


むろん「サバイバー」はまだまだ現役で人気があり、同様にNBCの「ジ・アイランド (The Island)」のような勝ち抜きリアリティも今でも編成されてはいる。しかしディスカバリーの「ネイキッド・アンド・アフレイド (Naked and Afraid)」のような、勝ち抜きで勝敗を決めるわけではない、単純にサヴァイヴァル技能を試す、あるいはそこに一人ではなく男女のカップルという社会の最小単位を持ち込んで、ごく初源的な人間のコミュニケイションのとり方を見てみるというような、社会人間学のフィールドワークみたいな番組が多いのが、近年のサヴァイヴァル・リアリティの特徴だ。そして「ザ・ラフト」もその例に漏れない。


「ラフト」とは筏、この場合は中大型船に取り付けられている救命ボートを指す。乗っていた船が沈没して大海原に見知らぬ異性と二人っきりで放り出されたという状況設定の元、救助を待つまで、あるいは無事近くの島に辿り着くまで、一週間を生き延びるというのがミッションだ。一つのエピソードにつき二組のカップルが登場する。


番組はバーミューダ海域で撮影されており、ラフトにはアンカーがついていて、潮の流れに乗れば一週間程度で近くの島に辿り着けるような場所が決められ、参加者の二人はその辺りの海原に降ろされて始まるようだ。とはいえそこは自然が相手でもあり、何が起こるかはわからない。大型台風は来ない時を選んでいるだろうが、多少の波の荒れは当然あるだろう。風も吹くだろうし雨も降るだろう。あるいは、まったく雨がなければ飲み水も不足する。


ラフトには緊急用の水やファースト・エイド、簡易工具、シート、手動の浄水器等が装備されているが、それだけで食料があるわけではない。一週間を生き延びるためには自力で食料を調達する必要がある。つまり、なんとかして魚を釣らなければならない。


ラフトには最初からたぶん遠隔操作のできるカメラが3台とりつけられているだけでなく、参加者がお互いを撮るための手持ち用のカメラもあり、それで24時間記録、あるいは監視され続ける。見渡す限り何もない大海原のど真ん中なのだが、緊急用の無線が届く範囲内には撮影本体のクルーが乗っている船が控えているはずで、そうじゃなければ本当にいざという事態になった時に助けに行けない。


実際、番組ではかなりこれは危ないと思える事態が出来する。ボートの底面をサメに小突かれるという場面もあり、本気で乗っていたカップルが青褪めていた。当然だ。大型のサメだと、本気でぶち当たってきたらかなりの確率でラフトを転覆させることができるだろう。そうなったらアウトだ。


時には漂流物で何か使えそうなものが見えたりすると、海に飛び込んで泳いで確かめに行ったりするが、そのまま姿が見えなくなったりすると、結構じわりと恐怖感が這い上がってくる。そのまま彼、彼女が戻ってこなかったらどうしよう。実際第2回ではラフトに残されたダニエルが、いつまで経っても戻ってこないウィルにパニクって、もう少しでSOSを発信しそうになっていた。


この二人は男性のウィルが若手の海洋生物学者、女性のダニエルがロブスター業で、最初はおっとりと頼り甲斐のあるように見えたウィルが、だんだんやることなすうまく行かなくてどんどん癇癪持ちの気難しい奴になっていく。こんなやつとプライヴァシーも何もないところにずっと一緒にいなければならないなんて嫌だろうと、ダニエルに同情する。


もう一組のペアのマークとサラは、マークがアフガニスタン従軍の経験のあるヴェテランで、爆弾で足を吹き飛ばされて両足がなく、義足をつけたまま参加。その義足を外してシートを張って簡易テントにしたりしている。シュールというか、こういう環境では利用できるものは何でも利用しなければならない。それにしてもマークは、たぶん海の中に落ちたらアウトだろう。よくこんな番組に参加する気になったもんだ。


結局このエピソードではマークとサラがなんとか小島にたどり着くが、一方のウィルとダニエルのペアは、深夜豪雨が襲ってきて、水を掻い出すより早く沈没の危険が増してきたためにSOSを出してリタイア、救助された。深夜、周りになんの灯かりもない時に雨でラフトが沈み始めて来たら、それは怖いと思う。水を汲み出すバケツすらあるわけではないのだ。あそこはリタイアはしょうがないところだったろう。意地で命かけることもあるまい。実際、死ぬ可能性も高かった。深夜ラフトが沈んで大海原に一人取り残されたら、どんなに近くに船がいようとも、発見されずにそのまま海の藻屑と消える可能性はすこぶる高い。


他のエピソードでは、どんなに濾過器があろうとも水分補給が追いつかなくなり、男性側がたぶん急性の腎臓障害を起こして痙攣し始めたためにやはり緊急リタイアとなったペアもあった。どんなに健康そうに見えても、環境が環境だから何が起きるかわからない。なんつーか、結構どのペアもかなり近い位置に死が潜んでいたんじゃないかと思えるものばかりだ。この番組、続いて行ったらいつか必ずどこかで死者が出るんじゃないかと思う。


「キャスト・アウェイ (Cast Away)」、「オープン・ウォーター (Open Water)」「ライフ・オブ・パイ (Life of Pi)」等、漂流ものはかなり怖い。それを好き好んで自らやろうとは私自身はまったく露ほども思わないが、世の中にはこういう限界に挑戦するのが好きな者も多いらしい。


ついこないだは、壊れたボートに乗って二月以上大西洋を漂流していた男が救助されたというのがニューズになっていた。雨水を貯め、魚を捕まえて飢えをしのいだそうだ。ボートが転覆しさえしなければ、後は生き延びようという意志さえ持ち続ければ生きていけるか。やはり運もあるだろう。大西洋一人ぼっちか。やはり、ちょっと、それは勘弁と思うのだった。











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