先週、勝ち抜きサヴァイヴァル・リアリティのフォーマットで、実はホラー・ドラマだったNBCの「シベリア (Siberia)」について書いたが、そのNBCによる本当の勝ち抜きサヴァイヴァル・リアリティが、「ゲット・アウト・アライヴ・ウィズ・ベア・グリルス」だ。 ほぼ同時期に一見同じ内容、実はまったく中身の異なる番組を、たぶん意図的に編成するもんだから混乱する。
実はこのサヴァイヴァル・リアリティ、今夏最も流行っているジャンルだ。元々ケーブル・チャンネルを中心にこの種のリアリティ・ショウはほぼ途切れることな くいつでも編成されているが、今年、特に今夏はサヴァイヴァル・リアリティが多い。それも勝ち抜きもあれば、そうではない単純にサヴァイヴァルだけに焦点を絞ったものもあるなど、ヴァラエティに富んでいる。このジャンルが成熟していることを窺わせる。
例えばナショナル・ジオグラフィック・チャンネルの「アルティメット・サヴァイヴァル・アラスカ (Ultimate Survival Alaska)」は、サヴァイヴァル技術に長けた屈強な男たちを極寒のアラスカに残し、ただただ生き延びることだけを前提に行軍させる。無事目的地にたどり着いても賞金は何も出ない。
一方TNTの「72アワーズ (72 Hours)」は、赤の他人同士にペアを組ませた3チームが、現金10万ドルの入ったアタッシュ・ケースを72時間以内に探し出す様を競うもので、砂漠やジャングル、海や急流でサヴァイヴァルしながら鎬を削る。
しかし私の意見では、勝ち抜きではない、賞金の出るわけではない純粋なサヴァイヴァルだけに焦点を絞った番組として今夏最も注目に値したのは、ディスカバリーの「ネイキッド・アンド・アフレイド」、そして勝ち抜きサヴァイヴァルでは「ゲット・アウト・アライヴ」が双璧だと思う。
「ネイキッド・アンド・アフレイド」は、文字通りネイキッド、裸になった男女二人のペアを密林や砂漠、草原で21日間、つまり3週間共同生活させる。それまでは会ったこともなければ聞いたこともないまるっきり赤の他人を別々に目的地に連れて行き、本当に何も身につけていないすっぽんぽんにして対面させる。もちろん局部も隠しようのない素っ裸で、とにかく恥ずかしいと か興奮するとかいうよりも、まず生きるために仮初めの居住場所を決め、少なくとも夜露を凌げる小屋もどきを製作する。そのための道具があるわけではなく、 すべて文字通りの手作業だ。
プレミア・エピソードはコスタリカのジャングルに、シェインとキムの二人が送り込まれる。もちろんある程度は事前に番組プロデューサーが場所を下調べしているのだが、そのプロデューサーはよりにもよってロケハン中に毒ヘビに咬まれてしまい、かなり重傷を負ったそうだ。
その時はそれなりの装備で歩いていてこれなのに、本番では身を隠すものもない素っ裸で密林を歩き回らなければならない。案の定シェインとキムはすぐに餓え と、体温を奪う雨のために疲弊し始める。その上、どこに毒ヘビが潜んでいるかも知れない。確かにこんな状況に置かれたら、相手が裸でも劣情をもよおしている暇なんかないだろう。裸でいることは、まず第一に身体を保護するものの確保が要求されるのであって、異性の興味の獲得はその次だ。
そして食料の確保こそ、生死に直結する最優先事項であるのは言うまでもない。シェインは一日中ジャングルの中を歩き回って食料を探し求めるが、簡単には手に 入らない。一方、キムが川で亀を捕獲することに成功する。久しぶりに口にする動物性たんぱく質だが、川の生き物には寄生虫がおり、火を通さないと食べられない。それが充分じゃなかったのだろう、キムは食中りになって寝込んでしまう。そうなった場合、頼りになるのは自分の基礎体力のみだ。ここには点滴も抗生物質もビタミン剤もない。とはいえ、休もうにも雨の漏る簡易居住小屋みたいなもので、普通の人なら回復するどころか症状を悪化させるだけだろう。
たぶん、本当に命が危ないような状況になったらプロデューサー判断か参加者のリタイヤ宣言によって撮影は中止され、医療班が駆けつけるなり都会の病院に運ぶなりの方法がとられるのだろうが、そこはそれ、参加者も自分から進んで参加しているのに途中リタイヤなんてしたくない。意地でも音は上げないのだった。
結局シェインとキムはなんとか21日間のサヴァイヴァルを達成、無事帰還する。手作りの簡易衣装に身を包み、なんといっても3週間前と今では顔つき、身体つきが違う。たった3週間だが、二人ともよけいな脂肪が削がれ、精悍になった。特にキムなんて、こうやって見るとかなり美人だ。サヴァイヴァルは確実に効果のある減量法としても有効なのだった。
一方「ゲット・アウト・アライヴ・ウィズ・ベア・グリルス」は、二人一組となっての勝ち抜きサヴァイヴァル・リアリティだ。まだ雪の残るニュージーランドの山の中で、ホストのベア・グリルスが設定した様々なサヴァイヴァル・テストを実践し、毎週一組ずつ、グリルスが彼らはサヴァイヴァルには向いてないと思うペアを追放する。最後まで残って優勝した時の賞金は50万ドル。
グリルスは、ディスカバリー・チャンネルの「サバイバルゲーム (Man vs. Wild)」で知られている冒険家だ。「サバイバルゲーム」は、いざという危急の事態に陥った時のサヴァイヴァル技術を伝授する番組だが、基本的に本当に生か死かの状態にグリルスを追い込むのではなく、事前に状況をセットアップした、ある意味やらせサヴァイヴァルだ。ところが演出はいかにもグリルスが大自然の中で何日間もサヴァイヴァル生活しているように見せているため、ある時、番組収録を終えたらグリルスはホテルに帰って寝ているという実情が暴露されると、そこそこスキャンダルになった。CBSの「レイト・ショウ (Late Show)」ホストのデイヴィッド・レターマンは、その件でやたらとグリルスをバカにしていたことがあった。演出なら演出と最初からわかるように撮ればいいのに。
とはいえ、グリルスが軍人上がりの本当にサヴァイヴァル技術に長けた人物であることは事実だ。「ゲット・アウト・アライヴ」は、グリルスが「サバイバルゲーム」でやったことを参加者に体験させ、彼らが状況にどう対処していくかをチェックする。例えば食料の確保は、「ネイキッド・アンド・アフレイド」では一から十まで参加者が自らなんとかしなければならなかった。しかし「ゲット・アウト・アライヴ」では、参加者自身がうなぎを手づかみする場合もあるが、多くの場合、事前にグリルスが仕留めてあった野生動物をクレバスの中とか滝上とかに置いておき、参加者は役割分担をしてその獲物を手に入れ、調理し、分配する。その過程をグリルスが遠くから眺めてサヴァイヴァルに適しているか適してないかを判断する。
例えば、滝つぼを越えて獲物がある場所に到達するのに、若い男性はそのままざぶざぶと水 の中に入ってしまう。もちろん、ほとんど水温零度の水の中になんの準備もなく入っていくのはご法度だ。案の定その若い男はすぐに体温を奪われ、ここまで皮膚が紫色の人は見たことがないと言われてしまうくらい体温が落ちて、制御しようがないくらいがたがたと震えていた。若くなければとうに死んでいたか、少な くとも病院行きになったのは間違いないだろう。
そうやって持ち帰った獲物は、今度は炊事担当班が調理して分配するが、火を熾すのにえらく時間がかかったり、せっかく調理した肉をなんの処理もせずほったらかしたままテントで寝ちゃったりする。これまた大きな減点材料であるのは言うまでもない。限られた食料を粗末にしてサヴァイヴァルできるわけがない。
番組第1回では、参加者は自分の小便を飲まされていた。小便と泥水の混合水を飯盒に入れて火を熾して摂氏95度まで熱して有害細菌を死滅させた後、今度は60度まで冷まして、全部飲む。一番早かった者が山のようなご馳走と熱い風呂に入る権利を獲得する。番組では毎回必ずこのようなサヴァイヴァル・テストがある。しかし華氏を使うアメリカの番組とはいえ、英国人グリルスがホストをしている番組では、摂氏で温度を測る。最初グリルスが95度と言った時は、一瞬小便を再度人肌に温め直すことになんかの意味があるんだろうと思った。
グリルスといえば、悪食グリルスとして、その辺に蠢いている生物は、重要な動物性たんぱく質としてなんでも口に入れるのも有名だ。なかにはものすごい臭いを発するものも、果てしなくまずそうなのもあ るが、毒性でない限り食べる。飢えて死ぬよりはましだ。もちろん番組参加者もそれを強要される。糞食ってるみたいだと言いながら食っている。それでも、番 組が始まった最初の頃は思わず吐いていた者もいるのに、回数が進むと、女性でもなんだかんだ言いながら食っている。最初の方はヴェジタリアンもいたんだが、荒野ではヴェジタリアンというのは贅沢な選択肢の一つであることがわかる。それにしても小便といい蛆虫といい、ゲテ物ばかり飲み食いさせられる。
しかし、いずれにしてもサヴァイヴァルということでもあり、私は勝つのはやはり男性二人組のクリスとジェフのペアだと思っていたが、意外にも勝ったのは父娘ペアのアンドリュウとアンドレア。誰を追放するか、誰を残すかの選択はグリルスの胸先三寸で、実際アンドリュウとアンドレアは頑張っていたとは思うが、うーん、そう来たか。