ブレイキング・ザ・サイレンス   Breaking the Silence

放送局: TLC

プレミア放送日: 8/30/2015 (Sun) 22:00-23:00

製作: ピーコック・プロダクションズ

出演: エリン・メリン


内容: 「ナインティーン・キッズ・アンド・カウンティング」最終回代わりの児童虐待撲滅を訴えるドキュメンタリー。


_______________________________________________________________

Breaking the Silence


ブレイキング・ザ・サイレンス  ★★1/2

市井の人 (々) の生活に密着するというタイプのリアリティ・ショウは、掃いて捨てるほどある。多くの場合、特異な振る舞いや奇矯な行動、奇抜なキャラクター等で目を引く者たちをとらえる。A&Eの「ダック・ダイナスティ (Duck Dynasty)」、TLCの「ヒア・カムズ・ハニー・ブー・ブー (Here Comes Honey Boo Boo)」等がその代表的な例だ。


一方人物そのものより、その生活環境の特異さで注目され、リアリティ・ショウ化される場合もある。近年その最も顕著な例として思い出されるのが、TLCの「ジョン・アンド・ケイト・プラス・エイト (Jon and Kate Plus 8)」だ。これはタイトルになっているジョンとケイトではなく、彼ら夫婦の生んだ六つ子という滅多にない家族構成が、番組の焦点だった。多人数家族というのは忙しなく、色々と興味が尽きないのは確かではあり、最近では、大家族プラス登場人物が小人症というTLCの「セブン・リトル・ジョンストンズ (7 Little Johnstons)」なる番組もある。


それらの人気番組に共通しているのが、なんらかの舌禍事件やスキャンダルを起こして、番組がキャンセルされるか干されるかしているということだ。元々彼らは素人であり、TVスターになったのはたまたまだ。それでつい言わないでもいいことを言ったり、浅薄としか思えないような言動で世間の反感を買ってしまう。


公然とゲイに反感を持つ意見を述べて自分たちが反感を買った「ダック・ダイナスティ」、児童虐待の男と付き合っていた「ヒア・カムズ・ハニー・ブー・ブー」のママ、夫の浮気がバレるなど家庭崩壊が全国民に知られてしまった「ジョン・アンド・ケイト」等、それぞれがそれぞれの理由で瓦解していった。そしてその最たる例が、TLCの「ナインティーン・キッズ・アンド・カウンティング (19 Kids and Counting)」だ。


「ナインティーン・キッズ・アンド・カウンティング」は、19人もの子がいるアーカンソーのジム・ボブとミシェルのダガー夫妻の家庭に密着するリアリティ・ショウだ。番組が始まったのは2008年で、その時はまだ子供は17人で、「セヴンティーン・キッズ・アンド・カウンティング (17 Kids and Counting)」として始まったものが、あっという間に「エイティーン・キッズ・アンド・カウンティング (18 Kids and Counting)」となり、「ナインティーン・キッズ・アンド・カウンティング」になった。ただし、それ以降5年間子供が増えていないところを見ると、さすがにこれで打ち止めだと思われる。


私は最初、彼らは避妊が禁じられているカソリックの信者だとばかり思っていたが、そうではなく、プロテスタントのバプティスト教徒だそうだ。だいたい、一応禁止という建て前にはなってはいるものの、カソリックでも現在は避妊は黙認されているらしい。先頃来米したローマ法王ですら、同性婚を認める旨の発言をしていたから、宗教も時代に寄り添う必要があるんだろう。


ダガー夫妻の場合は、長男ジョシュを出産した後、ミシェルが第二子を流産し、その時夫妻は、今後は避妊することなくすべては神の御心に任せようということにしたそうだ。そしたら産むわ産むわ、ミシェルはその後20年ちょいの間に二度の双子を含め、計19人の子供を授かった。だいたい20代から40歳くらいまでのほとんどの時期を妊娠していたことになる。


これだけの大家族は、広いアメリカといえども滅多にあるものではなく、というか、たぶん一夫一妻制の一つの家族としてはアメリカ一と思える。だからこそTV局も注目したし、視聴者もチャンネルを合わせた。「ジョン・アンド・ケイト」なき後は、TLC最大の人気番組に成長した。


ところが、順風満帆に見えた番組が、思わぬスキャンダルに見舞われる。長男ジョシュの幼児虐待という事実が発覚したのだ。事件自体はかれこれ10年以上も前に起きたことらしいが、警察沙汰になり、記録が残っていたおかげで明るみに出た。レイプしたとか重いものではなかったようだが、いたずらの相手の中に自分の二人の妹がいたというのは、非常にまずかった。ジョシュは現在結婚して妻と子供がいるのだが、それなのに浮気サイトのアシュリー・マディソンに登録しているのまでバレた。こうなると、もうダメだ。


ドラッグとかその他の比較的軽微な犯罪についてはわりと寛容という印象すら受けるアメリカ社会であるが、御法度という犯罪もある。幼児ポルノ、虐待がそれで、これをやると制裁を受ける。タレントならまず間違いなく干されるし、TV番組ならキャンセルされる。特に「ナインティーン・キッズ・アンド・カウンティング」の場合、番組自体が清廉潔白なイメージで売っていた上、ジム・ボブは地元の政治家でもあり、教会の指導者的存在でもあっただけに、スキャンダルになった時の反動は大きかった。間髪を入れずに番組バッシングが起こり、TLCは番組キャンセルを余儀なくされた。


とはいえTLCで最も人気のあった番組だ、それをいきなり尻切れとんぼで終わらせるというのは収まりが悪いし、番組ファンにも不親切と思ったのだろう、TLCは、後日番組を収束させる特番を製作すると発表した。それがこの「ブレイキング・ザ・サイレンス」だ。


「ナインティーン‥‥」自体にはほとんど興味のなかった私だが、しかしスキャンダルを起こした後、TLCがどのように事態に幕を引くつもりなのかは興味があった。それで見てみたわけだが、実はこの番組、ほとんど「ナインティーン‥‥」とは関係ない。実際にミシェルと、ジョシュがいたずらした二人の妹、ジルとジェサは出てくるのだが、番組は彼女らだけをとらえるものではなく、虐待を受けた女性たちのケアをする活動をしている団体、RAINN (Rape, Abuse and Incest National Network) およびダークネス・トゥ・ライトと、自身も被害者のアクティヴィストであるエリン・メリンの活動をとらえるものだ。ミシェルたちはそのイヴェントに参加しているという立場で、番組に出てくることは出てくるが、ほんの僅かの時間だけだ。


要するに「ブレイキング・ザ・サイレンス」は、「ナインティーン‥‥」の最終回をイメージしていると、肩透かしを食う、まったく別物だ。それでジョシュはどうなったの、ジム・ボブは出て発言しないわけ? と思ってしまうが、なんでもジョシュはスキャンダル発覚以降、その手の更生施設入りになったそうで、一度入所すると、半年は公けの場に現れてくることはないらしい。ジム・ボブも、その他の家族のメンバーも登場することは一切ない。スキャンダルの発覚以降沈黙を守ってきたダガー家が初めて沈黙を破るという意味で「ブレイキング・ザ・サイレンス」だとばかり思っていたらそうではなく、かつて虐待を受けた女性たちが自身の体験を発言し始めたという意味での、「ブレイキング・ザ・サイレンス」だった。


いずれにしてもこれじゃあ「ナインティーン‥‥」は番組としては不完全燃焼じゃないかなと思っていたら、やっぱりTLCも他の視聴者もそう思っていたようで、後日、また新たに、今度は、今は結婚して独立しているジルとジェサの家族に焦点を当てた特番を製作するという発表があった。今度こそ本当にそれで打ち止めか。










< previous                                    HOME

 
 
inserted by FC2 system