The Monuments Men


ミケランジェロ・プロジェクト  (2014年1月)

「ザ・ミケランジェロ・プロジェクト」は、 ロバート・M・エドゼルの同名ノン・フィクション (邦題: ナチ略奪美術品を救え) を映像化した作品だ。第二次大戦末期、敗色濃厚なドイツはヨーロッパ中から撤退を強いられていたが、その時、ヒットラーは、もし撤退するなら各地から簒奪した美術品は破壊してしまえという命令を出していた。当時ハーバードで美術館長をしていたフランク・ストークスは情勢を憂え、ルーズベルト大統領を説得し、ナチがどこかに隠し持っているはずの美術品を奪還して正当な持ち主に返すという計画を承認させる。


ストークス以下の部隊の面々はモニュメンツ・メンと呼ばれ、行動に移るが、しかし彼らは美術のプロではあっても、戦闘のプロではなかった。目的は崇高でもどこの指揮下にも属せず、実戦では足手まといにしかならない彼らは、行く先々で疎んじられる。彼らはヨーロッパで散開し、各地で地道に活動を進め、そしてとある坑道に多くの美術品が隠されているという情報を手にする。しかしそれはまだドイツ支配下の敵地奥深くに侵入することを意味していた‥‥


原作は、コメディの要素はほとんどないものと思われる。しかしそれを映像化した「ミケランジェロ・プロジェクト」は、戦争ものとしては驚くほど軽い、どちらかというと乗りはほとんどコメディに近い作品になった。これは出演者がビル・マーレイを筆頭に、ジョン・グッドマン、ボブ・バラバン、ジャン・デュダルジャンと、基本的にコメディ俳優を起用していることとも関係があろう。演出主演のジョージ・クルーニーは、これをやたらと重々しい作品にはせず、純粋にエンタテインメントとして供したかったようだ。


その狙いは達成されており、やろうと思えば残虐にも重々しくにもドラマティックにもいかようにも描けたと思うが、それほど多くないにしても戦闘シーンはあり、人も死ぬのにもかかわらず、この軽い乗りを最後まで維持するのは、なかなか大したものと思わざるを得ない。銃撃戦があって人が倒れても、遠景であったり血がほとんど流れないなど、エモーショナルになり過ぎるのを周到に避けている。果たしてこの演出の仕方が最も作品に適しているかどうかはともかく、微妙なさじ加減を塩梅できるクルーニーには感心する。


近年のクルーニーは、出演作にせよ演出作にせよこういうバランスの取り方が自由自在だ。これが演出に限るなら、だいたいコメディ2本撮ってドラマ1本撮るみたいなルーティーンができ上がっているコーエン兄弟みたいな例もあるが、クルーニーの場合はそれにさらに出演も兼ね、他の作品にも出てプロデュースまでしている。


むろん大方の俳優もドラマもコメディもこなすことはこなすが、それでもどちらかのジャンルを得意にする、あるいは少なくとも観客の目から見てコメディ寄りだったりドラマ寄りだったりする。しかしクルーニーの場合、シリアスなドラマに出ていてもあるいはコメディに出ていても、共にしっくり収まる。演出でも出演でも、これだけ幅広く活躍できる者は滅多にない。というか、他に知らない。


近年では出演作では: 


「ザ・ミケランジェロ・プロジェクト」

「ゼロ・グラビティ (Gravity)」

「ファミリー・ツリー (The Descendants)」

「スーパー・チューズデー ~正義を売った日~ (The Ides of March)」

「ラスト・ターゲット (The American)」

「マイレージ、マイライフ (Up in the Air)」

「ファンタスティック Mr.FOX (Fantastic Mr. Fox)」

「ヤギと男と男と壁と (The Men Who Stare at Goats)」

「バーン・アフター・リーディング (Burn After Reading)」

「かけひきは、恋のはじまり (Leatherheads)」

「フィクサー (Michael Clayton)」

「オーシャンズ13 (Ocean's Thirteen)」

「さらば、ベルリン (The Good German)」

「シリアナ (Syriana)」

「グッドナイト&グッドラック (Good Night, and Good Luck.)」



等、こうやって記してみると、7、8年遡っただけで、ここまでと驚くくらいヴァラエティに富んでいる。コメディでもドラマでもオスカーにノミネートされている。今回初めてコメディでオスカーにノミネートされて、そうかコメディ初めてかと思わされた「ウルフ・オブ・ウォールストリート (The Wolf of Wall Street)」のレオナルド・ディカプリオと比較すると、役柄の幅の広さがよくわかる。


このうち演出作は: 


「ザ・ミケランジェロ・プロジェクト」

「スーパー・チューズデー」

「かけひきは、恋のはじまり」

「グッドナイト&グッドラック」



の4本だ。もうちょっと遡って監督作をすべて網羅すると、これに「コンフェッション (Confessions of a Dangerous Mind)」も入るが、最近の4作ではドラマ、コメディ、ドラマ、コメディ、と交互に撮っている。要するに「ミケランジェロ・プロジェクト」は、最初からコメディを撮ろうと考えていたことが窺える。


ただし、それが奏功したかどうかはもちろん別問題で、ちょっと調べてみるとこの映画、結構貶されている。要するに、クルーニーが提供したかったのは軽い良質のエンタテインメントだったが、批評家や観客が欲していたのはシリアスな戦争アクションだったという、両者間に齟齬があった。実際の話、私もなんでこの乗り? と思いながら最初の方は見ていたのは否めない。人が死んでコメディにするのは、「マッシュ (MASH)」のようなブラックなものにするならともかく、ライトなテイストでこれを実現しようとすると、かなり無理がある。とはいえ、それに挑戦しようとしたことだけでも、クルーニーは偉いなあと感心してしまう。












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第二次大戦時末期、ハーバードで美術館長を務めているストークス (ジョージ・クルーニー) は、敗戦濃厚のナチがヨーロッパを蹂躙中に簒奪した美術品の行く末に心を痛めていた。ヒットラーはもし戦争に負けるようなことがあれば、奪略した美術品はすべて焼却するよう命じていた。どうしてもそれらの美術品をほっておけないストークスは、その道の専門家から成る美術品の奪還部隊モニュメンツ・メンを結成、自ら先頭に立って指揮をとる。彼らはナチが多くの美術品をまとめて隠してある場所があるに違いないと推測する。しかしそれらの場所を確認するには、第一線を超えて敵地に深く潜入しなければならなかったが、彼らには実戦経験はまるでなかった‥‥


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