The Descendants


ファミリー・ツリー  (2011年12月)

マット・キング (ジョージ・クルーニー) はかつてハワイを統治していた王族の末裔だ。とはいっても今では生活自体は一般市民とほとんど変わるところはなく、不動産関係のビジネスマンとして忙しく生活している。ただ、未だにハワイの土地の大部分は信託としてマットに残されていた。マットには妻のエリザベス (パトリシア・ヘイスティ) と二人の娘、アレクサンドラ (シェイリーン・ウッドリー) とスコッティ (アマラ・ミラー) がいた。そのエリザベスがジェット・スキーの事故で昏睡状態に陥ってしまう。もう二度と目覚めることはないだろうという医者の言葉に、これまでの自分の仕事一筋の生き方を反省し、もう一度エリザベスとの生活をやり直したいと願うマットだったが、そこにアレックスが爆弾発言を落とす。エリザベスは浮気していたというのだ‥‥


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「サイドウェイズ (Sideways)」から既に7年、次の作品を撮っているんだろうかと考えることすら最近ではなくなりつつあったアレクサンダー・ペインの新作がやっと公開だ。


とはいえペインはその間、完全に眠っていたわけではない。2007年のパリを舞台にした競作「パリ、ジュテーム (Paris, Je t'aime)」ではトリを務める最後の「14区」を撮っているし、TVではHBOで、イチモツが異様に大きいために教師から男娼になる男を描く「ハング (Hung)」のパイロットも撮っている。しかし前者は、10分足らずという制約ではペインの味であるストーリーの妙を得るには時間が足りなさ過ぎたし、後者の方は特にペインだからという印象はまったく受けなかった。題材のせいもあるだろう。


したがって、いかにもペインらしさを発揮した作品としては、「ファミリー・ツリー」はやはり「サイドウェイズ」以来のペインの新作と言って差し支えない。


今回の舞台はハワイで、かつてハワイを統治していた王族の子孫で、今でも土地の大部分の決定権を持つ男マット・キングが主人公だ。しかしビジネスに明け暮れるマットの、妻エリザベスがジェット・スキー事故で昏睡状態に陥る。しかも娘のアレックスから、エリザベスは実は浮気していたという衝撃の事実を告げられる‥‥


マットに扮するのがジョージ・クルーニーで、近年はぼほ毎年このシーズンになるとオスカーに絡む作品に出ているか製作している。つい最近も「 スーパー・チューズデー (The Ides of March)」で、出演演出と二足のわらじを履いて評価されている。この打率の高さは、製作者としては一時のクリント・イーストウッド、俳優としては、出れば必ずノミネートされるメリル・ストリープ並みだ。カメラの前でも後ろでもできがいいという点で、ちょっとこの強さは例を見ない。


今回は、妻の浮気も知らずに仕事に打ち込んでいた、ちょっと情けないというか、可哀想な男の役だ。しかも妻の浮気を知ったからといって、ではどうすればいいのかというと、よくわからない。当の妻は病院で再び目覚める可能性もなくベッドの上で眠り続けている。なじることも当たり散らすこともかなわない。


かといって、妻の浮気相手の素性もよくわからない。そこで色々な糸を手繰り寄せて、素人探偵よろしく相手を突き止めていく。情けない父相手にさじを投げ気味だった娘もなにかとアイディアを出したり手伝ったりする。そしてついに相手の居所を探り当てるが、堂々と相手の家に乗り込んでいくのではなく、最初はつい物陰からこそこそと相手を窺ったりする。一見しただけでは単なるストーカーか変態親父にしか見えない。クルーニーの役者としての最大のセールス・ポイントは、シリアスな役もこういうコメディ・タッチも、両方違和感なく演じることができるという点だろう。ちゃんと不甲斐ないダメ親父に見える。あの走り方がいかにも情けないのは、演技か天然か。


アレックスを演じるのが、ABCファミリーの「ザ・シークレット・ライフ・オブ・ジ・アメリカン・ティーンエイジャー (The Secret Life of the American Teenager)」のシェイリーン・ウッドリー。この番組で彼女は、妊娠してしまうティーンエイジャーの主人公を演じている。私はこの番組を特に評価しているわけではないが、近年アメリカではMTVの「ティーン・マム (Teen Mom)」の成功に代表されるティーンエイジャーの妊娠がブームみたいなところがあり、「アメリカン・ティーンエイジャー」も今でも放送が続いている。こないだちらと見てみたら、どうやら子供は既に生まれていたようだ。


妻のエリザベスを演じるパトリシア・ヘイスティは、演じるとはいっても映画の中では病室で昏睡状態に陥っており、しゃべることも目を開けることもない。動いているシーンはないし、セリフもない。写真の中で目を開けて微笑んでいるだけだ。しかしそれだけで、いかにも気の強い女という印象を与える。ある意味エリザベスが作品の裏の主人公であり、彼女の行動が他の全登場人物に影響を与えている。


映画はその右往左往するマットとその周りの人間を描いて進むのだが、実はそのクライマックスでとんでもないことが起こった。マットがベッドの上のエリザベスに最後の別れを言うシーンで、どこの誰だかわからないあんぽんたんの携帯がぴろぴろと鳴り出したのだ。たぶん家の者に映画を見に行くとでも言って出かけてきたのだろう。それで2時間くらい経ってそろそろ上映が終わった頃を見はからって電話してきたに違いない。さもなければあと数分で映画が終わるというタイミングで電話がかかってくるわけがない。しかも、連続して2回もかけてきやがった。


どこの誰だかわからんそいつが知らんふりを決め込んだせいで、ヴォイス・メイルに切り替わるまで7-8回はコール音が鳴り止まなかった。あるいは最初からヴォイス・メイルになる設定すらしていなかったのかもしれない。場内の他の観客も頭に来てざわざわし出し、誰だかわからんそいつに向かって「クソったれ野郎 (asshole)」と怒鳴るし、雰囲気ぶち壊しも甚だしい。


こないだもニューズを見ていたら、こちらはニューヨーク・フィルの定期公演中に携帯を鳴らした奴がいて、指揮者のアラン・ギルバートが途中で演奏を止めて観衆に向き直って、終わった? いいよ、待つから、と皮肉って、携帯野郎が電源を落としてから、演奏をやり直したそうだ。マーラーの交響曲第9番の最終楽章で携帯鳴らされたら、指揮者でなくともそりゃ怒り心頭に発するだろうなと思う。


また、これはかなり前のことになるが、こちらは舞台でロウレンス・フィッシュバーンが「冬のライオン (The Lion in Winter)」のヘンリー2世を演じている時にやはり誰かの携帯が鳴り、フィッシュバーンは演技を止め、そいつに向かって激しく汚い英語で罵った後で、また演技を続けたそうだ。観客は拍手喝采だった由。こういう一期一会の機会に較べたら、いざとなればまったく同じものの見直しの効く映画での携帯ぴろぴろはまだましな方か? いや、これは観客数や媒体には関係なく同罪、しかもかなり重い罪だ、重刑に処すべしと思うのであった。それにしてもこの作品、私にとっては内容とはまったく別の意味で忘れ難い作品になった。


ところで、作品の最後は妻/母のいなくなった家のカウチで、マット、アレックス、スコッティの3人がアイスクリームを舐めなめTVを見ているシーンで終わる。そこでTV画面は映らないが、彼らが見ている番組のナレーションをしているのは、紛れもなくモーガン・フリーマンだ。自然科学番組のようで、昨年、ディスカバリー・チャンネルの姉妹チャンネルであるサイエンス・チャンネルが放送した、宇宙の仕組みを解説する「スルー・ザ・ウォームホール (Through the Wormhole)」でまず間違いないと思う。というのも、私もカウチに寝っ転がりながら (アイスクリームは食べていなかったが)、この番組を、よくわからんなと思いながら見ていたからだ。子供はなく、女房は既にベッドに入ってたので一人で横になって見てたわけだが、なんとなく、ああ、同じだとシンパシーを感じたわけだ。


話を元に戻して、ペインの新作がやっと公開されたということで、インディ界のフィルムメイカーとして私がなんとなくペインとセットで覚えていたトッド・フィールドはどうしているんだろうと家に帰ってからIMDBをチェックしてみた。そしたらこちらも「リトル・チルドレン (Little Children)」以来6年振りに、新作の「クリード・オブ・ヴァイオレンス (Creed of Violence)」の準備に入っていた。


他にも最近名を聞かないなと思っていたマイケル・クエスタが、今年ショウタイムで「ホームランド (Homeland)」を撮っていたり、トマス・マッカーシーが「ウィン・ウィン (Win Win)」を発表していたりと、実はインディ映画作家も地道に頑張っている。そういやジェイソン・ライトマンの「ヤング・アダルト (Young Adult)」も公開中だ。しかしライトマンはインディペンデントと呼べるかどうか、微妙だな、しかしまあ、こういう連中が仕事しているのはいいことだ、と一安心するのだった。








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