The Wolf of Wall Street


ウルフ・オブ・ウォールストリート  (2014年1月)

うちのオフィスは基本的に日本のクライアントに合わせて休む場合が多く、そのため今年は暮れから新年にかけて日本の多くの企業同様、一週間以上の長い休みになった。一方それだけではなく、アメリカ在の企業でもあるため、当然クリスマスも休む。おかげで年末年始が休みだらけになったのはいいが、同時に嫌な予感もした。


その予感が現実のものとなったのは、年が明けて、当然休んだ仕事のツケは自分でとらざるを得ないという状況に陥ったからだ。年末にこれだけ仕事残したまま休んでいいのかという不安は当然あったのだが、ボスが休めというし、そこは見ないようにしていた。いや、私は休まないで仕事しますと言っても、当節は仕事熱心と思われるよりも、せっかく休めと言っているのに、なにが不満なのと思われるだけなのがオチだ。


そして当然の如く、新年になって出社してから、締め切りのある仕事に文字通り忙殺された。ちょうどこの時期、ニューヨークは猛烈な寒波が到来していて、ただでさえ体調管理が難しいところを時間との戦いで、近年ここまで仕事したことあったかなというくらい根を詰めて仕事をこなしていった挙げ句、体調を崩した。


もっともそれは仕事のせいだけではない。週末にスーパーに買い出しに出かけた時、普段はここまでは混まない駐車場が満杯だった。またもや到来が予報されているスノウ・ストームに備えて、私を含めて人々が買い出しに来ているからで、結局スーパーから最も離れた駐車場の端にクルマを停めるしかなかった。それで買い物を終えてスーパーを出た時には、既に降り出してみぞれ模様になっていた。こういう時に限って帽子も被っておらず、クルマまでは遠い。買い物袋で両手が塞がっているので頭を覆うこともできず、クルマに到達した時にはほとんどずぶ濡れ状態だった。ただでさえ体調がすぐれない時にこれをやったので、めったに風邪を引かない私でも、熱出して寝込む羽目になった。


週末、普段なら一人でも映画見に外出する私がずっとベッドで丸くなっているので、女房が珍しいものでも見るみたいに、なんでそんなに体調崩したか、思い当たる節は、と訊いてきた。しかしここで正直に理由を話すと、だからだよ、傘も持たずに、バッカじゃないのと言われるのが目に見えていたので、思い当たる節はあるけど言わない、と宣言して、あとはだんまりを決め込んでひたすら寝ていた。


おかげで、それで本当はキアヌ・リーヴス主演のトンデモ忠臣蔵「47 Ronin (47 Ronin)」に興味がなくもなかったのだが、せっかくの週末を棒に振っている間にさっさと劇場から消えていた。B級の匂いぷんぷんで、見たらまず十中八九金返せと思うだろうなとほぼ確信していても、時節柄としても合ってるし、怖いもの見たさで見ようと思っていたのに。それで結局、2014年最初の作品は、マーティン・スコセッシの「ウルフ・オブ・ウォールストリート (The Wolf of Wall Street)」になった。なんとなく「47 Ronin」に後ろ髪引かれる思いだ。


その「ウルフ‥‥」を見た翌週、ゴールデン・グローブ賞の発表があった。「ウルフ‥‥」のディカプリオも主演男優賞にノミネートされており、「アメリカン・ハッスル (American Hustle)」のクリスチャン・ベイルとかもノミネートされていた。受賞したのはディカプリオで、ふーん、頑張ってるんだなと思っているうちに受賞スピーチが始まり、皆さんありがとう云々‥‥と来て、私がコメディで受賞するのはたぶんこれが最初で最後、みたいなことを言っているのを聞いて、初めて「ウルフ‥‥」がコメディであったことを知った。そうだった、ゴールデン・グローブはドラマとコメディ/ミュージカルとでカテゴリーが分かれてるんだった。


ということは同じカテゴリーに主演がノミネートされている「アメリカン・ハッスル」もコメディだったのか、「ネブラスカ (Nebraska)」や「ハー (Her)」もコメディか、「インサイド・ルーウィン・デイヴィス (Inside Llewyn Davis)」は確かにコメディでもミュージカルでも通用しそうだが、しかしこれでは正直言ってドラマとコメディ/ミュージカルなんてカテゴリーを分ける意味なんかないな、これなら両方合わせて10本の中から1本作品賞を選ぶ方がましだな、その点オスカーの方がまだ有効か、なんて思いながらセレモニーを見ていた。


たぶんゴールデン・グローブがいまだにコメディ/ミュージカルなんてカテゴリーを抱えているのは、陽の当たる機会の少ないこれらのジャンルにチャンスを与えるという名目なんだろう。しかしこれがTVなら、1時間のドラマと30分のコメディでは見る者の意識も違うし、カテゴリー分けするのもわかるが、映画はコメディだろうがドラマだろうがだいたい90分から2時間あるし、3時間の「ウルフ‥‥」がコメディとして分類されているに至っては、何をかいわんやという気がしてくる。これらの作品は実際にオスカーにもちゃんとノミネートされているわけだから、既に現代では意味のないゴールデン・グローブのカテゴリーなんか廃止すればいいのに。


「ウルフ‥‥」は1980年代末から90年代にかけて、非合法の投資戦略によって財を作り上げ、そして摘発されて刑務所入りしたジョーダン・ベルフォートを描くドキュドラマだ。時代こそ違えニューヨークの東側のロング・アイランドの小さなオフィスから始まり、どんどん成り上がっていくというプロセスが、「アメリカン・ハッスル」と一緒だ。両者とも基本的に事実 (を基にしている) というのも同じだ。共に非合法の投資ビジネスで財を成し、FBIから目をつけられる。そういう2作品が、両方共コメディになるというのがなんとも不思議だ。


違法の投資ビジネスというのは、当然のことだがカモがいる。ちょっと欲に目が眩んだということはあるかもしれないが、それでも大半の者は口八丁手八丁の甘言弄言に騙された一般市民であり、罪はない。その騙す悪党どもを主人公にしてコメディか、と、特に騙された者は当然そう思う。なけなしの虎の子を騙し取られ、家庭が崩壊した者も多いのだ。ベルフォートは知らないが、2000年代にやはり同様の違法投資ビジネスで巨万の富を築き、摘発され、150年の実刑判決を受けて結局一家離散、息子は首を吊って自殺したバーナード・メイドフの例ならよくニューズにもなっていたし、まだよく覚えている。


とまあ、特に適しているとも思えない題材を選んでしかも3時間のコメディか、いくらディカプリオが主演でもマーティン・スコセッシが撮ってなかったらまず見ないだろうな、と私だけでなく女房もそう思っていて、早々とこれは見ない宣言を出す。あんたはディカプリオのファンじゃなかったのか。どうも近年のディカプリオは男男し過ぎると思っている節が窺える。


それで私一人だけで劇場に足を運んだのだが、実はこれが結構面白い。スコセッシとディカプリオがコメディかと思ったが、実際にコメディになっている。「アメリカン・ハッスル」はコメディと称されていても、にやりとするところはあっても声を出して笑うシーンなんてないが、「ウルフ‥‥」では実際に爆笑するシーンが何か所かある。肩の力を抜かず、全力で演技して笑わせている。こういうやり方もあったか。


ディカプリオという点だけに注目すれば、昨春の「華麗なるギャツビー (The Great Gatsby)」は、考えたらミュージカルという大仰さに目を眩まされるが、あれもかなりコメディが入っていた。思うに、過剰なまでにセックス、ドラッグ、アルコールにうつつを抜かすインヴェストメント・バンカーの生態は、「ギャツビー」に通じるものがある。最初はディカプリオがコメディかよと思ったが、案外と突き詰めたコメディアンとして、今後新たな世界を見せてくれるかもしれない。












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1987年。野心に燃えるジョーダン・ベルフォート (レオナルド・ディカプリオ) 、投資バンカーとしてウォール・ストリートで働き始めるが、ほとんど同時にブラック・マンデーで株式が大暴落、ジョーダンは失職する。その後ロング・アイランドの小さな投資事務所で働き始めたジョーダンはめきめきと頭角を現し、大金を得るようになる。彼を崇拝するドニー (ジョナ・ヒル) らと共に投資会社ストラットフォード-オークモントを設立、会社は瞬く間に大きく成長する。ジョーダンは稀代の風雲児としてフォーブスの表紙を飾り、私生活はドラッグとアルコールとセックス三昧だった。しかしビジネスとしては非合法であったストラットフォード-オークモントに目をつけたFBIのデンハム (カイル・チャンドラー) が接近してくる‥‥


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