放送局: NBC

プレミア放送日: 2/26/2007 (Mon) 22:00-23:00

製作: ブラックフライアーズ・ブリッジ・フィルムズ、NBCユニヴァーサルTVステュディオ

製作総指揮/クリエイター/脚本: ポール・ハギス、ボビー・モレスコ

共同製作総指揮: マーク・ハリス

監督: ポール・ハギス

撮影: J. マイケル・ムーロ

美術: リック・バトラー

編集: ジョー・フランシス

音楽: マーク・イシャム

出演: ジョナサン・タッカー (トミー・ドネリー)、トマス・ガイリー (ジミー・ドネリー)、ビリー・ラッシュ (ケヴィン・ドネリー)、マイケル・ストール-デイヴィッド (ショーン・ドネリー)、オリヴィア・ワイルド (ジェニー・ライリー)、キース・ノブス (ジョーイ)、カーク・アセヴェド (ニッキー・コルテロ)


物語: ニューヨークの下町。アイリッシュ系のドネリー家の4兄弟は、まとめ役のトミーが、ドラッグ中毒のジミー、何をやっても失敗ばかりしているケヴィン、そして女扱いだけうまくて頭は空っぽのショーンを束ねてなんとかうまくやっていた。ジミーはギャンブルで借金のあるケヴィンをなんとかしてやろうと、デザイナー・ブランドの服を盗んできて売りさばこうとするが、その盗んできた服をさらに誰かに盗まれてしまう。一方、昔父親をイタリア系のギャングに殺されたドネリー家は今でも彼らと対立していたが、ケヴィンとジミーは先走ってその親分の息子を誘拐してきてしまう。ショーンはその報復で袋叩きにあって入院し、トミーは状況を打開しようと必死に頭をめぐらすが‥‥


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ここんとこ「ミリオン・ダラー・ベイビー」から「父親たちの星条旗」「硫黄島からの手紙」と続いたクリント・イーストウッド3部作や、自身が演出までした「クラッシュ」、さらには「007 カジノ・ロワイヤル」と八面六臂の活躍中の脚本家ポール・ハギスは、元々はTV界の出身である。


そのTV界でもつい数年前までは、せいぜい「テキサス・レンジャー (Walker, Texas Ranger)」、「L.A. ロウ (L.A. Law)」、「デュー・サウス (Due South)」、「ファミリー・ロウ (Family Law)」あたりで知られている程度で、特に知名度の高い脚本家という印象はなかったのだが、ここ数年でハリウッドで最も売れっ子の脚本家の一人になってしまった。特に緻密な群像劇を書かせると、ハギスと、「シリアナ」のスティーヴン・ギャガンが双璧という感じがする。


その、今、一秒でも惜しいほど忙しいだろうハギスが、わざわざ古巣のTVに帰ってきてドラマを書き、自分でも演出するとなると、やはりこれは気になる。ハギスは、あまりの忙しさにわざわざイーストウッドに指名された「硫黄島からの手紙」の脚本を途中からアイリス・ヤマシタに譲って自分の仕事に取り組んだと聞いているが、時期的に言って、その時にかかりきりになっていたのが、この「ザ・ブラック・ドネリーズ」だと思われる。


「ブラック・ドネリーズ」は、ニューヨークの下町に住むアイリッシュの4兄弟を描くドラマだ。業界誌のハリウッド・レポーターは、世の中にイタリアンとアイリッシュがいることで犯罪ドラマが生き長らえていることに感謝しないといけないと言っていたが、黒人やチャイニーズ・マフィア、近年のし上がってきたラテン系のドラッグ・ディーラーのことを忘れている完全に白人の視点だとはいえ、大方その通りだろう。「ディパーテッド」「ブラザーフッド」だってアイリッシュ・マフィアという存在が設定に説得力を与えていたし、血が熱く単細胞で家族主義という両人種の特徴は、犯罪ものの設定に不可欠だ。アイリッシュだと、その上酒飲みという共通の認識がある。「アンジェラの灰」を思い出すよなあ。


一方、イタリア系といえばマフィア、住んでいる地域はリトル・イタリーと、区別しやすいイタリー系に較べ、アイリッシュ系は、アメリカ全土で見ればマサチューセッツとかボストンとかいったアイリッシュの多い州や都市こそあるが、リトル・イタリーやチャイナ・タウンのような、民族が一塊になって住んで特色ある町を作っているような場所があるわけではない。元々それほど数が少ないわけじゃなく、全米中に散らばっているからだろう。だいたい、アメリカ中どこに行ってもアイリッシュ・バーというのはあったりする。それでも無理してアイリッシュの多い場所を挙げるとすれば、ニューヨークでは、一般的にマンハッタン中西部のヘルズ・キッチンあたりということになるだろうか。ジム・シェリダンの「イン・アメリカ」がまさしくその辺を舞台にした金のないアイリッシュを描く話だった。


「ブラック・ドネリーズ」はそういう舞台設定こそ明確にしてないが、ハギスと共同で製作総指揮を担当しているロバート・モレスコが、番組の登場人物は自分が育ったヘルズ・キッチンの誰かをモデルにしているとインタヴュウに答えているのをどこかで読んだ記憶があるので、舞台のイメージとしてはヘルズ・キッチンであるのは間違いないだろう。とはいえプレミア・エピソードが始まって早々、ドネリーズの根城であるパブを映す段で、カメラはそばを走っている高架のサブウェイ (というのも変な話だが、実際にニューヨークではところによってサブウェイは高架を走っているので仕方がない) をなめてからチルト・ダウンしてパブをとらえる。となると、これは近くに高架サブウェイなぞ走っていないヘルズ・キッチンではあり得ない。見た目の感じから言うと、これはどう見てもブルックリンかクイーンズ、あるいはブロンクスだ。特にブルックリンくさい。


とはいえさらに話が展開してくると、ドネリーズは自分たちのシマからほとんど外に出ているように見えないわりには、明らかにマンハッタン内のロケーションが映る。トミーがジェニーと一緒に歩いているのはヴィレッジのワシントン・スクエア・パークなので、ブルックリンをイメージしていると、思わず、あれ、これ、どこが舞台だったっけと一瞬戸惑う。トミーはアートの学校を希望していたと思わせる含みが出てくるので、もしかしたら彼は近くのNYUに通っているのかとも思うのだが、いかんせんドネリーズは誰かが学校に通っているなんて描写自体は一度たりとも出てこないので、こちらとしては想像するしかない。要するに、舞台はやはりニューヨークのどこかの下町ということで、ぼかして特定することは避けているんだろう。


ドネリーズの長兄トミーは最も頭が切れるが、その下の3兄弟はそれほどでもない。ジミーは単純ですぐ頭に血が上るし、ケヴィンもギャンブルの借金で首が回らない。一番下のショーンに至っては、女の子をナンパすることだけには天才的な才能を示すのに、それ以外ではまったくの役立たずだ。プレミア・エピソードでは、巡り巡ってはやまったジミーとケヴィンが、その辺を仕切っている本物のギャングの甥っ子のルイを誘拐してきてしまう。愕然とするトミーだったが、今さら何もなかったようにルイを帰すわけにも行かず、かといってそのままにしておいたら、追及の手は間違いなく自分たちのところにも伸びてくるだろう。本物のギャングに戦争を仕かけるか、それとも他に妙案はあるか、トミーのとった行動は‥‥という展開だ。


主人公と言っていいだろうトミーを演じるのがジョナサン・タッカーで、「ディープ・エンド」「ホステージ」と来て、やっと順当に大役を手にしたという印象が強い。ジミーを演じるのが「ウイ・ワー・ザ・マルヴェイニーズ」のトム・ガイリーで、ケヴィンを演じるビリー・ラッシュと、ショーンを演じるマイケル・ストール-デイヴィッドについてはよく知らない。ほぼ紅一点のジェニーに扮しているのは、FOXの「ジ・O. C.」出身のオリヴィア・ワイルド。ホラーに似合いそうな顔だなと思っていたら、ちゃんと「チュリスタス (Turistas)」という出演作があった。


「ブラック・ドネリーズ」は、4兄弟といつもつかず離れずでつき合っていたジョーイ・アイス・クリーム (キース・ノブス) というニックネイムを持つちょっと抜けた男が、刑務所の中から過去を回想するという体裁になっている。なんらかの罪で収監されているジョーイが、取り調べに応じてドネリーズの行状を回想するわけだ。ドネリーズが幼かった頃まで回想しており、現在、足を引きずって歩くジミーが、足を痛めるきっかけになったその事件も明らかにする。


その時、ストリートでかっぱらったアイス・クリームを分け合っていたドネリーズに謎の黒塗りの車が突っ込んできてジミーの足を撥ねたというのがその原因なのだが、プレミア・エピソードの最後には、その車をたぶん遊び半分で運転していたのが、他ならぬトミーだったということが明らかにされる。それを見たのはジョーイだけであり、彼はトミーのために、そのことに関してはその後もずっと口を閉ざす。トミーはたぶん、その時から兄弟のためならなんでもする責任を背負ったのだろう。


いずれにしても、こういう運命というか蜘蛛の巣というか、そういうものを緻密に振り分けて構成する番組の作り方そのものがいかにもハギスと思わせる。世の中には因果というものがあるのだ。ジミーに怪我をさせた車を運転していたのがまだ幼いトミーだったとわかる幕切れは、すべての小さなエピソードが有機的に繋がっていった「クラッシュ」を彷彿とさせ、ハギスの本領発揮の感が強い。これをやり過ぎと思う者が多いのもまたよくわかる。よくも悪くもこれがハギス節だ。


番組はその後、兄弟、特にジミーに対して負い目のあるトミーが、兄弟が道を踏み外さないようにと思いながらも、やむを得ず自分が率先して犯罪に手を染めていく姿が描かれる。頭の切れるトミーは、いったんやると決めたら冷酷に手順を推進していくのだが、逆に兄弟が足を引っ張ってしまう。事態は既に後戻りの利かない時点に達しているのであり、あとはもう、やり始めたことをやり遂げるか、それができないならしっぽを巻いて逃げ出すか、それともやられるかしかない。


「ブラック・ドネリーズ」は13話製作されているが、ハギスのことである、この分だと最後にすべてのコマが収まるべきところに収まって大団円が来てきっちりと終わり、たとえ人気が出ても第2シーズンを製作することはほとんど考えてないんじゃないかと思う。まあ、ダーク過ぎる番組の内容のせいで、今の視聴率では第2シーズンなんて夢のまた夢だが。私の予想では、この感じじゃトミーは最後には殺されるしかないと踏んでいるんだが、さてどうなるか。調べてみたら、タッカーは「ドネリーズ」の後にまたハギスと組んで、今度は戦争ドラマの「イン・ザ・ヴァリー・オブ・エラ (In the Valley of Elah)」(主演はトミー・リー・ジョーンズとシャーリーズ・セロン) を撮っていた。タッカーが演じるのはイラクから失踪した兵士だそうで、どうやらまたあまりいい目に遭わない役っぽい。実際そういう役柄が似合う。   







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The Black Donnellys

ザ・ブラック・ドネリーズ   ★★★

 
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