LAPDのネゴシエイターだったジェフ (ブルース・ウィリス) は、とある事件で犯人の説得に失敗、少年を死亡させてしまったことから、今では辺鄙な郊外の警察署に勤めていた。その管轄下の金持ちの家に3人の青年が押し込み強盗に入り、警察に通報されてしまったことから居直って、父のウォルター (ケヴィン・ポラック)、娘のジェニファー、息子のトミーの3人を人質にとって籠城する。ジェフは事件をLAPDに引き継ぐが、しかし、ウォルターは政府高官を相手に後ろ暗い仕事もしており、その記録が漏れると困る謎の一味が、ジェフの妻と娘を人質にとって、事件に介入して証拠となるDVDを手に入れるよう脅迫してくる‥‥


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近来稀に見る大ポカをやってしまった。最近TVでよく見る新作の宣伝で、ブルース・ウィリスを筆頭にロザリオ・ドーソン、ジェシカ・アルバ、ベニシオ・デル・トロ、クライヴ・オーエン等の俳優陣が大挙して出演しているアクションの「シン・シティ」の予告編を何度も見せられ、ロバート・ロドリゲス監督というのはちょっと気になるが、まあ、それなりには面白そうだと劇場に足を運んだ。


そしたら、本編の始まる前の予告編上映で、その、私が今見ていると思っていた「シン・シティ」の予告編をやっているではないか。唖然としてしまった。信じられない。もちろん「ホステイジ」一枚と言って切符を買っているのだが、実はその時は「シン・シティ」はウィルスの出る近未来的アクション映画という印象だけで覚えていて、「シン・シティ」という映画タイトル自体は頭に入っていなかったのだ。ウィリスがでかでかと載っているポスターを見て、なるほど、この作品は「ホステイジ」というのだなと思い込んでいたのである。


そしたらその「シン・シティ」の予告編が始まったので、一瞬、呆気にとられてしまった。しまった、間違えた、と思った時には後の祭りである。ウィリスのポスターを見ただけでてっきり「ホステイジ」を「シン・シティ」とカン違いしていた私のミスなのではあるが、しかし、同時期にウィリス主演のアクションを2本も公開するからこんなことが起こる。金も払っているのに今さら何も見ないで出る気にもならない。いずれにしてもアクション映画を見る気分ではいるわけだし。あとはせめてこの映画が拾い物であって欲しいと祈るのみだ。それにしてもこの映画の予告編なんて見たことがなかったぞ。昔はこういう間違いはしなかった、というか、映画館に行ってその時やっているのを見ていたので間違えるというのがそもそもあり得なかったわけだが、見る映画を決めて見に行っていざ期待していたのと違う映画がかかると、思わず損したと思うのは映画の見方がせこくなったか。


さて、「ホステイジ」は、最近のハリウッド映画ご用達職業の一つとなった感のある、ネゴシエイターを主人公としている。実は私の個人的な意見では、ドンパチのアクションではなく説得というテクニックで犯人とのコミュニケイションを図るネゴシエイターという職業は、ハリウッド・アクションに特に向いているわけではないと思っているのだが、これが最近、映画、TVを問わず色んなところで主人公として起用されている。どちらかと言うとアクションよりも演技の方に重点が置かれるため、作り手よりも演じ手の方がネゴシエイターという役をやりたがっているのではないかという印象を受ける。


ウィルス演じる主人公のジェフは、昔その犯人の説得という仕事に失敗して人質だった少年を結果的に殺してしまったという過去があり、それ以来一線を退き、今は少し田舎じみたところの警察署で働いている。刑事というよりシェリフだ。そういう自責の念があっても官憲の仕事から完全に離れたわけではないのは、それでもこの仕事が好きなのか、それとも自虐的なのか、自分で自分に課した罰なのか、その辺はよくわからない。いずれにしてもそれ以来、家庭では妻とも娘ともうまくいっていない。


そういう場所で、暇を持て余して金持ちに対する敵意と羨望だけは人一倍持っている若い男の3人組がある家に泥棒に入り、家人に見つかったことから開き直って押し込み強盗となり、さらにアラームによって通報されたことからやってきた女性警官を射殺してしまい、家人3人を人質にとって立てこもらざるを得なくなる。TVのレポーターが要塞と化した家の周りを取り囲み、家のTVでジェフの姿を見た末っ子のトミーは、犯人たちの隙を見てジェフに電話をかけてくる。しかも父のウォルターは政府関係の後ろ暗い仕事をしていたため、それが世に知られるとまずい黒幕は、ジェフの妻子を人質にとって犯人と交渉に当たらせ、証拠物件のDVDを回収してくるように要求する。進退極まったジェフは‥‥というなんともはやてんこ盛りの内容だ。原作があるそうだから、たぶん原作がそうなっているんだろう。


もちろん映画としては面白さも欠点も、その詰めすぎなくらいてんこ盛りのストーリー展開にあるのは言うまでもない。人質を盾にとっての籠城事件というだけでも充分すぎるくらいのドラマなのに、ジェフの家庭内のドラマもあるし、犯人同士 (うち二人は兄弟だ) の確執もあるし、政府の陰謀もあるし、家の中で犯人の知らない屋根裏の通路を使ってトミーが動き回るところなんかは「パニック・ルーム」を彷彿とさせるし、果ては犯人一味の最も謎めいた男とジェニファーの間でなにやら連帯感みたいなものまで生まれたりするという、いつ何がどう起こっても不思議ではない状態が延々と続く。


もうこれだけてんこ盛り状態が続くと、私としてはこの収拾をいったいどうつけるのかと思ってしまう。実際の話、途中から話はスリリングというよりも奇想天外という感じになってきて、面白いのか面白くないのかよくわからないという摩訶不思議な印象を受ける作品になってしまった。次どうなるかまったくわからないという点では、こちらの予想を裏切って意外性たっぷりなのだが、それがまったくいくらなんでも‥‥という瞬間もままある。特に問題は政府の黒幕の描き方で、いったんは指揮権から外れたジェフを再び責任者に就けることができるくらいの権力があるなら、最初からすべての指揮権を持たせた別の者を送り込んで彼らにすべてを任せればいいのだ。何もわざわざジェフという第三者を巻き込む必要はない。あと、幕切れも‥‥どう考えてもこういう展開はあり得ないなと観客に思わせてしまうのは、やっぱりまずいだろう。サーヴィス精神が旺盛なのはいいが、この辺の線引きは難しいということを如実に証明する作品になってしまった。


監督はフレンチのフローレン・エミリオ・シリで、「スズメバチ (The Nest)」はアメリカでもそこそこ話題にはなっていたが、私は見ていない。そのヴァイオレンス描写が買われての今回の起用だったようだ。実際、矢継ぎ早に起こるアクションの演出は悪くない。が、それよりも私は鬱屈した3人の若者を演じる俳優たちがなかなか気に入った。3人ともなかなかいい味を出して有望である。カリスマ・ワルっぽいベン・フォスター、まだまだ坊やのマーシャル・オールマン、二人の間でいいとこを (要するにワルであることを) 見せようとするオールマンの兄に扮するのは、「ディープ・エンド」でティルダ・スウィントンの息子役として男色に耽っていたジョナサン・タッカーではないか。ウィリスには悪いが、この3人の間のパワー・ゲーム、軋轢、友情、兄弟の話が私には最も面白かった。因みに家に帰って調べてみたら、「シン・シティ」は4月公開であった。そうでしたか。






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Hostage   ホステージ  (2005年3月)

 
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