放送局: ショウタイム

プレミア放送日: 7/9/2006 (Sun) 22:00-23:00

製作: マンダレイTV

クリエイター: ブレイク・マスターズ

製作総指揮: ブレイク・マスターズ、ヘンリー・ブロメル、グーバー・スティーヴン

共同製作総指揮: ニコール・ヨーキン、ドーン・プレストウィック、フィリップ・ノイス

監督: フィリップ・ノイス

脚本/クリエイター: ブレイク・マスターズ

撮影: アーネスト・ホルツマン、ロン・フォーチュナト

美術: チャド・デトワイラー

編集: テリー・ケリー、アンソニー・レッドマン、ニール・トラヴィス

音楽: ジェフ・ローナ

出演: ジェイソン・アイザックス (マイケル・キャフィー)、ジェイソン・クラーク (トミー・キャフィー)、アナベス・ギッシュ (アイリーン・キャフィー)、フィオヌラ・フラナガン (ローズ・キャフィー)、イーサン・エンブリー (ピート・マゴナグル)


物語: ロード・アイランド州の若手政治家トミー・キャフィは、妻アイリーンと3人の娘に恵まれ、将来を嘱望されている有能な政治家だった。一方、トミーの兄のマイケルは地元のギャングとかかわった挙げ句、数年間消息を絶っていたが、ある日、そのマイケルがふらりと家に帰ってくる。しかしマイケルはやはり裏の世界との繋がりは切れていなかった。トミーは兄マイケルを愛してはいたが、その兄の存在が自分のキャリアを壊滅させる懸念も捨てられなかった‥‥


_______________________________________________________________


先日、ショウタイムのオリジナル番組ということで「ハフ」をとり上げてコメントしたすぐその後、批評家受けはすごくよくて誉められているその「ハフ」が、第2シーズン以降は製作されない、つまりキャンセルされたという話が伝わってきた。どれだけできがよくて批評家が誉めても、視聴者が見てくれないんでは番組を作る意味がない。


このことは、スポンサーの顔色を窺って番組を製作しているわけではなく、通常、視聴者数を気にかける必要がないペイTVのオリジナル番組でも同じだ。そのショウタイムが製作する新番組「ブラザーフッド」も、プレミア放送前からかなり前評判は高かった。実は、ペイTVとしてはこれまでいつもHBOの後塵を拝し、知名度という点ではそれほどのものではなかったショウタイムが、最近、それなりに調子がいい。


まだまだオリジナル番組の成功度、メイジャー性という点では、「ザ・ソプラノズ」や「Sex and the City」等の番組が綺羅星のように並ぶHBO番組に較ぶべくもないが、前述の「ハフ」以外にも、テロリスト分子を描いた「スリーパー・セル (Sleeper Cell)」や、郊外の住宅地でマリファナ売買に精を出す家庭の主婦を描いた「ウィーズ (Weeds)」等も批評家受けはよく、これに以前から始まっている「ザ・L・ワード (The L Word)」を加えると、オリジナル番組としてはなかなか見過ごせない布陣だ。これでなんとか話題性も獲得して視聴者が増えるならこんなにいいことはないんだが、どうしても今ひとつそこまでには至らない。


「ブラザーフッド」も、描かれている内容や暴力描写等、中身はまったく地味なわけではないが、それでもあまり目を惹かず、特に目立つわけではない。内容としてはかなり「ザ・ソプラノズ」に似通っており、ギャング、裏切り、暴力と、「ザ・ソプラノズ」を形容する時の一般的な名詞が、「ブラザーフッド」にも出てくる。その描写も、特に「ザ・ソプラノズ」に較べて遜色があるわけではなく、演出もかなりいい。脚本のできもよく、俳優陣も申し分ない。その上ポリティクスまで絡んでくる「ブラザーフッド」は、地味という形容詞がつくのが不思議なくらいドラマティックな設定だ。しかし、それでも敢えて言うが、「ブラザーフッド」は地味である。


つまり、突発するヴァイオレンスはあるものの、全体としては抑えた演出でじりじりと一つ一つの小さなエピソードを丹念に描いており、そのため、一見した印象は地味になる。政治家だろうがギャングだろうが一見普通に見える庶民の生活だろうが、実は一皮向けば誰もが腹に一物持っており、ほとんどそのことに例外はない。とはいえ普通、思うようには物事は運ばない。これまた政治家だろうがギャングだろうが市井の人々だろうが同じことだ。そういう有象無象の人間どもがあがき苦しんでいるわけだが、表面上は平静をとりつくろっても、内面では様々な感情が渦巻いている。そのマグマは、いつ隙間を見つけて表面に噴出するか、わかったものではない。そういう内面のひだのようなものがきちんと描き込まれているから、たとえヴァイオレンスやアクションのシーンでなくとも、緊張度は高く、画面から目を離せない。


「ブラザーフッド」の舞台は、アメリカ、ニュー・イングランド地方のロード・アイランド州だ。アメリカで最も面積の小さい州で、アメリカに住んでいても正確に頭の中に地図を描けない。この辺一帯は一般的にアイリッシュの移民が多く、主人公のキャフィ家もアイリッシュ系である。ここで思い出すのが、現在、アメリカで最も面白いドラマの一つであるFXの「レスキュー・ミー」で、これは舞台こそニューヨークだが、消防士の主人公トミー・ギャヴィンはアイリッシュだ。ついでに言うと、トミーを演じるデニス・リアリー自身も、ボストン出身の本当のアイリッシュ系だ。


一方、「ブラザーフッド」でも、主人公の名前はトミーである。これがアイリッシュではなく、もうちょっと育ちのいいイングランド系だったりしたら、愛称はトミーではなくトムになるんだろうが、トミーになるところがなんだかいかにもアイリッシュという感じがする。とはいえ、両者で似ているところはそこまでで、スーパーシリアスになり過ぎて逆に随所に笑いが炸裂する「レスキュー・ミー」と、あくまでもシリアスなままずっと続いていく「ブラザーフッド」では、中身の印象はかなり違う。また、「ブラザーフッド」で主人公のトミーを演じるジェイソン・クラークは、アイリッシュではなく、オーストラリア人だ。とはいえ、確かクラークという名字はアイリッシュに多いという印象があるから、クラークも元々はアイリッシュ移民なのかもしれない。


「ブラザーフッド」の印象は、そのクラークと、兄のマイケルを演じるジェイソン・アイザックスの演技に多くを負っている。兄弟で陽の当たる部分をトミーが、負の部分をマイケルが受け持っているわけだが、二人とも非常にいい。クラークは実は一見しただけだと、アメリカのワールド・カップ代表の一人である、プロ・サッカー・プレイヤーのランドン・ドノヴァンにかなりよく似ている。ドノヴァンというのは確かアイリッシュの名前だから、これはやはりクラークの祖先もアイリッシュだな。


マイケルを演じるアイザックスは、こちらはたぶんアイリッシュとは関係なさそうだ。いずれにしても今年、「フレンズ・ウィズ・マネー」でアイザックスを見た時は、キャサリン・キーナーと夫婦の脚本家という役どころで、一見感情に流されない理知的な風貌に見えただけに、今度はこわもてのギャングを違和感なく演じることができることにいたく感心した。彼はどことなく「ロウ&オーダー: SVU」のクリストファー・メローニを思い起こさせる。


「ブラザーフッド」には、実はモデルがいる。ボストンの政治家-ギャング兄弟として知られるビリー・バルジャー、ホワイティ・バルジャーの二人がそれだ。弟のビリーの方は後にマサチューセッツ州の上院議会の議長を務めるまでになったが、一方のホワイティは、FBIの最重要お尋ね者リストのナンバー2として挙がっていたという。もちろん彼らもアイリッシュだ。こういう奴らがフィクションではなく現実に存在していたというところがすごい。政治家もギャングもパワー・ゲームが本質という点で実は似てなくもない職業なのだろうが、しかし、そのレヴェルが尋常じゃない。だいたい、兄がギャングだと誰でも知っている政治家がなんで失職しないんだ。アメリカのすごさというのはこういうところにあるなと思ってしまう。


番組のプレミア・エピソードの演出は、共同製作総指揮も兼ねているフィリップ・ノイスが担当している。ノイスというとすぐに思い出すのは、「今そこにある危機」や「パトリオット・ゲーム」のハリソン・フォードものなんだが、近年はFOXの「トゥルー・コーリング」のパイロット・エピソードなんかも演出している。オーストラリア出身のノイスが、たぶん地元からクラークを連れてきて主役に抜擢したんだろう。


さて、たぶん今年始まった新番組としては、ケーブルだけでなくネットワークを含めてもこれまでで最もできがいいと思われる「ブラザーフッド」であるが、やはりショウタイムでできがいいと誉められている「ハフ」同様、「ブラザーフッド」も実は視聴者受けはそれほどいいわけではない。たとえペイTVとして、契約者がせいぜい2,000万世帯しかいないショウタイムで放送されている番組といえども、「ブラザーフッド」は、これまた「ハフ」同様、発表されている視聴者数は20-30万人程度だったりする。


これはなあ、いくらなんでもなあ、少なすぎるよなあ。これじゃあ、いくら視聴者数と番組製作が直結するわけではないペイTV番組といえども、ショウタイムはがっかりせざるを得ないだろう。番組は悪くないんだけどねえ。全然悪くない。というか、積極的にかなりいい。最近のHBO番組と較べたら、充分タメ張っていると言える。むしろ先シーズンの「ザ・ソプラノズ」より、「ブラザーフッド」の方が面白いとさえ言える。なんか一つ、ブレイクする番組を一本だけでも編成することができたら、ショウタイムも、いつもHBOに頭を抑えられているペイTV万年2位 (既にスターズ! に抜かれて3位になったか?) の位置から脱却できる契機になるかもしれないのに。 






< previous                                    HOME

 

Brotherhood


ブラザーフッド   ★★★1/2

 
inserted by FC2 system