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グランド・イリュージョン  (2013年6月)

私はマジックやイリュージョンには目のない方だ。デイヴィッド・ブレインキース・バリークリス・エンジェルやジークフリート&ロイ等、TVでその種の特番が編成されると、だいたい見ている。よくできた本格ミステリもそうだが、うまく騙された時の、してやられたという快感は、癖になる。


それが映画という媒体においては、マジックやイリュージョンを扱った作品は、特に多くはない。映画の揺籃期に、ジョルジュ・メリエスに代表されるように、マジックと映画がほぼ同一のものだった時代からは、現代の我々は遠いところに来ている。


このことはたぶん、映画が進化してより高度なナラティヴを必要とするようになったこと、およびマジック/イリュージョン自体も、ラスヴェガスにおけるショウのように、より次元の高い、複雑な機構や仕組みを必要とする大掛かりなものになったことと無関係ではない。


例えば現在のマジック・ショウによくある人間消失や瞬間移動は、それを映画でやっても誰も感心しない。どうせCGか編集してんでしょ、の一言で終わりだろう。あれは生で、目の前でやるからこそ意味や臨場感が増す。


そのため現在の映画では、人の目を欺いたり騙すのはそういう仕掛けに頼るのではなく、もっぱら話術による。大掛かりな装置は必要ない。肝心なのはあくまでも語り口だ。マジックだって見せ方、ミスディレクションは肝だが、やり口は大きく異なる。マジシャンが右手を振り上げると、自然に観客の意識はそこに行くだろうが、映画では観客はカメラがとらえるものを見るしかない。


映画におけるミスディレクションを最も効果的に使うのは、やはりM. ナイト・シャマランだろう。「シックス・センス (The Sixth Sense)」や「ヴィレッジ (The Village)」において、ちゃんと見せながら、あるいは何も隠してないが、しかし騙されていたという驚き、快感を味わせてくれる演出家は、そうは多くない。


最近だと観客の裏をかくことを強く意識した作品としては、スティーヴン・ソダーバーグの「サイド・エフェクト (Side Effects)」やダニー・ボイルの「トランス (Trance)」があったが、前者はわりと展開が読みやすく、後者は今度は捻り過ぎて嘘くさい、みたいな欠点が目につくなど、なかなか落としどころが難しい。とまあ、現代においては、むしろマジックやイリュージョンと映画やTV等の映像媒体は、特に相性はよくないと言える。観客をあっと言わせるには、人々はすれ過ぎているのだ。


近年はまた、新しくメンタリストなる者も登場してきた。CBSの「ザ・メンタリスト (The Mentalist)」がこの単語を定着させた感がある。マジックやイリュージョンという出しもの見せものだけにかかわらず、広く人心を惑わせる者一般を言い、いわゆる読心術や催眠術を使う者も含まれる。上記のキース・バリーはこれに当たる。正直言って、単なるマジシャンよりよほど胡散くさい。メンタリストと呼ばれる者が後ろ暗いことをしてないわけがないと思う。


「グランド・イリュージョン」では、その4人のマジシャン/メンタリストが何者かによって一ところに集められ、ある壮大なマジック・トリックを仕掛ける。とはいってももちろん上述したように、それでトランスポーテーションしただの銀行強盗しただのといっても、映画ではすべて編集のひと言で済まされてしまう。そのくらいは作り手もよく承知しているから、冒頭の銀行強盗イリュージョンを見せた後は、すぐ種明かしに入る。本題はここにはない。本当の目的はここからだ。それはなにか。


4人のマジシャンのうち、主人公格のダニエルに扮するのがジェシ・アイゼンバーグ。彼の場合やたらと口が回るため、腕が立つというよりも口が立つという印象が強い。その辺が買われての「ソーシャル・ネットワーク (The Social Network)」だったわけだが、その印象は今回も変わらない。とにかく早口だ。こないだTVでブロードウェイのトニー賞授賞式中継を見ていたら、アイゼンバーグがプレゼンターの一人として出てきてしゃべっていたが、どんな時でも本当に早口。マジシャンというよりも口の立つ詐欺師だな。


他には人心を操るメンタリスト、メリットに扮するのがウディ・ハラーソン、紅一点のヘンリーにアイラ・フィッシャー、若手のジャックにデイヴ・フランコが扮している。どれも胡散くささではなかなかだが、やはり最も癖があるのがハラーソン。彼がメンタリストというのは非常によく納得できる。フィッシャーは先頃バズ・ラーマンの「華麗なるギャツビー (The Great Gatsby)」で身を持ち崩したガソリン・スタンドの経営者の妻を演じていたが、そういうちょっと下卑た派手目な役が合う。フランコは顔といい名前といい、ジェイムズ・フランコの弟だなと確信していた。今年ゾンビ・コメディの「ウォーム・ボディーズ (Warm Bodies)」にも出ている。


彼らを追う刑事ディランに扮するのがマーク・ラファロで、これまたいつも必ずダニエルらに一杯食わされるという、銭形みたいな使えない刑事を代表する。インターポールから派遣されてくるエージェントのアルマ (メラニー・ロラン) 共々、ダニエルらに振り回される。だいたい、なんの紹介も上司からの指示もなく突然現れて協力するというアルマは、いかにも胡散くさい。インターポールってこんな捜査の仕方をするのか。


振り回されるのはディランやアルマたちばかりではなく、もちろん金を巻き上げられる被害者もいる。そのアーサーに扮するのがマイケル・ケイン。ディランたちにアドヴァイスする立場のサデウスに扮しているのはモーガン・フリーマンで、「バットマン」シリーズにおいてバットマンを支えた二人が、今度は陣営を違えて登場する。特に「バットマン」ではいかにも忠実な昔気質の執事だったケインが、ここでは腹黒い経営者という役どころで、ちゃんと悪者に見える。ちょっと目つきを変えるだけで、これだけ印象が変わるのもめずらしい。


こういう一癖も二癖もあるメンツが大挙して出ているだけでなく、その彼らでさえ一杯食わされるのだ。これはなかなか展開を予想するのが難しい。騙していると見える方が実は騙されていたというのはこういう作品では常套だからな、ゆめゆめ騙されないようにしないと、などと思いながらやはり結局騙されるのだった。まあ本格ものというわけではないから、すべての手がかりをフェアに提示しているのとは違うが。演出はフレンチのルイ・ルテリエで、最近は「タイタンの戦い (Clash of the Titans)」「インクレディブル・ハルク (The Incredible Hulk)」等、いかにもハリウッド的な作品が続いたので、どうしてもこの辺でパリを舞台に入れたかったらしい。









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口八丁手八丁のマジシャン、イリュージョニスト、メンタリスト、詐欺師のダニエル (ジェシ・アイゼンバーグ)、メリット (ウディ・ハラーソン)、ヘンリー (アイラ・フィッシャー)、ジャック (デイヴ・フランコ) の4人がある者の手によってマンハッタンの一角のアパートに集められる。彼らはその何者かの指示によってラスヴェガスでマジック・ショウを開催、ステージ上に上げられた男を自在に操り、男はパリの銀行の金庫の中にテレポーテーションしたと思い込んでしまう。ちょうどその時、そのパリの銀行では金庫から多額の金が盗まれていた。いったいどうやったのか、事件を担当した刑事のディラン (マーク・ラファロ) はその道で知られているサデウス (モーガン・フリーマン) に協力を仰ぐ。インターポールからはエージェントのアルマ (メラニー・ロラン) も加わり、ダニエルたちの尻尾を捕まえようとするが、ダニエルたちは常にディランの一歩先を行くのだった‥‥


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