Deception with Keith Barry   デセプション・ウィズ・キース・バリー

放送局: ディスカバリー

プレミア放送日:  5/31/2011 (Tue) 22:00-23:00 (60分 x 4)

製作: ザ・リザード・トレーディング・カンパニー

製作総指揮: りズ・ブロンスタイン、イアモン・マグワイア

出演: キース・バリー


The Supernaturalist    ザ・ スーパーナチュラリスト

放送局: ディスカバリー

プレミア放送日: 6/29/2011 (Wed) 22:00-23:00

製作: ディスカバリー・コミュニケーションズ

製作総指揮: アラン・エアズ

出演: ダン・ホワイト


内容: 人心を操るメンタリスト/イリュージョニストに密着するリアリティ・ドキュメンタリー2本。


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私は本格ミステリが好きで、近年読書というと、実用書を除けばほとんど日本産の本格ミステリ一辺倒だ。本格だろうが変格だろうがバカミスだろうが、とにかく魅力的な謎とその謎解きというのに目がなく、うまく騙されることを最上の楽しみとしている。


で、わざわざマジシャン/ミステリ作家の泡坂妻夫の例を挙げるまでもなく、マジックで騙されるのも好きだ。アメリカの例でいうと、ABCでデイヴィッド・ブレインの特番があるとちゃんと毎回チェックしている。NBCの「アメリカズ・ガット・タレント (America’s Got Talent)」でも、マジシャンが出てくると何するか楽しみだ。自分自身でトリックやマジックを考え出す方の才能に欠けているので、なおさら騙される方を好むのかもしれない。


アメリカではデイヴィッド・ブレインという名はかなり一般的な名詞だが、海を渡った英国でも同様にマジシャン/メンタリスト/イリュージョニストとして知られるキース・バリーという存在があることを、今回、ディスカバリーが放送した「デセプション」で知った。


ブレインの場合はメンタリストやマジシャンというよりも、どんどん自身の身体能力の限界に挑む耐久アーティストとしての側面が大きくなってきてしまい、今ではむしろブレインというと今度はどこに閉じ込められるのと思ってしまう。しかしバリーの場合は、現在でも人心を操るという点に焦点を絞って活動しているらしく、どちらかというと見ているだけで息苦しくなる近年のブレインのパフォーマンスよりは、こちらの方が私の趣味だ。


バリーの場合はマジシャンというよりも明らかに肩書きはメンタリストであり、古くさく催眠術師とすら呼べるかもしれない。とにかく人を自分の思い通りに操るというところに彼の技術の特色がある。もちろんカード・マジックなんかも得意としているんだろうが、今回の「デセプション」は、人を思い通りに操るという点に重点を置いて番組を構成する。


番組第1回ではまず男女一人ずつ二人の被験者の前に金庫を置き、その中に5,000ドルを入れる。その後バリーが被験者に催眠術をかけ、暗証番号を教える。30分後に術を解いて目覚めさせると、被験者は二人ともまだ1分くらいしか経ってない、催眠術なんてかかってないと主張するのだ。


そのためバリーが金庫の暗証番号を押して開けてみろというと、当然彼らは開けることができない。何も聞いてないからだ。しかしバリーは彼らが催眠状態にいる時に番号を教えていた。それで指をパチンと鳴らして催眠状態の時に教えていたことを思い出させると、それまで番号は知らないと主張していた被験者は、正しい番号を押して金庫を開けてしまう。被験者は自分が知っているのに知らなかったと思い込んでいたことに気づいて呆然としてしまう。


次の実験は街を歩いていて通行人に対し、道を聞く振りをしたりして催眠術をかける。ある者は立ちっぱなしで同じ姿勢で腕時計を見たまま固まり続け、ある者は道端に倒れ込んでホームレスの看板を持たされ、ある者はATMでキャッシュを引き落とし、それを袋に入れてゴミ箱に放り込んで去ってしまう。


彼らはバリーがホーンを鳴らすとはっとして目覚めるのだが、それまで自分が何をしていたかなんて記憶はまるでない。自分でATMからキャッシュをおろして捨てた黒人の男は、バリーが追っていって、これ、あなたのですよとキャッシュを手渡そうとすると、あんたは誰だ、何者だ、何が欲しいと、うさん臭そうにバリーに相対する。そりゃま、そうだろう。


私が最も面白く感じたのが次の映画館ネタで、集まった被験者に対して集団催眠をかけたバリーは、これからあなたたちはこれまでで最も面白いコメディを見たと思い込みますと催眠をかける。その後被験者たちはロビーで感想を訊かれるのだが、すげえ笑える映画を見たと興奮気味の被験者の一人に、映画には誰が出てましたかと訊くと、いや、それは知らないという。ではどのシーンが最も面白かったですかと訊くと、いや、よく覚えてないけどでも爆笑したと言うのだ。


面白いのは集団催眠の場合、催眠術にかからない人が1割くらいいるということだ。バリーが催眠術をかけている時、かかった人は一斉に首を垂れて催眠状態に陥ったことを示すのだが、そうでなく周りの者が一斉に眠り始めたのをびっくりして見ている者たちもいる。彼らは後で、催眠術にかかった者が全員笑って言われると一斉に笑い出すんだと、こちらは別の意味で興奮していた。


この回の最後は被験者の若い男性に隠密スパイ行動をとらせるというもので、これまた自分が催眠術なんかにかかるわけがないと思い込んでいる被験者が催眠状態で、コーヒー・ショップでスパイ (と被験者が思い込んでいる) のコーヒーに睡眠薬を入れて眠らせ、ジュラルミン・ケースから機密写真 (と被験者が思い込んでいる) を盗み出す。もちろんスパイ役もコーヒー・ショップの客も皆やらせだ。無事仕事を終えて得意満面でバリーの元に帰ってきた被験者は、バリーの合図で催眠状態から返るが、自分のしたことは夢としか思ってない。催眠状態時の行動をヴィデオで見せられると、驚愕するのだ。


昔ナインティナインのヤベが、オレは催眠術には絶対かからないと断言した後、催眠術にかかって、舞台上で風船にくくられて落ちてくるガムを落とさないよう口の中に入れようと走り回っていたのを見たことがある。催眠術にはかかりやすい者とかかりにくい者がいるそうだが、ミステリやマジックで率先して騙されることを快感としている私は、さぞかし前者の典型じゃないかと思う。


番組の問題としては、これらの催眠術が、プロの俳優を使ったやらせではないかという疑惑を完全には払拭できない点にある。どうしても編集や俳優の起用でごまかしているのではないかという疑惑は、完全には捨てきれない。これくらいになると、わざわざ金かけてこんなやらせやる必要もないのだが、しかしやはり疑い人を納得させるためには、どうしてもその本人に催眠術をかけて納得させるしかあるまい。


同じくディスカバリーが放送したもう一本の「 スーパーナチュラリスト」は60分の特番で、こちらはチベットの山奥に人体浮遊の秘術を使う僧がいると人づてに話を聞いたマジシャンのダン・ホワイトが、道々出会う人々に色々なカードを使ったクロース・アップ・マジックを披露しながら僧を求めて探し歩くという番組だ。


何も知らないチベットの子供たちや大人相手にカード・マジックを披露してその反応を楽しむというのは、初期のブレインのTV特番でよく見た構図で、マジックそのものよりも、間抜けな人々の反応の方が面白かったりする。また、どんどんヒマラヤの奥地に入っていく旅行記としても見ることができる。


クライマックスは山奥で探し当てた僧が実際に空中に浮遊するのだが、さすがにこれをマジックではなく、いかにも人間が本当に空中に浮かんでいると言いたげな演出は眉唾だ。マジックと知っていて騙されるのが醍醐味なのに、マジシャンに、本当に空中に浮かんでいる、なんて言われても、これだけライティングして編集してある番組で、人間が浮かんでいるのを信じろなんて言う方が無理だろう。それでも結構面白く見たけど。








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Deception with Keith Barry

デセプション・ウィズ・キース・バリー   ★★1/2

The Supernaturalist 

ザ・ スーパーナチュラリスト   ★★

 
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