Side Effects


サイド・エフェクト (サイド・エフェクツ)  (2013年3月)

最近、この映画くらい事前の情報に乏しかった映画はない。だいたい、今日はどの映画を見ようかとチェックする段になって、この映画、よく知らないというのが 二つ三つあるのはいつものことだが、それでも、タイトルを聞いた記憶すらないというのは稀だ。その数少い稀な例が、「サイド・エフェクツ」だ。本当に、一 度も予告編を見たことすらなければ、誰かが話しているのを聞いたこともない。 

 

それでたぶんこの映画、まるっきり私の守備範囲に入らない子供向け作品、それもアニメーションかと見当をつけた。だいたいこれまでの経験から言って、耳に覚えのないタイトルというのは、十中八九子供向け作品だったりする。たぶんそういうことだろうと納得し、「サイド・エフェクツ」のことはひとまず忘れた。 

 

そしたらその後、ニューズを見ていたらエンタテインメント関係の話になって、「サイド・エフェクツ」に言及している。そこで初めて、「サイド・エフェクツ」がスティーヴン・ソダーバーグ作品で、どんでん返し基調のスリラーということを知った。 

 

なんでも最後に明かされる驚愕の真実というのがセールス・ポイントらしく、そのため、事前にストーリーのネタが割れる手助けになりそうなのは、たとえそれが予告編であっても却下ということになったらしい。そのため宣伝もままならず、それが仇となって、私のようにこの映画のことを知らない者が多数出た。たぶん こういう時代だ、むしろ内容を知らさないままのソーシャル・メディアを利用しての口コミ宣伝辺りを意図していた節も感じられるが、どうもそれは機能しな かったようだ。 

 

しかもアナウンサーが言うにはこの映画、ソダーバーグの引退作になるという。引退? ソダーバーグが引退? またなんで? 聞き間違いじゃないよな、今確かに引退って言ったよな。なんでも近年のソダーバーグは、忙し過ぎてバーンアウト状態に陥ったらしく、ここら辺で休養が必要だとの判断らしい。 

 

実は我々夫婦はこの週末に旅行の予定が入っていて色々と準備に追われており、今週は映画はパスかと思っていのだが、もしこれが本当にソダーバーグの最後の作品だとすると、見逃したでは済まされない。それでまだやることは山のようにあったのだが、女房に、これは見なければならないから、旅行の準備は映画見て帰って来てからやると宣言して家を出る。女房も見たがってたが、こちらは私のように旅行準備をいい加減にするわけにもいかなかったようで、かといって睡眠削ってまで映画に肩入れするほど入れ込んでいるわけでもなく、では、と私一人だけで劇場に足を運ぶ。 

 

いずれにしても、おかげでこちらは映画の中身についてはほぼ白紙、とにかく最後にどんでん返しが用意されているスリラーということと、ルーニー・マラとジュード・ロウ、およびキャサリン・ゼタ-ジョーンズの共演という以外は、ほとんど何も知らなかった‥‥ま、これだけ知ってりゃ充分か。 

 

エミリーは神経衰弱で鬱気味の家庭の主婦だ。夫のマーティンは金融関係で働いていたが、多少危ないことに手を出して実刑判決を食らっていたのが、やっと出所してくる。 しかしそれでもエミリーの心は晴れず、自殺未遂の結果、診療した精神科医のジョナサンが処方した薬を飲み、その副作用で夢遊病状態に陥った挙げ句、マーティンを刺殺してしまう。ジョナサンにもマスコミの嫌疑の目が向けられ、なんとか状況を打開しないことにはキャリアの息の根を止められてしまうジョナサンは、エミリーの無実を証明するべく奔走する‥‥ 

 

そして驚愕の事実は、というわけだが、実は正直言ってこれくらい、最近のサイコ・スリラーを読み込んでいる者にとっては、特に意外でもなんでもなかろうと思う。私も最初から全部読めたとは言わないが、結末は途中くらいでちょい脳裏に浮かんだ選択肢の一つだった。 

 

それはそれとしてタイトにまとまっていることは確かで、やはりソダーバーグ演出をひと言で表すと、「手堅い」になるかと思う。「オーシャンズ (Ocean’s…)」シリーズや「インフォーマント! (The Informant!)」のようなユーモアを交えたものもあれば、「コンテイジョン (Contagion)」「エージェント・マロリー (Haywire)」のようなスリラー、アクションまで、本当にそつがない。ソダーバーグ自身も、演出する時に心掛けていることは、余分なものを削ぎ落としてリーンにすること、と言っていたのを何かのインタヴュウで読んだことがある。 

 

ソダーバーグにはさらに、「マジック・マイク (Magic Mike)」なんて、公開が終わってしばらくしてもソダーバーグ作品とすら知らなかった作品もある。さすがにこちらは事前にソダーバーグ作品と知っていても、見たかどうかは疑問だが。しかもソダーバーグの場合、基本的に撮影も彼自身だ。その合間を縫って、他の者の作品のプロデュースも手掛けたりしている。これじゃ確かに本気で忙しかろう。 


ところで、映画を見たその週のエンタテインメント・ウイークリー誌を見ていたら、ソダーバーグが演出したHBOのTV映画「ビハインド・ザ・カンデラブラ (Behind the Candelabra)」の特集が組まれていた。あれ、「サイド・エフェクツ」が引退作ではないのかと思ってちょっと調べてみると、「ビハインド・ザ・カンデラブラ」が演出作としては現在予定されている最後の作品で、その後しばらく休むことだけは確かのようだ。 

 

映画製作の予定はないが、別種の新しいプロジェクトの企画はあるそうで、本当にソダーバーグが今後映画演出の一切から手を引くかどうかは、実は怪しいと私は思っている。アスリートですら、力が落ちて引退したのにまた復帰してくる時代だ、むしろ演出家としては今がピークのソ ダーバーグが復帰したいと考えたら、拒むものは何もないだろう。実際問題として、ソダーバーグが本当に今後一作も撮らないとなると、こちらが困る。










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エミリー (ルーニー・マラ) は繊細な神経を持ち、鬱の傾向があった。金融で失敗して刑務所入りしていた夫マーティン (チャニング・テイタム) が出所してくるが、エミリーの心は晴れず、自殺未遂を起こす。エミリーを診療した精神科医のジョナサン (ジュード・ロウ) は薬をいくつか処方する。しかしその中には、夢遊病の副作用がある薬があった。エミリーはある日、自分の知らない間にマーティンを包丁で刺して殺害してしまう。ジョナサンは、エミリーだけではなく自分のキャリアのためにもエミリーの無実を証明する必要に迫られる‥‥


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