The Incredible Hulk


インクレディブル・ハルク  (2008年6月)

サンフランシスコに壊滅的な損壊を加えたハルク=ブルース (エドワード・ノートン) はその後姿をくらまし、ブラジルのスラム街ファヴェラ地区でひっそりと目立たぬように生活していた。しかし、些細な事故からブルースの血が混入してしまったドリンクを飲んだ男が体調の不自然を訴えたことにより、ブルースの所在が割れる。 ロス元帥 (ウィリアム・ハート) は生っ粋の軍人ブロンスキー (ティム・ロス) を追っ手として差し向けるが、ブルースはすんでのところで難を逃れ、徒歩でカリフォルニアに向かう。ブルースが元の姿に戻るためには、研究所に保管されているはずの彼のデータが必要だったが、しかしそのことは、かつての恋人ベティ (リヴ・タイラー) に会ってしまうかもしれない可能性も秘めていた‥‥


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なにもまた、わざわざ5年前にアン・リーが演出してしかも盛大にこけた映画の続編を今作らなくても、と思っていた。CGの技術は日進月歩だから、5年前よりもっとよくできた、いかにも本物らしいハルクができるのは間違いないとは思うが、しかし問題はそこだけにあるというもんでもないだろう。いずれにしてもリーはCGによるイメージ先行になるのを嫌い、印象としては女性映画としての「ハルク」を作ってしまい、それは人々に受け入れられなかった。アクション映画を見に行って女性映画を見せられたら、それは反発を食らうのは避けられないと思う。


今回演出を担当するのは、「トランスポーター」のルイ・レテリエで、それだけで今回の「ハルク」はアクション重視であることが知れる。一方で前作でエリック・バナが演じた主人公ブルース=ハルクを今回演じるのはエドワード・ノートンであり、これはむむむと思わせる。バナがハルクを演じるのはまだわかるが、ノートンがハルクか。むろんハルクに変身してしまえばCGになるわけだから誰が演じていようと構うまいが、しかしどんなに筋トレで筋肉をつけようと痩せ型なのは変わらないノートンが、よりにもよってハルクか。


一方でインテリに見えるノートンが大学の研究員という設定は無理なく受け入れられるので、やはりこれはこれでいいのかもしれない。そういうタイプがグリーン・モンスターに変身するというところにこそ意義や面白みがあるとも言える。それにしてもノートンって、昔も今も30代に見える。老けないというか昔から老けてたというか歳をとらないというか。


実は私は実際に劇場で作品を見るまで、これがリー作品に不満を持っていたステュディオやマーヴェルによる意趣返し的なリメイクなのか、あるいはその後を描く続編なのか知らなかった。どっちでもありそうだと思っていた。そしたら上映が始まると、最初のオープニング・クレジットで前作のおさらいをきっちりと済ませ、無理なく導入部に入っていったのには感心した。続編だったのか。


前回、サンフランシスコを壊滅的に破壊したブルース=ハルクは、リオのスラム街ファヴェラに身柄を隠し、昼は飲料工場で働きながら、なんとか元の自分に戻る方法を模索していた。頼みの綱はインターネットで繋がっているミスター・ブルーという符号の科学者で、ブルースは自らをミスター・グリーンと名乗り、相談を持ちかけていた。しかし小さな事故によってブルースの血が混入してしまった飲料が1本市場に出回ってしまい、それを飲んだ男 (マーヴェル・コミックスの創始者スタン・リーがカメオ出演している) が体調の変化を訴えたことからブルースの居所が知れる。根っからの軍人ブロンスキが刺客として送り込まれ、ぎりぎりのところで難を脱したブルースは、自分の研究の記録を手に入れてミスター・ブルーに連絡するために、徒歩でサンフランシスコに向かう。しかしそこにはかつてブルースが愛した女性、ベティもいた‥‥


途中、かなり話が端折られるとはいえ、展開自体には無理はない。ブラジルにいたブルースが、途中でやむを得ずハルクに変身してしまったとはいえ、気がついた時にはいきなりアマゾンを越えてグアテマラだかどこかの中米にいたというのは厳しいと思わないでもなく、そこからさらに、今度は普通の人間に戻ったブルースが徒歩で北米大陸を歩いてアメリカに入るまでは、人から施しを受けながらの難行だ。その上、一般人に戻って、たぶんパスポートを持ってなく、しかも国境では軍の息がかかっているから一発で止められるに違いないブルースが、なぜ無事アメリカに入ることができたかも疑問だが、しかしブルースの行動自体には筋が通っているため、納得してしまう。


冒頭の、2分で終わらせた前回のおさらいといい、やはり1、2分で終わってしまうブルースの米大陸横断といい、必要最小限で最大の効果を上げるというか、よけいなところに時間は割かないというハリウッドイズムが、どうしても人間関係を描き込みたいリーの前作と今回の最も印象の異なる点と言える。リーならここで絶対なんか付け足してブルースの苦悩と足取りを強調したはずなのだ。むろんドラマよりもアクションを強調したいレテリエは、そんなことはしない。


一方、結構リー版と同様の比重をもって描かれているのが、今回はリヴ・タイラーが演じているブルースの元恋人ベティで、あれだけアクションに徹すると思わせた前半に対し、中盤から後半、結構ベティを描き込むことでならぬ悲恋の恋愛ドラマとしても機能させている。これは今回ブルースを演じると共に、内容にも強く口出しして揉めたというノートンの意向も大きく反映しているのではないかと思われる。最近のノートンの演じる役は、「幻影師アイゼンハイム (The Illusionist)」といい、「ザ・ペインティド・ヴェイル (The Painted Veil)」といい、そういう印象を受ける役ばかりだ。彼は絶対恋愛もので悲劇の主人公をやりたがってるに決まっている。


その相手となるタイラーは、アメリカでは今、彼女が主演しているホラーの「ザ・ストレンジャーズ (The Strangers)」が同時公開中だ。その父でありブルースの研究の元締めでもあるロス元帥に扮しているのがウィリアム・ハート。見ていてあっと思ったのだが、ハートは実は自らも昔、人体実験によってまったく別の存在に生まれ変わるという役を、そもそものデビュー作である「アルタード・ステイツ」で既にやっていた。今回の彼のキャスティングにはそういう意味があったのか。


今回の「ハルク」は、「スパイダーマン」よろしくモンスターものとして悪役も用意されており、そのザ・アボミネイションに扮するのがティム・ロス。元々超上昇志向、というよりも強い者志向の強い軍人で、強く大きくなるためならなんでもする。実際に身体が小さめで、軍人としてはコンプレックスがあり、それを解消するためなら何でもするだろうという念の強さをまき散らしており、好演している。彼もまたいい役者だ。「ハルク」は、これらのいい役者をふんだんに起用しておきながら、最後は生身じゃないCGで決着をつけざるを得ないことに作品としては最大の弱点があると思える。その差を埋めるだけのCGの進歩が今回あったかどうかは、前回からはまた一歩差が詰まっただろうとはいえ、まだ意見は分かれるところだろう。


作品の最後にはサプライズ・エンディングがあり、バーでとぐろを巻いているロス元帥に接触してくるのは、なんと「アイアンマン」ことトニー・スターク、つまりロバート・ダウニーJr.だ。そうか、「アイアンマン」もマーヴェルだったっけ。これはいったい次の「アイアンマン」もしくは「ハルク」で両者が相見えることの伏線なのか。生身に徹することで面白さを倍増させた「アイアンマン」に、CGのハルクがいったいどうやって絡むのか。ちょっと見たい気がする。







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