The Great Gatsby


華麗なるギャツビー  (2013年5月)

春先になって「華麗なるギャツビー」の予告編が至るところで見られるようになって初めて、ジャスティン・ティンバーレイクがなんでジェイZと組んで「ザ・20/20・エクスピリエンス (The 20/20 Experience)」みたいなアルバムを製作したか合点が行った。あのコスチュームといい乗りといい、これ、どう考えても「ギャツビー」とタイ・アップしている。そうか、そういうことだったか。 

 

と納得し、いよいよ公開間近となってオリジナル・サウンド・トラックをあちこちで耳にするようになると、今度はまた逆にわからなくなってきた。そのサウンド・トラックにティンバーレイクの歌が入ってない。しかしジェイZの「100$ Bill」はちゃんとフィーチャーされている。とするとティンバーレイクの方はオリジナルのコンセプトで、「ギャツビー」とはまったく関係なかったのか。 

 

なんてことが気になったりするのも、かつては事前に自分でCDを買うのでもなければ、ラジオに耳を傾けて時間をかけてチェックするしかなかったサントラ盤のチェックが、今ではデジタル化したリスニングのおかげでいとも簡単にできるようになったからだ。 

 

Spotifyの場合だと、映画が公開する前からアルバム全曲を試聴させる旨の案内がわざわざメイルで送られてきていた。無料版なのでコマーシャルがそこここに入るが、そんなの、ラジオを聴いていると思えば気にもならない。曲を早送りしたり飛ばすことも可能だ。こんなに簡単に、まだ気分が盛り上がってすらいなかった情報をプッシュされる。テクノロジーの進化は重宝するが、ちょっと有り難味がないかなと贅沢な不満を呟いてみたりするのだった。 

 

バズ・ラーマンのミュージカルといえば、やはり「ムーラン・ルージュ (Moulin Rouge)」だろう。公開当時その中の「タンゴ・ロクサーヌ (Le Tango de Roxanne)」に痛く感銘を受けた私は、DVDプレイヤーを持ってなかったのにもかかわらず、半年後にDVDが販売されると無性に欲しくなって購入してしまい、それを見るためにプレイヤーを買った。まず劇場で見て、それからDVDで2回目を見るまで1年近く時間がかかっている。それが今では、公開前から音楽なら労せずして何度でも聴けるし、ヴィデオだってかなりの部分が視聴可能だろう。 

 

いずれにしても今回はそのため、用意おさおさ怠りなく‥‥というか、ついマーケティングに乗せられて、事前にアルバムを聴いて曲が頭に入っていた。いかにもラーマンの嗜好が反映しているというテイストの選曲ばかりで、思わずにやりとさせられる。 

 

その中でもなるほどと思ったのがラナ・デル・レイで、彼女の昨年の「ボーン・トゥ・ダイ (Born to Die)」は、あまりにも大仰でドラマティック過ぎるが、しかし面白かった。そのデル・レイがラーマン作品に起用されるのは、いかにもという感じで思わず膝を打つ。今回の「ヤング・アンド・ビューティフル (Young And Beautiful)」も「ボーン・トゥ・ダイ」に負けず劣らずのドラマティックな楽曲で、いかにもラーマン作品に合いそうだと思っていたら、(たぶん) この曲だけ、作品中で二度使われていた。やっぱりラーマン、こういうの好きなんだよねえ。 

 

さて、「華麗なるギャツビー」もしくは「偉大なるギャツビー」であるが、アメリカン・ニュー・シネマ以降の近代映画に限れば、今回が3回目の映像化だ。むろん大まかなストーリーを換骨奪胎した作品も含めるとこの数はもっと増えるだろうが、少なくとも「The Great Gatsby」を冠した作品に限って言うと、1974年のジャック・クレイトン演出、ロバート・レッドフォード、ミア・ファロー主演版、2001年のロバート・マーコウィッツ演出、トビー・スティーヴンス、ミラ・ソルヴィノ主演版TV映画、そして今回のバズ・ラーマン演出、レオナルド・ディカプリオ、キャリー・マリガン主演の映像化が3回目になる。 

 

40年近くも前になるレッドフォード-ファロー版は、私が名画座で見た時からでも既に30年くらい経ち、実はもう漠としたイメージしか覚えていない。それでもギャツビー-デ イジーという主演の二人の印象から言うと、これが最も役にはまっていたと思う。一方、狂言回しのニック役の記憶がすっぽり抜け落ちてて、はて、いったい誰だったかと調べてみて、サム・ウォーターソンだとわかった時には驚いた。ウォーターソン、ほんとか。本当にウォーターソンか。昔のウォーターソンの顔がどうしても思い出せず、今のNBCの「ロウ・アンド・オーダー (Law and Order)」のウォーターソンの顔しか脳裏に明滅しないので、ウォーターソンの顔がまったく「ギャツビー」にマッチしなくて困った。ウォーターソンが「ギャツビー」に出ていたなんて、完全に忘れていた。 

 

スティーヴンス-ソ ルヴィノ版は、二人とも実は今一つ上流階級の人間には見えず、視覚的に今一つ乗れなかった。ニック役のポール・ラッドも、うまい役者ではあるが、プチ・ブル的なニックには完全には合致していないという印象の方が強かった。その点、今回の映像化はキャスティングという点ではかなりいい。ディカプリオ、マリガンはなるほどと思うし、ニックのトビー・マグワイアも適度にコメディ・リリーフ的なキャラクターを滲ませ、悪くない。 

 

3本を並べてみた場合、特に違いが浮き彫りになるのが、主人公格の3人のバランスだ。元々ニックは主人公というよりも狂言回し的立場であり、主人公はやはりギャツビー-デイジーというのが妥当だろうが、物語がニックの視点から語られる以上、どうしてもニックの存在は無視できない。とはいえレッドフォード-ファロー版におけるニック役のウォーターソンを私がまったく覚えてなかったのは、ウォーターソンの演技云々のせいではなく、作り手がレッドフォード-ファローの関係に注力したためだろう。もしウォーターソンが下手だったり場をぶち壊していたりしたら、むしろそのことを覚えていたと思う。しかし単純に、私はただウォーターソンを覚えてないのだ。 

 

一方スティーヴンス-ソ ルヴィノ版では、むしろその主演の二人より、ニックを演じたラッドの方が記憶に残っている。実はこの場合も、演技云々よりもロング・ショットによる全身を 見せるショットが多々あったため、ラッド、頭でかい、今一スーツが似合わんというイメージとしての印象の方が強い。いずれにしても、金をかけた豪奢な撮影でなければ意味がない「ギャツビー」を、TV映画で作ろうとしたところに根本的な無理があったというのが偽らざる印象だ。 

 

そして今回は、実はニックがより前面に出てきてのギャツビー-ニックのブロマンス的な関係の方が、ギャツビー-デイジーの関係より印象に残る。ニックは狂言回しというよりも、語り手かつ主演の一人という方が相応しい。もちろんこれは、「ムーラン・ルージュ」でまったく同じように、語り手のユワン・マグレガーが主人公でもあったことと同一の構造だ。「ムーラ ン・ルージュ」はマグレガーの視点から始まり、マグレガーの視点で閉じたが、今回は同じことをマグワイアがやっている。わりを食ったのが主演の一人である はずのマリガンだが、それでも、やはり彼女可愛いなあと思わせる。おとなしそうでいて実は計算もしていてしたたかという感じはよく出ていたように思う。 

 

ところで「ギャツビー」は、端的に言ってしまうと三角関係、しかも昔の彼女を忘れられない男が、金に糸目をつけずにあの手この手で彼女の関心を買おうとするという話だ。それもこのくらいの金持ちならもうちょっとスマートでロマンティックな方法が他にも色々あると思うのだが、とにかく話題になって気を惹くためにこの世のものとも思えない派手なパーティを連日連夜開催し、今度は相手の従兄を抱き込んで紹介してもらうという、なんで、としか思えない情けない行動しかできない。 

 

要するにギャツビーとは、正直言って、ただの女々しいストーカーまがいの男でしかない。しかし、それをこれくらいの規模でやると、歴史に残るのだった。周りに誰もいない夜、対岸のその女性の家の灯りを一人佇んで眺めるという所作を、貧乏人がやると意地汚いストーカーになり、金持ちでハンサムな男がやると、詩情溢れるシーンになる。レッドフォードやディカプリオがこれをやるからいいのであって、一般人がこれをやったら、胡散くさい男が毎夜岬の突端で何かしていると警察に通報されてしまう。ロマンティシズムも何もあったもんじゃない、と、同じことをやったら警察に通報されてしまう方に属する私は思うのであった。 









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マンハッタンの金融関係で働く作家志望のニック (トビー・マグワイア) の従妹デイジー (キャリー・マリガン) は、富豪のトム・ブキャナン (ジョエル・エドガートン) と結婚してロングアイランドの豪邸に住んでおり、ニックはその伝手もあって湾の向かい側にある一軒家を借りて住む。その隣りの豪邸にはギャツビー (レオナルド・ディカプリオ) と名乗る謎の富豪が住んでおり、夜な夜なこの世のものとも思えぬ豪奢なパーティを繰り広げていた。ある晩、ニックは正式にギャツビーからパーティに招待され る。実はギャツビーはかつてデイジーと懇意の間柄であり、ニックにまた二人の間を取り持ってもらいたいと考えていた‥‥


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