Law & Order   ロウ&オーダー

放送局: NBC

プレミア放送日: 9/13/1990

最終回放送日: 5/24/2010 (Mon) 22:00-23:00

製作: ステュディオスUSA、NBCユニヴァーサル

製作総指揮: ディック・ウルフ

音楽: マイク・ポスト

出演: (第20シーズン) サム・ウォーターストン (ジャック・マッコイ)、S. エパサ・マーカーソン (アニタ・ヴァン・ブレン)、ジェレミー・シスト (サイラス・ルポ)、アンソニー・アンダーソン (ケヴィン・バーナード)、アラナ・デ・ラ・ガーザ (コニー・ルビロサ)、ライナス・ローチ (マイケル・カッター)


物語: 最終回: ラバー・ルーム (Rubber Room)

あるブログの映像に見過ごせないほどの爆弾が映っているのが発見される。ルポとバーナードはその映像の出所を追い、とある少年たちにたどり着くが、彼らも同様にその映像の出所を探し出して自分のブログに載せただけと知れる。少年たちが影響を受けた大元のブログでは、ムートと称する何者かが近いうちに学校を爆破すると予告していた。ムートが本気だと感じたルポたちはさらに調査するが、いったいムートが学校を恨んでいる生徒なのか、それとも教師なのかわからない。教師の組合は捜査に非協力的だし、それは裁判所側も同じだった。ルポたちは捜査を進めるうちに、ラバー・ルームと呼ばれる、問題を起こした教師たちが集められる場所の存在を知る。そこには学校や教育システムに恨みを持つ教師たちが多数存在していた‥‥


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「ロウ&オーダー」は、今シーズン、アメリカで最長不倒距離を誇る長寿西部劇番組「ガン・スモーク (Gun Smoke)」とタメを張る、20シーズンという記録に並んだ。ちょっとでも成績が落ちるとすぐキャンセルを仄めかされるアメリカTV界において、20年の長きにわたって番組を続けていくことの難しさは並大抵のものではない。かなりの偉業であることは確かだ。


番組放送開始当初は特に人気が高かったわけではなく、毎シーズン、じりじりとという感じで成績を伸ばした。始まってから10年経ってピークを迎える番組というのはそうめったにあるものではなく (というか、この番組が唯一かもしれない)、一時は「ロウ&オーダー」の番組成績推移がアメリカTV界7不思議の一つに数えられていた時もあった。


90年代後半から2000年代前半にかけては、1999年に「ロウ&オーダー: スペシャル・ヴィクティムズ・ユニット (Special Victims Unit: SVU)」、2001年に「ロウ&オーダー: クリミナル・インテント (Criminal Intent: CI)」、2005年に「ロウ&オーダー: トライアル・バイ・ジューリー (Trial by Jury: TBJ)」等のスピンオフ番組も製作された。「TBJ」は既にキャンセル済みだが、「SVU」はいまだに人気が高く、「CI」も場所をNBCからUSAに替え、メンバー・チェンジを施しながらいまだに続いている。


現在、20シーズン目という記録にはFOXの「ザ・シンプソンズ (The Simpsons)」も並んでいるのだが、アニメーションであり、登場人物が歳をとっていかない「シンプソンズ」と実写の「ロウ&オーダー」とでは、そもそも比較することに無理がある。実際の話「ロウ&オーダー」においては、第1シーズンから現在まで全シーズン登場するオリジナル・キャラクターは存在しない。


DA (検察) オフィスを束ねるジャック・マッコイ役のサム・ウォーターストンが番組の顔という印象が強いのだが、調べてみるとウォーターストンが番組に最初に登場したのは1994年で、既に番組は第5シーズンに入っている。ウォーターストンよりも長いのが、警部のアニタ・ヴァン・ブレンに扮するS. エパサ・マーカーソンで、第1シーズンだけをミスっている。つまりその後19年間出演し続けているマーカーソンが、キャストの中では最も古株だ。


ただしマーカーソンは、以前から今シーズンで番組を降りることを表明しており、番組がキャンセルされようが続いていこうが、今シーズン限りなのは確定していた。そのため番組製作者も、番組に最も貢献したマーカーソンに花を持たせようと、今シーズンはマーカーソン演じるヴァン・ブレン警部がガンを患っているという設定で、彼女に多く出番を充てていた。


これは、考えると非常に稀な、特筆に価する扱いである。なんとなれば事件主導の一話完結型の番組である「ロウ&オーダー」の場合、基本的に事件そのものが主役であり、それを解決に導くレギュラーのキャストは、いわば将棋の駒に過ぎない。彼らは道案内役以上のものではないのだ。そのため、基本的に番組ではレギュラーの登場人物の私生活には光は当たらない。彼等が自宅で何をしているか、そもそも彼らの私生活なんてほとんど描かれないのだ。


だから、ヴァン・ブレンがガンを患っており、彼女が自宅で内縁の夫と会話したり、病院で検査を受けたり、などという描写があるだけで、特筆ものの扱いであることがわかる。ガン再発に脅えるという個人的な部分が描かれるのは、キャストの中でただ一人、ヴァン・ブレンだけである。私はいまだにマッコイの家族構成すら知らない。


そのヴァン・ブレンがガンの再検査を受け、その怖れはないという知らせを受けて胸をなでおろすシーンで番組は終わる。マーカーソンに花を持たせた、前向きな手向けだったわけだが、期せずしてそれがシーズン・フィナーレどころか番組最終回になった。偶然だが、番組としては特に多くはない前向きな印象を受けるエピソードが番組最終回になるというのは、心証としては悪くない。


一方、フランチャイズの「SVU」や「CI」では、キャラクターの扱い方は違う。特に性犯罪関係に焦点を当てる「SVU」では、マリスカ・ハーギテイ演じるオリヴィア・ベンソンとクリストファー・メローニ扮するエリオット・ステイブラーが、番組主人公として前面に出てくる。番組は事件を描くのではなく、事件を追う彼らを描くのだ。そのため、彼らの私生活、家族も描かれる。これは性犯罪という特殊な犯罪に対するため、番組が正義の味方的な主人公を必要とし、視聴者を彼らに感情移入させるための方便だろう。


「CI」では、番組が始まった当初は、ゴレン刑事を演じるヴィンセント・ドノフリオが、ほとんどシャーロック・ホームズを彷彿とさせる刑事もの的な印象が強かった。現在ではドノフリオと、その相棒的なイームス刑事を演じたキャスリン・アービは番組を去り、代わってジェフ・ゴールドブラムとサフロン・バロウズのコンビが主人公を務めている。ゴールドブラムはドノフリオが体現したホームズ的な刑事ではないが、一方でバロウズは妖艶と言ってもいいほどの雰囲気を振りまいており、地味で裏方に徹したという印象のあったアービとは対極の存在だ。


「ロウ&オーダー」というと誰でも真っ先に思い出すのは、番組中でシーンの転換時に使用される、あのダン・ダン、という効果音だろう。こないだCBSのシットコム「ザ・ビッグ・バン・セオリー (The Big Bang Theory)」を見ていたら、この音がギャグとして使用されていて、思わず噴き出してしまった。要するに、誰でも知っているからこのギャグが通用する。


私は以前、この効果音を「カ・チン (Ka-Ching)」と呼ぶとどこかで読んで、それをそのまま信じていたのだが、今回新たに調べ直して、それが特に固有名として通用しているわけではないことを知った。この効果音を製作した音楽のマイク・ポスト自身が、これを「クラング (Clang)」と呼び、またあるところでは「チャン・チャン (Chung chung)」と呼ばれていたり、「ドインク・ドインク (Doink doink)」だったり、「ダン・ダン (Dun dun)」だったりする。要するにそれとわかればどうでもいいようだ。


ポストは効果音だけでなくテーマも作曲している。オリジナルのテーマがオリジナルの「ロウ&オーダー」でもそのスピンオフでも使われているが、そのアレンジは昔と今では微妙に異なる。昔はファンキーなギターが使われていたが、現在使用されているクラリネットはかなり間が抜けていて、力が抜けるので番組にはそぐわないと、私は見るたびに思う。


現行シーズンの「ロウ&オーダー」のレギュラー・キャストは、上述のウォーターストン、マーカーソン以外に、検察にアラナ・デ・ラ・ガーザ (コニー・ルビロサ)、ライナス・ローチ (マイケル・カッター)、警察にジェレミー・シスト (サイラス・ルポ)、アンソニー・アンダーソン (ケヴィン・バーナード) がいる。個人的には、時に独善的に突っ走りそうになるカッターを演じるローチが,最も役に合っていると思う。とはいえ、みんな悪くない。


番組は定期的にメンバー・チェンジを施しながら、新しい息吹きを吹き込んで展開してきた。考えればHBOの「Sex and the City」のミスター・ビッグを演じたクリス・ノスも「ロウ&オーダー」で名が売れたし、ベンジャミン・ブラットだってそうだ。なぜだか検察官を演じた女性が印象に残るのも特徴で、ジル・ヘネシー、アンジー・ハーモン、エリザベス・ロームなど、皆女性検察官だった。ただし、最も印象に残っているのは、足で仕事する刑事という一つの型を造型、体現して説得力があり、番組出演中に物故したジェリー・オーバックだ。


「ロウ&オーダー」は、ニューヨークのドラマという印象が濃厚だった。最近のニューヨークを舞台にしているという建て前のドラマがよくやるように、背景をよく似たトロント等のカナダの諸都市で間に合わせることなく、実際にちゃんとニューヨークの街頭でロケしている。ニューヨークに住んでいて、「ロウ&オーダー」の撮影現場に鉢合わせしたことのないニューヨーカーは、まずいないと思われるほど頻繁に街頭でロケしており、出不精の私ですら何度も街頭ロケ中なのを見かけたことがある。そういうオーセンティックなニューヨークの雰囲気の滲出も、番組の人気の理由の一つだったと思われる。


番組はさらに、アイディアのほとんどを実際にニューヨーク近辺に起こった事件から頂いている。番組を見ると、まずだいたい3回に2回は、あ、この話、元ネタ知ってるというものばかりだ。ニューヨークで何か印象的な事件が起きると、さて「ロウ&オーダー」は今度はどうやってこの素材を料理するんだろうと考えていたのは、私だけではあるまい。


実際番組最終回となった「ラバー・ルーム」も、その少し前に、問題を起こした教師がなにもせずにただいるだけ (居眠りをしている者もいる) で、それで給料は全額支払われているというラバー・ルームの存在が公になって、ニューズ・ネタになっていた。番組はその事実を下敷きに話を膨らませている。


「ロウ&オーダー」は最終回を迎えたわけだが、一方で昨年から英国を舞台にした「ロウ&オーダー: UK」が始まっているだけでなく、今秋からは新番組「ロウ&オーダー: ロサンジェルス (Los Angeles)」が始まる。ニューヨークのローカル番組という印象が強かった「ロウ&オーダー」であるが、これではまるでCBSの「CSI」フランチャイズみたいだ。これを番組の発展と見るか堕落と見るか。きっと昔からの番組ファンは複雑な心境でいるに違いない。


また、番組は最終回を迎えはしたが、100%これで終わりが確定したわけではない。プロデューサーはケーブル・チャンネルに番組の新たな里親にならないか打診中であり、つい最近までTNTが候補の筆頭に挙げられていたが、製作費が高過ぎてこの話は流れたそうだ。一方で現在「マッド・メン (Mad Men)」「ブレイキング・バッド (Breaking Bad)」というドラマで知られるAMCが興味を示しているとの話も伝わってきている。NBC自体が、最後に2時間のTV映画を製作してけじめをつけるなんて話もある。「ロウ&オーダー」はまだ完全に終わったわけではない。








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ロウ・アンド・オーダー   ★★★

 
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