Breaking Bad  ブレイキング・バッド

放送局: AMC

プレミア放送日: 1/20/2008 (Sun) 22:00-23:00

第2シーズン・プレミア放送日: 3/8/2009 (Sun) 22:00-23:00

製作: ハイ・ブリッジ・プロダクションズ、グラン・ヴィア・プロダクションズ、ソニー・ピクチュアズTV

製作総指揮: ヴィンス・ギリガン、マーク・ジョンソン

製作: カレン・ムーア

監督/脚本: ヴィンス・ギリガン

撮影: ジョン・トール

美術: ロブ・キング

編集: リン・ウィリングハム

音楽: デイヴ・ポーター

出演: ブライアン・クランストン (ウォルター・ホワイト)、アナ・ガン (スカイラー・ホワイト)、アーロン・ポール (ジェシ・ピンクマン)、ディーン・ノリス (ハンク・シュレイダー)、ベッツィ・ブラント (マリー・シュレイダー)、R. J. ミット (ウォルター・ホワイトJr.)


物語: 高校で化学を教えている教師のウォルトは、カー・ウォッシュでアルバイトするなどして働いて家族の生活を支えていたが、過労で倒れてしまう。救急車で病院に運ばれて精密検査を受けたウォルトに告知された診断は、ガンで余命いくばくもないというものだった。しかしまだ家の支払いは残っているだけでなく、身重の妻のスカイラー、身体の不自由な息子ウォルターJr.を養っていかなければならない。

そんな時、DEAで働く義弟ハンクが違法ドラッグ製造を検挙する現場に居合わせたウォルトは、かつてのできの悪い教え子のジェシが逃げ出すのを目撃する。その夜ウォルトはジェシの家を訪れ、一緒に違法ドラッグのクリスタル・メスを製造しないかと持ちかける。

ウォルトの作る純度の高いメスは順調に買い手がつき、しかもウォルトはこれまでまったく逮捕歴もないため足もつかず、DEAも手をこまねいていた。しかしウォルトらの作ったメスをさばくディーラーのトゥーコはすぐ切れ、何をしだすかわからないところがあった‥‥


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ベイシック・ケーブル・チャンネルのAMCとは、American Movie Classicsを意味し、読んで字の如く往年のハリウッド名画の放送が編成の主体だった。しかし近年はタイム・ワーナー系のTCM (Turner Classic Movies) やFOX系のFMC (Fox Movie Channel) 等の大手チャンネルに視聴者をとられ、精彩を欠いていた。


そこでハリウッド名画路線を諦め、ほとんど手当たり次第という感じで年代にこだわらない映画を編成し始め、さらに現在では、徐々にオリジナル番組製作路線に移行中だ。その最初のヒットが、3年前のチャンネル視聴率記録を樹立した西部劇ミニシリーズの「ブロークン・トレイル」であり、そして一昨年のドラマ・シリーズ「マッド・メン」だ。特に「マッド・メン」の成功は、その後AMCがオリジナル番組路線に本格的に乗り出す先鞭をつけたと言っていいだろう。


そして昨年、「ブレイキング・バッド」が編成されるに至って、AMCはベイシック・ケーブルとしては見逃すことのできないチャンネルとして注目を集めるようになった。オリジナル・ドラマとしてはこの「マッド・メン」と「ブレイキング・バッド」しかないため今後も精進は必要だが、しかしかなり良質の番組2本を編成するだけでも、ベイシック・チャンネルとしては大変なことなのだ。


「マッド・メン」は1960年代ニューヨークのマディソン街の広告代理店を舞台に描く緊密な室内心理劇という印象が強いが、「ブレイキング・バッド」は舞台は現代のアメリカ南西部だ。屋外でのアクションも多く、「マッド・メン」とはまったく印象を異にしている。一方「マッド・メン」の場合はまだ従来のAMC編成と多くの共通項が見られたが、「ブレイキング・バッド」に至ってはそれがAMC番組であるという必然性はまったく見られない。ただよくできた脚本だったから製作にGoサインが出たんだろう。


「ブレイキング・バッド」は昨年から放送が始まっており、最初から主演のブライアン・クランストンの熱演が評判になった。クランストンといえば人が覚えているのはまず何よりもFOXの「マルコム・イン・ザ・ミドル」の主人公マルコムのお父さん、ハル役だろう。マルコムの家はどちらかというとお母さんのロイス (ジェイン・カツマレク) の力が強く、ハルはいつもロイスの尻に敷かれていたという印象があった。


そのハルを演じていたクランストンが、ここでは違法ドラッグを製造して犯罪に手を染める男を説得力たっぷりに演じている。クランストン演じるウォルトは高校の化学の教師だが、身重の妻スカイラー、障害を持つ息子のウォルトJr.を抱え、家の支払いはまだあと何十年も残っている。火の車の家計をなんとかするためカー・ウォッシュでバイトもしているのだが、そこでウォルトは過労のために倒れてしまう。


病院での診断は、ウォルトは肺ガンで、あと余命いくばくもないというものだった。しかし自分が今死んだら、愛する妻は、まだ自活できない息子はどうなる? 絶望の淵に立たされるウォルトに一筋の光明が訪れる。それは違法ドラッグのクリスタル・メスを製造することで、手っとり早く金を手に入れるというものだった。元教え子のジェシを仲介役として、ウォルトはメスを製造販売する。化学の教師であるウォルトは、器材の使い方も方程式も熟知しており、その純度の高いドラッグが市場に出回るとすぐに買い手がついた。


しかしドラッグ・ディーラーのトゥーコは、ウォルトの作るメスを独占しようと考えており、ウォルトをメキシコに連れて行ってそこでドラッグ製造に専念させようと考える。逃げて切れやすくすぐに逆上するトゥーコを怒らせれば、そこに待っているのは死しかなかった。一方、従来のルートからではない純度の高いメスがいきなり市場に現れたことに対し、取り締まり機関のDEAも調査に本腰を入れる。その責任者こそウォルトの義弟で、ウォルトがメス製造に乗り出すそもそものアイディアを与えたハンクに他ならなかった。


ハンクの妻マリーは盗癖があり、宝石店から盗んできたティアラを知らずに姉のスカイラーが返品しようとして泥棒扱いされたため、スカイラーは今ではマリーとの連絡をほとんど絶っていた。マリーとは正反対で道徳的に潔癖なスカイラーが、ウォルトがドラッグ製造に携わっていると知ったら、たとえ死が間近であろうとも何と言うか考えるだにおぞましく、ウォルトは結局自分のしていることをスカイラーに言えずじまいでいた。しかし最近外出が多く、行動が不審なウォルトに対してスカイラーも疑惑を持ち始めていた。


と、ここまでが第1シーズンのあらすじだ。実は特にヴァイオレンスも裸も放送禁止用語も連発するわけでもないのにもかかわらず、私の印象では「ブレイキング・バッド」が最も連想させる番組といえば、「ザ・ソプラノズ」をおいて他にない。要するに、あのきりきりと追い詰められた、ヴァイオレンスが勃発する直前の緊張感とでも言えばいいか。第2シーズンは特にそのことを強く感じさせる。


ある時、トゥーコにでき上がったメスを渡す段になって、ちょっとした不用意な発言をしただけでトゥーコが手下をぼこぼこに殴りつけ、傷害致死に至らしめてしまう。さらにDEAの締め付けによって商売がしにくくなったトゥーコはウォルトとジェシを軟禁し、そのうちメキシコに高飛びして、そこでメスの製造販売を一手に展開しようと考える。スカイラーらは行方不明となったウォルトのポスターを作って町で人に訪ね歩くが成果は上がらない。一方、その渦中のウォルトとジェシは荒野の一軒家でトゥーコと、老衰かヤク中でほとんど体が動かず口も効けないトゥーコのおじティオと一緒にいた‥‥


ウォルトらは、トゥーコの手から逃れるためにはトゥーコを殺すしかないと決意し、その薬をトゥーコが作ったブリトーの中にふりかける。ティオはそれを見ているのだが、なにぶん四肢が麻痺し車椅子状態で口を効くことするままならないティオは、よくホテルのレセプションにおいてある、チンと鳴らすベルを車椅子の手すりに結わえ付けておいて、それを鳴らすことで意思表示する。


トゥーコが毒入りブリトーを食おうとする段になると、ティオはそのベルをチンチン鳴らしてトゥーコの気を引き、それには毒が入っていることをなんとか教えようとする。最初、ティオが言わんとしていることがまったくわからないトゥーコがだんだん核心に迫っていく辺りの緊張感はただごとではない。ばれたらこちらが殺されてしまうのだ。スリルを醸成しながらなおかつユーモアすら感じさせるこの辺りの呼吸は、ヒッチコック的でもある。ティオがまた、晩年のアンソニー・クインみたいで、味があっていいんだ、これが。


その後の屋外での銃撃戦においては、命がかかっているというのにトゥーコが誤ってハイドローリックで車をずんずん上下動させる、アメリカの暴走族まがいの者たちがよくやる改造仕様のスイッチを入れてしまい、車がずんずんばんばんしているそのそばで撃ち合うという、やはりひねたユーモアが全開だ。


クランストンは第1シーズン途中から坊主頭になってウォルトを演じているが、エミー賞も納得の熱演。極悪人になりきれない2流の悪人もどきでしかないジェシを演じているのはアーロン・ポールで、デイヴィッド・アークエットを彷彿とさせる意気地のなさ加減がこちらもいい。この分だとクランストンがまた少なくともエミー賞にノミネートされるのはまず間違いないが、ここまでを見ると、主演男優賞どころか番組もドラマ部門でノミネートされる可能性も非常に高いと言える。番組と主演男優の2冠も夢ではない。AMCは「マッド・メン」と合わせ、金の卵を2個も擁することになってしまった。今秋のエミー賞では昨年の「マッド・メン」の代わりに、今度は「ブレイキング・バッド」が世間をあっと言わせることになるかもしれない。








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ブレイキング・バッド   ★★★1/2

 
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