放送局: NBC
プレミア放送日: 3/3/2005 (Thu) 22:00-23:00
製作: ウルフ・フィルムズ、NBCユニヴァーサルTV
製作総指揮: ディック・ウルフ、ワロン・グリーン、ピーター・ジャンコウスキ
共同製作総指揮: アーサー・フォーニー・リチャード・ピアース
クリエイター/ライター: ディック・ウルフ
監督: ジャン・デセゴンザク
撮影: ジョン・トマス
美術: スティーヴン・ジョーダン
編集: リオン・オーツ-ギル
音楽: マイク・ポスト
出演: ビビ・ニューワース (トレイシー・カイバー)、エイミー・カールソン (ケリー・ギャフニー)、フレッド・ダルトン・トンプソン (アーサー・ブランチ)、ジェリー・オーバック (レニー・ブリスコー)、カーク・アシヴィド (ヘクター・サラザー)、サム・ウォーターソン (ジャック・マッコイ)、アナベラ・シオラ (マギー・デトウェイラー)、キャンディス・バーゲン (アマンダ・アンダーリー)、トム・オルーク (ピーター・ベーレンス)
物語: 行方不明になった女優志望の娘を持つ女性がカイバー検事を訪ねてくる。娘はブロードウェイの大物ラシャーと親しくなったある日から消息を絶っていたが、証拠物件に乏しく、一時は迷宮入りかと思われた。しかし娘の持ち物の中からラシャーの名刺等が出てきたことから新たにラシャーの身辺を捜査した結果、クロという感触を得たカイバーらは検挙に踏み切る。ラシャーはやり手の弁護士のデトワイラーを雇って弁護にあたらせる。ラシャーは自分が娘を殺したことを告白するが、しかしデトワイラーの頭の中にあるものは、いかにして依頼人である被告を裁判で有利に持っていくかのみだった‥‥い。どんどん点差をつけられるのに見かねたデイナが助っ人に登場するが‥‥
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昨シーズン、「フレンズ」と「フレイジャー」という2本の人気シットコムが最終回を迎え、それまでは不動の人気ナンバー・ワン・ドラマだった「ER」がCBSの裏番組の「FBI 失踪者を追え (Without a Trace)」に抜き去られ、昨秋の新シーズンの新番組もほぼ全滅状態のNBCは、ここんとこ元気がない。ついでに言うと、昨シーズンの台風の目だった「ジ・アプレンティス」ですら、既に人気は下降気味だ。
そういう中で頑張っている、というか、NBCにはもうこれしか頼るものがないというのが、ニューヨークを舞台とする法廷ドラマ「ロウ&オーダー」と、それに続く「スペシャル・ヴィクティムズ・ユニット (SVU)」と「クリミナル・インテント (CI)」のスピンオフ・シリーズである。「SVU」は特に性犯罪に焦点を当て、「CI」は法廷ドラマとしてではなく、刑事ドラマとして製作されている。
基幹番組としての「ロウ&オーダー」自体は、元々コアの根強いファンがいるいぶし銀的な番組だったが、それが段々シーズン毎に人気を上げ、番組が始まってから10年後に絶頂期を迎えるという、非常に稀な視聴率推移を経験している。「SVU」と「CI」は当然その人気を受けて製作された。「ロウ&オーダー」が始まったのが1990年、「SVU」が99年、「CI」2001年と、「ロウ&オーダー」と最初のスピンオフである「SVU」の間がだいぶ離れているのは、「ロウ&オーダー」がヒット番組として定着するまでに時間がかかったその辺の事情を物語っている。
いずれにしても「ロウ&オーダー」の強みは、そういう、長い年月ずっと番組を見続けてきたコアのファン層が確立していることにある。だからスピンオフ番組も最初から安定した成績を獲得することができる。さらにこのシリーズは、すべて60分一話完結のスタイルを踏襲している。つまり、話を追うために毎週続けて見る必要がなく、気が向いた時にその時放送しているエピソードを見ればいい。そのため「ロウ&オーダー」シリーズは、ケーブル・チャンネルのTNTとUSAにおいてかなりの頻度で再放送され、そちらでも人気が高い。
TNTとUSAは、共に常に視聴率1位の座を争っている、ケーブルを代表するチャンネルだ。USAには現在「モンク」という人気番組があるが、TNTは特に人気のあるオリジナルのシリーズ番組を持っているわけではない。いずれにしても、その両チャンネルにおいて、「ロウ&オーダー」シリーズが稼ぎ頭となっている。例えば下表は、4月10日から16日までの一週間に編成された「ロウ&オーダー」シリーズを示したものだ。
まず、当然のことながらNBCが、基幹番組「ロウ&オーダー (L&O)」と、スピンオフの「SVU」、「CI」、そして最新スピンオフの「トライアル・バイ・ジューリー (TBJ)」を週1本ずつ編成する。加えてTNTとUSAが、それこそ自チャンネル編成の隙間のことごとくに番組を突っ込んでいるんじゃないかと思えるくらい、「L&O」シリーズを編成している。
「L&O」の再放送はTNTで、「SVU」と「CI」はUSAで再放送されているのだが、スピンオフの中では最も異質な「CI」は思ったより視聴率を稼げないと見えて、USAはプライムタイム時間外に「CI」を編成している。TNTもプライムタイム外にも番組を再放送しており、つまり、だいたい上の表の倍くらいの「L&O」シリーズが毎週放送されているわけで、視聴者は、毎日、ほとんどいつの時間帯であろうと「L&O」が見たければどこかでそれをやっているという環境になりつつある。同じ番組の基幹番組とスピンオフで潰し合いを演じているのだ。それでもその両方共それなりの視聴率を稼いでいるというところが、「L&O」の人気の高さを物語っている。
そういう、視聴者の立場から言うと、もう、既に「L&O」飽和状態に陥っていると感じさせる状況なのに、さらに今回、新しいスピンオフ番組として登場してきたのが、「トライアル・バイ・ジューリー (TBJ)」だ。とはいえ「L&O」シリーズは、スピンオフ番組によって多少の内容の違いがあり、その辺が、事実上まったく同じ番組をただ場所を変えただけに過ぎないCBSの「CSI」シリーズと異なっている。
基幹番組の「L&O」の場合、物語の本質は事件そのものにあって、それを追跡する警察や検察、司法の面々は、将棋の駒という印象が強い。だからこれまでの長い放送期間で主要な登場人物が辞めたり新しく入ってきたりしても、番組そのものはなんの影響も受けないし、視聴者も別に気にしなかった。それが特に性犯罪を扱う「SVU」になると、事件を追跡する二人の刑事を演じるマリスカ・ハーギテイとクリストファー・メローニという明らかな主役がいる。さらに「CI」になると、主人公ゴレン刑事を演じるヴィンセント・ドノフリオはほとんど名探偵と言える存在で、ライヴァルの悪役まで登場してくるなど、まるでホームズものを彷彿とさせる。
そして最新スピンオフ「TBJ」の一見しての最大の特徴は、タイトル通り、カメラが討論を行う12人の陪審員の姿を映し出すことである。つまり、これまでは、悪を裁くといえども検察寄りだったり刑事寄りだったりしたシリーズが、今回は、司法、それもプロの裁判官ではなく、実際に被告が白か黒かの審判を下す、一般人の集まりである陪審員に焦点を当てる比率が高い。しかし、もちろん毎回毎回違う顔が集う陪審員を主人公にするのは、シリーズ番組としてはかなり苦しい。そのため、「トライアル・バイ・ジューリー」‥‥「陪審員による裁判」という今回の副題が明示しているほどカメラは陪審員を追うわけではなく、やはりここは狂言回しとも言える検察官トレイシー・カイバーとケリー・ギャフニーを演じるビビ・ニューワースとエイミー・カールソンが、実質上の番組主人公となっている。
また、「L&O」シリーズはそれぞれの番組がかなり連絡し合っており、「TBJ」プレミア・エピソードでは、いきなり検察を演じるサム・ウォーターソン、フレッド・トンプソン、刑事役のジェリー・オーバックらの「L&O」レギュラー陣が顔を出す。ウォーターソンは今回ただ顔を見せただけだが、トンプソン、オーバックはこっちのレギュラーとなるらしい。しかし、そうはいっても「TBJ」の放送が始まった時、オーバックは既に病没していたという事実は広く知られており、結局、オーバックは最初の数エピソードに出るに留まっている。
オーバック演じるレニー・ブリスコー刑事は、一度獲物に食いついたら離れない刑事という設定で、いつの間にやらブリスコーというと、こういった足で仕事をするヴェテラン刑事タイプの代名詞となってしまった。華々しいキャラクターというわけではないが、オーバックが体現したこの種の刑事の造型が世間に与えた影響や印象は多大なものがある。「TBJ」プレミア・エピソードでは、番組が始まる前に「ジェリーに捧ぐ (For Jerry)」という献辞が挟み込まれていた。
ところで陪審員に焦点を当てたドラマというと、同種の趣向を狙った昨年のFOXの「ザ・ジューリー」がすぐに思い出される。とはいえ「TBJ」は、「ジューリー」ほど徹底して陪審員に密着しているわけではない。あくまでもその内情を垣間見せるという程度だ。陪審員の内情を見せるのもいいが、やはりポイントはそれが話として面白いかどうかなのだ。作劇術としてどこまで司法内部に突っ込んだらいいかという程度をわきまえており、「L&O」シリーズがこれだけの人気を勝ち得ている理由も、まさにそういう話作りのうまさにある。その点、カメラが陪審員の議論が白熱する部屋の内部を中心とし、その議論から真実が導かれるという構成の「ジューリー」は、そちらもかなり面白くはあり、「12人の怒れる男」が面白い理由もまさにそこにあったのだが、TVシリーズとしては少しノリが悪かったという印象は否めなかった。
「TBJ」はまた、主要登場人物が女性で占められているというのも目につく特徴である。これまでの「L&O」シリーズは、頑とした主人公のいる「SVU」および「CI」では、基本的に主人公は異性同士のパートナーだった。それが今回は主人公は二人共女性であり、さらにプレミア・エピソードに限ると、対する相手側弁護人も女性 (演じるのはアナベラ・シオラ)、裁判官も女性 (キャンディス・バーゲン) と、主要な登場人物は被告を除いてすべて女性だ。彼女らは準レギュラーとして今後も毎回ではないが登場を約束されており、女性優位を意識して番組作りをしていることが窺える。
毎回毎回少しずつ新しい新機軸を打ち出してくる「L&O」シリーズであり、それなりに全部見所があるのもさすがだと思うのだが、4本も同工異曲の番組が毎週あるだけでなく、ケーブル・チャンネルまでもが番組を再放送している現在、さすがにいくらなんでもこれで打ち止めだろうと思う。第4のスピンオフというのはまずないと思うのだが、NBCが他にヒット番組を編成できなかったとしたら、番組クリエイターのディック・ウルフに次のスピンオフを打診する可能性は完全になくはない。「L&O」の第4のスピンオフ、見たいような見たくないような‥‥