ザ・ミステリアス・ワールド・オブ・アラン・ヌー

放送局: TLC

プレミア放送日: 6/9/2005 (Thu) 21:00-22:00

製作: マイク・マシス・プロダクションズ

製作総指揮: マイク・マシス

出演: アラン・ヌー


クリス・エンジェル・マインドフリーク

放送局: A&E

プレミア放送日: 7/20/2005 (Wed) 22:00-22:30-23:00

製作: エンジェル・プロダクションズ、TVX

製作総指揮: マイケル・ブラム、スティーヴン・レンクナー

出演: クリス・エンジェル


内容: ストリート・マジシャンをとらえたマジック・ショウ2種。


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いわゆるマジック・ショウは、ラス・ヴェガスでデイヴィッド・カッパーフィールドやジーグフリード&ロイ (残念ながら彼らは、飼っていたトラにロイが襲われるという事件のため、ショウをやめざるを得なくなったが) といった大御所が繰り広げる、大型のエンタテインメント・ショウばかりではない。そういう、大勢の観客を前にして人間が消えたり身体を真っ二つに切ったりする派手なショウは確かにステージでは映えるだろうが、それこそ目にも留まらぬ練熟の早業で繰り広げる、トランプやコイン等を使ったクロース・アップ・マジックには不向きだ。


逆にこういうクロース・アップ・マジックを専門に、道ばたで少人数を相手にハプニング的に行うのが、いわゆるストリート・マジックと呼ばれるマジックである。TVにおけるストリート・マジック・ショウは、その辺を歩きながらたまたま出会った人々を相手に、マジシャンがありとあらゆるマジックを披露して煙に巻く様をとらえるものだ。相手は元々マジックを見るためにその辺を出歩いているわけではないから、最初は半信半疑だったり、別に大して面白くもなさそうだったりするが、まったく意外なマジックを見せられると本気で驚愕する。ストリート・マジックは、マジックの内容やマジシャンの技術もそうだが、その驚愕する一般の人々を見ることこそが醍醐味の一つだ。


このストリート・マジックを一般に広く浸透させたのが、今ではこのジャンルでは第一人者と目されているデイヴィッド・ブレインである。ブレインはこの種のマジックだけでなく、タイムズ・スクエアで氷の中に入って何日も飲まず食わずで過ごしたり、特別に建てられた鉄柱の天辺に何日も立ち続けたり、あるいはテムズ川の上に吊り下げられたガラス箱の中で、水だけで何日も過ごしたりといったスタント等でも知られている。


この種のスタントは、それをやったからといって、だからなんなんだと思われるのがオチなのも多いが、マスコミの注目を集めやすいのも事実だ。とはいえ一昨年、テムズ川の上の箱の中に44日間も閉じ込められていた時には、ブレインは通りがかった通行人から石を投げつけられたりした上、この意義のよくわからないスタントがロンドンっ子の反感を買い、「2003年の最大のルーザー」に投票で選ばれてしまうなど、本人にとってはほとんど命がけのスタントを行っても、誰の共感も得ずに終わってしまっている。


そういうスタントを別にしてブレインの名前が広く知られている理由は、彼のストリート・マジック・ショウが何度もABCで特番として放送されているからに他ならない。ブレインは「ストリート・マジック (96)」、「マジック・マン (98)」等のそれらの特番において、いかにも気軽に、その辺の通りを歩いたりたむろったりしている人々に近づき、マジックを見せて驚愕させるというこの種の番組の体裁を一人で作り上げ、一人で完成させた。


着ているものが普段着のTシャツやジーンズであったりするだけでなく (要するにタネを隠す場所がない)、ほとんどそれがボロに近い一見ホームレスにすら見えるドレス・ダウンしたスタイルを構築して定着させたのも、ひとえにブレインの功績である。要するにブレインは、この分野の創始者であり、また普及にも与って力のあった第一人者なのだ。そして今、ブレインの跡に続く第2世代のストリート・マジシャンが登場してきた。それがアラン・ヌーであり、クリス・エンジェルだ。


ヌーは外観からもわかる通りアジアの血が入っているが、正確にどこ系なのかは、よくはわからない。アメリカのサン・フランシスコで生まれたことだけは確かなようだが、ちょっと、わざと素性をぼやかしているということもあるだろう。


ヌーの場合、ストリート・マジシャンというよりも、本人はメンタリストとかマインド・パワー・パフォーマーとかいうような言い回しを好んで使っているようだ。本人としては、マジックとは一線を画しているという意識があるのかもしれない。実際、彼のマジックは、相手が今考えていることを当てる、みたいな予言トリックを利用したり、あたかも超能力を使っているかのように見せかけるものが多い。


例えば、ヌーが披露するのは、相手になんらかの絵を描かせた後、ヌーが取り出した封をしてある封筒の中にはまったく同じ絵が描かれていたとか、相手が心に思った映画のタイトルを当ててみせるとか、その類いのマジックである。まったく同様のマジックをブレインがやっていたのを見たことがあるので、ちゃんとタネも仕掛けもあるマジックだろうということはわかるのだが、何も知らずにいきなりこれらのマジックを眼前でやられたら、かなり驚くと思う。実際、TVに写る一般通行人は、どれもかなりびっくりしていた。


一方のエンジェルは、外観はまるでメタル・ロッカーだ。化粧もどぎつく、ファッションも意図的にそのように狙っている感じが窺える。ブレインが持っていたドレス・ダウンしたグランジ的傾向をもっと推し進めたらエンジェルになったという感じだろうか。彼の場合、元々の見場も悪くないので、化粧映えもする。そういういかにも仰々しい雰囲気をまとっているために、エンジェルの場合、かなりはったりも利く。


一方、ヌーの場合は、一見、どこにでもいそうなほとんどただのおっさんなのだが、そういう一見普通人がいきなりあっと驚くマジックを披瀝するというところがヌーのマジックのポイントだったりもするため、効果的にマジックを披露するという点で、一概にどちらが得とは言えないだろう。両者には両者のスタイルがあるということだ。


いずれにしてもエンジェルの場合は、かなり視覚的効果を意識したマジックが多いのが特長だ。例えば街頭で自分自身に火をつけ、焼け落ちたと見せかけて消火器を持ってやってきた人間に早変わり、というものがある。人が空中に浮かぶというマジックは、ステージでやられると、驚きはするが、誰もがどんなタネがあるだろうと考えるのは間違いない。ところが、目の前で、ついさっきまでおしゃべりしていた友人が空中に静止するのを見せられると、ただただ驚いてしまう。ほんとに、いったいどうやっているんだ。こいつら、本当にサクラではなくてその辺を歩いていた何の関係もない一般通行人か?


とまあ、この種の番組の最大の欠点というかデメリットに、TVという媒体において編集という経過を経ているために、どうしても100%目の前で起こっていることを信用できないということがある。もちろん番組製作者もその辺のことは心得ているから、いざマジックを披露するという段になると、できるだけ編集を施さずにノー・カットで視聴者に提供するよう心がけてはいるのだが、それでも、今時、単純に見たものをそのまま信じ込んでしまう視聴者は少ないだろう。実際に、明らかにここはちょっと編集してごまかしたな、とか、効果倍増を狙ったなと思えるシーンも多々ある。


そのため、ブレインを経てヌーのマジックもエンジェルのマジックも本当に問題なく面白いと思えるのは、マジックそのものもそうだが、実は、マジックを眼前で披露された一般通行人の反応にこそあったりする。そこんとこだけは、まあ、まだ一部サクラがいる可能性も捨てきれないとはいえ、その大半は楽しめる。また、彼らが驚けば驚くほど、それを見ている視聴者も、ついつられて一緒になって驚いて楽しめるのだ。


カッパーフィールドやジーグフィールド&ロイのような、最初から別世界に連れて行ってあげます的な大々的なマジック・ショウも悪くないが、一瞬あっと言わせてくれるこのようなストリート・マジックも、また捨て難いものがある。私は結構マジックが好き、というか、マジックに騙されるのが好きで、わざわざ泡坂妻夫を例に引くまでもなく、当然ミステリも好きである。要するに堂々とした長編がヴェガスのマジック・ショウだとしたら、一瞬のどんでん返しの切れ味で勝負する短編がストリート・マジックといったところか。私としては6:4でストリート・マジックの方が面白いかな。






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