Shoot 'Em Up   シューテム・アップ (シュート・’エン・アップ)  (2007年9月)

身重の女性が何者かに追われているのを目撃したスミス (クライヴ・オーウェン) は、見るに見かねて助け舟を出してしまう。銃撃戦の最中、女性は子供を出産するも、彼女自身は銃弾を受けて死ぬ。乳飲み子を抱えたスミスは顔見知りの娼婦 (モニカ・ベルッチ) に子守りを頼むが、追っ手の追撃の手はそこにも伸びてきていた‥‥


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息子を殺された父が復讐に走る「デス・センテンス」を見たばかりと思ったら、今度はやはり恋人だか飼い犬だかを殺された女性が復讐に走るというジョディ・フォスター主演の「ザ・ブレイヴ・ワン (The Brave One)」が公開された。昨年の「ジ・イリュージョニスト」と「プレステージ」、「ハリウッドランド」「ブラック・ダリア」のように、別に示し合わせたわけでもないだろうになぜだか似たような傾向の作品が続けて公開されるというのはあるが、しかし見る方の気分からいうと、続けて同系統の作品を見たいという気にはあまりならない。


それにしてもフォスターが主演する作品というのは、どうしてこう、やられたらやり返せというか、やられたままじゃ終わらないわよ、みたいな作品ばかりなのか。幼い時に父親に蒸発された後、母親から世の中、というか世の男を信じちゃダメと口を酸っぱくして言われ続けたらしいが、なんか、やはりそのことが影響しているのか。今でも誰が父親なのか誰も知らない彼女自身の子供といい、徹底して男を信じていないのは確からしい。


いずれにしてもというわけで、今週は決めアクションの羅列に徹した「シュート・’エン・アップ」か、西部劇の「3:10・トゥ・ユマ」のどちらかだなと思っていたが、スカッとしたアクションを見たいという女房の意見を組み入れ、「シュート・’エン・アップ」に決める。この種の、アクション重視の作品は、「マトリックス」以降格段に増えた。むろんそれまでもアクション映画というものはあったわけだし、「マトリックス」以前にもジョン・ウーという存在がいたわけだが、近年のアクション作品は、アクションというだけではなく、いかに絵になるアクションであるかというところに主眼が置かれている。


今回の主演のスミスに扮するクライヴ・オーウェンで思い出すのは、やはり「シン・シティ」だろう。「インサイド・マン」「トゥモロー・ワールド」等、武闘系演技派という印象もあるが、今回は動き回るには邪魔に違いないロング・コートを羽織った瞬間から、演技よりも見せ場としてのアクション重視になる。だいたい、そもそもの作品の出だしからして、最初のショットがにんじんを生で齧っているオーウェンと人を食っている。「スパイダーマン2」でスパイダーマンに扮するトビー・マグワイアが、オープニングの方で子供たちに野菜食っているかといって去っていくというショットがあったが、近頃のヒーローはちゃんと摂取する栄養分も気にしないとやっていけない。美食家のバットマン (あれは正確にはバットマンが美食家なのではなくて、執事の嗜好という傾向もあるが) の居場所が年々なくなっていくという印象がある。


その、深夜のバス停で一人にんじんを齧っているスミス (オーウェン) の前に、何者かに追われている身重の女性が現れる。つい見ていられなくてよせばいいのに女を助けてしまうスミス。しかし、いきなり身も知らずの女が追われているからといって、追ってくる奴らを皆殺しにするかとも思うが、相手が撃ってきたら撃ち返さないとこちらがやられてしまう。とはいえ、がんがん撃ちまくる銃の薬莢が女の膨らんでいる腹の上に落ち、そしてその銃撃戦の最中、今度は生まれてきた子のへその緒を撃って切るというセンスには笑ってしまった。女は結局銃撃戦の最中に死に、スミスは生まれた子を抱えて逃げる。乳飲み子を抱えたままでは動けないスミスは、既知の娼婦ドナにしばらくの間赤ん坊の世話を頼む。


敵役のハーツに扮するのがポール・ジアマッティで、ドナに扮するのがモニカ・ベルッチだ。ジアマッティは、一見地味に見えるが実は結構オーヴァー・アクションをしがちで、そのためほとんどマンガの今回はかなり適役。一方のベルッチも、たぶんセリフを理解しているというよりも、ただ音を真似ているだけとしか思えないセリフ回しで、ハリウッド映画に進出してくる女性というのは、ペネロペ・クルスのように、最初はダメでも勉強してだいたい英語もしゃべれるようになるものだが、ベルッチだけはいまだに下手クソだ。あと2割がた早口でしゃべってくれと言われてもできないと思う。むろん、そういうジアマッティとベルッチが相方を務めているため、作品はますますマンガティックになる。当然こういう乗りを最初から狙っているんだろう。


そしてむろんストーリーはこちらの予想を裏切ってというか予想通りというか、言語道断マンガの世界に突入していく。もちろん話の発端は、悪人どもがなぜ身重の女、あるいは赤ん坊を追い回しているかということにあるのだが、あとの方はなんかそんなのもうどうでもよくなって、スミス対ハーツを中心とするアクションをどう演出し、どう楽しむかということのみに意識が向かう。演出する方と見る方の気持ちが合致しており、その点では正しい映画の作り方見方と言えるか。


おかげで飛行機から落ちながらの空中戦なんか、「スーパーマン」や007でもこれくらいやるのは無理なんではないかと思えるくらい派手目のアクションになっており、感心してしまう。クライマックスは当然スミスとハーツの一対一の対決になるのだが、拷問され、怪我をしてもうダメだと思われたスミスの一世一代窮余の一策が炸裂した瞬間、私も受けたが後ろの方に座っていた男にはもろにツボにハマったようで、もう爆笑して拍手喝采、叫びながら受けまくっていた。フットボール観戦しているみたいだ。アメリカだなあ。いや、可能不可能の世界を超えてマンガとしての勝負に徹したこの心意気、こいつは笑える。


実際、こないだデイリー・ニューズの映画欄を読んでいたらオーウェンのインタヴュウが載っていて、彼はこれをコメディだと思っていると言っていたが、私もこの作品はコメディ・アクションとして見るのが正しい見方だと思う。意外に、実は「スーパーバッド」並みの頻度で笑える「シュート・'エン・アップ」、実はうちの女房は自分で選んでおいて遊びが多過ぎると顔を顰めていたのだが、この遊び心に同調できさえすれば、かなり満足できる。怒る人間もいるのもわからないではないが。







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