ニック (ケヴィン・ベーコン) は愛する妻ヘレン (ケリー・プレストン) と長男ブレンダン (スチュアート・ラファティ) と次男 (ジョーダン・ギャレット) の二人の息子に囲まれ、幸せな家庭を築いていた。プロ・ホッケーに進もうかと考えているブレンダンは自慢の息子だったが、ある時、たまたまニックとブレンダンが立ち寄ったガス・ステーションでギャング団に遭遇したブレンダンは、ニックの目の前で殺されてしまう。ブレンダンを殺したジョー (マット・オリアリー) が年少のためすぐに刑務所から出てくることを知ったニックは、裁判で証言を翻し、自分自身で報復しようとする‥‥


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こないだ、リアリティ・ショウ専門のFOXリアリティ・チャンネルか映画専門のFOXムーヴィ・チャンネルかは忘れたが、とにかくFOX系のチャンネルにたまたま合わせていたら、公開間近の、ケヴィン・ベーコンが息子を殺された復讐に走るという「デス・センテンス」の宣伝に余念がなかった。なんとはなしに見ていたら、街中でギャングに襲われたベーコンが必至に逃げるという作品の途中の見せ場をかなり長い間見せていて、ついつい惹き込まれて見てしまった。


立体駐車場で、カメラをあるカメラマンからクレーン上のカメラマンへと手渡しながら撮影していた、階下から階上へと途切れなく続く長い1シーン1ショットの後、屋上から落ちる車の中での格闘へと続くそのシークエンスのクライマックスはなかなか見応え充分で、ちょっとこれは見てみたいと思わせるのに充分だった。演出は「ソウ」のジェイムズ・ワンで、ホラーでない本作をどのように料理しているのかも気になった。


ベーコン演じる主人公のニックはとある保険会社の管理職で、郊外に4人家庭には充分過ぎるほどの一軒家を構え、妻ヘレンは今でも美人で優しく、二人の息子も文句ないできで、特に長男ブレンダンは将来はプロ・アイス・ホッケーを考えるほどスポーツにも秀でている自慢の息子だった。それがある日、突然終わりを告げる。ニックとブレンダンがたまたま立ち寄ったガス・ステーションに当地のギャング団一味が現れる。とにかくまず人を一人殺してしばらくムショ入りすることが一人前と見なされるための条件であるため、その場に居合わせたブレンダンはほとんど同年輩の面識もない若いギャングにのどを切られて殺されてしまう。


後日逮捕されたジョーが、若年のため死刑や終身刑どころかほんの数年で出所してくることを聞いたニックは、裁判の最中、とっさに意見を翻してジョーがブレンダンを殺したかどうかに確信が持てないと発言する。こうなればジョーを無罪放免させ、自分が正義の鉄槌を下すまでという気持ちに流されてしまったのだ。それでもジョーの跡を追ってアパートを突き止めた後、自分が何をしているのか自問自答するニックだったが、外に出てきたジョーの姿を目にした途端、ニックの中で何かがぷつりと音を立てて切れる。ナイフを手にして無我夢中でジョーの跡を追ったニックは、気がついた時はそのナイフをジョーの胸に突き立てていた。


一時的に息子の仇をとったことに満足するニックだったが、顔を見られていたニックはすぐに素性がばれ、ジョーの仇討ちのためにギャングがニックに脅しをかけてくる。日中、往来で襲われたニックは敵の一人を返り討ちにすることに成功するが、しかしそれは、ニック対ギャングの戦争の序曲に過ぎなかった。ギャング団の一味はその手をニックの家族にまで伸ばしてくる‥‥


ベーコンは突出して演技力のある俳優だとはあまり感じさせないのだが、実はこれまでかなり色々な役を演じており、悪役、善人、市井の一市民や障害者など、役幅はかなり広い。その中ではやはり、今回や「エコーズ (Stir of Echoes)」のような、事件巻き込まれ型の一般人が一番よくはまると思う。よく言えばあまりスタースターしていない好感度の高い俳優で、悪く言えばあまりスタースターしていない、隣りにいても気がつかないタイプの俳優という感じか。むろん、そういう感じだからこそ今回のような作品にはうってつけと言える。


家庭を愛するタイプの民間人にとって、一番恐ろしいのは愛する家族の誰かに先立たれることだろう。それが交通事故だったりしたら悔しかったり悲しかったりはしてもまだどこかで諦めもつくだろうが、それが殺人、しかも理由もない行き当たりばったりの無差別殺人で、しかも殺人を犯した相手がこの世に生きていてもなんの役にも立たないチンピラだったりしたら、これはもう怒り沸騰するだろう。実際、そういう役柄にベーコンはかなりはまっているし、最初の方でしつこいくらい仲のいい家族という描写があるので、その後、長男を殺されたベーコンが前後の見境なく復讐するという気分に突っ走っても不思議はない。


もちろんその判断が間違いで、社会的システムを飛ばした私的復讐がどんなによけい事態を悪化させるかは、当然頭に血が上っているその時のニックには想像が及ばない。気がついた時にはすべてが収拾がつかなくなっているのだ。映画公開時にプロモーションのためベーコンは深夜トークの「レイト・ショウ」にゲスト出演していたのだが、ニックのこの行動を、やはり「間違った」ものと言っていた。作り手としてはニックの行動に正当性を持たせ、私的正義もありという立場かなと思っていたが、どうやらベーコンは間違った男という意識で最初から演じたようだ。


結構見ていてベーコンに感情移入でき、その点ではよいのだが、やはり問題はだんだん事態に収拾がつかなくなる、その収め方にあると思う。



(注) 以下かなりネタバレ。


まず、中盤から後半に転じる時の重要なシーンである、ギャングがニックの家を襲撃するシーンで、あんな近距離からショット・ガンをぶっ放してニックにまったく被弾しないというのはできすぎ。そういう、逃げたり動いたりするものに間違いなく弾を当てるために開発されたのがショット・ガンであり、どんな下手くそでも近距離ではまず外れないはず。しかも相手は銃を使い慣れているギャングで、バス・ルームの入り口から3m先のニックにかすりもしないというのはありか。「ダイ・ハード」を見ているんじゃないんだぞ。それまでかなりリアリスティックなタッチで進んできただけに、ちょっと違和感ある。まあそこは一歩譲っても、最終的に倒れたニックの生死を確認せず、とどめの一撃を与えないというバカなギャングはいまい。それまではショット・ガンをぶっ放していたのが、その時だけは上半身のどこに当たったかもよくわからない拳銃の一撃だけでやめて、その場を去ってしまうのだ。


また、最後はあんなに憎み合っていたニックとギャングのボスにかすかに通じ合うものが生まれるという、ほとんど言語道断の展開になる。幕切れはまるでマイケル・マンの「ヒート」で、どう見てもやり過ぎ。最後に全部空中分解してしまったという印象を受けるのを禁じ得ない。ホラーならともかくシリアスなドラマでこれだと、本当にマンくらいの力技で演出しないと失笑を買うだけだろう。とはいえそこに至るまでの道程はかなり面白いのではあるが。上述した途中の立体駐車場でのアクションなんてなかなかのもので、たぶんワンは今後ハリウッドでも充分やっていけるだろうという感触を受けた。 







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Death Sentencen   デス・センテンス  (2007年9月)

 
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