なんらかの理由で人類が滅亡の危機に瀕するという状態を描いた作品は、映像媒体にせよ印刷媒体にせよ数多い。設定が設定だけにSFというよりはホラーになりやすく、基本的にゾンビ・ホラーはすべてこの範疇に入ると言える。
思いつくままに例を挙げてみても、「ザ・ウォーキング・デッド (The Walking Dead)」、「オブリビオン (Oblivion)」、「アイ・アム・レジェンド (I Am Legend)」、「28日後 (28 Days Later)」、「ワールド・ウォーZ (World War Z)」、「ゾンビランド (Zombieland)」、「ウォーム・ボディーズ (Warm Bodies)」、「デス・ヴァリー (Death Valley)」、「猿の惑星: 新世紀 (ライジング) (Dawn of the Planet of the Apes)」、「ドラゴンヘッド」、さいとうたかを「サバイバル」等、やはりホラー優勢だ。
一方、これまでこのシチュエイションを用いてコメディを製作したという例は、これまでほとんどない。ゾンビを出すと、「デス・ヴァリー」、「ゾンビランド」や「ウォーム・ボディーズ」を含め結構あるが、ゾンビを入れないと途端にコメディ色がなくなる。ゾンビってコメディ向きでもあったか。
ゾンビを入れないコメディというと、私が覚えている限りでは、ある男が目覚めるとロンドンの中心街に人っ子一人なく、みんないったいどこへ行ってしまったんだと男が絶叫すると、あまりにエア・フェアが安いので、街ぐるみヴァケイションに行ってしまっていたというオチの、ブリティッシュ・エアウェイズのコマーシャルくらいしかない。考えたら「28日後」はそのパロディ (オマージュ?) と言えるか。いずれにしてもこれはコマーシャルであって、番組ではない。そういう、これまでありそうでなかった人類滅亡コメディが、「ラスト・マン・オン・アース」だ。
昨年のエボラ出血熱の例を引くまでもなく、よく知られていてもいまだに特効薬はない致命的なウィルスはまだまだある。もしかしたらアマゾンの奥深くにはいまだに知られていない殺人ウィルスが息を潜めて人間を蝕む日を待っているかもしれない。そういうウィルスにも感染せず生き残ってしまった男、フィルは、まだ他にもいるかもしれない生き延びた人間を求め続ける。
フィルは最初の方こそ壁に投影して見ていた「キャスト・アウェイ (Cast Away)」で、話し相手がいないのでヴォレーボールに名をつけて話しかけるトム・ハンクスに、人はそんなことはしないと批判していたが、いつの間にやらフィル自身、サッカーボールからテニスボール、卓球のボール、果てはゴルフボールにまで顔の絵を描いて一人コミュニケーションをとるようになる。やはり人は一人では生きられないのだった。
そして他に自分以外に誰も生きている人間に巡り会えず、諦めた時、ついにフィル同様生き残った一人の女性、キャロルと遭遇する。これぞ天の定め、二人は新時代のアダムとイヴになるはずだった‥‥がそう簡単に問屋が卸すわけもなく、実はフィルとキャロルはものの考え方がそれこそ天と地も違う、まったく相容れない者同士だった。それなのにこの世に生きているのはこの二人しかいないのだ。
フィルはイージーゴーイングな、悪く言えばずぼらで節操がない男だが、キャロルは厳格な、何事にも規律を求めるタイプの女性だった。この世に他に誰もいないのに、キャロルはフィルがモールでハンディキャップ車専用の駐車スペースにクルマを停めるのが気に入らない。掃除をしたこともないフィルの家をせっせと片付け、庭でトマトを栽培しようとする。フィルはフィルで、トマトをトメイトゥと発音するキャロルのスノッブぶりが癇に障る。
それでもこの世には二人しかいず、二人が夫婦として一緒に暮らすのは当然の成り行きと暗に二人共思っているが、しかしキャロルは結婚していなければセックスもないと、フィルに正式にプロポーズしてもらい、結婚することを要求する。他にこの世に誰もいないんだよ、いったい誰が結婚するしないなんて気にするんだと声を荒げるフィルに対し、どうでもいいんだったら結婚してくれてもいいじゃないと返すキャロル。うーむ、一理ある。どうもフィルは理詰めでは分が悪い。結局、やはり二人は合わないことを最終的には二人共認識せざるを得ない。二人は天から選ばれた者ではなく、天から忘れられた者だったというキャロルのセリフは、笑いというよりは哀れを誘うのだった。
フィルに扮するウィル・フォルテは、「ネブラスカ (Nebraska)」の受けの演技が印象的で、こういう引いた演技ができる者は希少。番組のクリエイターでもある。実は「ラスト・マン・オン・アース」は人類滅亡SFやゾンビものドラマではなく、ヒストリー・チャンネルが放送した「ライフ・アフター・ピープル (Life After People)」から着想を得たそうだ。
他のほとんどのアルマゲドンものがそうであるように、番組は徐々にキャラクターが増えてくる。シリーズ番組である場合、いくらなんでも毎回二人だけで話が進むのは無理があるのはわかっていたから、どこかで他にもいるはずの生き残り組が話に絡んでくるであろうことは、当然の展開だ。ジャヌアリー・ジョーンズ、メル・ロドリゲス、クレオパトラ・コールマン、メアリ・スティーンバージェン、ボリス・コジョーという面々がその後登場してくるのだが、「マッド・メン (Mad Men)」のジョーンズがアルマゲドン生き残り組というのが、既になんとはなしにおかしい。
「ラスト・マン・オン・アース」は第2シーズン製作が決定している。もしかしたら他のホラー作品同様、第2シーズンはもしかしたらゾンビが登場してくるかもしれないと期待、というか危惧していたりするが、さてどうなるか。