第2シーズンを迎えたAMCのゾンビ・ドラマ「ザ・ウォーキング・デッド (The Walking Dead)」のシーズン・プレミア・エピソードの18-49歳層における視聴者数が、ベイシック・ケーブル・チャンネルの新記録を樹立したそうだ。総視聴者数だけに限ると、中高齢者層に受けのいいTNTの「ザ・クローザー (The Closer)」の方がまだよい成績をとっていたりするが、番組スポンサーが最も重視する18-49歳層での好成績は、非常にポイント高い。因みに今回「ウォーキング・デッド」が獲得した視聴者数は480万視聴者、これまでの記録は10年前のUSAの「ザ・デッド・ゾーン (The Dead Zone)」の400万視聴者だそうだ。
こういうホラーは昨年の「ウォーキング・デッド」や「デッド・セット (Dead Set)」に限らず、いつの時代にも特定の需要があるし、そこそこ製作されている。ヴァンパイア作品だと映画の「トワイライト (Twilight)」シリーズを筆頭に、HBOの「トゥルー・ブラッド (True Blood)」やCWの「ザ・ヴァンパイア・ダイアリーズ (The Vampire Diaries)」がある。
オオカミ男だとMTVの「ティーン・ウルフ (Teen Wolf)」があるし、ヴァンパイア、オオカミ男、幽霊の3点セットが揃ったBBCアメリカの「ビーイング・ヒューマン (Being Human)」は、アメリカではSyFyがリメイクして放送中と、枚挙に暇がない。今回の「デス・ヴァリー」の主要登場人物? はヴァンパイア、オオカミ男、ゾンビであるわけだが、幽霊もゾンビも既に死んでいるという点で、「ビーイング・ヒューマン」と特に大きな違いはないような気もする。
「デス・ヴァリー」の舞台設定は1年前、気がついたら街にゾンビやヴァンパイアやオオカミ男が溢れていたというもので、既に人間と異形の者とが共存している、というかせざるを得なくなっている。この設定で思い出すのは一昨年のコメディ・ホラー「ゾンビランド (Zombieland)」で、もはやゾンビは日常生活に身近なものになっている。一方、いつも身近にゾンビがいるため、逆にほとんどホラーの要素は薄い。ついでに言うと、この「ゾンビランド」も既にFOXがTVリメイクを決定している。
「デス・ヴァリー」の場合、人間もゾンビもヴァンパイアもオオカミ男もなんとかして共存していかなければならないが、ヴァンパイアやオオカミ男はともかく、死に体のゾンビは聞く耳持たないため、ところ構わず出没しては街に騒動を巻き起こす。
今回のゾンビの特色は、ゾンビに噛まれてゾンビ化した場合、ゾンビになったばかりのフレッシュ・ゾンビはまだ人間でいた頃の運動能力を所有して跳んだり走ったりできるが、ゾンビ化して長いヴェテラン・ゾンビになると、どんどん動きが緩慢になって、ほとんど止まっているか動いているかわからなくなるというところにある。
この設定、うまく使うとなかなか面白いものが撮れそうだ。なんといってもこの設定を用いれば、同じ作品の中で走るゾンビとゆらゆらゾンビの両方がいる理由付けができる。もうこれまでのように、ゾンビというと疾走型かゆらゆら型かのどちらかに統一する必要がない。なかなかうまい設定だ。
ヴァンパイアの場合は、一見した見かけは普通の人間とあまり変わらないが、血を吸う必要があるため、売春婦となって人間の男の客をとるフィーメイルのヴァンパイアが多い。ヴァンパイアごっこができるということで、そういう趣味がある者にそこそこ需要があるようだ。メイルのヴァンパイアははそれでヒモのように後ろに隠れていて、いざとなると出てきて引っかかった獲物の血を吸ったりする。あるいは悪い人間の男を引き当てて、逆に殺されてしまうヴァンパイアもいるのだ。そういやヴァンパイアは、心臓に杭を打ち込まれたり、陽の光に当たると死んでしまうのだった。しかし、ここではもっと簡単に普通の人間に殺されてしまうヴァンパイアもいる。
一般的に売春は犯罪だから、たとえヴァンパイアといえども人間同様取り締まりの対象になったりする。同じことはオオカミ男にも言えて、変身してしまう満月の夜には外出はまかりならぬとお達しが出ているのについつい外に出て車を運転しているところを見咎められ、厳重注意を受けてはのらりくらりと言い逃れしようとするのだ。
これらの異形の者たちを取り締まるのが、LAPDにできた専門ユニットのアンデッド・タスク・フォース (Undead Task Force: UTF)」だ。ボスのフランクを筆頭に、ヴェテラン・コップのジョーと彼とペアを組むビリー、ジョンジョン、カーラ、新人カースティンと、彼らもまた癖のある者ばかりだ。そしてその彼らの仕事ぶりを収めるカメラ・クルーが、常時彼らに密着している。要するにFOXの「コップス (Cops)」だ。つまり「デス・ヴァリー」は「コップス」のパロディ、すなわちコメディ・セントラルの「レノ911 (Reno 911)」のゾンビ版という印象の番組になっている。
ゾンビはほとんどの場合において、常にバットや金属棒を持ち歩いているジョン・ジョンに殴り殺されるか撃たれて再度死ぬ。しかし、ゾンビに噛まれるとその人もまたゾンビ化するという法則はここでも生きているため、ゾンビ化する者は後を絶たない。ここで新ゾンビに感情移入なんかしていたらこっちの身体が持たないため、ゾンビに噛まれたやつは四の五の言わずそいつも撃ち殺す。噛まれてはいてもまだまだ普通に会話している一見人間でも容赦しない。知人でも撃つ。デートしたことのある相手でも問答無用で撃つ。ゾンビよりもこちらの方がホラーだ。やはり人間がすることが一番怖いのか。