Oblivion


オブリビオン  (2013年4月)

トム・クルーズが「アウトロー (Jack Reacher)」のジャック・リーチャーに続いてまたもやジャック、今度はジャック・ハーパーという主人公に扮するSFドラマが、「オブリビオン」だ。同名グラフィック・ノヴェルを、「トロン: レガシー(Tron: Legacy)」監督でもある原作者のジョセフ・コシンスキー自身が演出する。 

  

公開までにわりと何度も予告編を目にする機会があったのだが、それで主人公に扮するクルーズが、カプセルの中で眠っている女性を救出しようとしているかのようなシーンが一瞬ある。その印象的な瞳を見て、私は彼女が「トロン」にも出ているオリヴィア・ワイルドであることをまったく疑っていなかった。 

  

実はその女性ジュリアを演じているのはワイルドではなく、「007/慰めの報酬 (Quantum of Solace)」 のオルガ・キュリレンコで、彼女の登場シーンは、実は冒頭から何度もある。それでも私はカン違いに気づかず、いざカプセルが開いてクルーズが彼女を外に出した後、で、ワイルドはいったいどこにいるんだと思っていた。この作品にワイルドは出ていないことに私が気づいたのは、さらにもう少し後になってからだ。 ワイルドじゃなかったのか。 

  

ジュリアが本格的に登場するまで、わりと長い間、話はクルーズ演じるジャックと、アンドレア・ライズボロー扮する、たぶん妻のヴィクの二人だけで展開する。いや、正確にはTV画面を通じてメリッサ・レオ扮する司令官のような立場のサリーが二人に指示を出しており、導入部から展開部までは基本的にこの3人のみ、そしてキュリレンコが登場してからは4人で話が進む。それにしても作品半ばまでの、夢のシーンを除いての登場人物の人口密度の低さは、文明滅亡後とはいえどもスカスカという感じで、やけに風通しがいい。 

 

この中ではライズボローだけがよく知らなかったが、ほぼ同時期に公開された「ディスコネクト (Disconnect)」に出ているようだ。と思っていたら、この項を書き始めた公開翌週には既に上映予定から消えている。「ディスコネクト」は、なんか内容をわからせにくく宣伝が難しそうだったから、その辺も影響しているのかもしれない。 

 

いずれにしてもライズボローは綺麗な顔立ちで印象に残る。クルーズって、いつだって自分が主演じゃないと気が済まないタイプのくせして、というかだからなのか、実は対置させる女優がいつもなかなかいい。ちゃんと色んな作品見て研究しているなと思わせる。最近では「アウトロー」のロザムンド・パイクだけが、目を剥き過ぎで今一つ感心しなかったという例もあるが。


話はこの4人だけで最後まで話が進むわけではなく、後半になるとさすがに登場人物が増えるが、その辺に言及してしまうと、話の性質上、初めて見る者の興を削ぐことになってしまうので、言いたいことはあるが、ここはこらえて控えておく。 

 

さて、本題はというと、エイリアンの侵攻によりほぼ人類が滅亡した後の世界を描くもので、 人はスカヴスと呼ぶエイリアンの動向に目を光らせていた。その動向を探る役目を受け持っているのがドローンと呼ばれる探査機で、ジャックはそのリペアマン だった。ジャックはいつもいつも荒廃した世界で同じ毎日を繰り返すことに倦んでいたが、杓子定規なヴィクはそれを是としており、話が噛み合わない。ジャックはそう遠くない谷間の緑のある世界で、束の間の休息をとることが唯一の息抜きだった。 

  

その休息の仕方が、レコード盤をターン・テーブルに乗せて過去の音楽を聴き、ニューヨーク・ヤンキースのベイスボール・キャップを被ってバスケット・ゴール にシュートする、というのがいかにもアメリカ人らしい。ジャックが調査する荒廃したスタジアムでは、過去最もエキサイティングなスーパーボウルの試合があったと興奮するシーンもある。アメリカの4大スポーツに数えられる、ベイスボール、バスケットボール、アメリカン・フットボールまでは目配せしていながら、最後のスポーツであるアイス・ホッケーには言及しないんだな。実際、4大スポーツとはいっても、NHLはアメリカでも人気は今イチだ。 

  

ところで、このターン・テーブルのシーン、最近どこかで見たぞと思って、「ウォーム・ボディーズ (Warm Bodies)」だったと思い出した。どちらも文明滅亡後の世界を描くSFもしくはホラーで、過去を偲ぶよすがとしてターン・テーブルが使われている。CDではなくてレコードなのは、音質云々ではなく、当然針をレコードの上に落とすという行為が絵になるからだろう。いざとなれば手動ゼンマイ式の蓄音機を使えば、たとえパワーがなくとも利用できるという意味もあるかもしれない。しかし既に生まれてこのかた一度もレコード盤を見たことがないという人間の方が多くなりつつある現在、近い将来、このシーンを見ても何しているのかよくわからないとコメントする若者が多くなるのではという気がする。 

 

一方、CDといえば最近「愛 アムール (Amour)」で、教え子から送られてきたCDを聴こうとした主人公が、途中で嫌になって最後まで聴かず、フレイヤからCDを取り出すというシーンがあった。どうも最近CDは嫌われているらしい。あるいは、あと10年もすれば、人々はストリーミングや放送でしか音楽を聴かなくなるので、こういう音楽を媒介するメディアというものが、コンピュータやiPod、スマートフォンやTV/ラジオ以外にもあったことに吃驚するようになっているかもしれない。 

 

さて、「オブリビオン」の世界は荒廃しているが、舞台はたぶんニューヨークというのは、ジャックの夢に登場するジュリアがエンパイア・ステイト・ビルにいることからもわかる。こういう近未来廃墟ものだと、打ち捨てられた自由の女神像が出てくるのはお約束なんだが、「オブリビオン」ではエンパイア・ステイトだ。先頃ニューズで、現在ワールド・トレード・センター跡地に建築中のフリーダム・タワーが、世界第3位、西洋諸国では第1位の高さに達したと言っていた。今後製作される人類滅亡SFでは、フリーダム・タワーが文明の象徴としての自由の女神やエンパイア・ステイト・ビルにとって代わるかもしれない。 


また、文明滅亡後のニューヨークというと、かつての「猿の惑星 (Planet of the Apes)」を別格として、近年では「A.I.」、「タイムマシン (The Time Machine)」「アイ・アム・レジェンド (I Am Legend)」辺りをすぐに思い出す。この中で風景として最も近いのは、世界がグランド・キャニオンみたいに風化してしまった「タイムマシン」だが、あれは確か紀元80万年くらいの世界で、遠い遠い未来の話だ。しかし「オブリビオン」は今世紀の話であり、せいぜい50年だか60年後くらいでしかない。そう遠くない未来の話で、だからこそまだエンパイア・ステイト・ビルの残骸も残っている。紀元80万年なら、現在の人類の遺物など何も残ってないだろう。あるいは本当に地球がその時まで存在しているかどうかすら疑わしい。


時間軸的に近いのは「アイ・アム・レジェンド」だが、こちらは疫病、ゾンビの蔓延のせいで世界が滅亡する。エイリアンの侵略によって滅亡するのがましか、それともまだ疫病の方がましか、ここは考えどころだと思うのだった。










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スカヴェンジャー (ゴミ漁り) と呼ばれるエイリアンの侵略によって文明が滅亡した世界、生き延びた人類はスカヴスの動向を監視するためにドローンと呼ぶ偵察飛行体を要所に配置し、常に異状がないかをチェックしていた。ジャック (トム・クルーズ) はドローンを修理できるリペアマンで、ヴィクトリア (アンドレア・ライズボロー) と二人きりで暮らし、スカヴスの動向をチェックするという、毎日決まりきった判を捺したような生活を繰り返していた。ある時、ジャックは飛行艇が墜落するのを目撃、現場に向かう。そこでカプセルの中で眠っている女性を見たジャックは、彼女が最近自分の夢の中によく出てくる女性であることに驚く。ジャックは ルールを破って彼女を連れて帰る。彼女はいったい何者なのか‥‥


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