放送局: シンジケーション (NY地域ではABC)

放送日: 4/30/2008 (Wed) 16:00-17:00

製作: ハーポ・プロダクションズ

ホスト: オプラ・ウィンフリー


内容: 最も人気のある日中トーク・ショウにおいて、イリュージョニスト、デイヴィッド・ブレインが息止め世界記録に挑戦する。


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アメリカの日中トーク・ショウを牛耳るオプラ・ウィンフリーは、日本ではそれほど知られていないと思うが、アメリカにおける彼女の人気は絶大なるものがある。彼女がホストをしている「ジ・オプラ・ウィンフリー・ショウ」、通称「オプラ」は、日中に全米の放送局の放送時間帯を間借りして放送される、シンジケーション番組と呼ばれる番組だ。シンジケーションの日中トークでは、「オプラ」がまず圧倒的人気で常に視聴率1位であり、その「オプラ」からのスピンオフ・トーク・ショウである「ドクター・フィル (Dr. Phil)」がそのすぐ後につけるという構図が、近年定着している。


日中トークではこの他にも、エレン・デジェネレスがホストの「ジ・エレン・デジェネレス・ショウ」が近年じりじりと成績を伸ばしているが、それでもウィンフリー人気にはまだまだ遠くおよばない。とにかく、昼のトーク・ショウを見ている家庭の主婦に圧倒的な人気と知名度を誇るのが、オプラ・ウィンフリーだ。ウィンフリーがどれくらいすごいかというと、彼女が稼ぐ金の額を見ればよくわかる。年収数十万ドルとか数百万ドルという単位ではない。彼女の年収は推定1億5,000万ドルといわれているのだ。年収150億円だ。まるっきり我々庶民と桁が違う。


ウィンフリーは一見、どこにでもいる太りじしの普通の中年の黒人おばさんだ。徹底して庶民派であり、外見はまったく芸能人じみたところがない。そのおばさんが桁違いの高給取りという意外性はともかく、ものの考え方、視点は確かに我々庶民と一緒であり、本人だって体重や外見や、歳と共に現れてきた顔のしみや皺が気になる。それを高級メイキャップ商品やエステやボートックスで隠すのではなく、視聴者と一緒になって、ではどうしたらもっと痩せられるのか、綺麗に見えるのかということを等身大の視点で考え、視聴者と共に実行する。さらにいかにも女性が好きと思えるゴシップ的な話題も欠かさないかと思えば、真面目に硬派な話題もとり上げたりする。そういった硬軟とり混ぜたバランスのとり方のうまさが番組の人気の秘密だろう。


彼女の影響力を物語る挿話として、民主党の彼女が大統領選挙時に誰を支持するか発表すると、それが毎回ニューズ・ネタとして大きくとり上げられることが挙げられる。もちろん彼女以外にもハリウッドのスター、セレブリティは政治活動に熱心な者が多く、それぞれに支持者を表明していたりするのだが、それがニューズになることはほとんどない。しかしウィンフリーが誰それを支持すると表明するとそのことが大きくニューズとしてとり上げられるのは、そのことによって大きく票が動くからに他ならない。彼女の一挙手一投足は大きく人を動かすのだ。


因みに今回の大統領選で、最初有利だったヒラリー・クリントンが後からバラク・オバマに逆転されたのは、ウィンフリーがオバマ支持を表明してからのことであり、ウィンフリーの支持発言が与って大いに力があったのは確かだと思われる。他にも、ウィンフリーが定期的に発表している「ブック・クラブ」で推薦図書に選ばれると、その本は翌日からいきなりニューヨーク・タイムズのベストセラー・リストに顔を出すなど、彼女のアメリカの特に中年女性に対する影響力は絶大なるものがある。


日中トークである「オプラ」は、通常なら日中働いている一般人には無縁の番組だ。特に男性は女性視聴者が相手の「オプラ」を見る機会はあまりないだろう。しかし、実はそういう人たちの便宜を慮ってか、「オプラ」は深夜にも再放送されている。全米で放送されているかは定かではないが、ほとんどの主要マーケットでは深夜にも放送されているだろう。


ところでABCの深夜トーク・ショウは、現在、零時5分からジミー・キメルがホストの「ジミー・キメル・ライヴ」が編成されている。とはいえ新参の「ジミー・キメル」は、NBCのジェイ・レノがホストの「トゥナイト・ショウ」(23:35-0:35) やCBSのデイヴィッド・レターマンの「レイト・ショウ」(23:35-0:35)には人気の点でまだまだ及ばない。私も特に頻繁に見ていたわけではなかった。


そのキメルのガール・フレンドのサラ・シルヴァーマンは、マット・デイモンと一緒にギャグをかますのを恒例としていたが、そのことに業を煮やしたキメルは、今年のアカデミー賞授賞式直後の特別編成版で、ベン・アフレックを筆頭にハリソン・フォードやブラッド・ピット、キャメロン・ディアスらを巻き込んで豪勢なおちゃらけミュージック・ヴィデオを製作した。このヴィデオは話題を独占、番組は一気に注目度を上げた。私もその時以来、キメル、なかなかやるじゃないと、最近では「トゥナイト」か「レイト・ショウ」を見た後、直後の「レイト・ナイト」(NBC) か「レイト・レイト・ショウ」(CBS) に行かずに、途中からではあるが「キメル」を見たりしている。キメルは現在でも依然としてデイモン・ネタを引きずっており、番組が終わる時に必ず、時間がないのでマット・デイモンとは話せませんでした、と、呼んでもいないデイモンを控え室で待たしておいたと言わんばかりのセリフで毎回締めくくっている。しつこいやつだ。


で、ちょっと前置きが長くなったが、ニューヨークではその「ジミー・キメル」の直後に編成されているのが、「オプラ」の再放送なのだ。私が深夜TVを見ている時は、だいたいは基本的にマックを使って仕事しながらのながら視聴だったりするので、ふと気がつくと既に「ジミー・キメル」は終わって「オプラ」が始まっていたりする。おかげで私は最近、なんとはなしに「オプラ」を見る機会が多くなった。なんで家庭の主婦がターゲットの日中トークをよりにもよって深夜、再放送で見なければならんのかと思わないこともないが、しかし見てみると、なあるほど、家庭の主婦が見たいこと知りたいことのツボをうまく押さえているということがよくわかる。


例えば最近放送された例としては、3年前、「宇宙戦争」公開時にゲストとして登場してカウチの上で飛び跳ねてウィンフリーを脅えさせたトム・クルーズと仲直りしてコロラドの豪邸を訪れたり、性転換して男性となり、女性と結婚したが、子宮をとり去っていたわけではない妊娠した男性 (女性?) をゲストとして呼んだり、物を捨てることができず、大きな家が巨大なゴミ捨て場と化していた女性の家を訪れたりする。強迫神経症でばい菌が怖くていつも何度も何度も手を洗わないと気が済まない人、どうしても吐かずにいられない女性、過食症の人、拒食症の人をゲストとして呼んだかと思えば、催眠術で人の過去の記憶を前世まで遡らせることができるか試したり、アメリカ一うまいサンドイッチ作りに挑戦したり、老けて見える女性を手術やエクササイズで10歳若返らせたり、かと思えばそれこそクリントンやオバマがステュディオを訪れるなど、ゴシップ的な柔らかい話ばかりではなく、時には硬い政治的な話もうまく紛れ込ませる。


「オプラ」には以前、ドクター・フィルと呼ばれる、悩みを持っている人のためにカウンセリングを行う専門家がいた。そのフィル・マグロウはその後独立して自分の番組「ドクター・フィル」を持ち、今ではシンジケーションで「オプラ」に次ぐ人気トーク・ショウとなっている。現在、「オプラ」の中でそのドクター・フィルの後釜に座っているのがドクター・オズで、カウンセラーというよりも人生の達人によるライフ・グールーみたいな感じで、様々な視聴者の悩みや質問に答えている。


それはいいんだが、こないだステュディオ内の観客からの質問で、私はスシが好きなんだが、生魚を食べていて虫が出ないか心配だということを訊かれ、なんとドクター・オズは、一流のスシ・シェフは握りながら虫がいたら感触でわかるから大丈夫だ、なんてカン違いもはなはだしい答えを返しており、私はあまりのことに絶句してしまった。「オプラ」では以前、ブック・クラブで推薦した「ア・ミリオン・リトル・ピースズ (A Million Little Pieces)」が、著者のジェイムズ・フライが捏造したまったく架空の話をノン・フィクションとして偽っていたことが明るみに出てスキャンダルになったことがあるが、その時のことを思い出した。


また、番組は、高いコマーシャル料金で得た金を使って、番組収録時にステュディオに集まった客に毎回色々と豪奢なプレゼントをするのも特色だ。時には新車を何台もプレゼントしたこともあった。しかし「オプラ」の最大の特色といえば、やはりウィンフリー本人の持ち味から来る、その前向きでポジティヴな姿勢による番組全体の印象が最も大きいと言える。ウィンフリーは番組中、よく機転の利いたジョークを飛ばし、そのためステュディオの観客はよく笑う。一方、客をよく笑わせるといえば、エレン・デジェネレスはウィンフリーに輪をかけて客を笑わせるのがうまい。デジェネレスは元々本業がコメディアンだからそれも当然だ。


しかしデジェネレスがウィンフリーにかなわないのは、「オプラ」においては、回のテーマによっては、観客が感激のあまり泣き出してしまうことがよくあるという点にある。私にもこんなことができた、あんなことができたというメッセージが伝わってステュディオ内に感動の輪を広げるのだが、そういうエピソードが随所に挟まるという点で、「オプラ」は確かに強い。笑わせて泣かせるのだ。番組ホストとして最強だと思わざるを得ない。人気があるのもむべなるかなだ。


その「オプラ」に今回、イリュージョニスト/マジシャンとして広く知られるデイヴィッド・ブレインがゲストとして登場した。ブレインはマジックだけでなくイヴェント的な試みや挑戦、パフォーマンスも多々行うから、マジシャンというよりもイリュージョニストという呼び方が定着していたが、近年はさらにイリュージョニストというよりも耐久アーティスト (Endurance artist) と紹介されることが多くなった。その呼び名の通り、自分の身体を限界まで痛めつけてどこまで肉体的に耐えられるかに挑戦することで注目されている。


近年では一昨年にニューヨークのリンカーン・センターで最初の息止め記録に挑戦し、年末にはタイムズ・スクエアで空中に吊り下げられるというスタントを行ったのも記憶に新しい。因みにブレインは幼い頃からそういう自分の身体をいじめて記録に挑戦するのが好きだったそうで、既に11歳の時に3分半息を止めていられたそうだ。小さな時からそんなことばかりしていたのか。


リンカーン・センターにおける息止め記録では、しかし、一週間も水の中で過ごし、体力を消耗した上に息止め記録に挑戦するというほぼ無謀な試みで、その時8分58秒だった公認世界記録に2分近く及ばない7分8秒でリタイヤせざるを得なかった。一方、この9分という息止め記録は普通に空気を吸い込んで息を止めての記録であり、空気ではなく100%純粋酸素 (ピュア・オキシジャン) を吸い込むと、この記録は16分半まで伸びるそうだ。酸素の質によってそれだけ違いが出るとは知らなかった。しかし、リンカーン・センターで最後息を止める前にブレインがボンベから吸っていたのは純酸素じゃなかったのかと思うのだが、その辺はどうなんだろう。


今回はシカゴにおける「オプラ」のステュディオ内での記録挑戦であるため、リンカーン・センターでの息止めの時に用いた透明の人身大の球形のプラスティック容器をニューヨークからシカゴまで運んでの収録だ。これまた前回同様 (たぶん同じ人だろう)、二人のアシスタントがブレインが危険になったらいつでも水の中に飛び込めるよう、容器のすぐ上でスウィム・スーツを着て準備している。


純酸素を用いることの他に息を止めるのに最も有効なのは、動かないことだ。筋肉を動かすことは身体に血液を送り込むことであり、血液を身体中に行きわたらせることは、酸素を補給する、すなわち酸素を消費することに他ならない。だから身体の動きが小さければ小さいほど酸素消費は抑えられ、息を止めていられる時間も長くなる。むろん水の中で息を止めるブレインも、目を閉じ、水死体のようにじっとして動かない。


そして息を止めることが限界に近くなると、意志力だけでなく、身体もそれに反応して自然に酸素消費を抑えようとする。つまりどうなるかというと、心臓が勝手に鼓動を遅くするのだそうだ。人間は通常、1分間で60から100くらいの心拍数があるが、それが心臓に酸素が行きわたらなくなると、1分間に30から40くらいまで急激に落ちるのだ。それって、酸素の消費を抑えるための心臓の自動防御機能というよりも、単に心臓が止まって死ぬ寸前になっているだけの話じゃないのか、それって本当にやばいだろと思うのだが、ブレインって本当にそういうことに挑戦するのが好きだ。生き甲斐なんだろう。


とはいえ最初の方では、ブレインが水の中に入り、息を止め始めると、だんだん心拍数も落ちて酸素消費を最小限に抑えようとするでしょうという解説の人間の予想もむなしく、簡単には心拍数は落ちない。要するに記録挑戦ということでブレインが興奮しているためで、当然アドレナリンが分泌して、むしろ心拍数は普段のブレインより高めだと思われる。それはなんだかまずくないだろうか。ブレインの心拍数が落ちてきたのは息を止めてから15分も過ぎ、16分近くなってきてからで、そこからいきなり120くらいの心拍数がみるみるうちに落ち始めた。ブレインは目をつむっているのだが、だんだん顔も苦しさで歪み始めた。これってやばいんじゃないだろうか。


身体を浮かせ始め、いつでも顔を水面上に出せるようにしながら、最後のもう一と踏ん張りの我慢に入るブレイン。時間はついに16分34秒に達する。さらに限界まで我慢したブレインは、時計が17分4秒4を記録した段階で水の中から顔を出した。世界新記録の樹立である。これでリンカーン・センターの借りは返した。しかし面白いことにはブレインは世界記録を更新したのではあるが、新記録を樹立した瞬間は本人はまだ水の中で身動きがとれない。まだまだ苦しいのだ。それで、世界新なんだから本当はステュディオの観客が一斉にわーっと盛り上がりたいだろうと思うし、実際そんなような気配もあったが、ホストのウィンフリーが、まだまだ記録は伸びているのだからと、シーっと観客をなだめにかかっていた。で、私らどう反応すればいいの、みたいなステュディオ内の空気が感じとれてなにやらおかしかった。


さて、新しい記録を樹立するとまた次の新しいことに挑戦しないと気が済まないブレイン、実は次の企画も既に決まっているそうで、今度は眠らないことに挑戦するそうだ。これにも世界記録が存在し、11日半寝ないでいた人間がいるということのよし。11日半ですか。たまに日本に帰省した時に、眠りたくても寝れないという苦しい時差ぼけに悩まされたことがあって、その、たかだか2日近く寝れなかったというだけで、頭がきんきんしてきてとてもツラかった。ナチ・ドイツには相手を寝かさないという拷問があったそうだが、時間がかかるという点を除けば拷問する側としては最も効果的で、これをやられるとどんなタフな人間でも自白するという話を聞いたことがある。それを自分から進んで11日以上寝ずにいるのか。寡聞にして不眠で死んだ人がいるという話は聞いたことがないが、それでも私ならできないしやりたくもない。ブレインの挑戦はまだまだ続く。







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ジ・オプラ・ウィンフリー・ショウ   ★★1/2

 
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