放送局: シンジケーション (NY地域ではNBC)

プレミア放送日: 9/8/2003 (Mon) 10:00-11:00

製作: テレピクチュアズ・プロダクション

製作総指揮: エレン・デジェネレス、メアリ・コネリー、エド・グラヴァン

DJ: スコッティK

ホスト: エレン・デジェネレス


内容: コメディエンヌ、エレン・デジェネレスがホストの日中トーク・ショウ。


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たぶん日本での知名度は今一つではないかと推測するのだが、エレン・デジェネレスはアメリカではかなりの人気を誇るコメディエンヌだ。ただコメディを演じることのできる女優というだけなら、それこそ掃いて捨てるほどいるが、エレンの場合、元々スタンダップ出身ということもあり、トークもうまい。つまり、何らかのイヴェントのホストをさせてもうまいところが、他のコメディエンヌから頭一つ抜け出る理由となっている。


実際、一昨年の9/11直後のエミー賞受賞式は、彼女の絶妙のホストぶりがなければあれほど成功しなかったと思われるし、それ以前のグラミー賞のホストぶりも板についたものだった。彼女の場合、特に男性ホストと較べ、早口で言葉数が多いところがその喋りの特徴で、さらに弾丸のように喋りまくっておきながら、言ってることにほとんどなんの意味もないというような話芸 (?) は、今年のエミー賞受賞式の彼女の喋りを聞いた者なら容易に納得できるだろう。


他にエレンが全米中に知られている理由が、レズビアンとしてのもう一つの顔だ。エレンが主人公のシットコム「エレン (Ellen)」は、ABCで94年から98年にかけて放送され人気を博したが、その中の一エピソードで、ついにエレンは自分がゲイだということを告白してカミング・アウトした (因みにその時にエレンの相手役となったのがローラ・ダーンである。) もっとも、それ以前からエレンがゲイというのはほとんど公然の秘密であったわけだが、それを公衆の面前で本人が認めるか認めないかでは、反応がまるで違う。


さらにエレンは、その時のプライヴェイトでの恋人であったアン・ヘイシュとのあけすけな性生活を暴露して話題騒然となった挙げ句 (暴露していたのは専らヘイシュの方だけだったという印象があるが)、結局二人は別れ、エレンのキャリアもそれからなんとなく停滞してしまった感があった。その後エレンは2001年に、再度自分のシットコム「ジ・エレン・ショウ (The Ellen Show)」に、今度はCBSで主演したが、ほとんど鳴かず飛ばずで、番組は1シーズン限りでキャンセルされた。そのエレンが今度はホストとして出演するトーク・ショウが、この「ジ・エレン・デジェネレス・ショウ (The Ellen DeGeneres Show)」だ。


トーク・ショウといっても、アメリカのトーク・ショウは基本的に日中やっている暇のあるおば様を対象としたトークと、深夜の、主として男性視聴者が中心のトークの、2種類のトーク・ショウがある。後者の方が、「トゥナイト」や「レイト・ショウ」等、日本でも馴染みの深い番組が多いが、まったく別の話になってしまうので、ここでは触れないでおく。そして前者の方のトーク・ショウで圧倒的に人気のあるのが「オプラ・ウィンフリー・ショウ (Oprah Winfrey Show)」で、次に人気があるのが、その「オプラ」のスピンオフ番組である「ドクター・フィル (Dr. Phil)」だ。


普通、働いている人は日中はそれほどTVなんか見る暇はないから、この辺の時間帯の番組はどうしても家庭の主婦が主要ターゲット視聴者層にならざるを得ない。その結果、多いのはこういう肩の凝らないトーク番組かゲーム番組、気に入らないやつら同士を争わせる擬似法廷番組、あるいは、良識ある常識人なら、一目でこんなの見るだけ時間の無駄と判断するとしか思えない、カスのようなソープ・オペラが並ぶことになる。


ただし、ソープはまだ芽の出ない俳優の修行の場としても機能しているから、番組自体に見る価値はないが、存在意義がないわけではない。ソープ・ホラーの「パッション」なんてけったいな番組も稀にではあるが登場し、なかなか楽しませてくれたりもする。ではあるが、それでもこんな番組を何十年も見ているから、主婦ってのはバカにされるんだというのを彼女らが気づくのはいったいいつになるんだろう。いや、永遠にわからないから同じ番組が何十年も続いているのか。


脱線した。話を元に戻すと、そういういくつかの定番ジャンルはあるが、やはりアメリカの平日日中の番組といえば、その王道を行くのはトーク・ショウであろう。試しにちょっと番組表を眺めてみたら、あるわあるわ、前出の「オプラ・ウィンフリー」と「Dr. フィル」を筆頭に、「リッキ・レイク (Ricki Lake)」、「モンテル・ウィリアムス (Montel Williams)」、「クロッシング・オーヴァー・ウィズ・ジョン・エドワード (Crossing Over with John Edward)」、「ジョン・ウォルシュ (John Walsh)」、「ザ・ヴュウ (The View)」、「リヴィング・イット・アップ! ウィズ・アリ・アンド・ジャック (Living It Up! With Ali and Jack)」、「ウェイン・ブレイディ(Wayne Brady)」、「ジェリー・スプリンガー (Jerry Springer)」、「モーリー (Maury)」、「ライヴ・ウィズ・レジス・アンド・ケリー (Live with Regis and Kelly)」、「シャロン・オズボーン (Sharon Osbourne)」等、トーク・ショウが目白押しだ。


この中では、「リヴィング・イット・アップ!」、「シャロン・オズボーン」、それに「エレン・デジェネレス」を足した3番組が、今秋から放送が始まった、トーク・ショウの新番組だ。「シャロン」はもちろん、昨年話題をさらったMTVの「ジ・オズボーンズ・ショウ」の主人公、オジーの奥さんの、あのシャロンである。恐るべしオズボーン家の事実上の手綱を握っているシャロンのキャラクターに目をつけたTV番組製作会社の要請により、ついに自分の番組を持つことになったものだ。


これらの番組は全部地上波、つまりネットワークとシンジケーションにおけるトーク・ショウである。あと100チャンネル以上に及ぶケーブル・チャンネルの番組は計算に入れないでこれだけあるのだ。そしてその中でもまた、有名ゲストを招くのが売りだったり、一般視聴者が登場することがポイントだったり、スタジオにいる観客参加型だったりと、番組によって色々と特色があり、あの手この手で視聴者の興味を惹こうとする。


番組としての「エレン・デジェネレス」は、これらのトーク・ショウの中で、最もホスト、つまりエレンのトークが長いことが特色となっている。だいたい、どの番組も、始まる時のホストの前口上は数分、時によっては数秒という感じで、ただ挨拶を述べて今日のゲスト、あるいはテーマを紹介、みたいな感じで始まることが多い。時にホストの雑感が加わることもあるが、なんといっても「エレン・デジェネレス」が他のトーク番組と一線を画しているのは、その、最初のお喋り、モノローグと呼ばれる漫才の部分にある。


普通、いきなりトーク・ショウとはいえ、プレミア・エピソードの初っ端から、そりゃあ言いたいこともあるだろうが、それをネタに10分間も喋り続けて観客を笑いには誘うまい。だいたい、「オプラ」をはじめ、日中トークは、ギャグというよりも、いかにゲストや会場の観客を喋らせるかという点が基本であり、その点では、「エレン」は日中トークというよりは、冒頭に必ず客を笑わすモノローグが入る、深夜トーク・ショウに乗りが近い。これで番組内に「トゥナイト」や「レイト・ショウ」のようなギャグ・スキット的なコーナーが入れば、ほとんどそのまま深夜トークとしても通用しそうだ。


もちろんそれが悪いわけがなく、だいたい、一般的に日中トークは退屈だと思っている私のような輩にとっては、むろん大歓迎だ。いや、初っ端から結構笑わせてくれる。本当に彼女は女性コメディアンとしては、アメリカでも1、2を争うと言える。


で、長いモノローグの後にいよいよゲストを招いてのお喋りがある。ここは深夜トークのようにホストがデスクの後ろでゲストがカウチというスタイルをとらず、二人共やや高くなった壇上でカウチに座る。栄えあるプレミアの最初のゲストとして招かれたのはジェニファー・アニストンで、二人が知り合いだったとは知らなかった。当然話題は、今シーズン限りで終了する「フレンズ」、それに旦那のブラッド・ピットとの生活ぶりに終始する。


しかし深夜トークなら少なくとも二人はゲストを呼んでお喋りしたりするのだが、「エレン」では一人だけで、間にコマーシャルを少なくとも2回は挟んで延々と喋る。それも、やはり結構エレンが茶々を入れるので、かなりエレン・ペースで話が進む。実際の話、「エレン・デジェネレス」では、番組のゲストの話そのものよりも、それに対してエレンがどう反応するかを見ることの方が面白い。彼女は、もしかしたらゲストなぞいなくても、毎日一人で喋って番組を続けられるんじゃないかという気すらしてくる。


その後番組は、当年とって85歳という年齢でケーキのデコレーションで生計を立てているというフランシス・カイパーを招いて、ケーキ・デコレーションを実践する。この料理コーナーというのは、日中トーク、深夜トークを問わずよくあり、スタジオでホストを交えて料理を作る。器用に料理をして見せるプロを見ておーっと感嘆したり、その隣りで失敗するホストを見て笑ったりするわけだ。「エレン」でもそれは変わらず、すっぴんのスポンジ・ケーキにうまくクリームを乗せていくカイパーの横で、エレンはクリームをめためたに盛りつけ、受けに走るという寸法だ。そして最後の音楽ゲストはメイシー・グレイで、彼女がエレンのそばに立つと、異様に顔がでかい。ちょっと、怖いよ、あんた。


エレンはカミング・アウトして以来、どうしても「ゲイの」コメディアンという形容詞から離れられず、必ずそういう風に見られてしまう。エレン以外では、やはり同様に日中トークのホストをしていたロージー・オドネルがやはりゲイで、彼女も最初は黙っていた、というか、確か否定していたと覚えているが、結局こういうことはいつかは公然の秘密になってしまうもので、ロージーがゲイだということを否定しているのは、いつの間にか当のロージーだけになってしまった。


これではいくらなんでもいつまでも否定している意味はないので、結局彼女もカミング・アウトしたわけだが、彼女の「ロージー・オドネル・ショウ」も、やがて息切れして段々と人気を落とし、キャンセルされた。また、ロージーは、自分の雑誌「ロージー (Rosie)」を持っていたのだが、現在、既に廃刊となったその雑誌の権利問題やらなんやらで版元と訴訟沙汰になり、マスコミは毎日のようにそのニュースを追いかけている。


こういう不運がカミング・アウトしたことと何か関係があるかはなんとも言いようがないが、しかし、カミング・アウトした後に番組に人気がなくなってキャンセルされた「エレン」や、その後お呼びがかからなくなってぷっつりと姿を見かけなくなったアン・ヘイシュのことも考え合わせると、少なくともカミング・アウトすることが彼女らのキャリアにプラスになったとは到底思えない。


エレンが「エレン・デジェネレス」で自分のゲイという部分を特に強調しない、あるいは意識的に無視している嫌いがあるのは、いくらアメリカとはいえども、特に田舎ではまだまだゲイに対する偏見は根強く、そのことを強調する番組作りは逆にマイナスにしかならないと判断してのことだろうと思う。これがゲイということを前面に押し出すことで人気をさらった「クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガイ」のような番組だとしたら、話はまた違ってきたろうが。


結局、その後も「エレン・デジェネレス・ショウ」は、エレンのセクシュアリティとはまったく無関係に、どちらかというと保守指向でやっているようだ。まあ、そういうもんだろう。私はエレンの話術、ユーモアというのは、彼女がゲイということと関係なく面白いと思う。というか、そもそもの彼女の話芸は、それほど彼女がゲイということを意識させない。これは、男性のゲイがだいたい一目でわかり、喋り方にも癖がある場合が多いこととはまったく異なっている。やはり「エレン・デジェネレス」は「クイア・アイ」とは別の番組なのだ。エレンには今後もこの調子で頑張っていってもらいたい。







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The Ellen DeGeneres Show

ジ・エレン・デジェネレス・ショウ   ★★★

 
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