放送局: NBC

放送日: 8/14 (Thu), 8/15/2003 (Fri) 23:35-0:35

製作総指揮: デビー・ヴィッカーズ

ホスト: ジェイ・レノ

特別ゲスト: カーソン・クレスリー、キアン・ダグラス、テッド・アレン、ジェイ・ロドリゲス、ソーン・フィリシア (以上「クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガイ」) の面々。


内容: 今夏最も話題となったリアリティ・ショウ「クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガイ」の面々が、ジェイ・レノがホストの「トゥナイト」の模様替えを試みる。


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毎年、夏に大量に投入されるアメリカのリアリティ・ショウにおいて、今夏、最も話題となったのが、マイナーなケーブル・チャンネルにすぎないブラヴォー (Bravo) が放送する「クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガイ (Queer Eye for the Straight Guy)」であったということは、衆目の一致するところである。ABCやCBS等の、アメリカを代表するネットワークを差し置いて、通常はまず一般視聴者がチャンネルを合わせることはないと思われるブラヴォーの番組が、今夏最大のヒットとなったのだ。


もちろん、視聴率という点で言えば、「クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガイ」は、今年最大のヒットとなったFOXのリアリティ・ショウの「ジョー・ミリオネア」にはまったく及ばない。「ミリオネア」の最終回の視聴率と較べると、その10分の1にも達していない。しかし、元々放送局としての土台のレヴェルが違うブラヴォーが、話題性ではそのネットワーク番組に勝るとも劣らない番組を開発したということの方が重要なのだ。


「クイア・アイ」は、5人のゲイの男性が一人のストレートの男をよってたかって変身させてしまおうという、いわゆる当節流行りのメイクオーヴァー (変身/人間改造) 系のリアリティ・ショウだ。このジャンルでは、既に昨年放送されたABCの特番「エキストリーム・メイクオーヴァー (Extreme Makeover)」が、予想以上に話題となったためにシリーズ化してしまったし、BBCアメリカでは「ホワット・ノット・トゥ・ウェア (What Not to Wear)」があり、ディスカバリーでも「メイクオーヴァー・ストーリー (Makeover Story)」が健闘している他、ついにシンジケーションでも、通りすがりの人間をいきなり襲って変身させてしまうという「アンブッシュ・メイクオーヴァー (Ambush Makeover)」という番組まで始まった。ついでに言うと、フロリダの整形外科医を主人公としたドラマ「ニップ/タック (Nip/Tuck)」(FX) というドラマまであって、現在ケーブルTVでヒットしている。


この中で最も派手なのが、ABCの「エキストリーム・メイクオーヴァー」であるのは間違いあるまい。さすがネットワークであり、金をふんだんに投下して人間改造を試みる。ただ服を新調したり髪型を変えたり化粧法を伝授したりということだけではなく、整形して顔の輪郭そのものに手を入れ、脂肪吸引や豊胸手術で体型を変え、歯も矯正して漂白、レーザー手術で視力矯正と、とにかく金を出して矯正できるのなら、気に入らないところ全部に手を入れて、文字通り人間改造してしまおうという番組だ。実際、手を入れる場所によっては、がらりと見かけが変わる。


それ以外のケーブルTVの番組では、かけられる金の額が違うから、ごく普通に、服の着こなしや髪型を変えるだけでどれだけ印象が異なってくるかを見せるわけだが、結局どれもこれも大同小異であり、いかに見せ方を工夫して他の番組と差別化を図るかということがポイントとなる。そして「クイア・アイ」がその差別化に成功した理由が、毎回の登場人物にアドヴァイスを与え、変身の手助けをする、5人のゲイのプロフェッショナルの存在にあった。


結局、「クイア・アイ」も、実はやっていることは他の番組と一緒である。それがこの番組だけ抜きん出て話題となったのは、そのメイクオーヴァーを指揮する5人のゲイの視点およびキャラクターが、他の同様の番組とは一線を画していたことにあった (因みに番組タイトルの「クイア」とは、スラングでゲイということも意味する。)


一般的に、ゲイはナルちゃんが多く、したがって、お洒落が多い。しかも厳しい批評眼を持ち、きついジョークを発する者が多い。その、彼らの独特の視点でメイクオーヴァーをやらせたらどうなるか、という発想の妙味こそが、この番組成功の最大の理由だ。もちろん男性にしか興味がない彼らがメイクオーヴァーを担当するのは男性だけで、時にその時の参加者に色目を使ったり、逆に罵倒したりしながらメイクオーヴァーを進めていく。彼らはいちいち態度やリアクションもオーヴァーで、それだけでも結構おかしい。


登場する5人のゲイは、それぞれ受け持ち分野があり、リーダー格のカーソン・クレスリーがファッション、キアン・ダグラスがヘア、テッド・アレンがフード/ワイン、ジェイ・ロドリゲスがカルチャー、ソーン・フィリシアがインテリア・デザインを担当している。つまり、外観だけでなく、恋人のために作る料理も教え、部屋の模様替えもし、彼女が喜ぶマナーや態度の身につけ方まで伝授する。「エキストリーム・メイクオーヴァー」が外観を変えるという点で最も徹底しているとするならば、「クイア・アイ」は人間内部の改造をも試みる、トータルな人間改造番組なのだ。


5人のそれぞれが自分の立場からあれこれアドヴァイスし、最後に、その回の登場人物がガール・フレンドを家に招いたり、自分の作品の発表会をしたり、あるいは恋人にプロポーズしたりするという、ここ大一番のお膳立てがうまくいったかどうかをヴィデオで観賞する。なんにせよ感情移入の激しい彼らのことで、恋人にプロポーズする舞台設定の手助けをした回なんか、いざプロポーズをする瞬間なんて、5人全員が一様に息をのむ音が聞こえて、やたらとおかしかったりする。この番組が受けたのもわかる。


ところで「クイア・アイ」を放送しているブラヴォーは、昨年、ネットワークのNBCに買収された。チャンネル名はそのままで続いているわけだが、これだけ話題となった番組を、一介のケーブル・チャンネルに残しておくのはもったいない。というわけで「クイア・アイ」は、これまでに何回かNBCでも再放送されている。そして、その「クイア・アイ」プロモーションの極め付けが、今回の、この「クイア・アイ」5人衆 (ビートルズがファブ・フォー (Fabulous Four) と呼ばれたのに倣い、彼らはファブ・ファイヴと自称している) によるNBCの人気深夜トーク番組「トゥナイト」のメイクオーヴァーだ。


「トゥナイト」ホストのジェイ・レノは、いつも人前に立つホスト業ということもあり、当然身だしなみには気を使っており、いつも上等のスーツで、はっきり言ってメイクオーヴァーが必要な人材ではない。しかし、それにファブ5がどのように手を入れるかは、興味あるところだ。さらにレノだけでなく、ファブ5は「トゥナイト」のセットも改装してしまうということで、果たしていったい「トゥナイト」がどのような変身を遂げるのか、なかなか気になっていた。


そのファブ5によるメイクオーヴァー・エピソードは、8月14日と15日に予定されていた。14日にファブ5をゲストとして呼び、紹介して、翌日、様変わりした「トゥナイト」およびレノを視聴者にお目見えさせるという手はずになっていた。それで私はこの回の「トゥナイト」を心待ちにしていたのだが、なんと、14日の夜、ニューヨークを含むアメリカ東海岸一帯は、25年ぶりの大規模なブラックアウト - 停電に見舞われてしまったのだ。おかげで私はその夜の「トゥナイト」を見損ねた。翌日、変身した後の「トゥナイト」は見れたからよかったものの、危うく楽しみにしていたエピソードを両方共見逃すとこだった。


さて、当然のことながら15日の「トゥナイト」は、イメチェンが施されたレノが、東海岸のブラックアウト・ネタでジョークを飛ばすモノローグから始まった。普段ならスーツにネクタイのレノだが、今日は黒いタートル・ネックにブラック/グレイのストライプのスーツで、確かにいつもとは印象が違う。特に目立つのが、ベルトのやたらとでかい銀のバックルで、そうそう、ゲイって、シィークをお洒落のモットーとしているやつが多いくせに、どうしてもこういう光り物をアレンジするという誘惑に勝てなかったりする。いかにもゲイ・ファッションという着こなしになってしまい、レノも少々照れ気味だ。因みにレノの衣装はラルフ・ローレンで揃えていた。


ファッション担当のカーソンは、「クイア・アイ」を見ていると、ほとんど必ずと言っていいほどその時の相手に長袖シャツを着させ、袖を3回ほど折り曲げさせる。それが彼なりのこだわりのようなのだが、今回だってもしレノがスーツ着用という大前提がなかったら、絶対やらせたに違いない。また、番組のメイクオーヴァーという点では、今回はほとんど出番のなさそうなフード担当のテッドは、番組の最後に出てきて、レノに簡単でおいしいロースト・ビーフ・サンドウィッチの作り方を教えていた。しかし、それを言うなら、カルチャー担当のジェイは、本当に今回は出番はなかったな。


そしてセットの方は、確かに大きく様変わりした。これまでの落ち着いた感じから華やかになり、レノが座るデスクおよびゲスト用のカウチがまったく新しいものになった。特にカウチはこれまでのゆったり型から、背もたれの低い近代的な印象を受けるデザインの、いかにもお洒落なカウチが据えられた。とはいえ背景にまで手を入れたわけではないから、全部が新しくなったわけではない。その点では、最も印象が変わったのは、控え室だと言うことができよう。こちらの方は、印象が変わったというだけではなく、明らかによくなった。落ち着いた色使いで壁を塗り替えていながら、お洒落な雰囲気を出すことに成功しており、うん、確かにこの部屋はよくなったと思わせる。


一方、実際のショウのセットでは、レノとゲストがお互いにお喋りを楽しむのが番組の後半のメインとなるのだが、その日のゲストのジャッキー・チェンは、カウチの背もたれが低過ぎるため、カウチにもたれて気軽な姿勢をとることができない。多分番組としては、ゲストに気持ちよくリラックスしてもらうことに最も気を配っているはずなのだが、その点では、ソーンによる、カウチ、その他のインテリアの選択は、ちょっとお洒落過ぎたと言えよう。


実際、その翌週からの「トゥナイト」は、せっかくファブ5が張り切って行った模様替えをすっかり元に戻し、またいつもながらの体裁で収録された。レノもいつも通りのスーツにネクタイ姿で、要するにファブ5によるメイクオーヴァーは、一時的なスタントでしかなかったわけだ。いずれにしても、少しだけお洒落でなくなったとはいえ、従来のゆったりとしたカウチの方が、確かにゲストをリラックスさせるのに適していると言える。また、レノは時々デスクからゲストの方に身を乗り出して親密さを出してお喋りするのだが、従来のデスクや椅子の方が、そういう姿勢もとりやすいようだ。こういう、歴史のある番組というものは、そういうスタイルが定着した理由というのがしっかりとあるもので、やはり、いたずらに手を入れる必要はないということか。


結局ファブ5による「トゥナイト」メイクオーヴァーは、5月にあった「トゥナイト」と「トゥデイ」のホスト交代みたいな、話題作りのスタントとしてだけで終わってしまった。しかし、確かに話題作り/宣伝としてはこのスタントは成功したみたいで、「トゥナイト」メイクオーヴァー・エピソード後も、「クイア・アイ」は放送される度に、毎回番組視聴率記録を塗り替える勢いを維持している。


ところで2日連続で放送されたこのメイクオーヴァー・エピソード、当然のことながら最初のエピソードを見ることのできた東海岸在住の視聴者は、ほとんどいなかった。それで、急遽予定を変更して、翌週の月曜と火曜に両エピソードが再放送されたらしいのだが、私が情報を手に入れたのが遅く、やはり見逃してしまった。初日のエピソードは多分ファブ5の紹介オンリーだったろうから、本当に見たかった、メイクオーヴァー後の2日目のエピソードだけでも見れてよかったのだが、やはり少し損した気分。







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Queer Eye for the Straight Guy/The Tonight Show

クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガイ/ザ・トゥナイト・ショウ   ★★1/2

 
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