放送局: TLC

プレミア放送日: 1/18/2003 (Sat) 22:00-23:00

製作: BBC

製作総指揮: アビゲイル・ハーヴィ

監督: グレン・ワイス

ホスト: ジリアン・ハミルトン

ファッション・スタイリスト: ウェイン・スコット・ルーカス、ステイシー・ロンドン

ヘア・スタイリスト: ニック・アロホ

メイキャップ・アーティスト: カーミンディ・バウアー


内容: 英国BBCで放送され、人気のあるリアリティ・ショウの米国版。毎回、友人/知人が内緒で推薦したファッション・センスの悪い主人公を隠しカメラでとらえ、ファッション・スタイリストがアドヴァイスを行う。


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TLCとBBCの共同による番組製作は、今に始まったことではない。「トレイディング・スペイシズ (Trading Spaces)」、「ジャンクヤード・ウォーズ (Junkyard Wars)」等、TLCで現在人気のある番組の多くは、元々BBCで放送され、人気の出た番組の焼き直しだ。「ホワット・ナット・トゥ・ウェア」は、その列に連なる、最新のBBCをオリジナルとする番組の輸入版だ。


ザ・ラーニング・チャンネル (The Learning Channel) という、生涯教育専門チャンネルを意味するTLCは、最近、視聴率アップを目指して、流行りのリアリティ・ショウの展開に力を入れている。提携しているBBCがまた、その分野でわりと確立した人気リアリティ・ショウなんかを持っていたものだから、渡りに船とばかりにBBCオリジナルのリアリティ・ショウがわんさかとTLCでも製作されることになった。


これではラーニング・チャンネルという看板に偽りありといちゃもんをつけたくもなるが、まあ、少なくともこれまでにプライムタイムに放送していたリアリティ・ショウに関しては、リアリティ・ショウといえども、家の改装の仕方とか、ロボットの作り方なんて、なんらかの学ぶべき点があったりして、100%チャンネルの趣旨から逸脱していたわけではなかった (もちろん日中放送番組は話が別であり、昼間の番組はもう完全にヴァラエティ化している)。


しかし、「ホワット・ナット・トゥ・ウェア」は、プライムタイムに編成する番組としては、今度こそ「学習」とか「教育」とはまったく縁のない番組になってしまった。この番組、こいつのファッション・センスは最低だと友人の太鼓判をもらった人物のワードローブ改造を試みる番組で、こんどばかりはどこを見回しても、何かを学ぶべき要素がない。それとも、もしかしたら「着こなしを学ぶ」学習番組という屁理屈でもつけるのだろうか。そりゃま、確かにそう言われると、ファッションを学習すると言えないこともないか。


番組の第1回は、まず様子見で一回だけ放送するという、特番の体裁で放送された。本当のシリーズ放送は3月からになる。そのプレミアに登場したのが、ニューヨークはマンハッタンで働いているモーナというややぽっちゃり型の女性で、ほとんど普段着に近いような格好で出社するというところが、友人にこの番組に推薦するという決断をさせた。その友人たちはというと、確かにバリバリのキャリア・ウーマンのような格好をしている。その中で普段着っぽいモーナが浮いているのは確か。


番組は、まず隠しカメラでモーナのセンスを逐一チェック。それを見ながら、ファッション・スタイリストのウェイン・スコット・ルーカスとステイシー・ロンドンがコメント、というか罵倒する。一通りモーナの紹介を終えると、カメラがモーナの前に現れ、あんたは友人たちからセンスが悪いというので番組に推薦された。これから手渡す5,000ドルで好きな洋服を買ってくることと申し渡される。そのショッピングの模様も逐一撮影され (今度は隠しカメラではない)、またまたそれを見ながらルーカスとロンドンが茶々を入れ、ついにショッピング途中のモーナに合流、ああでもないこうでもないと、色々アドヴァイスを与えるという趣向になっている。


親類知人が協力しているので、アパートの中まで隠しカメラを設置して、部屋の中でのパジャマ姿から、普段着、近所の外出着、よそ行きまで、あらゆる角度からファッション・センスを検討する。後で本人と一緒にその映像を見せ、あんたはこんな服を着ているあんな服を着ている、まったくセンスがないと指摘されるのだが、まさかパジャマ姿まで写されているとは知らない本人は赤面しまくりというところがポイント。さすがに着替えているところや下着姿のところなんかは見せてくれないが、実は見る方としては、どちらかというとファッション・センスよりもそちらの方に興味があったりして。


番組で最も重要と言えるのが、ファッション・スタイリストの役柄を受け持っているルーカスとロンドンということは論を俟たない。番組を生かすも殺すも彼らのコメント次第だ。実は私は今回、BBCアメリカで放送されている、オリジナルのBBC版「ホワット・ナット・トゥ・ウェア」とも見較べてみたのだが、このBBC版でスタイリストを担当しているトリニー・ウッドールとスザンナ・コンスタンティンの女性二人のコメントが、実に辛辣で歯に衣着せないところが、いかにも皮肉屋のイギリス人ぽく、番組を面白くしていた。


私の見た回では、二人はその回の主人公の女性が選ぶ服選ぶ服すべてに難癖をつけ、彼女はとうとう、私が何を選んでも彼女らは文句ばっかり言うと泣き始める始末だった。もちろん、これくらいやるから番組としては面白くなる。その点、TLC版のルーカスとロンドンは、まだその回の登場人物に遠慮しているところがあり、あまり悪し様にばかりも言いたくない気持ちはわかるが、それが逆に番組をつまらなくしている。最初思い切りけなし、後で思い切り持ち上げる、これだよ。ちょい体重の重いコンスタンティンなんて、自分の二重腹をつまんだり、でかパイ過ぎてシャツの上からだとどこに乳首があるかもわからない、なんて自分を自分をだしにしたジョークを言って番組を面白くしていた。こういうきつい冗談や皮肉を言わさせると、やはり英国人に勝る国民はいない。


また、BBC版では、TLC版には登場するホスト役がいない。そのためウッドールとコンスタンティンがホスト兼任ということになっており、その点でも、番組は彼女らのコメントに多くを負っている。ところでそのTLC版のホストのジリアン・ハミルトンであるが、実は結構彼女のファッション・センスもなかなかくるものがある。なぜこういう人が仮にもファッション番組のホストを担当しているかが、大いに謎だ。まさか逆受けを狙っているようにも見えないし、本人も大真面目でホストを担当しているようにも見える。まったく不思議な人選だ。


この番組の根本の発想から言って、やはり「ホワット・ナット・トゥ・ウェア」は、登場人物を思い切り罵倒するBBC版の方が面白く、今のままではTLC版がオリジナルと同じくらい面白くなるのは難しいと思う。とはいえ、「トレイディング・スペイシズ」や「ホワイル・ユー・ワー・アウト」と、人畜無害のリアリティ・ショウ路線で人気を獲得してきたTLCにとって、いきなり番組がBBC版のように登場人物を罵倒する体裁になるのはまずいという配慮も当然働いているだろう。要はその辺のバランスの取り方のさじ加減一つだ。


私としては、実はあまりTLCにはリアリティ・ショウばかり作ってもらいたくないという気持ちがある。チャンネルの本来の趣旨から逸脱し過ぎると、顔をいじりすぎた挙げ句もう修正が利かなくなったマイケル・ジャクソンみたいに (自分で言うのもなんだがヘンな比喩だ)、結局後戻りもできなくなって虻蜂とらずに終わってしまうのではないかと、他人事ながら気になるのだが。私は結構このチャンネルが好きで、映画チャンネルと音楽チャンネルに飽きると、TLCかディスカヴァリーを見ることがよくある。いくらかのリアリティ・ショウを放送する分には構わないと思うのだが、しかし、やはりプライムタイムまでリアリティ・ショウだらけのTLCを見たいとはあまり思わない。







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What Not to Wear

ホワット・ナット・トゥ・ウェア   ★★1/2

 
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