The Tonight Show

放送局: NBC

放送日: 1/2/2008 (Wed) 23:35-0:35

ホスト: ジェイ・レノ


Late Show

放送局: CBS

放送日: 1/2/2008 (Wed) 23:35-0:35

ホスト: デイヴィッド・レターマン


内容: WGAスト後、2か月ぶりに新エピソードが放送されるアメリカを代表する深夜トーク・ショウ2本。


_______________________________________________________________


昨年11月第2週から始まったWGA (米脚本家組合) のストは、アメリカTV界に大きな打撃を与えた。と一言で言っても、ある特定の番組がどのような影響を被ったかは、番組の質、ジャンルによって異なる。一般的なドラマやシットコムの場合、一応既に製作済みのエピソードのストックがあるので、それらを小出しに放送することで急場をしのぐという方法がとられた。それでも年が明けるとそれらのストックも底をつき始め、ネットワークの編成は再放送エピソードが軒を連ねるようになった。これらの番組に対しては、ストの影響はじんわりとボディ・ブロウのように効いてきたと言える。


一方、ストが始まったその日から影響を被ったのが深夜トーク・ショウだ。もちろんトーク・ショウは日中にもあるが、日中トーク・ショウはアドリブのおしゃべりやゲスト・トークが主体であるため、基本的に脚本家に頼らない。日中トークで脚本家の書いたスクリプトを多用していたのは、当然最もホストのモノローグの度合いの高かった「ジ・エレン・デジェネレス・ショウ」だけで、実際、WGAストによって番組製作に差し障りが出たのは「エレン」だけだった。


そのため、「エレン」もそれなりに揉めたが、日中トークとしてはその他多くの番組の中の一本でしかないため、特に番組に焦点が当たることはなかった。デジェネレスは12月に脚本家によるスクリプトなしで (要するにWGAの承認を得ないで) 番組製作を決行しており、WGAから名指しで責められていたりもするが、それでもこの話が業界内の枠を超えて大きな話題となることはなかった。


それとは逆に深夜トークは、スト決行初日から内外の注目を集めた。なんとなれば深夜トークは基本的にすべてのショウが冒頭にホストのオープニング・モノローグを抱えており、それは脚本家が書いている。脚本家がいなければ機能しない部分が大きいのだ。そのためストが始まったとたん、深夜トークはその日放送分からすべて過去の番組の再放送になった。基本的に深夜トークとは下記の番組を指すが、なかでもネットワーク番組、さらにその中でもネットワーク、というかアメリカを代表する二本の深夜トーク・ショウ、「トゥナイト」「レイト・ショウ」がその興味の中心となったのは言うまでもない。


また、両者においては、「トゥナイト」が本当に昔の、ホストのジェイ・レノがホストについて間もないくらいの10年くらい前まで遡って古いエピソードを提供したのとは異なり、「レイト・ショウ」は比較的最近の、せいぜいここ半年くらいのエピソードを再放送した。最初、なんで「トゥナイト」はここまで古いエピソードを引っ張りだすのかとも思ったが、それはそれでまだかなり若く見えるレノをまた見れるのはなかなか興があり、後の方では今夜はいつ頃のレノが見れるかと楽しみだったりもした。また、深夜トークとはいっても、ほとんどモノローグ・ギャグに頼らない「ラスト・コール」は、やはり12月には放送を再開している。



アメリカの深夜トーク・ショウ


ネットワーク

NBC 「トゥナイト」ジェイ・レノ (23:35-0:35)

        「レイト・ナイト」コナン・オブライエン (0:35-1:35)

        「ラスト・コール」カーソン・デイリー (1:35-2:05)

CBS 「レイト・ショウ」デイヴィッド・レターマン (23:35-0:35)

        「レイト・レイト・ショウ」クレイグ・ファーガソン (0:35-1:35)

ABC 「ジミー・キメル・ライヴ」ジミー・キメル (0:05-1:05)

FOX 「トーク・ショウ」スパイク・フェアステン ((Sun) 0:00-0:30)


ケーブル

コメディ・セントラル

        「ザ・デイリー・ショウ」ジョン・スチュワート (23:00-23:30)

        「コルベール・レポート」スティーヴン・コルベール (23:30-0:00)



これらの番組のホストは、基本的に彼らも被雇用者という立場上、WGA寄りの立場をとっており、早くから脚本家に対してはシンパシーを示していた。その一方でストのおかげで番組が製作されなくなることにより、仕事がなくなる立場の者もいる。番組ホストは当然彼らにだっていくばくかの責任を負っており、いわばその狭間で苦しい立場に置かれていた。脚本家は支持したいが、かといってそのために他の者の仕事を奪ってしまうのも嫌だ。最初は黙って成り行きを見守っているだけだったが、ストが長引くとその他の番組関係者の窮状が目立つようになった。


それで「トゥナイト」のジェイ・レノも「レイト・ショウ」のデイヴィッド・レターマンも自腹を切って関係者に給料を支払っていたが、それにも限界がある。それぞれ打開策を模索していたわけだが、二人がとった方法は異なっていた。レターマンは独自にWGAと交渉し、相応の譲歩をして例外的に脚本家の参加を認めることで番組続行を可能にした。レノの場合は、WGAを無視し、自分でモノローグ・ギャグを書くことで番組を再開した。「トゥナイト」も「レイト・ショウ」も新年早々1月2日から番組を新エピソードで再開、俄然深夜トークに注目が集まった。


レノとレターマンでは、WGAはレターマンはともかく、レノに対して批難を集中させたのは当然だ。WGAの言い分に因れば、レノが自分自身でモノローグを書くという行為は利権侵害に他ならず、黙って見過ごせるものではない。一番怖いのは、そのことがなし崩し的に定着して、脚本家なんて必要ないという事態になってしまうことだろう。一方、レノにしてみれば全部自分自身でギャグを考えるということがかなりの負担であることは間違いない。だからこそ通常、脚本家がモノローグを考えているのだ。たとえ番組を再開させたといえども、早くストが終わってくれればいいというのが本音だろう。


しかも両ホストの番組再開に対するアプローチの差は、そのまま番組そのものの内容の見映えという点になって現れた。つまり、WGAのお墨付きを得たレターマンの「レイト・ショウ」には、おかげでハリウッドのスターもゲストとして姿を見せたが、レノの「トゥナイト」はそういうわけには行かなかった。1月2日放送分の「レイト・ショウ」には、ゲストとしてロビン・ウィリアムスが登場したが、「トゥナイト」のゲストは共和党から大統領に立候補中のマイク・ハッカビーであり、今年が大統領選挙の年であることを考えれば意味がなくもない人選ではあるが、しかし、2か月の休みの後の最初のエピソードで深夜トークで政治家が見たいかと問われれば、大半の者はノーと答えるだろう。


しかも番組後半のゲストとのおしゃべりのほとんどをレノとハッカビーの、別に大して興味もない政治トークに終始したとなればなおさらだ。おまけにその後は、まあこれはいつもよくやる手段ではあるのだが、セレブリティ・シェフのエメリル・ラガッシを呼んでクッキングと、まあ、確かにこれなら少なくともゲストの点でWGAからは苦情は来ないか。


一方のレターマンは、まず、この2か月間剃らなかったという髭ぼうぼうの姿で登場、観客と視聴者をあっと言わせる。因みのこの髭はその翌週、番組内で余興として床屋を呼んで観客の目の前で剃り落とした。転んでもただでは起きないこのエンタテイナー精神はさすが。この日の「レイト・ショウ」は、まずこれまた選挙戦中のこちらは民主党のヒラリー・クリントンが録画で姿を現し、「レイト・ショウ」再開に関し、どんないいことにも終わりがあるからと、まずジャブを飛ばす。その後カメラがステュディオに切り換わってのオープニングは、WGAのスト・プラカードを抱えたレオタード・スーツ姿の美女たちがレターマンを迎えるという趣向で始まるなど、やはりこちらの方が華やかだ。


また番組お約束の今日のベスト・テンのコーナーでは、実際にWGAメンバーを10人ステュディオに呼んで、WGAライターの要求ベスト・テンを本人たち一人一人にしゃべらせた。こういうのを即座にギャグとして展開する身軽さや懐の深さこそアメリカのエンタテインメント界の底力だろう。そのメンツの中にはノラ・エフロンという、むしろ脚本家というよりは映画監督としての方が知られていると思われる者もいる。因みに彼女が要求したのはベスト・テンの第4位で、「『ザ・ヴュウ』で喧嘩になった時に場を収拾させるための一時金」を要求する、というものだった。むろん「ヴュウ」でのロージー・オドネルとエリザベス・ハッセルベックの罵り合いを下敷きにしたギャグだ。


そういう番組全体としての印象以外に注目が集まったのは、当然番組冒頭のモノローグだ。両者ともWGA関係のギャグを随所に挟みこんでのモノローグだったわけだが、意外だったのが、レノが自分の女房相手に話してその反応を見ながら考えたといういつもよりむしろ長めのモノローグがそれなりにちゃんとツボを得て笑えたことで、一方のレターマンの方は、まあ、いつも通りであるから通常と異なっていることこそヘンとはいえ、別に特におかしくもなかった。あれを本当に一人で考えたとしたら、少なくともモノローグにおける軍配はレノの方に上がる。レターマンは、受けなかったギャグがあると、これがストまでした脚本家の考えたギャグか、と、楽屋落ち的な笑いも何度かあった。


レノはその後のエピソードもずっと一人でギャグを考えながら番組をこなしたわけだが、むろん大物ゲストを呼べないため、番組はいつもより素人だらけのギャグ・スキット・コーナーを多用せざるを得なかった。まだ芽の出ないスタンダップ・コメディアンにちょうどいい機会だからと発表の場を与えたり、まったく素人の一般人を呼んできて、その職業毎に彼らのオリジナル・ギャグ・モノローグをしゃべらせるなどというのも何度かあったが、最も目についたのが、愉快な動物コーナーとでも言うべきパートで、要するに色んな動物園から珍獣や生まれたばかりの可愛い動物の赤ちゃんとかを連れてきて紹介するというのを何度もやった。TV番組の困った時の動物と子供頼みというのは、洋の東西を問わないのだった。


もっとも、実は「トゥナイト」は伝統的に素人参加コーナーが多い。レノが街に出て通行人にクイズや常識問題を出して一般人の頓珍漢な答えを楽しむ「ジェイウォーク」だとか、その中でも特にずれている人間をスカウトしてステュディオ内で問題を出して回答を競わせる「ジェイウォーク・オールスターズ」、全米から送られてきた珍妙な新聞記事や広告を紹介する「ヘッドラインズ」等、元々番組中で素人が占める割合は結構高い。「トゥナイト」がなんとかこの一と月半を乗り切れたのは、番組のこういう体質があったことも大きいだろう。これが「レイト・ショウ」だと、街に出て街頭ギャグを繰り広げるのはプロか番組関係者同士である場合が多い。それでも、この間のレノの忍耐というか、柔軟性、プロとしての力量こそ、最も称揚されてしかるべきというのは言える。私は、通常は深夜トークは笑いに毒のある「レイト・ショウ」を見ることの方が多いのだが、今回ばかりはレノに感心した。


2008年2月現在、ストは解決を見ており、「レイト・ショウ」も「トゥナイト」もレギュラー編成に復帰している。これまでは視聴率の点では常に「トゥナイト」が先を走り、「レイト・ショウ」がそれを追うという展開だった。過去「レイト・ショウ」が「トゥナイト」を視聴者数で上回ったのは、レターマンが心臓を手術して長期療養後に復帰してきた第一回だとか、何回かの特別の場合に限られる。しかし、今回は状況が状況だ、大物ゲストを呼べず、番組作りに四苦八苦するはずの「トゥナイト」に「レイト・ショウ」が肉薄するまたとないチャンスとなるかと噂された。


それが蓋を開けると、結局「トゥナイト」はいつも通り、常時余裕をもって「レイト・ショウ」の上に君臨し続けた。差が縮まる素振りなんてまったくなかった。元々深夜トークというものはその性質上、固定ファンがついており、毎日同じ時間に同じチャンネルを見るという癖がついている視聴者が多い。だからとにかく、これまで「トゥナイト」を見ていたからと今回も「トゥナイト」を見て、しかも、別に特に質が落ちたわけではないと視聴者が思ったからこそ、視聴者離れが起きずに済んだのだ。今回は誰が見てもこの功績はレノ一人の手柄だろう。


ジョニー・カーソンというアメリカで最も名の売れたパーソナリティから最も名の売れた番組を引き継いだレノの実力、および長年培った実績は、これくらいではびくともしないことを証明した。一方、実はその直後のコナン・オブライエンがホストの「レイト・ナイト」は、現在、裏番組の「レイト・レイト・ショウ」に差を縮められつつあるのだ。NBCが2009年にレノを引退させて代わりにオブライエンを「トゥナイト」のホストに据えると発表したことが、裏目に出る可能性が現実味を帯びてきたような気がしないでもない。








< previous                                    HOME

 

The Tonight Show with Jay Leno

ザ・トゥナイト・ショウ・ウィズ・ジェイ・レノ   ★★1/2

Late Show with David Letterman

レイト・ショウ・ウィズ・デイヴィッド・レターマン   ★★1/2

 
inserted by FC2 system