Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl


パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち  (2003年8月)

エリザベスは幼い頃、海軍総督の父と航海を共にし、海賊に襲われた船を発見する。その時の唯一の生存者である男の子ウィルは、海賊の印である髑髏のメダルを首にかけていたが、エリザベスはとっさにそのメダルを隠してしまう。その後ウィルは、エリザベスへの思いを胸に成長する。しかしエリザベス (キーラ・ナイトリー) が、バルボッサ船長 (ジョフリー・ラッシュ) の率いる海賊にさらわれてしまったため、ウィル (オーランド・ブルーム) は、その時捕らわれの身となっていた別の海賊ジャック・スパロウ (ジョニー・デップ) を牢獄から助け出し、二人でエリザベス救出に向かう‥‥


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なんでも海賊ものの映画は当たらないというジンクスがあるそうだ。それで「パイレーツ・オブ・カリビアン」はわりと製作費のかかった大がかりな映画であることにもかかわらず、公開前の予想では、それほどヒットするとは思われていなかった。ところがどっこい、この映画、今夏公開作品では「ファインディング・ニモ」に続く大当たり映画となってしまった。ディズニーもほくほくだろう。


思えば海賊映画が当たらないというジンクスは、それほど信憑性のある話ではない。大昔はそれこそその手の活劇映画が山ほどあったし、エロール・フリンあたりの名は、海賊映画とは言えなくても、海を舞台としたアクション映画とは切っても切り離せない。思うに、海を舞台とする映画は、撮影が天候に大きく左右されるために製作費が嵩みやすく、それを嫌うハリウッド首脳が、海を舞台にさせまいとして捏造した話なのではないか。ケヴィン・コスナーが「ウォーターワールド」でユニバーサルを傾かせたというのは有名な話だし、「タイタニック」だって大幅な製作費超過で、あれだけ世界中でヒットしなければ、今後10年くらいは海を舞台とする大作が製作されることはなかったと思われる。


というわけで、海を舞台とする映画は、それこそ「ファインディング・ニモ」みたいなアニメーションになってしまうわけだ。それでも、最近、公開映画の不振に悩むディズニーがこのような海賊映画の製作に踏み切ったのは、ディズニーランドのアトラクションの梃入れという意味の方が大きかったような気がする。こういう映画が公開されたら、きっと本家のディズニーランドで入場者がぐんと増えるのではないか。映画が当たれば嬉しいが、当たらなくても元は取れるというのが、「パイレーツ・オブ・カリビアン」製作の本当の理由であったような気がしてならない。


さて、その「パイレーツ」の主人公、ジャック・スパロウに扮するのは、ジョニー・デップ。とにかく見るたんびにそれまでとは印象の異なる役を演じていたりするが、多分、自分からそういうのに挑戦しているというよりも、それほど我が強くなく、演出家の色に染まりやすいように見えるデップに、自分の思うような役をやらせてみたい監督が多いからだろうという気がする。それでも、これまではだいたいにおいて寡黙な役が多いという点では共通していたが、今回はコミカルな味付けで結構よく喋る。その意味では、これまでで最も意外性が高い。


「ロード・オブ・ザ・リングス」で一躍人気俳優の仲間入りを果たしたオーランド・ブルームが、ヒロインのエリザベスに想いを寄せるナイト的役回りのウィル役で出演、正統的な貴公子面で、これでまた女性ファンが増えるんだろう。そのリズに扮するのはキーラ・ナイトリー。「スターウォーズ: エピソード1」にも出てたそうだが、まったく記憶にない。それよりも、今年のインディ・ヒットとしては1、2を争う「ベッカムに恋して (Bend It Like Beckham)」にも出ており、一挙に今年最も活躍した新人女優としての地位を確立した。


監督のゴア・ヴァービンスキは、「ザ・メキシカン」、「ザ・リング」に続いてのヒット作の演出で、かなりヒット作を製作する確率が高い。おかげであっという間にハリウッドの売れっ子で、来年「ザ・リング2」の演出が決まっているそうだ。ロマコメ、ホラー、海洋アクションとなんでもこなす。


この映画が2か月も客足が落ちずにここまでよく頑張っているのは、最近のハリウッド映画で、いかに家族向けの子供も大人も一緒になって楽しめる映画が少なかったかの証左だろう。だいたい、今夏の大型アクションは、「チャーリーズ・エンジェル2」、「ハルク」「T3」「トゥームライダー2」、「バッドボーイズ2」等、大人はともかく、子供に見せるにはちょっと激しすぎたみたいな嫌いがあり、あるいは「シンドバッド」はとにかく酷評されていて、誰も見なかった。


そういうわけで「ファインディング・ニモ」を2回も3回も見に行く輩が大勢出現した結果、今夏の家族向け映画は、「ニモ」の一人勝ちの様相を呈していた (「ブルース・オールマイティ」「スパイキッズ3-D」も頑張ってはいたが)。そこへぽっかりと現れた「パイレーツ」は、だから砂漠に出現したオアシスのようなもので、家族連れは挙って「パイレーツ」へ詰めかけたのだ。とにかく「パイレーツ」がここまで善戦するとは配給のディズニーですら思っていなかったようで、この分だと来夏はまた、この手の家族向け冒険映画が大挙して公開されそうだ。


とはいえ実際の話、「パイレーツ」が面白くないわけではない。私は、これはあと30分くらいは端折って欲しかったかなとは思ったが (だって、子供相手に2時間以上の作品を作ってしまう神経がどうしても理解できない。私がガキの頃に2時間を超える映画を見せられても、最後は寝てしまうのがオチだった)、こういう健全なアクションというものは、たまに見ると新鮮で面白い。特に鍛冶屋でのブルームとデップの剣劇シーンなんて微笑ましい。子供向けだと思っているので採点が甘くなるというのはあるが、それを抜きにしても、生身のアクションはやはり基本だと思ってしまう。


とはいえこれだって、もうちょっとでやり過ぎとなって、「ヤング・ブラッド (The Musketeer)」の二の舞いとなってしまう可能性もあったのだが、それを面白いと思える範囲で留めていられるところ、あるいは無理にこじつけて流行りのワイヤー・アクションに持っていくことをせず、流れを中断させなかったところが、ヴァービンスキのバランス感覚のよさを物語っている。また、そのデップと、海賊の首領を演じるジョフリー・ラッシュが、歌舞伎の見得の張り合いみたいな大仰な演技をしているのを見るのも楽しい。ラッシュがもうちょっと肩の力を抜いて、本人も楽しんでやってくれればもっとはまったと思うんだが、どうもラッシュは真面目すぎる嫌いがある。この辺はデップの方が懐が深いかなという感じがする。


欲を言えば、2時間半もあるんだから、最後、もうちっとばかし盛り上げて終わってくれてもよかったのに。いきなり恋敵が引いてしまってめでたしめでたしじゃあ、ちょっと恋する者同士も盛り上がれないんじゃないの? 最後、肩透かしで終わったと感じた者も多かったんじゃないだろうか。ブルームを殺してしまって、悲劇にしてしまい、残されたナイトリーが、ブルームの遺骸を胸に押し当てて復讐を誓う、あるいはそれでも明日を夢見て前向きに生きる、見たいな幕切れでもよかったのに、と思ってしまった。でも、そしたらディズニー配給の家族向け映画にならないか。







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