The Musketeer

ヤング・ブラッド  (2001年9月)

これが何度目か、もう誰もわからないくらい何度も映像化されているアレクサンドル・デュマの古典「三銃士」の映像化。「三銃士」は時によって「四銃士」にもなったりしているが、今回は主役としてダルタニアン一人に的を絞っている。そのため、タイトルも「三銃士 (Three Musketeers)」ではなくて、ただの「銃士 (The Musketeer)」になってしまった。


シェイクスピアが文学の古典として近年何度も映像化されているならば、デュマも娯楽作品の古典として、この「三銃士」と「モンテ・クリスト伯」は何度も映像化されている。「モンテ・クリスト伯」は、ガイ・ピアースとジム・カヴィーゼル主演で今秋最新版が公開される。レオナルド・デカプリオ主演の「仮面の男」なんてのもあったし、ちょっとしたブームだ。


私がこの映画を見に行こうという気になったのは、今流行りのチャイニーズのワイヤー・アクションを駆使した作品であり、しかもそれを西洋古典の映像化に使用するというアイディアが気に入ったからだ。こういう試みはなんとなく惹かれるものがある。「マトリックス」でワイヤー・アクションを使用するのとは訳が違う。「三銃士」の舞台である17世紀に、実際にその様なアクションで戦ったわけがないのだ。さて、どのような作品ができ上がったのか。


見てきた結果からいうと、がっかりした、というのが本音である。TVのCMでは面白そうに見えたアクションも、本当にそこだけで、あとはあまり機能していない。本編よりも予告編の方が面白かった「バーティカル・リミット」みたいだ。クライマックスのティム・ロス扮する悪役とジャスティン・チャンバース扮する主人公ダルタニアンの、城の中での梯子を多用した一対一での決闘は、あまりにも小細工が目について、エキサイティングなものになったとは言い難い。場内に失笑が起こるくらいだ。


冒頭に近い旅籠屋のシーンでの酒樽を使ってのアクションも、時々単なる曲芸に堕してしまっている。これでは純粋なアクション映画というよりも、ジャッキー・チェンのアクション映画のような、コミカルな路線を狙った方がよかったんではなかったかと思えてしまう。でも、そうするとますます悪役として貫録がついてきたティム・ロスがもったいないな。しかし、実際、意図的に笑いをとるシーンもあった。やはりバランスの問題か。


ピーター・ハイアムズによる演出は、前作のシュワルツネッガー主演の「エンド・オブ・デイズ」、その前に見た「サドン・デス」とまったく似たような印象を受けた。つまり、的が絞れてなく、大味だということだ。さすが撮影監督も兼ねているだけのこともあり、映像は綺麗なのだが、そんなの作品自体がよくなければまったく意味がない。この人の撮る作品はいつもこうだ。「タイムコップ」がヒットしたのは偶然だな。そろそろ演出は諦めて撮影一本に絞った方がいいのではないか。多分、ハリウッドのスタジオも流石にこれだけハイアムズ作品で失敗作が続くと、もう彼に演出を任そうという気にはならないだろうと思うが。


あと、主演のダルタニアンに扮するチャンバースも、ほとんど見た後に印象が残らない。彼よりも、現在、正統派の悪役をやらせれば右に出るものがいないという感じの、ティム・ロスの方が圧倒的にいい。あとの二人の銃士や王妃役のカトリーヌ・ドヌーヴ、ダルタニアンの恋人に扮するミナ・スヴァリも、少なくともチャンバースよりは印象に残る。スヴァリは一昨年「アメリカン・ビューティ」で見た時はまったく惹かれなかったのだが、私の方が最近流行りのこの手の顔に慣れてきたのか、違和感を感じなくなった。


とにかく、これならこの作品よりも、公開して既に一月以上経つのに興行成績でベスト5を維持するニコール・キッドマン主演のホラー、「ジ・アザース (The Others)」の方を見に行けばよかったと後悔した。 「ジ・アザース」は予告編を見ただけではまったく面白く見えなかったのに、口コミでわりと面白いという話が広まって、いまだに人が入っている。予告編で期待させといてまったくつまらなかった「ヤング・ブラッド」とまったく逆だな。話は変わるが、昨年、まったく同じタイトルの、やはりホラーのTVシリーズ 「ジ・アザース」という番組があった。同じジャンルで同じタイトルでも、どこからも文句が出ていないということが、TVの「ジ・アザース」の人気がどれくらいだったかを物語っている。多分この映画の製作者は、同名TVシリーズのことなんか聞いたこともなかったんだろう。







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