Terminator 3: Rise of the Machines


ターミネーター3  (2003年7月)

USAトゥデイ紙によると、既に今夏のハリウッド大作の3大失敗作は、「ハルク」、「チャーリーズ・エンジェル: フル・スロットル」、それにアニメーションの「シンドバッド: 7つの海の伝説」で決まりだそうだ。最初から見る予定に入ってない子供向けの「シンドバッド」はともかく、「ハルク」はCG主人公のできと内容の暗さでマイナス評価、さらに「フル・スロットル」の方も人が入ってない。「フル・スロットル」は、正直に言うと、私もそれほど面白そうには見えないなあという気がしていたので、やはり、と思う。


この記事は私の観賞スケジュールにも影響を及ぼし、「フル・スロットル」、うーん、どうしよう、見ようか見るまいかと迷っていたのを、やはり後回しにして、先に「T3」の方を見ることにする。他にも「パイレーツ・オブ・カリビアン」や「リーグ・オブ・レジェンド」なんて食指をそそられるアクション大作が公開されているし、ダニー・ボイルの「28日後」も気になる。来週は「バッド・ボーイズ2」、その翌週は「トゥーム・レイダー2」が公開だ。もしかしたら今回の「エンジェル」は見ないで終わるかもしれない。


成長したジョン・コナー (ニック・スタール) は、その責任から逃れるように、放浪の生活を続けていた。単車で転んだコナーが近くの動物病院に忍び込み、勝手に自分で治療していたところ、アラームの知らせを受けて、そこで働いていたケイト・ブルースター (クレア・デインズ) が現れる。そして、機械にとって将来の障害となるコナーを始末しようと、未来から送られてきたターミネーターの最新ヴァージョン、T-X (クリスターナ・ローケン) もその場に姿を現す。そして、さらにそのT-Xを阻止すべく、オリジナル・ターミネーターのT-101 (アーノルド・シュワルツネッガー) もまた、未来から送り込まれていた‥‥


もしかしたらもう作られることはないかもと思われていた「ターミネーター3」がついに製作された。監督は「U-571」のジョナサン・モストウで、わりと期待できるかもしれない。しかし「ターミネーター2」から既に12年、55歳となってしまったシュワルツネッガーが、いまだにあの無敵のターミネーターを体現することができるか。


まあ、結論から言えば、確かに以前のシュワちゃんのような身体のキレはなくなり、どうしてもちょっと重たい動きになってしまうのはしょうがないが、それでも充分楽しませてくれる。私は「ターミネーター」の面白さは、とにかく不気味な不死身野郎が追いかけてくるという、「13日の金曜日」のジェイソンを思い起こさせる、ホラー映画の別ヴァージョン的なところにあると思っている。皮膚が焼けただれても、下半身がなくなっても、這ってでも前進できるなら、目的を遂行するためにとにかく全力を尽くす。とにかく彼らは諦めない。それが怖い。それが面白い。


しかし「T2」になると、ターミネーターが進歩して洗練されすぎたために、逆に生身のターミネーターが持っていた、「怖さ」という点は薄まった。むしろ、ロバート・パトリック演じるT-1000の技術的進歩 (あるいは撮影技術の進歩) に感心することの方が多く、ターミネーターの怖さを体感するという点ではマイナスだったような気がする。そのため、さらに進化した今回のT-Xの登場がどう作品に影響を及ぼすかが気になった。むろん、「T2」でホラー的興趣が希薄になり、ただただ大型のアクションとして機能するようになったとしても、それでも、その手の作品としても一級の面白さを維持していたのはさすがと言えるが、しかし、「T3」でT-XがT-1000よりもっと進歩したとするならば、作品としては逆に興を削ぐことになりかねないと思っていた。


「T3」ではわりと観客の笑いをとるシーンがあるのだが、オリジナルから最も異なっているのは、シュワルツネッガーが歳とったことよりも、この、ホラー色をまとったオリジナル「T」からの路線変更にある。シュワルツネッガーがわりとユーモア路線でもいい味出すのはつとに知られていることであるが、今回、そのもう一方の魅力をかなり前面に出して成功している。もちろん「T」でも、骨組みだけになって足をもぎとられても這ってでも追いかけてくるというT-101の執拗さが観客に引き攣った笑いをもたらしていたが、今回は、最初から狙って笑いをとりに行っているのであり、その笑いが収まらないうちに次の派手なアクションへと移行するというサーヴィス精神が旺盛だ。


そしてその路線変更は、かなり成功していると思う。「T3」と「T」は、作品としてはまったく別物という印象を受けるが、それでも今回は、作品としては、ジェイムズ・キャメロン自身が演出した「T2」よりも、無理なくタイトにまとまっているという感じがする。それに「T3」のアクション・シーンはかなりできがよく、最近のCGをうまく絡ませたアクション・シークエンスの技術の進歩は目を見張るものがある。特に前半部の、クレーン車に乗ってコナーとケイトを追いかけるT-Xを、バイク/消防車に乗ったシュワルツネッガーが追いかけるというシークエンスは、スピード感、アクション、ヴァイオレンスに、さらにユーモアまでブレンドし、うーむ、ターミネーター侮るべからずと思わせてくれる。


それでも気になるところがあるとすれば、それは、やはり不死身のターミネーターも歳とったと感じさせてしまうことだろうか。年齢なぞ超越しているはずのターミネーターの顔に、よく見ると微かに皴が刻まれており、それを隠すためにドーランが厚塗りになってしまっている。最初の「ターミネーター」から既に早20年近く。未来からやって来たサイボーグのターミネーターが、実は本質のところで時間を打ち負かしたわけではないことが知れるのだ。「ターミネーター」シリーズも、これで打ち止めになるであろうことを確信させる。


T-101の敵となるT-Xに扮するのは、モデル上がりのクリスターナ・ローケンで、こないだCBSの「レイト・ショウ」にゲストで出ていた。「レイト・ショウ」は最近、ホストのデイヴィッド・レターマンが歳とったためか、本人は休んで代替ホストが代わりを務めることがとみに多くなって、その日もレターマンに代わって「サタデイ・ナイト・ライヴ」のジミー・ファロンがホストを担当していた。その時に二人がほとんど同じニューヨークのアップステイトの出身ということがわかったのだが、だから話が弾むというよりも、だからなんなんだという感じでつまらなさそうに相づちを打っていたローケンが印象的だった。あまり表情に変化がなく、本当にターミネーターみたいだと思った。だからこその抜擢だったんだろうが。


人間の主人公、ジョン・コナーに扮するのはニック・スタールで、「T2」でジョンを演じたエドワード・ファーロンは、今回は関係していない。小耳に挟んだところによると、ちょっと名が売れた後、パーティ・アニマルとして、ドラッグのやり過ぎだとかで一時はがりがりに痩せてしまったために、今回は見送られたという話を聞いた。うちの女房なんて、「リトル・オデッサ」を見て以来ファーロン・ファンで、なんでファーロンは出てないんだと、そればかり残念がっていた。


とはいえ、別にスタールは悪くない。「イン・ザ・ベッドルーム」でも悪くなかったし、それよりも劇場公開にこそならなかったが、「ザ・スリーピー・タイム・ギャル」では、控えめな演技ながら非常に印象を残した。今回はそれとはまったく逆の、不精ヒゲを生やしたややマッチョなアクション作品に挑んでいるわけであり、なかなか芸幅は広そうだ。


芸幅で言うと、そのコナーを助けるケイトに扮するクレア・デインズも、どちらかというとアーティなドラマでの印象の方が強いが、「モッド・スクワッド」みたいなアクションにも出ている。しかし「モッド・スクワッド」はどこから見ても失敗作だった上、本人も演技はともかくアクションはできないことを証明してしまったために、今回の出演には一抹の不満があった。それなのに、「T3」では打って変わって溌剌としており、やはりアクションは演出家の腕次第だということを再確認した。まあ、それはアクションに限らないか。いずれにしても、デインズはまだ20代の前半だろうに、既にトウが立ってきた印象を受ける。欧米人の女優は、歳をとるのが早い。あと5年経ったら無理なく老け役ができそうだ。とはいえ私は「アンジェラ (My So-Called Life)」以来彼女のファンです。


ところで既に今夏の3大失敗作が発表されちゃったわけだが、「ハリウッド・ホミサイド」はどうなったのか? あまりにも最初から無視されちゃったために、編者もこういう映画があったことすら忘れてしまっていたようだが、3大失敗作以上の、今夏の本当の失敗作と言えば、やはり「ハリウッド・ホミサイド」をおいて他にあるまい。なんてったって公開初週からほとんど誰も見ていなかったのだ。ハリソン・フォード主演のアクション映画なんだぞ。その「ハリウッド・ホミサイド」を差し置いて今夏3大失敗作に挙げられてしまった「フル・スロットル」、うーん、見るべきかほっておくべきか。







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