400年後の未来、致命的な伝染病を生き延びた人々は地球上の一角に外部から遮断された世界ブレグナを構築して、その中で生活していた。そういう社会でも支配する者とされる者がおり、反乱軍モニカンのイーオン・フラックス (シャーリーズ・セロン) は、その先鋒として旧態依然の状態に甘んじる政府に抵抗していた。そのイーオンの唯一の心の安らぎは妹のウナ (アメリア・ワーナー) だったが、そのウナが何者かによって殺されてしまうという事件が起きる‥‥


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特にファンというわけではないのだが、SF/ファンタジーとホラーは時として無性に見たくなることがある。今回は「ナルニア国物語」と「イーオン・フラックス」の間でどちらを見に行こうか悩む。さらにどちらかを見てしまった場合、来週公開の「キング・コング」を果たして見に行く気になるか疑問という当然の問題がある。


まず、「ナルニア」が「ロード・オブ・ザ・リングス」同様、何部作にも分かれ、今回だけでは完結しないということで、ちょっと気が引ける。実は本当は雪の女王を演じるティルダ・スウィントンは見たいのだが、「リングス」のケイト・ブランシェット同様、別にそれほど出番が多くなかった場合、作品が面白くなかった時の気持ちのはけ口の持って行きようがない。さらにこないだニューヨーク・タイムズを読んでいたら、動物が実際に話し出す実写映像化はイメージを壊すとして原作者のC. S. ルイス自身が反対していたということで、まず「ナルニア」をパスする。


「キング・コング」は現在圧倒的なマーケティング/宣伝が展開中で、実は予告編を見る限り、特にはそそられない。アニマトロニクスかCGか知らないが、かなり恐竜やコングの動きがぎこちなく見えるのはどうしてだろう。わざとそういうキッチュな路線を狙っているとも思えないのに。そういえばピーター・ジャクソンは「リングス」でもそういうことしていた。狙う、狙わないというよりも、本人が気にしてないのかもしれない。さらにその「コング」、「リングス」並みの3時間7分という目眩がしそうな上映時間だそうで、オリジナルの「コング」が1時間40分でちゃんと語り終えたものを、2時間10分に引き延ばした76年のリメイクが冗漫とあれだけ叩かれたのに、よりにもよって3時間か。おかげで段々こちらにも興味を失いつつあった。


そういうわけで結局1時間30分の「イーオン・フラックス」を見に行くことにする。時間だけにこだわるわけじゃなく、なんといっても主人公のイーオンを演じるシャーリーズ・セロンがかなり絵になっているところがいい。SFはやはり格好いいかどうかがポイントだ。絵になるかどうかだけに絞れば、セロンの「イーオン・フラックス」は「トゥーム・レイダー」のアンジェリーナ・ジョリーよりもポイント高い。


「イーオン・フラックス」は90年代中盤にMTVで放送されていたアニメーションがオリジナルなのだが、私はそのことを聞くまで番組のことを思い出しもしなかった。実は勝手にヴィデオ・ゲームの映像化だろうと思い込んでいた。アニメーションの映画化と聞いて初めて、そういえば、昔そういうのが確かにあった、と思い出した。


セロン扮するイーオン・フラックスは、ジョリーが一見して「トゥーム・レイダー」主人公のララ・クロフトを彷彿とさせるのとは違って、特にオリジナルの主人公の絵に印象や外見が似ているわけではない。私の意見ではむしろセロンの方が美人で様になっている。実はまったく機能的には見えない衣装をああも様になっているように見せられることができる女優は、他にあまりいないだろう。


演出のカリン・クサマは、そういう、絵になるセロンを最も意識したようで、実際、かなり格好いい。セロンがこういう役を引き受けたのも、たぶん「モンスター」「ノース・カントリー」で地に足がついた、というか、どん底の役を演じたことの反動だろうが、これらの作品はともかく、このイーオン・フラックスはセロンでなければ体現できまいと思ってしまう。今現在、女性が主人公のヴィジュアル系SF/アクションでは、セロン、ジョリーに「アンダーワールド」のケイト・ベッキンセイル、「バイオハザード」のミラ・ジョヴォヴィッチを入れた4人が四天王といったところか。


それにしてもセロンはその「モンスター」、「ノース・カントリー」に続いての女性監督との共同作業で、IMDBを見てみたら、次作の「ジ・アイス・アット・ザ・ボトム・オブ・ザ・ワールド (The Ice at the Bottom of the World)」は、なんと「ボーイズ・ドント・クライ」のキンバリー・ピアース作品だそうだ。どう考えてもまたどん底の役をやりそうだ。その後でやっと「ミニミニ大作戦 (The Italian Job)」続編の「ザ・ブラジリアン・ジョブ (The Brazilian Job)」(邦題が「ミニミニ大作戦2」になるか見物である) で、再びF・ゲイリー・グレイとタッグを組む。女性かマイノリティとの仕事が多いのは、彼女が南ア出身というのと何か関係があるか。


「イーオン・フラックス」は、実はかなり強力な脇でも印象深い。イーオンと共同で計画遂行に当たるパートナーのシサンドラに扮するのは「ホテル・ルワンダ」のソフィー・オコネドで、セロンの恋愛の対象となるトレヴァーを演じるマートン・ソーカスは「キングダム・オブ・ヘブン」に出ている。妹ウナに扮しているのが、あの「ローナ・ドゥーン (Lorna Doone)」や「クイルズ」の童顔女優アメリア・ワーナーだと気づいた時には、思わずあっと声を出しそうになった。体重が増えそうなのを抑えるのが大変そうだ。400年も生きているというプレグナの主のような存在がピート・ポスルスウェイトで、反乱軍モニカンを司るハンドラーに扮しているのは、こないだの「ノース・カントリー」ではセロンの最大の味方だったフランシス・マクドーマンドである。かなり強力な布陣と言えよう。


「イーオン・フラックス」はよく知られているようにアクション・シーンの撮影中にセロンが怪我をし、だいぶ撮影に差し障りが出た。それがなければだいぶ前に封切られていたはずで、この、年も押し詰まってきた時に何もわざわざ「キング・コング」や「ナルニア」等の大型アクション作品と競争するはめにならずに済んだはずだ。セロン自身、「ノース・カントリー」が公開した直後で、できれば間を置いて公開してもらいたかっただろうと思うが、スタジオにもスタジオの都合というものがあった。しかし、私は「ナルニア」よりも「キング・コング」よりも「イーオン・フラックス2」の方が見たい。






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Aeon Flux   イーオン・フラックス  (2005年12月)

 
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