The Mustang


ザ・ ムスタング  (2019年4月)

ウマが描かれる作品というと思い出されるのは、何はともあれ昨年の「ザ・ライダー (The Rider)」だ。昨年はテイラー・シェリダン演出、ケヴィン・コスナー主演のパラマウント・ネットワーク番組の「イエローストーン (Yellowstone)」もあったが、ウマがよく描かれはするが主要テーマとは言い難い「イエローストーン」とは異なり、「ライダー」と「ムスタング」は、ウマが主要なキャラクターであることで共通している。  

  

そしてさらに注意を惹くのが、「ライダー」、「ムスタング」という、共に西部を舞台とするやたらと泥くさく男くさい両作品を演出しているのが、女性、しかもこれまた共にアメリカ人ではない外国人女性であることだ。  

 

これはいったいなんでだろうと思ってしまう。ジャンルものとしてはこれ以上アメリカアメリカしたものはない西部劇、しかもこれ以上なく男くさいジャンルの代表と言える現代版西部劇を、一人は中国人のクロイ・ザオ、一人はフランス人のロール・ドゥ・クレルモン-トネールが撮る。さらにクレルモン-トネールは、やたらと長ったらしく仰々しい名前が示唆する通り、英仏の王家の血を引いているそうだ。そのクレルモン-トネールが、刑務所と男とウマというこの上なく泥くさい題材で、アメリカ西部を舞台に、ついでに言うとベルギー人俳優のマティアス・スーナールツを主人公にして撮る。思わず、こんなんでいいのかと思ってしまう。  

  

その「ムスタング」は、スーナールツ演じる囚人のコールマンと、決して人になつかない暴れウマ -- ムスタング -- との交流を描く。コールマンは短気ですぐ暴力をふるうため、誰とも相容れなかった。要するにムスタングと一緒だ。コールマンのいる刑務所は、囚人の矯正プログラムの一環として、囚人にウマを調教させていた。そのプログラムを管轄するマイルズ (ブルース・ダーン) は、コールマンを、マーカスと名付けられたそのウマの調教に当たらせる。  

  

ウマに関してはまったくの素人のコールマンは、当然、当初何をやってもうまくいかない。しかし他の者の助けを受け、少しずつではあるがマーカスと心を通わせていく。一方、コールマンには妊娠している娘のマーサがおり、時々コールマンに面会に来ていたが、娑婆に未練のないコールマンは、マーサにもすげなく当たる。しかしマーカスとの触れ合いは、徐々にコールマンのささくれだった気持ちに変化を与えていた。そして数か月の調教の結果を示すオークションが行われる。ここで認められ、買い手がつかないと、マーカスは調教不能の暴れウマとして、殺処分される。小さいながらも晴れの舞台のはずだったが、見に来てくれるようわざわざ手紙を書いたマーサはオークション会場に現れず、コールマンは動揺し、その気持ちはマーカスにも伝染してしまう‥‥  

  

最初から最後まで男男した話で、セリフのある女性は、カウンセラー役のコニー・ブリットンと、コールマンの娘マーサに扮するギデオン・アドロンだけだ。そのアドロンだが、ダーン繋がりのせいだと思うが、映画を見ている間中、アドロンと、やはりダーンが出ていた昨年の「ホワイト・ボーイ・リック (White Boy Rick)」で、主人公の姉を演じたベル・パウリーの顔が被ってしょうがなかった。共に父親が社会の爪弾き者で、結局自分も半分身を持ち崩し、たぶんしょうもない男に孕ませられて身ごもっているという環境がそっくりだ。見直すと、特に似ているわけでもないんだが。  

  

いずれにしても鈍くさいベタな話で、つまり、こう言っちゃなんだが、浸れてしまう。最後はわかっていてもうるうるものだ。とはいえ、どんな話を、どこの国の、どの性別の人間が撮ってたっていいじゃないかと頭ではわかっていても、なんでこれを女性が撮ってしまうんだろうとは、どうしても思ってしまう。「ムスタング」、「ライダー」だけに限らず、 「ビューティフル・デイ (You Were Never Really Here)」のリン・ラムジーや「足跡はかき消して (Leave No Trace)」のデブラ・グラニックなど、最近は男くさい話を女性監督が撮る。あるいは、こうやって映画界の裾野が広がっていくのを、安心して見守っていけばいいだけだろうか。 

 

スーナールツのフィルモグラフィをチェックしていて気づいたのだが、彼の出演作は多くが日本では未公開だった。特に「クライム・ヒート (The Drop)」「遥か群衆を離れて (Far from the Madding Crowd)」という、前者はスーナールツの持つ危ない部分、後者は甘い部分がよく出ている作品が未公開なのは惜しい。ハリウッド大作なので「レッド・スパロー (Red Sparrow)」は公開されているが、スーナールツにしてみると、これだけで自分を判断してもらいたくはないに違いない。「ムスタング」は話の展開上、当然危ない面が前面に出てくるが、だからこそ暴れウマと心を通わせる柔らかい部分が効果的だ。今のところ、彼の代表作と言えるのではないか。  











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10年以上刑務所暮らしのローマン・コールマン (マティアス・スーナールツ) は、切れやすく、すぐ暴力をふるってしまう性格を自分でも自覚しており、自分から好んで娑婆に戻りたいとは考えていなかった。ある時、屋外作業中に離れの小屋が騒がしいのに気づいたコールマンは、近づいてそれが人間に懐かない暴れウマであることを知る。コールマンは、ウマの世話をしているマイルズ (ブルース・ダーン) からそのウマの世話を命じられる。マーカスと名付けられたそのウマは、しかし、決して人に媚びることはなく、ましてやウマに関してまったくの素人のコールマンには、簡単に従順になるわけがなかった。コールマンは囚人仲間のヘンリーの力を借り、なんとかマーカスを手なづけようとする‥‥  


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