Far from the Madding Crowd


遥か群衆を離れて (ファー・フロム・ザ・マッディング・クラウド)  (2015年6月)

「ジュラシック・ワールド (Jurassic World)」が今週末から公開なのだが、なかなか巷の注目度が高く、これは混みそうだと、来週にしようと決める。最近はオール・リクライニング・シートの劇場が増えたせいで、満席ではあっても結構楽に見れることは見れるが、一方で一館当たりの席数が減ったために、簡単に売り切れになることも多くなった。


それで、というわけでもないが、キャリー・マリガン主演の「ファー・フロム・ザ・マッディング・クラウド」に決める。トマス・ハーディ原作のいわば文芸作で、かつてジュリー・クリスティ主演、ジョン・シュレシンジャー演出で、「遙か群衆を離れて」という邦題で映画化されているが、私は見ていない。原作は「狂おしき群をはなれて」という題でも邦訳されている。それにしてもトマス・ハーディって、縮めるとトム・ハーディになってしまうな。


一方、ハーディといえば、私にとってはロマン・ポランスキーの撮った「テス (Tess)」で、「ファー‥‥」同様やはり綺麗な女性を主人公とする文芸作だ。何が印象的だったかといって、主人公テスを演じたナスターシャ・キンスキーの当時の白痴的にすら見える圧倒的な美貌に惚れ惚れしたという、内容よりもそのことしか覚えていない。同様に、現在圧倒的に可愛い (という歳からは卒業しつつあるが) マリガン主演の作品ということで、話そのものよりもマリガン目当てで劇場に足を運ぶ。


マリガンが文句なしに世界で最も可愛い女優だったと断言できるのは、「ドライヴ (Drive)」に出た時で、この時のマリガンの可愛さといったら、もう異常なくらいだった。こんな可愛い子をほっといて犯罪に走る夫に本気で腹が立ったくらいだ。そういえばこれでマリガンの夫を演じていたのはオスカー・アイザックで、そういや彼は「インサイド・ルーウィン・デイヴィス (Inside Llewyn Davis)」でもマリガンを孕ませていた。なんという奴だ。


しかしあっという間に年月は経ち、既にマリガンも妙齢の女性という感じになった。むろん今でも美形には変わりないが、可愛いというよりも落ち着きや成熟の方が勝ってきた。マリガンは今、ブロードウェイで「スカイライト (Skylight)」の舞台に立っており、それもあって今年のトニー賞授賞式にも出ていたが、最初、彼女がマリガンと気づかなかった。可愛かった時代のマリガンの印象が強烈過ぎるせいだ。


それで、そういや「ドライヴ」以前のマリガンってどんなんだったっけと思ってチェックして、「プライドと偏見 (Pride and Prejudice)」に出ているのを見つけて驚いた。出てたっけ? マリガン? そういやあの姉妹、演じていたのはキラ・ナイトリーとロザムンド・パイク、ジェナ・マローン‥‥の3人までは覚えているが、五姉妹のあと二人を思い出せない。とすると、その二人のうちの一人がマリガンか。


そう思ってYouTubeでトレイラーを見てみると、確かにマリガン、出ている。しかしこの時のマリガン、可愛いことは可愛いが垢抜けない田舎育ちの女の子という感じで、周りをナイトリー、パイク、マローンという曲者に囲まれて、かなり分が悪かったろう。それを考えると、マリガンが最も可愛かった時に「ドライヴ」を撮ったニコラス・ウィンディング・レフンに感謝しなければならない。


「ファー」でマリガンが演じるのは、独立独歩の気性の女性バスシーバで、最初羊飼いのゲイブリエルから、次に貴族のボールドウッドから、そして軍人のトロイと、氏も育ちも性格もまったく異なる3人の男性から求婚される。バスシーバはほとんど映画の冒頭でゲイブリエルから求婚されその場で却下するのだが、都落ちしたという印象の軍人トロイの危険な雰囲気にはよろめいてしまう。実はトロイには結婚を約束した女性がおり、式を挙げるはずだったのが、相手の女性が教会を間違えてしまったため、すれ違いになってしまっていたのだ。


ゲイブリエルはバスシーバに、トロイは住む世界が違う、やめた方がいいと忠告するのだが、バスシーバの燃え上がった気持ちは止めようがない。なんで女ってこんな益体もない男に惹かれてしまうのか。バスシーバは逆に、使用人の分際で私に意見するのかとゲイブリエルに腹を立てる始末。とまあ、話はバスシーバが最終的にいったい誰と結ばれるのかというミステリ的な展開を見せ、飽きさせない。結局男なんかより独身だという手もあり得る。一方で大仰なメロドラマという乗りもある。そういや「テス」もそういう話だった。


バスシーバに求婚する3人の男性に扮しているのが、ゲイブリエル=マティアス・スーナールツ、ボールドウッド=マイケル・シーン、トロイ=トム・スターリッジという布陣。特にスーナールツは、「ザ・ドロップ (The Drop)」のお前こそ危ない役柄から今回は実直な羊飼いと、180度異なる役柄だ。しかし長身でガタイがよく、それらしく見える。最早ヴェテランのシーンはショウタイムの「マスターズ・オブセックス (Masters of Sex)」に主演中で、こういうちと気の弱そうな役がはまる。スターリッジは初めて見たが、ちょっと自己中で嫌みなハンサムという味がこちらもよく出ている。演出はトマス・ヴィンターバーグ。


実は私はこの原題、「Far from the Madding Crowd」ではなく、「Far from the Madding Cloud」だと思っていた。頭の中では日本語は「Crowd」も「Cloud」も両方「クラウド」なのだ。最近IT環境でよくクラウドが話題になるので、原作を知らなかった私は、単純に「Cloud」の方で間違って覚えてしまった。「狂乱の俗世間」ではなく、「立ち込める暗雲」のようなイメージで解していたわけだが、こっちのイメージも悪くない、と一人で正当化していたのであった。










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19世紀英国。バスシーバ (キャリー・マリガン) は進取の気性を持ち、馬にも乗り、男性に頼るよりは一人で自分のことは自分で決めて生きることを選ぶ女性だった。そのため羊飼いのゲイブリエル (マティアス・スーナールツ) から求婚されても断ってしまう。バスシーバは伯父の死によって土地と邸宅を手に入れ、女性主として収まる。一方ゲイブリエルは、できの悪い牧羊犬が羊を追い込んで崖から落として全部殺してしまったため廃業を余儀なくされ、農夫としてバスシーバの下で働き始める。近くに住む富豪のボールドウッド (マイケル・シーン) はバスシーバを見初め求婚し、そしてまた、過去を持つ軍人トロイ (トム・スターリッジ) が村に現れ、バスシーバは心惹かれるものを感じるのだった‥‥


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