White Boy Rick


ホワイト・ボーイ・リック  (2018年10月)

情報提供者、タレコミ屋は、割りに合わない。先頃、スコット・クーパーの「ブラック・スキャンダル (Black Mass)」でジョニー・デップが演じた、史上最も悪名高い密告者で、現在服役中のホワイティ・バルガーが死んだ。新しく移動させられたばかりの刑務所内で、他の囚人から殴り殺されたらしい。 

 

なんかこの話はかなりきな臭く、既にほぼ90歳という高齢で、車椅子でないと移動できなかったバルガーが、なんでまた今さら刑務所を替わらないといけなかったということもそうなら、移動して数時間後に殺されたというのは、さらに疑わしい。バルガーは2連続終身刑で服役中で、生きて娑婆に出られる可能性はなかった。 

 

健康上の理由で刑務所を替わったというよりは、最初から仕組まれて刑務所を替わらされて息の根を止められたという疑惑は強い。自然死される前に、ギャングの掟に照らして、あるいは恨みを持つ者によって手を回されて殺されたという疑念がつきまとう。あるいは、バルガーの死の発表はあってもその後の、あって然るべきの死の経緯を説明するニューズがないところを見ると、ギャングによってではなく、暴露本を書かれることを怖れたFBIの手による犯行の線も考えられないこともない。真相は藪の中だ。要するに、いずれにしても、タレコミ屋は結局のところ割りに合わない。 

 

このことは、もちろん「ホワイト・ボーイ・リック」の主人公、リックにも当てはまる。バルガーが史上最も名高い内通者であるとするならば、リックは史上最年少の内通者だった。だいたい、14歳にしてギャングの内情に通じており、内通者として有用であるということが恐れ入る。14歳ですか。自分が14歳の頃のことを思い出すと、まったく異なる世界で生きていたというしかない。 

 

リックの父リックSr.は、息子に向かっていつかオレとオマエでヴィデオ・ショップを開こうぜと夢を口にするが、甲斐性のない父にその夢を叶えることはできまいと、リックも薄々わかっている。姉のドーンはヤク中で、リックSr.はなんとかドーンを真っ当な道に進ませたいとは思っているようだが、自身が違法銃器を密造している身でドーンに説教してもほとんど説得力がなく、結局ドーンは黒人ボーイフレンドと家を出ていってしまう。 

 

リックは自分の面倒は自分で見るしかなく、父が密造している銃を顔見知りのギャングに持ち込んだことから、その世界で地盤を築いていく。黒人ギャングが横行する世界で白人のリックは目立ち、元々銃の密造販売をしている父が目をつけられていたことからFBIの目に止まり、ほとんど強制的にギャングの内情の報告を求められる。リックは史上最年少のFBIの内通者になる。 

 

だいたい、内通者、密告者というものは、裏切り者だ。特にギャングのような裏社会で活動している組織にとっては裏切り者の存在は自分たちの生死に関わるので、当然徹底的に処分、排除しようとする。ギャングだろうがヤクザだろうが犯罪組織に最も重要なのは忠誠心というのは洋の東西を問わない。それだけの忠誠心で真っ当に働いたら、どこでもそこそこの成功を収められるだろうに。

 

リックだろうがバルガーだろうがそのことは充分わかっていたと思うが、それでも裏切る。そして結局最終的に待っていたものは、両サイドからの締め付け、制裁だ。バルガーはたぶんそのせいで、ほとんど自然死を待つ年齢になってもそれを許されず殺される。 

 

リックだって結局コカイン密売で逮捕され、終身刑の判決を受ける。その時FBIは彼を守ってくれなかった。リックは昨年ほぼ30年間の刑務所暮らしの後、保釈されているのだが、すぐにまた軽犯罪を犯して刑務所に逆戻りしている。保釈中の犯罪ということで、もう二度と娑婆には戻れないかもしれない。リック自身はまた逮捕されたことを母と姉のためだと言っているそうだ。姉はともかく、母って誰だ? 映画には出てこなかったぞ。たぶん父に愛想を尽かして出て行ってしまったのだろうが、まだ連絡をとっていたのか。 

 

あるいは、また刑務所入りしたのは、バルガーのようにギャングからの報復で殺されないようにするためだとも考えられる。それともギャングが本気でその気になったら、バルガーや「ゴッドファーザー (The Godfather)」のように、殺し屋から逃れる術はないかもしれない。いずれにしても言えることは、結局のところ、タレコミ屋は最終的にはやっぱり割りに合わない。それにしても一生かけて得た教訓がそれか。 

 

主人公のリックに扮するリチャード・メリットこそ初めて見る顔だが、周りを固める面々はなかなかのメンツで、父リックSr.に扮しているのはマシュウ・マコノヒー、祖父にブルース・ダーン、祖母にパイパー・ローリー、FBIエージェントに扮しているのはジェニファー・ジェイソン・リーとロリ・コクレインだ。だいたい、ダーンが出てきた途端、その部分だけなぜだかロード・ムーヴィ的なオーラを放つ。コクレインの場合は「ブラック・スキャンダル」にも出ており、アメリカ史上最も悪名高い二人の密告者に関係している。もしかしてお前こそ裏でなんかしていないかと思わせる。 











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1986年デトロイト。ティーンエイジャーのリックJr. (リチャード・メリット) は副業で自宅の地下で銃を改造販売している父リック (マシュウ・マコノヒー)、ヤク中の姉ドーン (ベル・パウリー) と暮らしていた。リック親子の夢はヴィデオ・ショップをオープンすることだったが、現状から言ってそれは叶いそうもなかった。ある日リックは父に内緒で改造したAK47を顔見知りのギャングに売りつける。ギャングとつるむようになった白人のリックは、黒人ばかりのギャングの中でも目立つ存在で、FBIから目をつけられ、情報提供を迫られる。違法武器の製造や販売という負い目があるリックは、14歳という若さにしてFBIの情報提供者になる。しかしそのことに対してFBIからの見返りはなく、リックはギャング仲間とドラッグの販売に手を出すようになる。瞬く間に大金を手にするリックだったが、しかしそれは非常に危ない橋だった‥‥ 


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