Black Mass


ブラック・スキャンダル  (2015年9月)

「ブラック・スキャンダル」は、1970年代から80年代にかけてボストンでFBIの密通者となり、好き勝手し放題した挙げ句、逆に自分がお尋ね者になってFBIから追われる羽目になったギャング、ジェイムズ・「ホワイティ」・バルガーを描くドキュドラマだ。


ボストンはアイリッシュの縄張りみたいな印象が強いが、それでもイタリアン・マフィアはいる。イタリアン・マフィアというと、何はともあれニューヨーク拠点のマフィアを描く「ゴッドファーザー (The Godfather)」だが、マフィアはなにもニューヨークの専売特許ではない。「ゴッドファーザー」でも、アメリカ各地のマフィアやギャングが手を結ぼうとしていた。実際に当時ボストンでも最も勢力を持っていたギャングはイタリアン・マフィアだったそうで、FBIはその取り締まりに手を焼いていた。


ジョン・コノリーとホワイティは、柄のよくないボストン南部で少年時代を一緒に過ごした。成長したジョンはFBIエージェントとなるが、ホワイティは町を仕切るギャングになっていた。ジョンはホワイティに、内通者となってイタリアン・マフィアの内情を知らせてくれれば、悪いようにはしないという話を持ちかける。最初は話を断るホワイティたが、仲間がマフィアに殺されたこともあって、ジョンに同意する。


ホワイティは、一方で仲間の結束を最も重要視していながら、もう一方で身内にも内緒でFBIへの密通者となる。FBIでもジョンの行動は灰色、というかほとんど法に触れるものであり、ジョンを敵視する者は多かった。さらにホワイティの弟ビリーは若手政治家として信望が厚かった。すべてが微妙なバランスの元で動いており、今はまだうまく行っているからいいものの、いつ瓦解するかわからない危険を常に孕んでいた。ホワイティは徐々にヴァイオレンスの度合いをエスカレートさせていき、犯罪者でありながら彼一人だけ検挙されない状態に検察の不信の目が向けられ、均衡が崩れ始める‥‥


ボストンを舞台とするクライム・ドラマとなれば、今は誰もが「ミスティック・リバー (Mystic River)」「ゴーン・ベイビー・ゴーン (Gone Baby Gone)」等のデニス・ルヘインの諸作を思い起こすに違いない。そこにさらに加わったクライム・ドラマの新作が、「ブラック・スキャンダル」だ。他にも「エッジ・オブ・ダークネス (Edge of Darkness)」「ザ・タウン (The Town)」「ディパーテッド (The Departed)」、TVのショウタイムの「ブラザーフッド (Brotherhood)」等、70年代からそこら、ボストンの治安は悪化してこそあれ、よくはなってないようだ。TNTの刑事ドラマ「リゾーリ・アンド・アイルズ (Rizzoli & Isles)」が、最も平和なボストンを描いているように見えてしまう。そういえば、つい最近見た「インフィニットリー・ポーラー・ベア (Infinitely Polar Bear)」こそ、実際に1970年代末の、ホワイティが暗躍していた時代のボストンを描く作品だった。


と、ここまで書いて、あっと思った。「ブラザーフッド」って、確かギャングの兄、政治家の弟を描く実話を元にした話だった。ということは、とチェックして、やはり「ブラザーフッド」もホワイティとビリーのバルガー兄弟を素材にしたドラマだった。もっとも、こちらの方はだいぶ脚色してある。一方「ブラック・スキャンダル」は実話の映像化であり、基本的に実際に起こったことを描いている。それにしても兄がFBIの最重要指名手配者リストの1、2に挙げられる人物で、その弟が地域で最も信頼されている政治家だ。最終的に弟のビリーも失脚するわけだが、それでもこういうことが現実に起こっているというのがすごい。どっちも信頼されているが裏で何しているかわからないという点においては、やはりギャングも政治家も同じ穴のむじなか。


主演のホワイティに扮するジョニー・デップは、多くの者が「フェイク (Donnie Brasco)」を思い出すだろう。ただしあれは素性を偽ってギャング組織に潜入する囮捜査官の話だったが、こちらは元々ギャングだが、自分から仲間を裏切ってしまうという話。あるいは、FBIと内通することが自分たちのためになることも確かであり、少なくとも最初の方では自分が仲間の信頼を裏切っているという意識はなかったかもしれない。それでも、ホワイティの素行が段々異常になって行くように思えるのは、やはり仲間を裏切っていることに対するなんらかの自責や呵責のようなものがあったからか。それにしても囮捜査官と密通するギャングとでは、どちらが罪は重いだろうか。それとも罪なんかではないと言い切れるか。


ジョン・コノリーに扮するのがジョエル・エドガートンで、ホワイティの弟ビリーにはベネディクト・カンバーバッチが扮している。これだけでもなかなか豪華な布陣だと思えるのに、その後もジュリアン・ニコルソン、ダコタ・ジョンソン、ピーター・サースガード、ケヴィン・ベーコン、コーリー・ストールといった面々が登場する度に、おっ、こいつらまで出ていたのかと思わせられる。なかなか大作だったんだな。演出は「ファーナス (Out of the Furnace)」のスコット・クーパー。「クレイジー・ハート (Crazy Heart)」での中西部の田舎町、「ファーナス」での寂れた炭鉱町を経て、ボストンに進出してきた。












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ジョン・コノリー (ジョエル・エドガートン) とジェイムズ・「ホワイティ」・バルガー (ジョニー・デップ) はボストンの南部で少年時代を一緒に過ごした幼馴染みだった。1975年、成長したコノリーはFBIエージェント、ホワイティは地元のギャングになっていた。一方、ホワイティの弟ビリー (ベネディクト・カンバーバッチ) は、地元の名士として頭角を現す政治家だった。コノリーはホワイティと連絡をとり、ボストンを仕切るイタリアン・マフィアを取り締まるための密告屋になることを持ちかける。しばらくしてついにホワイティのもたらした情報によってマフィアに壊滅的打撃を与えることに成功するが、力をつけ過ぎたホワイティの暴走が目に余るようになる。息子や愛する母の死は、ホワイティに過度な暴力への指向を強まらせ、コノリーもホワイティの扱いに手を焼くようになる‥‥


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