Red Sparrow


レッド・スパロー  (2018年3月)

最近またスパイが注目されている。今回はロンドンで、元ロシア・スパイの父娘が、たぶんマレーシアで北朝鮮のキム・ジョンウン委員長の兄が毒殺されたのと同じ毒を嗅がされ、重態に陥った。ロシアは数年前にもやはり元スパイの毒殺疑惑がある。指示を出したと見られるプーチン大統領が、キム、およびアメリカのトランプ大統領と並び、世界を滅亡へと導く三大危険人物の一人であるのは間違いない。これに中国の習近平国家主席を加えて、危険人物四天王としてもいいか。 

  

いずれにしても、ロシアが自国外でも危険分子の削除に、その人物の命を奪ってもよしとする考え方をするのはよく知られているところで、オリンピックをはじめとするスポーツ競技でも、バレなきゃいいと、国家ぐるみでドーピングする。こういうものの考え方が横行する国というのは、やはり危険という印象は否めない。 

 

そういう国がスパイを養成しようとすると、血も涙もない血生臭いものになりそうだという感じは、確かにする。これが英国だと007「キングスマン (Kingsman: The Secret Service)」のようなスマートさ、格好よさを主眼とするスパイものになり、アメリカだと色々あるが、代表的なジェイソン・ボーンものはとにかくアクションという感じで、いずれにしても陰々滅々とした印象は受けない。

 

正直言って、筋書きだけを見るともっと暗くなりそうな「レッド・スパロー」がそこまで陰鬱な印象を受けるわけではないのは、やはり主人公を演じるジェニファー・ロウレンスが、本人の印象としてはまったくネガティヴではないというのが大きいと思う。これが現実に元バレエ・ダンサーであり、役柄としてはもっと合っていると思えるアリシア・ヴィカンダーがドミニカを演じていたら、はまったと思うのだが、残念ながらヴィカンダーは現在、こちらではなくもっとアクション・ヒーロー的な「トゥーム・レイダー (Tomb Raider)」で主人公に扮している。 

 

第一、ロウレンスは私見ではバレエ・ダンサーとするには、こう言っちゃなんだが、ちょっと肉づきがよすぎる気がする。ロウレンスをリフトするのは、男性ダンサーには負担が大きいのではと思ってしまう。「ブラック・スワン (Black Swan)」でナタリー・ポートマンが主人公を演じた時のようには、ロウレンスは役柄には必ずしもフィットしていない。 

 

一方で、バレエを特訓したロウレンスは、現実にかなりのバレエ・シーンを本人が踊っているそうで、それには結構感心する。とはいえ、やはりロウレンスの魅力が全開になるのは、バレエの道を断たれてスパイ養成所に入って以降だろう。 

 

「レッド・スパロー」におけるスパイの養成は、「キングスマン」とはまったく違った面白さを提供する。だいたい、最終的には本人が自分の意志でスパイを志向し、いざとなれば降りればいいという逃げ道が残されている「キングスマン」に対し、「レッド・スパロー」ではたぶん他に選択肢のない者たちが、生き延びるための最後の手段としてスパイを志す。不退転の決意なのだ。「キングスマン」にせよ「レッド・スパロー」にせよ、最後まで残るには結構皆どんな汚い手段を用いてもと考えているが、それでも「レッド・スパロー」の方がぎりぎりのところでスパイを目指している。負けん気の強さが顔に出るロウレンスは、そうなると俄然持ち味を発揮する。 

 

ところでそのスパイ養成所の所長に扮しているのがシャーロット・ランプリングで、睨むと怖いランプリングに対し、一歩も退かないロウレンスはかなり楽しませてくれる。他にもジェレミー・アイアンズやメアリ・ルイーズ・パーカーという意外なキャスティングがそこここにある。最も意外というか、気づかなかったのがワーニャに扮するマティアス・スーナールツで、最初、私は彼をマッツ・ミケルセンだよな、彼、と思っていた。後でスーナールツと知って驚いた。ミケルセンとスーナールツってこれまで似てると思ったことは一度もない。ミケルセン念頭でイメージ固めて、ミケルセンをキャスティングできなかったためスーナールツをミケルセンのように演じさせたとか? こういうミスマッチというか意外性が随所にあって、なるほど、これこそスパイ映画の醍醐味だなと、一人納得する。 

 











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ロシアでプリンシパル・ダンサーとして将来を嘱望されていたバレリーナのドミニカ (ジェニファー・ロウレンス) は、公演中の事故によりバレリーナの道を断たれる。ドミニカの叔父ワーニャ (マティアス・スーナールツ) は国防の要職に就いており、ドミニカにあれは事故ではなく、ドミニカの地位を狙うダンサーが愛人の男性プリンシパルと共謀して起こした意図的なものだと明かす。ドミニカは二人に復讐するが、もはや犯罪者でしかも病気の母を抱えた身のドミニカは、ワーニャの勧めるままに国家スパイの養成機関に志願するしかなかった。意志が強く運動神経にも優れたドミニカは、レッド・スパローと呼ばれるスパイ候補としてめきめきと頭角を現す。養成所を卒業したドミニカに与えられた任務は、ブダペストで活動するCIAエージェントのネイト・ナッシュ (ジョエル・エドガートン) に接触し、裏切り者のスパイを見つけ出すというものだった。 


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