The Rider


ザ・ライダー  (2018年5月)

ある意味ロデオは時代に逆行している。昨年、「グレイテスト・ショーマン (The Greatest Showman)」で描かれた、長らく人気興行であり続けたリングリング・ブラザーズ・アンド・バーナム・アンド・ベイリー・サーカスがその歴史に幕を引いた最大の理由は、かつては目玉呼びものの一つだった動物を使うパフォーマンスが、今の時代では逆に動物への虐待として非難され、客足が落ちたためだった。 

 

それなのに、ロデオだ。暴れるウマやウシを乗りこなすロデオが、ある種、動物への虐待と見なされるのは当然で、批判の声も多い。他方、アメリカではそれがプロ・リーグとして揺るぎない人気を保っていることもまた事実だ。基本的に都市部を転々とするサーカスは、都会の住民から虐待という批判を受けやすいが、中南部に人気のロデオは、どちらかと言うと生活に密着している生活の一部であったりする。彼らにとっては、ロデオが動物への虐待という意見は当たらない。 

 

これがスペインの闘牛のように、最後にウシに鎗突き立てて殺したりしたら、さすがに風当たりは強くなるだろうが、スポーツとして、ウシやウマに怪我を負わせないことに留意した上でのロデオなら、目くじら立てることもないかという気もする。もしかしたら気性の荒いウシウマの、いい気分転換やストレス発散にすらなっているかもしれない。 

 

そう思わせるのは、主人公のブレイディが、荒ウマを乗りこなすプロのロデオ・ライダーである一方、そのウマと心を通わせることのできるホース・ウィスパラーでもあるからだ。荒ウマを乗りこなすのは難しい。力で押さえつけるのではなく、ウマの気持ちを読んで落ち着かせることも必要だ。それができるからこそブレイディはトップ・ライダーの一人だったのだが、それでも時に間違いや失敗は起きる。 

 

演じているブレイディ・ジャンドローは、ブレイディという役名のファースト・ネイムが一緒であることからもわかるように、自身もブロンコ・ライダーで、ほぼ自分自身を演じている。というか自分自身として出ている。競技で大怪我したというのも事実をなぞっている。父親や妹も、本当の父と妹が演じている。妹は自閉のキャラクターだが現実に自閉であるそうで、役として作られているわけではない。 

 

皆が自然に役に溶け込んで違和感ないのは、皆、勝手知っている自分自身に扮しているからかと思うが、自分が自分自身を演じていても、必ずしもそれが自然に違和感なく収まるわけではないというのは、先頃クリント・イーストウッドが「15時17分、パリ行き (The 15:17 to Paris)」で見せた通りだ。この違いは、本人が、これが演技と意識しているか、あるいは自分の日常を見せているだけと感じているかの違いによるような気がする。パリ行きの列車でテロリストと遭遇するのは日常とは違う事件だが、荒ウマを手なずけ跨るのは、毎日繰り返し行っている日常に過ぎない。 

 

映画では同様に伝説的ロデオ・ライダーで、今では半身不随となって介護生活の身のレイン・スコットが登場する。実際にブレイディの友人だそうだ。ただしスコットが半身不随になったのは交通事故のためだそうで、ウマから振り落とされて怪我したせいではない。いずれにしてもブレイディがスコットを見舞いに来た施設で、スコットはリハビリに励むが、その時、背景のガラス張りの壁に、撮影隊がそのまま反射して映っている。気づかなかったわけはないと思うが、避けようとした意図は感じられず、そのため、このシーンはまるで誰かが誰かを撮影しているというのがはっきりとわかる、まるでドキュメンタリーを見ているみたいな印象を受ける。実際に出ている者は、本人が本人に扮しているわけだし。これまた事実と虚構の境い目がどこにあるか曖昧になって行く。 

 

たまたまではあるが、先週見た「ビューティフル・デイ (You Were Never Really Here)」のリン・ラムジーに続いて、「ザ・ライダー」のクロイ・ザオも女性監督だ。しかも「ビューティフル・デイ」は男の監督でもかくやという強烈なヴァイオレンス描写が特色だった。「ライダー」の場合は、今度はほぼ男しかいないロデオという世界を描く、めちゃ男男した作品だ。そういう作品を女性が撮っている。ついでに言うとザオは北京生まれの中国人で、それが最もアメリカアメリカした世界を題材に選ぶ。出ている人も撮っている者も、現実とか虚構とか国とか土地とかといった垣根を限りなく曖昧にして飛び越える。 











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ブレイディ (ブレイディ・ジャンドロー) はプロのブロンコ・ロデオ・ライダーだったが、ある時失敗してウマから振り落とされて頭に大怪我を負い、一線から遠ざかっていた。回復には時間がかかり、仲間とつるんで時間を潰したりするが、なにもしなければ収入もないため、スーパーマーケットで一時的に働いてはみるものの、焦る気持ちは募るばかりだ。しかも左手には時々手が固まって動かないという、ロデオ・ライダーにとっては致命的な後遺症が残る。それでもロデオ・ライダーへの思いは断ち難く、医者が止めるのも聞かずに次のロデオ・トーナメントにエントリーするが‥‥ 


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