ザ・グレイズ   The Glades

放送局: A&E

プレミア放送日: 7/11/2010 (Sun) 22:00-23:00

製作: FOX TV

製作総指揮: クリフトン・キャンベル、ショーン・ロアーク

共同製作総指揮: ロリ-エッタ・トウブ

クリエイター/脚本: クリフトン・キャンベル

監督: ピーター・オファロン

撮影: ウォルト・ロイド、マイケル・ローマン

美術: デレク・ヒル

出演: マット・パスモア (ジム・ロングワース)、キーレ・サンチェス (キャリー・カーギル)、カルロス・ゴメス (カルロス・サンチェス)、ユーライア・シェルトン (ジェフ・カーギル)


物語: 刑事のロングワースは上司の妻との浮気が発覚してボスに撃たれ、シカゴの警察からフロリダの町に飛ばされてきた。しかしめげないロングワースはゴルフに目覚め、仕事もそっちのけで検死官のサンチェスとゴルフに興じる。そこにティーンエイジャーのカップルが沼地で女性の首なし死体を発見したとの知らせが入る。ワニが既に頭部を食べてしまった後だったのだ。身元の確認は難航するが、ロングワースは死体の胴体部にワニの欠けた歯の破片が埋まっていたことを発見する。ワニの消化は遅く、歯から死体を食べたワニを特定して解剖すれば、死体の身元確認の一助になるかもしれない。案の定そのワニは外来種で、フロリダにはまだほとんどいないことがわかる。現場で個体を特定したロングワースはワニを射殺、解剖に回す。その胃袋からは、被害者の顎の骨が現れる‥‥


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「グレイズ」を放送しているA&Eといえば、すぐ思い出すのは、最近ではリアリティ/ドキュメンタリーの「インターヴェンション (Intervention)」と「ホーダーズ (Hoarders)」だろう。その他にも、「ドッグ・ザ・バウンティ・ハンター (Dog the Bounty Hunter)」、「スティーヴン・セガール・ロウマン (Steven Seagal Lawman)」「クリス・エンジェル・マインドフリーク (Criss Angel Mindfreak)」等、圧倒的にリアリティ/ドキュメンタリーの方で知られている。


ドラマでは昨年「ザ・ビースト (The Beast)」があり、それ以前には「ザ・クリーナー (The Cleaner)」なんてのもあったが、後者はキャンセルされ、前者は主演のパトリック・スウェイジが他界したため、続きが製作されることなく終わった。結局、現在放送されているドラマは元HBOの「ザ・ソプラノズ (The Sopranos)」や、CBSの「クリミナル・マインズ (Criminal Minds)」や「CSI: マイアミ (CSI: Miami)」等、他局で放送された番組の再放送ばかりだ。だから「ザ・グレイズ」は、久方ぶりのA&Eドラマということができる。


「グレイズ」の舞台はフロリダだ。流行りのマイアミではなく、そこから北に200kmくらいのところにあるパーム・グレイドという、小さな町で話が展開する。主人公のジム・ロングワースは元々はシカゴの敏腕刑事だったが、本人曰く、部署の全員がボスの女房と浮気しているのに、自分だけが潔白だったために逆にボスから疑惑を招いて撃たれ、結果として誰も聞いたことのないようなフロリダの町に飛ばされた。


ロングワースはすぐにゴルフという格好の時間潰しを見出し、プレイに専念するようになる。元々楽天的な性格なのだろう。しかし何事も起こらない平和な町のように見えたパーム・グレイドであるが、一見しての見かけとは異なり、ロングワースのゴルフの邪魔をするかの如く、新たな事件が持ち上がるのだった。


ロングワースを演じるのがマット・パスモアで、まったく初耳だと思っていたらオーストラリア出身の俳優で、「マクレオーズ・ドーターズ (McLeod's Daughters)」という豪州製の番組に出演していた。「マクレオーズ・ドーターズ」はアメリカでは確か女性番組専門のWeが放送していた。豪州ではかなり人気番組だったらしく、それでパスモアも知名度を得たのだろう。ロングワースのラヴ・インテレストとなるキャリーを演じるのがキーレ・サンチェスで、今はなきネットワークのWBが放送した「リレイテッド (Related)」で、主人公を演じたジェニファー・エスポジトの妹を演じていた。


これまでのA&E放送のドラマは、「クリーナー」も「ビースト」も、わりと暗め重めのシリアスなドラマだった。再放送ドラマだって「ソプラノズ」だし、人気リアリティは「インターヴェンション」に「ホーダーズ」ときたら、新しいドラマだってそのようなノリになることをなんとなく想像する。それでてっきり今回もそのようなダーク系の番組だと先入観を持って見始めたら、これが実はかなり軽いノリの、ウィットを利かすタイプのアクション・ドラマだった。印象として近いのはUSAが放送している「ホワイト・カラー (White Collar)」、「バーン・ノーティス (Burn Notice)」、「サイク (Psych))」辺りで、要するにそういった、肩肘張らずに楽しめるタイプの娯楽作、というタイプの番組だ。


むろんそれが悪いわけではなく、その手のUSAドラマ同様、これが結構面白い。番組第1回ではティーンエイジャーのカップルが沼地で首なし胴体の死体を発見する。首がない死体というのは本格ミステリの常套であり、身元を隠蔽するため、というのがお約束だ。ところがここでは、死体に首がないのはこの辺りに棲息するワニが食べてしまったからだ。ここで、そんなワニがうようよしているところにいくらリビドーだらけとはいってもティーンエイジャーが車で乗り込み、いちゃいちゃするまではいいとしても、その後、車の中で無防備に一夜を明かすかというのは非常に疑問ではあるが、まあそれは置いておこう。彼らが死体を発見してくれなかったら話が前に進まない。


その後の捜査で、死体を発見したその少女が疑惑の対象として浮上する。彼女のボーイ・フレンドは、実は前に付き合っていたボーイ・フレンドの弟であり、その前ボーイ・フレンドはバイク事故で死亡したことがわかる。しかし、その後すぐにその弟と付き合ったりするものだろうか。さらに高校の臨時の女性教師が数日前から行方が知れなくなったことも判明する。女の子のティーンエイジャーが連続殺人に手を染めるという可能性はあるだろうか。ロングワースは思案する‥‥


こういった話の語り口や、意外な犯人という落とし方がなかなか鮮やかで、感心する。別に本格ミステリを読んでいるわけではないから、フェアな伏線が張られているとかそういうわけではないが、それでもヒントはあちこちにばらまかれているし、タネを明かされると、あ、そうだったかと納得する。


ユーモアのちりばめ方もなかなかのもので、途中、被害者を食べたワニが重要な証拠を握っているのは間違いないとして、たぶん勝手に捕獲したり殺したりしてはいけないはずのワニをいきなり撃ち殺し、こいつの胃袋の中にはまだ証拠が残っているはずと解剖台に乗せ、オレはワニの解剖なんかしないと憤る検死官をなだめたり脅したりしつつ解剖して、胃袋から被害者の顎の骨を見つける件りなんかかなりおかしい。


こういう軽妙な語り口に、ロングワースを演じるパスモアがうまくはまっている。ロングワースはプレミア・エピソードで、ナースのキャリーを見初め、押しの一手で攻める。彼女には一人息子のジェフと、現在刑務所入りしている夫がいる。まだ離婚していないということは、キャリーはまだ夫に未練があるらしい。ロングワースは顔も知らない相手をライヴァルにした戦いを強いられ、まずはからめ手からとばかりに、ジェフを遊びに連れて行ってみたりするのだった。


FXの「ニップ/タック (Nipu/Tuck)」がマイアミからLAに移り、最終回を迎えた今、フロリダを舞台にしたドラマというと、ショウタイムの「デクスター (Dexter)」と、CBSの「CSI: マイアミ」が双璧という印象がある。というか、フロリダ・ドラマというよりも、この2本はマイアミを舞台としたドラマであって、はっきり言ってマイアミとフロリダはかなり違うと言っていい。「グレイズ」は、マイアミからそこそこ離れた小さな町を舞台としており、視覚的に受ける印象は都会ではなく、郊外だ。摩天楼やビル街は遠景に散見される程度に過ぎない。郊外の、いわゆるエヴァーグレイズと呼ばれる手つかずの自然にも近い。


そういった、マイアミとはまた違うゆるい郊外の町ということを意識した番組作りを狙っており、それは成功していると言える。番組が人気を得て「デクスター」、「CSI: マイアミ」と共にフロリダ3強番組になる可能性もなきにしもあらずと見た。








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ザ・グレイズ   ★★★

 
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