放送局: FX

プレミア放送日: 7/22/2003 (Tue) 22:00-23:00

第2シーズン・プレミア放送日: 6/22/2004 (Tue) 22:00-23:00

製作: シェパード/ロビン・カンパニー、ライアン・マーフィ・プロダクションズ、ワーナー・ブラザースTV

製作総指揮: ライアン・マーフィ、グリア・シェパード、マイケル・ロビン

製作: パトリック・マッキー

監督/脚本: ライアン・マーフィ (第2シーズン・プレミア)

撮影: クリストファー・バッファ

編集: ティム・ボーチャー

音楽: ジェイムズ・レヴァイン

美術: チャック・パーカー

出演: ディラン・ウォルシュ (ショーン・マクナマラ)、ジュリアン・マクマホン (クリスチャン・トロイ)、ジョーリー・リチャードソン (ジュリア・マクナマラ)、ジョン・ヘンスリー (マット・マクナマラ)、ローマ・マフィア (リズ・クルズ)、ヴァネッサ・レッドグレイヴ (エリカ・ノートン)


物語: ショーンとクリスチャンはマイアミで整形外科のクリニックを共同で経営していた。プレイボーイのクリスチャンに対し、ショーンは根が真面目で、二人は性格的には正反対だったが、それが功を奏し、これまでクリニックは繁盛していた。しかし私生活では二人共問題を抱えており、真面目すぎるショーンに対し、妻のジュリアはいつも物足りない思いを抱いていた。ショーンは、セックスで絶頂を迎えた振りをした後で、一人でマスタベイトしているジュリアを見て愕然とする。そのジュリアの母エリカがジュリアを訪れ、ショーンに自分の顔を整形させて若返らせたいと言い出す。しかもエリカはクリスチャンを誘惑してベッドを共にしてしまう‥‥


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昨年、ベイシック・ケーブル・チャンネルにおいて最も話題となった番組を、ブラヴォーのリアリティ・ショウ「クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガイ」とすることに異論のある者はいまい。しかし番組を、リアリティ・ショウではなくドラマに絞った場合、昨年最も話題となった番組がFXの「ニップ/タック」であることもまた確実だろう。いずれも人間の変身、メイクオーヴァーをテーマとする番組だ。


この手のメイクオーヴァー系の番組は、ここ数年でめっきり増えた。それもドラマでははなく、一般視聴者に実際に整形手術を受けさせ、そのメイクオーヴァーをつぶさに記録するリアリティ・ショウの方が断然多い。その嚆矢が、一昨年のABCの「エキストリーム・メイクオーヴァー」だ。


この番組のヒットに目をつけたFOXは、整形を行った参加者によるビューティ・ページェントをとらえた「ザ・スワン」で巷にブーイングと好奇心を巻き起こし、MTVの「アイ・ウォント・ア・フェイマス・フェイス」は整形してまで有名スターそっくりになりたい若者をとらえ、E!の「Dr. 90210」はその手術をする整形外科医に焦点を当て、現在では、元々は教育チャンネルのTLCの手による「ボディ・ワーク」なる番組も登場している。ディスカバリー・ヘルス・チャンネルに至っては、元々その系統の番組が多かったということもあり、なんか、たまに私がこのチャンネルにあわせると、ほとんどいつもこのようなメイクオーヴァーものを放映している。


もちろんこういった番組ほどじゃなくても、実際に整形こそ施さないが、デザイナーやスタイリストがよってたかって対象となる人物をメイクオーヴァーする番組は、それこそ掃いて捨てるほどある。前述の「クイア・アイ」が、その筆頭として現在ケーブルTVを代表する番組であることは言うまでもない。それ以外にも、シンジケーションの「アンブッシュ・メイクオーヴァー」、ディスカバリーの「メイクオーヴァー・ストーリー」、TLCの「ホワット・ナット・トゥ・ウェア」、VH1の「フラブ・トゥ・ファブ (Flab to Fab)」等が続々と編成されており、メイクオーヴァー系番組のブームは百花繚乱の様相を呈してきた。


「ニップ/タック」はその中にあって、唯一、リアリティ・ショウではないドラマとして、一種独自の地位を築いている。番組タイトルは、ちょっとあちらこちらをつまんだり (ニップ)、詰めたり (タック) という単語から来た慣用句で、要するに、そのように顔のあちらこちらに手を入れる整形のことを指している。


FXは一昨年のシーズン、刑事ドラマの「ザ・シールド」を編成して、時によってはネットワークよりも厳しいとさえ言えるベイシック・ケーブルの放送コードに敢然と挑戦して、かなり注目された。「ニップ/タック」は、そのまた上を行く、見えるか見えないかぎりぎりの描写とどぎつい内容で、「シールド」よりさらに注目されたと言っていい。「シールド」は第2シーズンから少し失速して視聴者を減らしたが、その代わりを担うように新しく登場したのが、「ニップ/タック」だ。


「ニップ/タック」は、一口に言って、プライムタイム・ソープである。フロリダはマイアミに整形クリニックを構える二人の医師、ショーンとクリスチャンの周りに展開する出来事を描くのだが、奇抜な設定、奇抜な描写、入り組んだ人間関係、愛と金と性、それに、忘れちゃならない美男美女と、この手の番組が必要としている要素を、すべて漏れなく網羅している。


ケーブル・チャンネルとしてはぎりぎりのヌード・シーン、セックス・シーンも忘れてない上に、特に話題となっていたのが、血が苦手な人なら貧血確実という手術シーンの描写で、顔や腹に注射針を突き立て、ワイヤーを差し込み、ボルトで固定して皮膚引っぺがして、流行りの音楽にノリノリになりがなら患者を切り刻むという、ほとんど病院の手術室か家畜の屠殺場かわからない手術シーンのえぐさリアルさは、ほとんどHBO並みかそれ以上と評判になった。


おかげで「ニップ/タック」は昨シーズン、ネットワークの番組を上回る話題を提供した。その第2シーズンが、それに輪をかけたような内容になるのは当然というものだろう。第1シーズンですらかなりの内容だったものが、さらに刺激度をアップしている。


その上、なんといっても第1シーズンの幕の引き方はうまかった。プレイボーイとして鳴らすクリスチャンが、ガール・フレンドのジーナの妊娠を機に父性本能に目覚め、いよいよプレイボーイも卒業かと思わせた矢先、生まれて来た子供の肌の色は黒かった (クリスチャンもジーナも白人だ)。いや、この先どう展開するんだろうと、これはやはり気になった。


そして第2シーズンは、いきなりジュリア役のジョーリー・リチャードソンの実母、ヴァネッサ・レッドグレイヴの登場だ。しかも役の上でもジュリアの母親役と、実生活でも番組の上でも母娘というこの母娘共演は、実に興味をそそられる。さらにこの母親エリカは、娘に対してライヴァル意識丸出しで、若返るための整形手術をジュリアの夫ショーンに頼み、返す刀でクリスチャンとも寝てしまう。もうどっちもどっちで、こいつら相手は誰でもいいのかとしか思えない節操のなさだ。


そればかりでなく、実際にレッドグレイヴの顔にメスを突き刺し、後ろからだとはいえそのレッドグレイヴのハーフ・ヌードつき (ボディ・ダブルではなく、確かにレッドグレイヴだと思うが‥‥) とサーヴィス精神旺盛で、こいつは感心してしまう。こないだ、「マザー」で70歳になんなんとするアン・リードの身体を張ったセックス・シーンに驚愕したのも束の間、今度はそれから二つ若いだけのレッドグレイヴも、まだなかなか崩れてない身体のラインを見せる。60代って、もう全然歳とは言えない。キャリアもセックスも現役バリバリだ。


一方、ショーンとクリスチャンのクリニックを訪れる患者たちのグレードもまたアップ? した。第1シーズンでは、患者たちがクリニックを訪れる理由は、ごく普通に、美しくなりたい、胸を大きくしたい、脂肪を取り去りたい、から、過去、犯罪を犯したため、追っ手から逃れるために顔を変えたいというものまで、まあ、一応のところ、理由はそれなりに頷ける、ごく常識的なところに留まっていた。


ところが今シーズンに入ると、いきなり登場したのは顔面を撃たれてほとんど麻痺状態の女性で、ゲイの知人と心中を図る。次の回ではソマリアで生まれた女性が、摘出されたクリトリスの代わりに足の指を埋め込んでもらいたいとクリニックを訪れる。そういえばそんなこと聞いたことがあるが、ソマリアでは女性が自分一人の快楽に耽らないように、強制的に為政者の手によってクリトリスを摘出される女性の例が跡を絶たないという。信じられないような実話だ。


番組はさらにいくつものツイストを重ね、こないだ見た回では、聖痕ができて理由もなく手首から血を流す女性が現れ、その女性を崇める主婦の子供のおしりには尻尾が生えていたという、途轍もない展開を迎える。もちろんSFじゃなく、一応理由づけはしてあるのだが、ついに宗教まで絡んできたか。さらに予告編を見ると、来週のエピソードは頭がくっついたシャム双生児の分離手術だそうで、実は今、アメリカではクラレンスとカールという、フィリピンから来た同様の頭がくっついたシャム双生児の分離手術が大きく注目を集めている。もちろん撮影は少なくとも数か月は前に終わっているはずだから、この一致は単なる偶然なのだが、タイミングとしてはばっちりだ。


人間関係では、マットが実はショーンとジュリアの子ではなく、ジュリアが十何年前に一度だけクリスチャンと寝た時にできた子だと判明、さらに爛れた関係が明らかになった。クリスチャンは第2シーズンのプレミア・エピソードでジュリアの母エリカとも寝たことになっているし、これで来シーズンあたり、成長期にさしかかっているジュリアの娘アニーとも関係を持って、母子三代、しかも無二の親友の妻とその母と娘を制覇したなんてことになっても、私はもう驚かんね。でも、もしかしたら裏をかいて、今度は息子のマットの方に手を出すかもしれない。あ、しかし、そうなると、マットはクリスチャンの子であるわけだから、それだと近親相姦、しかも父と息子の同性同士のインセストになってしまう。さすがにそのタブーにまでは触れないと思うのだが‥‥


ゲスト陣では、第2シーズンには、レッドグレイヴだけでなく、ファンケ・ヤンセンがジョーリー・リチャードソン演じるジュリアのライフ・コーチ (すごい職業が現れたものだ) として登場する。私個人の意見としては、ヤンセンもいいが、ここにジョーリーの実姉であり、レッドグレイヴの長女であるナターシャ・リチャードソンを持ってきたらすごいことになったのにと、妄想を膨らませるのであった。


私は、実は、たぶん「ニップ/タック」が番組としてカテゴリー分けされるであろうプライムタイム・ソープというジャンルは、正直言ってあまり好きではない。昼間やっている暇のある奥様向けのソープとなると、はっきりと積極的に嫌いである。虫酸が走ると言ってもいい。それでも「ニップ/タック」を見てしまうのは、正面からそのようなソープ的設定を、堂々と、いい加減な逃げに走ることなく描いているからで、その辺が単なる時間つぶし的なソープとは一線を画している。ちょっと癖になるのだ。





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Nip/Tuck

ニップ/タック   ★★★

 
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