放送局: FOX

プレミア放送日: 4/7/2004 (Wed) 21:00-22:00

製作: フリーマントルメディア・ノース・アメリカ、ギャラン・エンタテインメント、A. スミス&カンパニー・プロダクションズ

製作総指揮: アーサー・スミス、ネリー・ギャラン

共同製作総指揮: ケント・ウィード

製作: ミシェル・コリンズ、エリカ・ハンセン、グロリア・ペイマニ、スーザン・オルソン、ダイアン・デ・ステファノ

監督: ケント・ウィード

ホスト: アマンダ・バイラム


内容: 容姿に自信を持っていない女性に整形手術を施し、術後の女性を集めて美人コンテストを行う。


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世の中には「悪趣味」というものがある。どんなにその理由を正当化されていようとも、悪趣味としか言いようのないものが存在するのであって、最近、私はそれをFOXのTV番組、それもFOXのリアリティ・ショウによく感じるようになった。今年に入ってからは、2月の「ザ・リトルスト・グルーム」が、この種のリアリティ・ショウでまた新たな低みを極めたとマスコミから散々叩かれていたが、今回FOXが編成してきた「ザ・スワン」は、さらにまたその路線で視聴者をあっと言わせてくれた。


ABCが一昨年に編成してそれなりの人気を得た「エキストリーム・メイクオーヴァー」以降、アメリカでは、この種の人間改造 (メイクオーヴァー) ものが小さなブームになっている。昨年のブラヴォーの「クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガイ」のブレイクは、新しいリアリティ・ショウの一ジャンルとして、メイクオーヴァーものが定着したことを改めて認識させた。


他のネットワークで成功したリアリティ・ショウがあれば、真似せずにはいられないFOXが、このメイクオーヴァーものに参入したのも当然の成り行きだろう。「スワン」は、「エキストリーム・メイクオーヴァー」同様、参加者に、整形、豊胸から脂肪吸引、歯列矯正、視力矯正、その他、現代整形外科技術で直せるところがあるならば、そのすべてに手を入れてみせる。


しかし、これだけなら、「スワン」は「エキストリーム・メイクオーヴァー」のただの二番煎じに過ぎない。またFOXの俗悪物真似番組かと無視されるだけなのがオチだ。それがいかにもFOXらしい「悪趣味」番組となったのは、「スワン」において打ち出された新機軸が、FOXが、メイクオーヴァーを果たした女性たちによって、ビューティ・ページェント、つまり、美人コンテストを開催してしまおうと考えたところにある。


いったい、参加者の全員が整形手術を受けたビューティ・ページェントのどこに開催する意味があるというのだろうか。ビューティ・ページェントとは、その女性の嘘偽りない真の美しさを競うはずのものではなかったのか。あるいは、近年、この種のページェントに参加するような女性は、どうせどこかに既に手を入れているから、今さら関係ないのか。既に普通の人が普通に整形する時代では、整形手術というのは、少し見映えをよくする、せいぜいが化粧かヘア・カットの延長線上くらいにしか思われてないのかもしれない。いずれにしても、結局、これで競うことになるのは、参加者の美しさではなく、整形外科医の腕の優劣に過ぎないのではないか。本当に、こういうページェントを開催する意味というものはあるのだろうか。


一方、こういう極端に悪趣味に思えるリアリティ・ショウは、よく考えると、実は逆に、自分たちがそれまで当然のように考え、行動してきた社会の一般的価値観とか基準というものが、いかに恣意的で一過的なものなのかということに改めて気づかせてくれる。実際の話、ビューティ・ページェントにおいて参加者が化粧することを許されるのなら、その皮膚の下の骨を少々削って何が悪い?


確かに化粧は後で顔を洗えば落ちるかも知れず、その点では後戻りの利かない整形は、一線を超えたという印象を受ける。しかし、一重まぶたを二重にするとか、それほど大掛かりではない手術でも、顔の印象はがらりと変わるもので、それくらいなら、本人にとっても周りの者にとっても、整形を受けることにほとんど抵抗はあるまい。視点を変えてみるならば、歯列矯正だって強引に歯並びを変えているわけで、整形の一種だ。虫歯を治す時に金歯をポーセリンに変えただけでも、見かけの印象はがらりと変わる。もしかしたら化粧をしたりすることと整形手術を受けることとの間には、実はそれほど明確なラインは引かれてないのかもしれない。


そういうわけで、一見言語道断に見える「スワン」は、リアリティ・ショウとして日の目を見てしまった。番組は毎回、まず二人の整形希望の子を登場させ、彼女らがどのようにして手術を受けて変身していったかをつぶさに紹介する。二人はその間中、鏡のない部屋で暮らすことを余儀なくされる。そして4か月後、スタジオに呼ばれた二人は、そこで初めて、鏡に映る変身した自分たちの姿を見ることになるのだ。番組はさらに、その二人の中から一人だけを選んで、その後のページェントに参加させる。番組はこのようにして何回も進み、そして最後に、選ばれた者たちだけでページェントが開かれる。


番組ホストは、昨年、やはり同様にめためたに酷評された、FOXの金太郎飴勝ち抜きリレイションシップ・リアリティ・ショウ「パラダイス・ホテル (Paradise Hotel)」でもホストを担当していたアマンダ・バイラム。なぜ金太郎飴というかというと、この番組、勝ち抜き形式をとっているため、毎週一人ずつ追放されていくのだが、その時点で、また一人追加してしまうのだ。つまり、少しずつメンツを変えながら、人気があれば永遠に番組は続いていけるわけで、この、なりふり構わぬ番組の体裁が、いかにもFOXと思わせた。


「スワン」では、整形を受けた子だけでページェントを開催してしまうというそもそもの発想もさることながら、そのページェントに至る前に、二者択一の予選みたいなものをしてしまうというのが、ちと解せない。毎回一人か二人の変身の過程をとらえるなら、その二人共ページェントに出したらいいじゃないか。なんでそこで足切りする必要がある。しかもそこでどちらか一方の子を選ぶ基準がまったくわからない。その判断は関係者の総意によるもののようなのだが、なんでそうなるのか、なんとなく承服しかねる裁定ばかりだ。これなら、ホストか誰かが独断で決めた方が、まあ、この人はこういう人が好きなのだなと、まだ納得できる。


それよりも何よりも、一番問題に思えるのが、手術を受けた者が、客観的に見て、皆、美しくなったとは必ずしも言えないところだ。そりゃあある程度は皆変わるが、元々、別に手術なんて受ける必要ないんじゃないのかと思える程度の子ですら、何を血迷ったか手術を受けたりしている。中には元モデルなんてのもいて、でぶでぶになった身体を元に戻し、ついでに自信を回復するために応募してきたりしている。つまり、元はそれなりのレヴェルだったものが、安易にまた昔の栄光を取り戻そうと考えているわけだ。しかし、ではそれで前よりもよくなったかというと、別に、大してそうとも思えなかったりするのだ。


特に私がそう思ったのが、番組の第6回に登場したケリーだ。ケリーは、いったい自分の何に劣等感を持っているのかよくわからないが、まったくブスなんかじゃない。むしろわりと可愛いとさえ言えるんじゃないか。確かに本人が言っていたように、多少鷲鼻の嫌いがあって、もしかしたら小さい時にそれをガキ大将どもからバカにされたために、そいつがコンプレックスになってしまったということはあるかもしれない。しかしそれならば、彼女に必要なのは整形ではなく、カウンセリングの方だろう。また、ケリーは、痩せすぎのために、番組参加者の中でただ一人、脂肪吸引ではなく、脂肪をつけるための食餌療法と共にウエイト・トレーニングをさせられていた。今、多くの人々がマクドナルドを中心とするファスト・フード・チェーンの陰謀によってスーパーサイズ化しているアメリカでは、彼女みたいに痩せている人を見るとほっとするというのに。


また、両親が聾唖で、これまでの人生を家族の世話に追われてきたというマーリーンも、ここで心機一転して人生の第二の出発を図りたいなんてのはよくわかる。むしろ応援してやりたいと思う。しかし、彼女も、まったくブスなんかじゃないのだ。彼女もケリー同様、実は下地はかなりいい。はっきり言って、美人の部類に入ると思う。彼女が必要としているのは整形手術ではなく、自分に合った化粧の仕方を覚えることと、なんとかして自分に自信を持つことだろう。とはいえ、そのためにこそ「スワン」に出てみたいと考えたのは、わからないではない。しかし、彼女は、私の意見では、明らかに手術を受ける前の方が綺麗だった。


彼女らは、たぶん幼い頃の経験か思い込みで、自分を客観的に見れなくなっている。面白いもので、アメリカという国には一方で巨大なエゴの塊みたいな奴らも多く、あんたは誰が見たってデブだよとしか思えない人間が、平気で、私はプロポーションがいいと自分で言ってのけたりする。どこから見てもブ男にしか見えないのに、底なしに自信過剰だったりする。たぶん、自分に自信のない人間は、そういう自信のありすぎる人間の反動を受けて、負の方向のバランスを引き受けるはめになっちゃっているんじゃないか。例えば、番組に出ているカウンセラーの一人なんか、私には、どう見てもあんたが整形を受けるべきとしか思えないのだが、その彼女が、なぜだか整形を受けたい参加者の悩み事を聞いてあげたりするのだ。それって逆なんじゃないんすか?


彼女らは、何週間も鏡を見せられずに術後の回復に努め、ダイエットによってウエイトをコントロールし、スタイリストによって最終的に着飾された後、スタジオに呼ばれ、そこで初めてほぼ等身大の鏡に映った新しい自分自身の姿とご対面となる。鏡の前の幕が引かれた瞬間、全員が全員、変身した自分自身が信じられず、息をのんで泣き出すのだが、何度も言うようだが、はっきり言って、これは彼女たちが既に雰囲気にのまれてしまっているからとしか思えない。どう見てもこのうちの何人かは、整形などしない方がよかった。あんた、ここでこれだけ感激してしまうと、後で平常心に戻った時、リバウンドが来て、なんでこんなことしちゃったのかと後悔することになるかもよ。


特にアメリカで整形というと、顔に手を入れるだけじゃなく、ほとんど同時にバストも大きくして、一方で脂肪を吸引するという場合が多い。つまり、出るところは出て、引っ込むところは引っ込むというメリハリのついたゴージャス・タイプが、ほとんど当然のことのように受け止められている。私のようなスキニー・タイプが好みな人間から見たら、なんでわざわざ雌牛の乳みたいにしてしまうのか疑問なのだが、とにかく、現在はそれが女性の理想の体型として流通している。それだけではなく、顔までなぜかけばくしてしまう者が圧倒的に多い。ちょっとやりすぎなんじゃないのか。脂肪吸引だけは諸手を上げて賛成するし、歯並びは、確かに乱杭歯なんかより、揃っていた方が感じがいいが、それ以外は皆さん、別にとりたてて手を入れる必要はなさそうに見える。ま、確かに美意識は人それぞれだけどさ。


「スワン」の最終回は、場所をこれまでのスタジオから観客を入れた会場に移し、いよいよページェントの開催である。会場にはそれぞれの家族が集合しており、結婚している女性の場合だと、旦那も来ていたりする。私なら、こんなところに呼ばれる夫という立場にだけはなりたくないなと思うのだが、しかし、会場の夫たちは、自分の妻が美しくなったことがたいそう自慢なようで、懸命に声援を送っている。時々アメリカ的ものの考え方についていけなくなる。


ページェントの最初の審査はイヴニング・ガウンで、審査員がそれぞれ10点満点で審査する。次は水着審査。顔もそうだが、器具を使って脂肪を吸引したお腹というものはさらに偽物なんじゃないかという気もするが、しかし、まあ、やはり、たるんだ腹よりはすっきりしたプロポーションを見る方が気持ちいいのは確かだ。この時点で足切りが行われ、参加者は6人に絞り込まれる。審査はその後、簡単なインタヴュウの後、ランジェリー審査へ。ここでTV画面では、ランジェリー姿の参加者の隣りに、CGで合成した、整形前のたるんだお腹のままの本人の姿が浮かび上がる仕掛けになっている。そうすると、確かに変わったことがよくわかる。ほとんどの者が脂肪吸引をした結果、少なくとも、プロポーションの点では皆ましになったことは否定できないだろう。


ページェントはさらに進み、参加者は最後の3人に絞られる。その3人に残ったのは、レイチェルとベスとシンディ。既にここに至るまでに私の予想はことごとく覆されている。口を閉じることができないように見えるレイチェルがなぜ最後まで残っているんだろう、シンディも、うーん、彼女かあと思ってしまうが、ホストのバイラムが言うように、本人がどれだけ変わったかということも考慮されるということだから、その辺も関係しているのかもしれない。この3人の中では、私の意見では圧倒的にベスなんだが、ベスは、はっきり言って元は悪くなかったから、その点では逆に不利か。結局、優勝したのはレイチェルで、ベスは2位、シンディは3位だった。この番組、少なくともそれなりの話題作りには成功したようで、既に第2シーズン製作が発表になっている。そのうち、街を歩く美女を見ても、まずこの顔がオリジナルかどうかを最初に考えるようになるのかもしれない。


ところで「スワン」と相前後して、「アイ・ウォント・ア・フェイマス・フェイス (I Want a Famous Face)」なるMTVの同様のメイクオーヴァー番組も放送された。こちらはページェントを開くわけではないが、ブリトニー・スピアーズやブラッド・ピットのようになりたいと憧れるティーンエイジャーが、整形で似たような顔にする様をとらえる。私には既にもう病気のようにしか見えないが、本人たちにとっては、それがほとんど生きる目的だったりする。別に、元がそれほど悪いわけでもないのだ。本人がどうしても整形したいというのを止める気などさらさらないが、しかし、それで結果がいい方向に転ぶかどうかは、ほとんど運のような気がする。





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The Swan

ザ・スワン 私を変えて!   ★★

 
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