The Beast  ザ・ビースト

放送局: A&E

プレミア放送日: 1/15/2009 (Thu) 22:00-23:00

製作: ソニー・ピクチャーズTV、A&E

製作総指揮: スティーヴン・パール、アラン・ローブ、コーリー・コンコフ、マイケル・ディナー、ヴィンセント・エンジェル

製作: J. P. モランヴィル、ウエンディ・ウエスト

脚本: ヴィンセント・アンジェル、ウィリアム・ロトコ

監督: マイケル・ディナー

撮影: エドワード・ペイ、ロイ・ワグナー

美術: マレク・ドブロウロスキ、ゲアリ・ボー

編集: ジョン・ダフィ、ビル・ジョンソン

音楽: W. G. スナッフィ・ウォールデン

出演: パトリック・スウェイジ (チャールズ・バーカー)、トラヴィス・フィメル (エリス・ダヴ)、ラリー・ジラードJr. (レイ)、ブレット・テイラー (カレン)、リンジー・パルシファー (ローズ・ローレンス)、ケヴィン・オコーナー (コンラッド)


物語: ヴェテランFBIエージェントのバーカーはダヴとペアを組んで、ダヴを教育しながら仕事に当たっていた。他人のことなどお構いなしに自分の好きなように捜査を進めるバーカーは敵も多かったが、しかし結果を得るという点で実力があることも確かだった。ダヴはいいように振り回されながらも、次第にバーカーを認めるようになる。そのダブに別のFBIが接触してくる。バーカーにはある嫌疑がかかっており、ダヴにバーカーの行動を逐一報告するよう要請するものだった‥‥


_______________________________________________________________


実は特にこの番組に興味を持っていたとか、できがいいとか感心していたわけではない。むしろ数多ある刑事やFBIエージェントが主人公のアクション・ドラマの一つとして、ほとんど注意を払っていなかったと言っていい。とりたてて評がよかったわけでもないし、私もプレミア・エピソードだけざっとながら視聴しただけで特に印象に残ったわけでもなく、それきりほとんど忘れていた。その番組について今さらながら書こうと思ったのは、とりもなおさず主人公のFBIエージェントに扮しているパトリック・スウェイジの近況が、どうやら切羽詰まったものになっているようだからだ。


周知のようにスウェイジは昨年、すい臓ガンにかかっていることが明らかになった。それがどの程度進行しているかは外部の者には知りようがなかったが、一方でスウェイジはA&Eで新ドラマの「ザ・ビースト」に主演することも発表になり、順調に回復していることが予想された。現代では発見さえ早ければ、かなりの確率でガンは克服できる。


「ビースト」の撮影は昨年末には終わり、今年1月から番組は放送されている。今週 (4月第3週)、第1シーズンの最終第12話が放送される。番組は特に成績がよかったわけではないが、かといって特に悪いわけでもなく、第2シーズンが製作されるかどうかは微妙というところだった。A&Eは最近、ドラマ製作に積極的であり、昨年、ベンジャミン・ブラットが主人公のアクション・ドラマ「ザ・クリーナー (The Cleaner)」も製作放送している。その他にも裸や放送禁止用語をカットしたクリーン・ヴァージョンの「ザ・ソプラノズ (The Sopranos)」や、「クリミナル・マインズ (Criminal Minds)」等の再放送もある。


私としてはA&Eと聞くと、真っ先に「インターヴェンション (Intervention)」等の犯罪系リアリティ・ショウが思い浮かぶ。それにクリス・エンジェルがホストのマジック・リアリティ「クリス・エンジェル・マインドフリーク (Criss Angel Mindfreak)」とか、あるいは最近放送の始まった「ジ・エクスターミネイターズ (The Exterminators)」等のリアリティ・ショウこそが近年の主力番組という印象があるが、オリジナルのドラマ製作に食指を伸ばしたいんだなということはよくわかる。


「ビースト」はそういう状況下で製作され、放送された。残念ながら特に強い印象を視聴者にも批評家にも残したわけではないが、成績としては特に放送当初は健闘しており、そこのとこを評価するならば、かなりの確率で第2シーズン製作もありうると思われた。


ところがである、先日私はスーパーマーケットで買い物をしていて、レジで精算しようとしていた。周知のようにアメリカのスーパーやグローサリー・ストアというものは、買い物客に少しでも多くのものを買わせようと、必ずガムやチョコレート、キャンディのスナック類と共に、雑誌、特にTVやゴシップ、セレブリティ関係の雑誌をレジ周りに置いてある。必ずある。これに釣られてつい駄菓子類を買ってしまう者が多い証拠に、最近ではスーパーによっては、それらのキャンディ類をレジ前に置いてないノー・キャンディ・レーンがあることを売りにしているところもあるくらいだ。


それはともかく、そこでたまたま目に入った悪名高いゴシップ系雑誌の一つ、ナショナル・エンクワイアラーの表紙に映っている中年の痩せぎすのはげ親父が誰か、最初私はまったく気づかなかった。知らない顔だったので気にすることもせず、見出しも読まなかった。それで、そのまま何も考えずに通り過ぎて勘定を済ませた。そして買い物袋を抱えて出口に向かう時になって、一緒にいたうちの女房が、スウェイジ、痛々しいくらい痩せているね、と言った。


不思議に思って、スウェイジ、いったいどこで彼の姿なんか見たんだと訊くと、レジの前の雑誌にでかでかと写真入りで載ってたじゃないという。びっくりして、そんなの見なかった、いや、待てよ、もしかして、あれ、スウェイジだった? と、慌てて買い物袋を抱えたままレジの前まで戻り、まったく別人と化したスウェイジの写真を見た。たぶん化学療法 (キモセラピー) のせいだろう、髪が抜け、体重も落ちて、Swayzeという見出しがなければ誰も一見しただけではわからないに違いない。105パウンドって、50kgを割っているじゃないか。うちの女房より軽いぞ。


この写真がエンクワイアラーに載ったのが4月、「ザ・ビースト」は撮影自体は昨年末に終わっているが、A&Eで放送が始まったのが1月、第1シーズンはまだ放送中だ。病気だということは知っていたから、多少は痩せたスウェイジを見ても、逆にガンを克服してTVで主演できるくらいには快方に向かっているんだなと考えていたのだが、どうやらまるで逆で、無理して仕事していたらしい。少なくとも、現在放送中のエピソードの撮影時から今現在まではせいぜい半年くらいしか時間は開いてないはずで、それだけでこれだけ体重が落ちるからには、かなりキモがきついに違いない。


要するに「ビースト」はスウェイジがかなり無理をしてでもやろうと決心した番組であり、そうなるとこちらの番組に対する見方も違ってくる。最初、1月に流して見た時は、スウェイジ、気負い過ぎだと思ったもんだが、そうじゃなくて、気負わないとやっていけなかったのかもしれない。内心焦っていたのかもしれない。私の見方が浅過ぎたか。という風に思えてきたので、最初、この番組についてはパスして特に書くつもりはなかったのだが、おかげで気が変わった。二度、今度は真面目に見ると、また違ったものが見えてくるかもしれない。


「ビースト」でスウェイジが演じるのは、目的達成のためなら手段を選ばない、敏腕というよりはほとんど悪徳のFBIエージェント、バーカーだ。冒頭、彼とペアを組んで仕事を覚えさせられているまだ新米のエージェント、ダヴが一緒に潜入捜査しているギャングのアジトで仲間割れとなり、バーカーとダヴを含む4人がお互いに銃突きつけ合って一瞬即発の状態になる。この場を切り抜けるために、バーカーはいきなりダヴを撃ってなんとか急場を凌ぐ。


防弾ヴェストを着ているとはいえ、撃たれて気持ちのいい人間はいない。しかもこのシーンでは、バーカーの撃った相手が相棒のFBIエージェントだということはまだ視聴者には知らされていない。さらに直前の4人が銃を構えた四すくみ状態は、ジョン・ウー以来もう既に見飽きたという感じの演出で、私が衒いの多すぎる演出、番組というのもわかってもらえるかと思う。


また、バーカーには生活に窮している妹夫婦がおり、どうやら義理の弟はよくない話に手を出してしまった結果、手が後ろに回りそうな雲行きらしい。ここでもバーカーは、その義理の弟に対し、正しいことをするんだといって拳銃を手渡す。弟はそれを使って自殺するという筋書きだが、やはりこういう展開は、今では陳腐と言われるだけなんじゃないだろうか。こういう前半の展開だけを見て、私のように、なんとなく、わかったと早合点して興味を失った視聴者はかなりいるんじゃないかと思う。要するにこの手の演出は、既にどこかで見たことがあるのだ。


前回は、私はこの辺あたりまで見てほとんど興味をなくしてしまったのだが、実は話はここから面白くなるのだ。バーカーはFBI自身から目をつけられており、彼の身辺を探る監査の手が入っていた。彼らは四六時中バーカーと一緒にいるダヴに目をつけ、バーカーの行動を報告するよう要請する。しかしあれだけ邪険に扱われながらも、エージェントとしての腕は一流であることは疑いの余地がないバーカーを信頼し始めていたダヴは、いったんはその要請を断る。しかしもちろん、FBIがそう簡単に諦めるはずもなかった。


バーカーとFBIの間に挟まれる新人エージェントのダヴを演じるのがトラヴィス・フィメルで、好演している。特に以前見たことがあるわけではないと思って調べてみたら、6年前にWBの短命に終わった「ターザン (Tarzan)」で、主人公のターザンを演じていた。しかし、これはわからんよ。ライアン・フィリップや「The O.C.」のベンジャミン・マッケンジーに印象が似ており、ここでのフィメルの役割りは、いかにもフィリップが「アメリカを売った男 (Breach)」で、善か悪か判然としない主人公のクリス・クーパーを相手に演じた役を彷彿とさせる。


さらに今では、気負い過ぎに見えたスウェイジが、本当にぎりぎりのところでの演技ということがわかっているだけに、それが気負いではなく執念のように見える。気負い過ぎの空回りのように見えたものが、鬼気迫る怪演に見えてくる。今現在見えているもの以外の事実によって見えるものが違ってくるというのは、見る者としてはあまり正しい視聴態度とは言えないと思うが、しかし知らないままでいるよりはよかったとも思う。


番組はちょうど今週、第1シーズンのシーズン・フィナーレの放送を迎える。エンクワイアラーの写真から察するに、たぶんシーズン・フィナーレがそのままシリーズ・フィナーレになる可能性が高い。現実には放送が始まってからまだ3か月しか経っていないわけだが、プレミア・エピソードでは背景には雪が積もっていたわけだし、実際の撮影はたぶん1年近くかかっているだろう。そしてその約1年の間に、最初から以前に較べ痩せていたスウェイジの顔が、さらにこけてげっそりとしてきたことにも気づく。キモを続けながらの演技だったに違いない。キモは身体に負担が大きくて、きつくて立ち上がるのも億劫になるという話もよく聞く。それを考えると、スウェイジの役者根性には頭が下がる。








< previous                                    HOME

 

The Beast


ザ・ビースト   ★★1/2

 
inserted by FC2 system