放送局: ショウタイム

プレミア放送日: 10/1/2006 (Sun) 22:00-23:00

製作: ショウタイム

製作総指揮: ジョン・ゴールドウィン、サラ、コールトン、クライド・フィリップス、ダニエル・セローン

製作: ドリュウ・グリーンバーグ、ロバート・ロイド・ルイス

監督: マイケル・クエスタ

原作: ジェフ・リンジー

脚本: ジェイムズ・マノス

撮影: ロミオ・タイロン

音楽: ダニエル・ライト

編集: スコット・ウォレス

美術: ブランディ・アレグザンダー

出演: マイケル・C・ホール (デクスター・モーガン)、ジュリー・ベンツ (リタ・ベネット)、ジェニファー・カーペンター (デブラ・モーガン)、ローレン・ヴェレス (マリア・ラグエルタ)、エリック・キング (ドークス)、デイヴィッド・ザヤス (エンゲル・バティスタ)、ジェイムズ・リマー (ハリー・モーガン)、C. S. リー (マスカ)、ジオフ・ピアソン (マシュウズ)


物語: デクスターは幼い時に両親を亡くし、刑事をしている父の元に養子としてもらわれてきた。デクスターには殺傷癖とでもいうべき衝動があり、近所の犬を殺したりしていた。父は敏感にそれを察し、デクスターのその衝動がどうしても抑えられないものだと悟ると、この世の害にしかならないような人間を殺すことで、デクスターを救いながら同時に世のためにもなると考えた。刑事の父による手ほどきで、デクスターは完全に跡を手繰られることなくターゲットを葬り去る手段を会得する。時が経ち、父は死亡したが、成長したデクスターは、日中は検死官として警察で働きながら、その裏で自分の隠れた欲望を満たすために動いていた‥‥


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最近、ショウタイムが頑張っている。「ブラザーフッド」「マスターズ・オブ・ホラー」、「スリーパー・セル」、「ウィーズ」、「ザ・L・ワード」、それにキャンセルされこそはしたが「ハフ」と、ここ数年来のオリジナル番組の質の高さは、常に後塵を拝してきたペイTVのライヴァル・チャンネルであるHBOとタメを張るぐらいになっている。


いや、もしかしたら現時点ではHBOのオリジナル番組より、ショウタイムのオリジナル番組の方ができがいいかもしれない。そのショウタイムの新しいオリジナル番組「デクスター」は、表の顔は熟練検死官、その裏で連続殺人者として暗躍する男、デクスターを描く。


主人公デクスターに扮するのが、「シックス・フィート・アンダー」のマイケル・C・ホールだ。「シックス・フィート・アンダー」は、一時「ソプラノズ」、「Sex and the City」と共にHBOオリジナル番組を支えた三本柱の一つだったのだが、昨年最終回を迎えた。その後すぐ新番組の主演に抜擢されるというのは、かなり買われている証拠だろう。


「シックス・フィート・アンダー」ではどちらかというと焦点は次男デイヴィッドを演じるホールではなく、兄ネイトを演じるピーター・クラウスに当たっていたため、実はホールよりもクラウスの方の印象が強かった。しかし、こうやって自分一人の番組を背負わせると、ホールもかなりいい役者であることに改めて気づかされる。


ホール演じるデクスターは幼い時に両親を亡くし、その後、刑事の元にもらわれて成長した。デクスターには恐るべき性癖があり、それは血に異常な関心を持っているというものであった。そのためデクスターは幼少時より小型の動物を人知れず屠っていたが、やがてカンのいい養父にばれる。養父は最初、デクスターの性癖を矯正しようとするが、どうしてもそれがダメだとわかると方向を転換し、屠る対象を存在自体が害悪でしかない社会のダニどもにすることで、同時にデクスターの欲望も満足させるという、合法とはいえないまでも社会のためになる一石二鳥の方法を考え出す。養父はデクスターに刑事捜査のイロハを教え、それの裏をかくための技術を叩き込む。かくして、一見一般人、その実体はシリアル・キラーというモンスターが誕生する。


デクスターは検死官として、昼は警察と共同で仕事しているわけだが、義妹のデブラもまた警察官だ。花形部署の殺人課への移動を熱望しているが、上司でデクスターに気のあるラグエルタに嫌われているため当分その希望はかないそうもない。一方デクスターはデクスターで、刑事のドークスから蛇蝎の如く忌み嫌われている。デクスターは人には言えない自分の性向上、女性に性的な魅力を感じず、したがってガール・フレンドを必要としないが、デブラはいい歳にもなってガール・フレンドもいない義兄のために子持ちの女性を紹介する。彼女は家庭内暴力の犠牲者でセックスに対して脅えており、デクスターとプラトニックな関係にいられることで逆に二人の関係は機能していた。


プレミア・エピソードでは、男の子へのいたずらを止められない合唱隊の指揮者と、女性をレイプしてそのシーンをヴィデオに収めてインターネットで販売していた男がデクスターの刃にかかる。デクスターは台の上に裸にした男をプラスティック・テープでぐるぐる巻きにして動けないようにすると、絶叫する相手に麻酔もかけずにメスで切り刻んだりドリルを使ったりするのだ。見てるだけで痛い。戦利品である一滴の彼らの血は、スライド・グラスの上にとられ、デクスターのコレクションとして彼のアパートのエア・コンの後ろに隠されている収集箱の中に大切に保管されるのだ。


一方、デクスターとは無縁に、逆に人体から血をほとんど抜き去ってばらばらにして捨てるという猟奇殺人が連続して起きる。血に惹かれるデクスターとは舌に、このシリアル・キラーは人体から血をなくすことに生き甲斐を感じているように見える。この男 (女?) が事件現場に残していった、血のない、冷たくなった人体の亡き骸は、ほとんどアートとでも呼べるようなオブジェになっていた。警察はこのシリアル・キラーに翻弄されるが、デクスターは自分の経験から、犯人は死体の運搬や処理に便利な保冷車を使ったのではないかと考える。


ある夜、自分のもう一つの仕事から帰る途中のデクスターは、よりにもよって怪しい保冷車が自分の車の後ろで信号待ちをしているのに気づく。その車を先に行かして跡をつけ始めたデクスターだったが、相手はそのことを察知しており、デクスターの車に、被害者から持ち去られていた頭部を投げつけると、いずこへともなく去っていく。さらに、デクスターがアパートに帰ると、冷蔵庫の中に、バラバラになった人形が置かれていた。相手はデクスターのことを知っており、そしてデクスターが何をしているかも知っていたのだ。


以上がなかなかてんこ盛りのプレミア・エピソードで、非常によくできていた。ホールを筆頭に、妹デブラを演じるジェニファー・カーペンター、ガール・フレンドのリタを演じるジュリー・ベンツ等、みんないい。カーペンターは冒頭、囮捜査のためにフッカーの真似をしてあられもない格好で登場し、ベンツはカマトトっぽいところが様になっており、ルネ・ゼルウェガーを彷彿とさせる。彼女たち以外の面々も、みな一癖も二癖もある役者を適材適所で起用しているという感じがする。


たぶん番組は今後、何者か得体の知れないシリアル・キラーとデクスターの関係を主軸に、それにリタやデブラ、その他のデクスターのプライヴェイトに関わる面々を横軸に展開していくことになろう。シリアル・キラーからゲームの挑戦状かあるいは警告を受け取り、それに受けて立つデクスターとの丁々発止のサスペンスフルな展開もわくわくものなら、女性に興味がないのにもかかわらず付き合っているリタとそういう展開になりそうになって、うまくかかってきた電話ですんでのところで難を逃れたデクスターとリタの今後にも興味津々といったところである。果たして彼らはいつまでもプラトニックのままでやっていけるのだろうか。


今、マイアミを舞台にしているドラマ・シリーズというと、CBSの「CSI: マイアミ」とFXの「ニップ/タック」が双璧である。「デクスター」は両者に加わる新しいクライム・ドラマと言うことができよう。マイアミはスパニッシュ人口が多いため、頻繁にスペイン語が会話に挟まる。確か「ニップ/タック」では、スパニッシュの登場人物がスペイン語をしゃべれない主人公に向かって、ここはマイアミだぞ、スペイン語もしゃべれないのかと罵倒するシーンがあったが、「デクスター」でも会話のそこここにスペイン語の挨拶や決まり文句みたいなセリフが散りばめられている。


同じく明るい陽射しという印象のLAとマイアミで最も異なるのは、湿度だ。LAの場合、からりと乾いて年中温暖で快適な気候だが、マイアミの場合、夏季はかなり湿度が高く、じっとりと汗ばんで不快だったりすることもある。「デクスター」では、ほとんど常にといった感じでデクスターのシャツの背中に汗が滲んでおり、この辺がLAを舞台とするドラマと違う。ああ、暑いんだろうなと思える。今年公開の映画だと「マイアミ・バイス」もあったが、LAを舞台とした作品とマイアミを舞台とした作品とでは、マイアミを舞台とする作品の方がより人間くさく思えるのは、そういった人間の生理がより映像として定着しやすいからなんだと思う。


また、「デクスター」は、どちらかというとゴーリーでおどろおどろしい内容にもかかわらず、かなりブラックなユーモアが番組に横溢しているのだが、その辺は原作とも関係しているかもしれない。プレミア・エピソードの演出はなんと「L. I. E.」のマイケル・クエスタで、今年、新作の「12アンド・ホールディング」を見ようとして果たせず口惜しい思いをしたクエスタが、マイアミで「デクスター」も撮っていたとは。調べてみるとクエスタは、「シックス・フィート・アンダー」でもかなりのエピソードを演出しており、もしかしたらそこで知り合いになったホールとクエスタが、お互いに「デクスター」に推薦し合ったのかもしれない。「デクスター」も、HBO番組あってこそ企画が実現したのか。


「デクスター」を含むショウタイムのオリジナル番組が果たしてHBOのオリジナル番組を抜いたかどうかという最終的な判断は、来春の「ザ・ソプラノズ」の最終シーズンを見てからするしかないが、しかし、今現在受ける印象としては、HBO番組の方が金はかかっているが、ショウタイム番組の方が面白い。まったく、数年前にはショウタイムがHBOと肩を並べる時が来るなんて想像すらできなかったのに、最近、別に特に何も見たいものがなくて、では映画でも見るかとペイTVにチャンネルを合わせようとすると、ほとんど無意識にHBOではなく、ショウタイムの方にチャンネルを合わせている。自分でもびっくりだ。ショウタイムのオリジナル番組製作担当チーフのサラリーは、倍増させるべきだ。






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Dexter


デクスター   ★★★1/2

 
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