ホーダーズ  Hoarders

放送局: A&E

プレミア放送日: 8/17/2009 (Mon) 22:00-23:00

製作: スクリーミング・フリー・プロダクションズ

製作総指揮: アンディ・バーグ、マット・チャン、ジョディ・フリン


ホーディング: ベリード・アライヴ  Hoarding: Buried Alive 

放送局: TLC

プレミア放送日: 3/14/2010 (Sun) 22:00-23:00

製作総指揮: ロビン・セステロ

ナレーション: ブレイ・プア


内容: 物を捨てられず、家の中がゴミ溜めのようになってしまった人たちに密着するリアリティ・ドキュメンタリー・シリーズ2種。


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私は特に整理整頓のいい方ではないが、世の中にはもっとすごい者が大勢いる。特に近年、物を捨てられずに、買ったり拾ったりした物を後生大事にいつまでも家の中に溜め込んでおく人々にクロース・アップが当たるようになった。物を捨てずに溜めまくることをホーディング (Hoarding)、その行為をする人々のことをホーダー (ズ) (Hoarder (s)) といい、今では立派な心の病気ということで認識されている。


昔から部屋に物を溜め込んで散らかしているという人はどこにでもいた。しかしホーダーは、それが常軌を逸しているところに特徴がある。誇張でなしに、部屋の中が物で、端的に言ってゴミで足の踏み場もないくらい埋め尽くされるのだ。もちろん目に見える物の下に埋まっている物なんて、本人ですら既に覚えていないだろう。


こういう人は、少ないとはいえ昔からいたに違いないが、近年、明らかにこの状態にいる者が増えた。それと共にホーダー、ホーディングという用語が確立した。面白いことに、あるものに名前がつくと、それまでは潜在化していたものが顕在化する。漠然とこれはこうじゃないかと思ってはいてもうまく認識し切れなかったものが、名がつくことによって明確に把握され、その範疇に仕分けされるようになるのだ。昔はただのクソガキと言われていたものが、ADHDと名がついたとたん病気ということになって、そういう子たちがいきなり増えたのと同じだ。


ホーディングは、ADHDよりさらに新しい心の病気だ。よく耳にするようになったのはここ数年の話で、特にアメリカを代表する日中の奥様方相手のトーク・ショウ「ジ・オプラ・ウィンフリー・ショウ (The Oprah Winfrey Show)」でこの問題が採り上げられて以来、頻繁に耳にするようになった気がする。女性に圧倒的人気のある「オプラ」で採り上げられると、一気に話が全国区になるのだ。


また、2003年から始まっているスタイル・ネットワークの「クリーン・ハウス (Clean House)」という番組もある。これは散らかっている部屋をクリーンアップして整理するという、どちらかというとテーマはABCの「エキストリーム・メイクオーヴァー: ホーム・エディション (Extreme Makeover: Home Edition)」に近い、リノヴェイション/リニューアル番組なのだが、元の部屋が異様にもので散らかっていたりすると、ほとんど乗りはホーディングになる。そのため「ザ・サーチ・フォー・ザ・メッシイスト・ホーム・イン・ザ・カントリー (The Search for the Messiest Home in the Country)」というスピンオフができたりする。


そして昨年、満を持してというか、このテーマに目をつけたA&Eが、ホーダーに密着するドキュメンタリー・リアリティ・シリーズ「ホーダーズ」の放送を始めた。なんでも現在ではこの心の病を持っている人は全米で300万人もいるそうで、潜在的番組登場候補者には困らない。番組はそれなりに注目を集め、現在第2シーズンを放送中だ。


そして今回、これに注目したTLCが、独自にホーダーズ・テーマの「ホーディング: ベリード・アライヴ」の放送を始めた。正直言って両者は瓜二つの番組であり、ほとんど差異はない。いくらこのテーマが旬とはいえ、ほとんど同じ番組が市場に2本もあると共倒れにならないのかと心配するし、A&Eが盗作として「ホーディング」を訴えたりしなくていいのかと気にもなる。それが静観を決め込んでいるようなのは、基本的に構造としては誰もが考えつくようなストレート・フォワードな番組の作りであり、特に著作権を主張できるような番組ではないことが第一の理由だろう。TLCとしては、A&Eが番組の放送を始める前に自分たちも企画を進めていたんだというところかもしれない。


実際、両番組を途中から見始めた場合、まずどっちがどっちかを当てることは困難だ。両者ともだいたい1回の番組内で二人をフィーチャーし、一人ずつではなく、交互に違う人物のホーディング状況を追うという番組進行もほぼ同じなのでなおさらだ。登場するホーダーズたちは、自分たちで状況を改善できないからTVの力を借りてなんとかしようと番組に出ている。そのため番組の後半はカウンセラーやセラピストが登場して、ホーダーズと一緒に家の中を綺麗にしようと奮闘する様をとらえるというのも一緒だ。


一方、最も大きな体裁の違いが、「ホーディング」にはナレーターがいるが、「ホーダーズ」にはいないことにある。「ホーダーズ」はその代わり、要所要所で画面いっぱいの字幕テロップが入り、状況を説明する。それを読まないと現状がわからないから、視聴者により集中を要請する。どちらがTV番組としてより効果的かはなんとも言えない。結局、番組の面白さは登場する人物次第だからだ。


両番組に登場する人物の特徴としては、まず第一にある程度歳が行っていることが挙げられる。何年という月日をかけてものを溜めるわけだから、これは当然だ。私が見た限りでは、40代以下のホーダーはいなかった。逆に言えば、歳をとっている者ほどホーディングの度合いは激しかったりする。男女間では気持ち女性の方がホーダーが多いような印象を受けた。むろん正確な統計ではなく、私が見た限りでは女性の方が多かったかなという程度だ。


ホーディングが心の病気であることは、ホーダーがホーディングするようになったきっかけを、多かれ少なかれ自覚していることからもわかる。つまり、ホーディングするようになった理由があるのだ。特に、身内の愛する者に先立たれた、別れた、出て行かれた、障害を持つようになったから、という理由が何例もあった。このことからも、ホーディングは心に開いた穴を埋めるための代償という機能が最も大きいことが知れる。もう何も失いたくないのだ。


特に印象に残ったホーダーの女性は、若い頃おばの家に引きとられたが、そのおばが厳しく、私物を持つことをまったく許してくれなかったという。ある時おばがその女性の数少ない私物を庭に持ち出し、お前が私物を持つことは許さないと、目の前で火をつけて燃やしたそうだ。確かにこんな経験をしたら、将来ホーダーになるのは避けられないかと思う。自立して自分の金で自分の欲しいものが買えるようになったら、何も捨てる気にならないだろう。


この女性は身だしなみは異常なくらいきちんとしており、朝4時起きで1時間以上時間をかけて念入りに化粧して出勤するそうだ。それなのにというか家の中は他人の目から見るとゴミの山でしかない。服は着たらちゃんとクリーニングに出して、プラスティック・カヴァーもかかっているのだが、ただし、クリーニングに出したその服がゴミの山の中で今どこにあるかがわからない。これではクリーニングに出す意味がない。本人だってそれはわかっているだろうが、しかしどうしようもないのだ。


こういう心の病については本職のはずの、元カウンセラーのホーダーの女性というのもいた。軍勤務のその女性は、国外の基地で上司と許されない恋仲となり、結局、たぶん除隊を強制され、職を失った。それからホーディングが始まったそうだから、自分自身の職務の経験からしても、ホーディングの理由も、なすべきこともはっきり知覚できていると思うが、それでも、他人を診察するのと自分の症状に対応するのとは違うらしい。喘息持ちで、家の中がゴミだらけなのがまずいのは医者じゃなくたってわかるのに、一人ではやはりどうにもできないようなのだ。


両番組共、番組の後半はカウンセラーみたいなのが登場してホーダーと一緒にゴミの山を整理し始めるのだが、だいたいほとんどがいざものを整理、つまり要らないものを捨てようとする段階になると、抵抗を示す。わかってはいても捨てられないからホーダーになっているのだから、これは当然だ。いきなり片付けようとすると、ほとんど反射的に、パニクるように抵抗する者が多い。だからカウンセラーの仕事は、一緒にものを整理することではなく、ホーダーの心をものを捨てる、整理することができるように持っていくことにある。かなり時間のかかる仕事だ。


しかもそうやってなんとか片付けて外に運び出したものを、後でこそこそと戻ってきて、これはやはり大事なものだからとまた家の中に運び込もうとしたりする。ほとんどの者がそうなのだ。ガラクタ一つ捨てるのにぼろぼろ泣かれたりすると、掃除は永遠に終わらない。どうしても捨てられず、一時的に家の中から運び出したものの山を借りたストレージ・ルームに運び込んだりもするが、ただゴミの山の場所が変わっただけだったりする。それでも、彼らにとっては一つ前進なのだ。そうやって一歩ずつ前に進んでいくしかあるまい。








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ホーディング: ベリード・アライヴ   ★★1/2

 
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