Lucy


ルーシー  (2014年8月)

女房が、リチャード・リンクレイターが実際に10年以上の歳月をかけて撮った「6才のボクが、大人になるまで。 (Boyhood)」の評判をどこかから聞いてきて、見たいと言う。一方私は既にマイケル・アプテッドのドキュメンタリー「アップ (Up)」シリーズを見ている。あれだろ、結局、やっていることは「アップ」と一緒だろ、だったら、「Boyhood」は、半世紀以上時間をかけて撮った「アップ」に永遠に追いつけない。むろんフィクションとノン・フィクションの差はあるだろうし、フィクションの中に人間の成長というフィジカルな事実が入り込んでくる「Boyhood」に多少興味をそそられないこともなくはなかったが、それも3時間近いという上映時間の前にしぼむ。それはちょっと長過ぎるんではないか。


私が、この映画、3時間だぜ、と言うと、さすがに女房もそれは‥‥とちょっと腰が引ける。結局、やはり3時間弱の地味そうなドラマを映画館で見ようという気にはなれず、これはVODになったら、家でカウチに寝っ転がって見ることにする。反動で、というわけではないが、見ることにしたのは1時間半のリュック・ベッソンの「ルーシー」だ。


台湾に遊学中の女性ルーシーが、身体にドラッグを埋め込まれたことから超人的パワーを持つようになる。それは普段は容量の10%くらいしか使ってないとされる頭脳の潜在的ポテンシャルを、100%引き出すことを可能とするドラッグだった。人間の頭脳の能力を限界まで引き出すことができたらいったい何ができるのか、いったい何が起こるのか、それは誰も知らなかった‥‥


冒頭、身体の中にドラッグを埋め込んで運び屋となるルーシーを見て思い出すのは、「そして、ひと粒のひかり (Maria Full of Grace)」だ。あれは外科手術でドラッグを体内に埋め込むのではなく、コンドームに入れて飲み込むという方法だったが、それが体内で破裂したりするとほとんど命がないという危険な手段であったことには変わりはない。そんじょそこらのホラー映画より、よほど怖ろしいシーンを演出していた。


「ルーシー」においては、それがホラーというよりもアクションという感じで、体内でドラッグの漏れ出したルーシーは、それを摘出する必要に見舞われる。病院に駆け込んだルーシーは、医者を脅して手術させる。しかしルーシーはこの時既に、ドラッグが効いてきて超人的能力を発揮し始めている。ブラック・ジャックなら局部麻酔で自分で自分を手術するんだけどな、既にルーシーの能力ならそれくらいできそうなんだが、と思ってしまった。


その後ルーシーはさらに力を増す。人間の潜在能力をフルに引き出し、超人的能力を発揮できるドラッグというと、今度は思い出すのは、ブラッドリー・クーパーが主演した「リミットレス (Limitless)」だ。しかもルーシーはそれだけに留まらない。さらに脳は機能拡張を続け、ほとんど場所や時間の壁を超え、偏在化する。これって、「トランセンデンス (Transcendence)」 じゃないか。まさか人間という種としての限界まで超えるとは思わなかった。


また、所々現れるサルは、こいつは当然人類がサルからヒトへ進化した最初の痕跡を示すアウストラロピテクスのルーシーだろう。それが巡り巡って21世紀のルーシーになった。とはいえ、今だとサルのルーシーというよりも、先頃見た「猿の惑星: 新世紀 (ライジング) (Dawn of the Planet of the Apes)」の方を思い出してしまうのだが。とまあ、とにかく、「ルーシー」は他の色々な映画を連想させるのだった。


タイトル・ロールのルーシーに扮するスカーレット・ヨハンソンは、近年マーヴェル・コミックスの「アベンジャーズ (The Avengers)」シリーズにより、アクション・ヒーローが板についてきた。私の目から見ると、ヨハンソンを筆頭に、アンジェリーナ・ジョリーとかクロイ・グレイス・モリッツとか、決して運動神経がよさそうには見えない女優がアクション・ヒーローを演じている場合が結構ある。


これは映画のアクションが実際の運動ではなく、型から来ていることを証明している。どれだけ運動できるかではなく、どれだけ格好よく見えるかの方が重要だからだ。それでも男優は結構実際に運動もできるアクション・スターも多いが、それでも歳をとってきたかつてのアクション俳優はさすがに衰えを隠せず、かなりの部分を編集でごまかしている。


シルヴェスタ・スタローンを筆頭とするかつてのアクション・スター揃い踏みの「エクスペンダブルズ3 (The Expendables 3)」が公開されているのだが、新鋭監督のパトリック・ヒューズは、ベッソンのように型重視ではなく、本人のアクションを入れようとして失敗している。見せ所満載のはずの予告編で見て、このアクション、冴えないなあと思わせてしまうのだから、公開前から興行成績は知れている。しかし、これはヒューズを指名したはずのプロデュースのスタローンの意向とも思え、「ロッキー (Rocky)」の人間だからな、それはそれでしょうがないというか、むしろ老骨に鞭打っても生身で勝負している実直さは、ある意味感動的とすら言えるかもしれないとも思うのだった。


一方、ベッソンのアクション・ヒーローは、基本的にほとんどが女性だ。視覚を重視したからヒーローが女性になったのか、女性を主人公にしたかったから視覚重視になったのか。「ニキータ (Nikita)」のアンヌ・パリロー以降、「レオン (The Professional)」のナタリー・ポートマン、「フィフス・エレメント (The Fifth Element)」、「ジャンヌ・ダルク (The Messenger)」のミラ・ジョヴォヴィッチ等、もしかしたらこれに「アウンサンスーチー ひき裂かれた愛 (The Lady)」のミシェル・ヨーや、「マラヴィータ (The Family)」のミシェル・ファイファーを含めてもいいかもしれない。これが男を主人公にしようとすると、いきなりジャン・レノのような無骨な男になってしまう。スタイリッシュな格好よさを男に求めてはいないのだ。ある意味そうなってもおかしくない「96時間 (Taken)」みたいなのを作ると、さっさと演出は他人に譲ってしまう。自分でキャラクター作っておきながら、どうも無骨で愛嬌があるという男でないと、その気になれないようだ。











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台湾に遊学に来ているルーシー (スカーレット・ヨハンソン) は、パーティで知り合って間もない男から、ある物をホテルの一室に届けてくれるよう頼まれる。断るルーシーだったが、男は隙を見てカバンとルーシーの腕を手錠で繋いでしまう。仕方なくホテルの中に入ったルーシーは、外で男が殺されるのを目撃、そしてホテルの一室に連れて行かれたルーシーは、ギャングのボスによって眠らされ、その間に外科手術によってカバンの中に入っていたドラッグを身体の中に埋め込まれ、ドラッグの運び屋に仕立てられる。そのドラッグは人間の潜在能力をフルに発揮できるよう開発されたもので、実際に身体にどういう影響をもたらすのか、誰も知らなかった。しかも最悪のことに体内に埋め込まれたドラッグが漏れ出して、ルーシーの血管の中に滲出し始める。ルーシーの身体に変化が起き始める‥‥


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