Transcendence


トランセンデンス  (2014年4月)

実は「トランセンデンス」よりも、ジム・ジャームッシュの新作「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ (Only Lovers Left Alive)」の方に強烈に興味を惹かれていた。トム・ヒドルストンとティルダ・スウィントンが共にヴァンパイアを演じるという。ヒドルストンはいかにも端正な二枚目的ヴァンパイアになりそうだが、しかし本当に気になるのはスウィントンの方だ。


先週の「ザ・グランド・ブダペスト・ホテル (The Grand Budapest Hotel) 」で演じた、今にも死にそうな大金持ちばばあがいかにもという感じで目にこびりついており、あの姿で今度はヴァンパイアになるのか、いや、スティルを見ると今度は若作りっぽいが、そのくせ本当は何百歳とかいう設定か、いずれにしても、考えたら彼女はデレク・ジャーマン作品出演時代から既に年齢を超越するという役どころをこなしていたのだった。彼女ほど気軽に年齢や性別を超越できる役者は、世界中探しても他にいない。うーん、見てみたい。


とは思っても、いかにもどこから見てもインディくさいこの作品、まったく近場では上映していない。うちからはいっそマンハッタンまで出た方が距離的にはよほど近い上映館があるが、仕事帰りに疲れた身体と脳みそでジャームッシュ作品を見る気には到底なれず、かといって休みの日にまたわざわざマンハッタンまで出る気になれない。クルマ使うと橋代とられるし。


ニュージャージーでやっているのは、引退した小金持ちが多く住む地域の映画館で、しかしこの映画館、ちょっと古くて座席が窮屈な上に、前の席との間隔も狭い。当然スタジアム・シートでもなく、前に人が座るとかなり頭が邪魔になる。スタジアム・シートにふんぞり返って楽な姿勢で見ることに慣れると、こういう映画館は苦痛以外のなにものでもない。


しかもこういうジジババの多い映画館って、必ず上映中に携帯を鳴らすやつが一人か二人はいるのだ。それはもう、必ずいる。それで慌ててオフにしようとするのはまだいい方で、あろうことか大声で話し始める者すらいる。そういう経験を連続ですると、この映画館にはもう二度と来ないと思うのだった。こないだ、南部のどこかで上映中にスマートフォンを使って注意されたやつが、それでもやめないので、頭に来た軍人上がりに撃たれて殺されたという事件があったが、撃ったやつの気持ちはとてもよくわかる。それで後ろ髪引かれつつも、「トランセンデンス」を選択する。こっちだって最初から見ようとは思っていたが、この分だと「オンリー・ラヴァーズ」は見れないで終わるかもしれない。


さて本題の「トランセンデンス」、平たく言うと、電脳空間に意識を移植された天才科学者が暴走するという近未来SFだ。主人公のウィルに扮するのがジョニー・デップで、同じように科学者である妻イヴリンに扮するのがレベッカ・ホール、二人の親友で狂言回し的役割のマックスにポール・ベタニーが扮している。その他にもモーガン・フリーマン、ケイト・マラ、キリアン・マーフィ、クリフトン・コリンズJr.等、おっと思わせるメンツが脇を固めている。演出はクリストファー・ノーランの撮影を長らく担当していたウォーリー・フィスターで、フリーマンやマーフィ等、なんか「バットマン (Batman)」を思わせるメンツだなと思わせるのは、その伝手でのキャスティングだからだろう。


デップはディズニーのドル箱シリーズだった「パイレーツ・オブ・カリビアン (Pirates of Carribean)」が終わった後、どうもヒット作に恵まれない。「パイレーツ」シリーズがヒットし過ぎと思えるくらいだったので、これでバランスがとれていると言えるか。考えてみると、見かけはやたらとド派手で装飾過剰の「パイレーツ」のジャック・スパロウ、「ローン・レンジャー (The Lone Ranger)」のトント、「ダーク・シャドウ (Dark Shadows)」のバーナバス等、近年のデップの演じる役は、皆生きているか死んでいるかわからない、あっちの世界とこっちの世界を行き来しているような役ばっかしだ。そして実は「トランセンデンス」もその例に漏れない。というか、その路線を極めてしまったようなのが、「トランセンデンス」だ。


元撮影カメラマンの初監督作になるわけだが、この作品でも最も難しいのは、サイバー・ワールドに住む主人公、ウィルの視覚化にある。ウィルは今や世界中のあるゆるところに遍在する存在となっているが、それは感知することはできるかもしれないが、むろん目で見えるわけではない。しかし視覚媒体の映画において、主人公のウィルを見せないわけにはいかない。むろんそれは妻のイヴリンにとっても同じだ。結局イヴリンに自分を感じてもらうため、ウィルは以前と同じウィルを造型してスクリーンに現れる。それが嵩じて3Dモデルとして、現実の人間として形を持って姿を現すようになる。


しかしここは、姿を見せないでウィルを感知させるという難しい技にずっと挑戦していてもらいたかったと思うのだ。最初私は、そういうのをやりたかったのでは、ではどうやるのかと興味津々だったのだが、いともあっさりとウィルが形をとり始めたので、あら、やはり元撮影監督はどう感知させるかではなくどう見せるかという方向に向かっちゃうわけね、考えたら当たり前か、などと思いながら見ていた。


これはウィルが特に力を入れて開発している医療事業とも関係がある。機能を損失した内蔵や失った四肢の復元といったことが科学の力で実現できるようになる。なるほどこれを見せたかったわけか。ただしこういう自然の治癒力を無視した局部的な医療行為は、どうしても後でなんらかの反動や反発、副作用をを起こさざるを得ず、得てしてそれは何もしないことよりも大きな悪影響をおよぼす。不死になることは死ぬことより悪という、過去幾度も色んな作品で目にしてきた命題が、ここでも再現する。「プロメテウス (Prometheus)」のガイ・ピアースとデップが重なるのだった。











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ウィル (ジョニー・デップ) は世界有数の人工知能技術の専門家であり、妻のイヴリン (レベッカ・ホール) と共に日々研究に取り組んでいた。しかし人類の存在の仕方を根本から覆しかねない先鋭的なウィルの研究に断固反対を表明する急進派組織は、ウィルを亡き者にしようと計画していた。あるシンポジウムに出席したウィルは組織の者に撃たれ病院に運ばれる。容態は芳しくなく、血液が犯されたために、余命は幾ばくもなかった。イヴリンはマックス (ポール・ベタニー) の助けを借りて倉庫に緊急のラボを設置し、ウィルの意識をインターネット上に流し込もうとする。それによってウィルはすべてのものを超越できるはずだった。そこに危ないものを感じるマックスだったが、イヴリンはマックスの意見には耳を貸さず、実験は成功したかのように見え、ウィルはネット上からイヴリンとコミュニケートして指示を出すようになる。世界中のすべてのオンライン情報にアクセスできるウィルは、今や世界中の富を独占しているも同然だった。イヴリンはウィルの指示に従い、砂漠の中の変哲もない小さな町の地下に、巨大なラボを建設する‥‥


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