Prometheus


プロメテウス  (2012年6月)

地球から遠く離れた宇宙で、宇宙船プロメテウス号は生命が存在する可能性のある惑星に到達する。アンドロイドのデイヴィッド (マイケル・ファスベンダー) は、冬眠状態だった乗組員を起こして回る。その中には船長のジャネク (イドリス・エルバ)、考古学者のエリザベス (ノオミ・ラパス) とチャーリー (ローガン・マーシャル-グリーン) らがいたが、実際に船を仕切っているのは、今回のミッションに金を出した企業の創立者の娘、メレディス (シャーリーズ・セロン) だった。プロメテウスは惑星に着陸、知性のある生命体が創り出したに違いない巨大な建造物の内部の調査に着手する。その中は酸素で満たされ、ヘルメットなしでも呼吸できた。そして乗組員たちは、ついに別種の知的生命体を発見する。その中の一体は、まだ生命を宿しているように思われた。そして惑星では、忌むべきエイリアンの卵もまた、孵化せんとしていた‥‥


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つい先々週に「スノ-ホワイト (Snow White and the Huntsman )」で妖艶な妃を演じていたのを見たばかりのシャーリーズ・セロンが、今度はリドリー・スコットの「エイリアン (Alien)」譚の最新作に出演だ。最近ちょっと風格が出てきただけに、主人公というよりも、主人公を敵に回す悪役という感じが板につき始めている。殴られると映えるセロンが相手をいたぶる側になりつつあるが、スコットがセロンを無傷のまま置いておくはずはないと確信して劇場に足を運ぶ。


そして「プロメテウス」では、そのセロンのように殴られて華があるタイプではないが、しかし「ミレニアム」シリーズで、セロンがよく演じる役柄以上にこれでもかというくらいしたたか傷を負わされ、それでも必ず反撃したノオミ・ラパスが、主人公格のエリザベスとして登場する。


しかもここでのエリザベスは、遠い過去にロマンを持つ考古学者だ。職業上、それなりにフィジカルなフィールド・ワークもこなすだろうが、本質はロマンティストという役柄を、「ミレニアム」でリスベットを演じたラパスが演じており、そして非常に暖かみのあるキャラクターを造型している。これがあのリスベットか。「シャーロック・ホームズ: シャドウゲーム (Shirlock Holmes: A Game of Shadows)」では特に印象に残らなかったが、かなり役幅が広いことに感心する。


さて、話はエリザベスと、恋人兼共同研究者のチャーリーが、スコットランドの高地で、遠い過去に地球を訪れたに違いないエイリアンの描いた遺跡を発見したことが発端となる。宇宙からやってきた生命体の存在が確実になり、そしてそれからまた時は経ち、エリザベスとチャーリーは、他の乗組員たちと共に、宇宙船プロメテウスに乗って、冷凍睡眠しながら宇宙の生命体と遭遇するための旅の途中にあった。


目的地に着いた一行は、アンドロイドのデイヴィッドに起こされ、着地する。地表はともかく、生命の痕跡、エイリアンの遺体、そして不気味な卵を擁する巨大な建造物の内部は酸素で満たされており、ヘルメットなしでも呼吸が可能だった。実はこの巨大な建造物は、内部の空気濃度を調節できる、巨大な宇宙船だった‥‥


シリーズ5作目にして「1」のスコットが再びメガホンをとる「プロメテウス」は、また、5作目にしてついにこれまでシガーニー・ウィーヴァーが演じてきた、シリーズ主人公のリプリーがいなくなった。これまではエイリアンの子を産んだり、あるいは自殺してもクローンとして復活してきた、ある意味エイリアンより死なない不死身の女リプリーがいなくなったことは、正直言って、もう、それまでの「エイリアン」とは別物と言ってしまってもよかろう。作品タイトルも「プロメテウス」という宇宙船の名前を拝借しているように、もう「エイリアン」とは一線を画している。


実際「プロメテウス」では、ホラー色はほとんど薄まっている。エイリアンの起源というよりも人類の起源を描いているという印象の方が強く、これでは「エイリアン」というよりも、「2001年 宇宙の旅 (2001: A Space Odyssey)」だ。また、冒頭のところで、アンドロイドのデイヴィッドがTVイメージによってエリザベスの生涯を学習するシーンでは、「地球に落ちてきた男 (The Man Who Fell to Earth)」でデイヴィッド・ボウイがTVを通じて人類を学習するというシーンを思い出した。要するに、やはり「エイリアン」ではない。


シリーズでは、もちろんエイリアンとリプリーが最も印象に残るが、忘れてはならないのが、宇宙船クルーに紛れ込んでいるアンドロイドだ。「1」のイアン・ホルム、「2」のランス・ヘンリクセン (「3」でもちょっと出ていた)、「4」のウィノナ・ライダーが演じたアンドロイドは、それぞれ独特の印象を残した。特に「1」のホルム、「2」のヘンリクセンの印象が強烈なのは、それまでは同じく人間だと思っていた隣りにいた誰かがそうではなかったという衝撃、身体をばらばらにされても生き永らえていたという視覚的な点によるのはもちろんだ。


「4」のライダーが同様にアンドロイドではあってもホルムやヘンリクセンのように強烈な印象を残し得なかったのは、美形で女性のライダーに遠慮してしまってか、ホルム/ヘンリクセン的な最後の驚愕イメージを造型できなかったことが大きい。「ブラック・スワン (Black Swan)」を見ても明らかなように、美形だからこそ最後にライダーの顔や身体を崩した場合の効果は絶大だったと思えるが、「4」ではそれは叶わなかった。「エイリアン」シリーズが「1」と「2」、および「3」と「4」でかなり印象が異なるのは、むろん舞台設定や演出家の違いもあるが、ばらばらになるアンドロイドの存在のあるなしという点も無視できない。


「プロメテウス」では、さすがに観客も熟知しており、もうアンドロイドで意外性をつくという演出が困難になってしまっている。それでアンドロイドのデイヴィッドが登場することはするが、最初からアンドロイドと素性をばらして、人間そっくりなアンドロイドではなく、むしろ微妙に人間の動きと異なるアンドロイドを造型して視覚的に楽しませる。演じるのはマイケル・ファスベンダーで、どことなく人工的めいたハンサムという点が買われて、近年、色々なところで目にする。


「プロメテウス」は、「エイリアン」シリーズのそもそもの発端を描くという話として紹介されていた。正直言って、これがだから「エイリアン」に繋がる話かというと、特に流れとして同じ話という感触は受けなかった。別にこれが「エイリアン」のそもそもの発端というよりも、「プロメテウス」は、これはこれで一つの話としてまとまっており、特にこの前や後に広がっていく話という印象は受けない。


うちの女房は劇場から帰ってきて、なんだか「エイリアン」みたいな映画だったねと発言して、ちょっと度肝を抜かれた。あんた、これ、「エイリアン」のそもそもの発端を描く話ということを知らなかったのか、と私が言うと、あ、そういえば、聞いたような記憶がある、とそこで初めて「プロメテウス」が「エイリアン」であることに気がついた。映画に出てくるエイリアンを見て、あの卵を見て、これが「エイリアン」ということに即座に気がつかないというのもそれはそれですごいやつと思わされたが、一方、要するにこれはやはり「エイリアン」ではないという証明にもなろう。なんの前知識もなしに見たら、これが「エイリアン」でなくても構わないのだ。


ところで、前4作で主人公リプリーを務めたウィーヴァーは、今、ケーブルのUSAの政治ドラマ「ポリティカル・アニマルズ (Political Animals)」に出演している。ウィーヴァーが演じるのは、ヒラリー・クリントンのキャリアを模した主人公だ。エイリアンと戦うのと、スーツを着て内部で何考えているかわからない魑魅魍魎どもと戦うのと、どっちが楽だろう。また、セロンはやはり最後は肉弾戦で泥まみれになるのだが、ああいう派手なアクションになるよりも、もっとじわじわと窮地に追い込んでくれると、彼女の美しさが際立つんだけどな、と思った。高望みし過ぎか。









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