The Family


マラヴィータ  (2013年9月)

久し振りに見るミシェル・ファイファーが、ロバート・デニーロと夫婦役でギャング一家に扮しているようだ。へえ、トミー・リー・ジョーンズも出ている。しかも舞台はフランスの片田舎らしい。こいつは気にかかる。 

  

主人公フレッドは本名をジョヴァンニ・マンツォーニといい、ブルックリンのマフィア抗争で片方のボスを刑務所送りにしたはいいが、その手下からいまだに付け 狙われていた。そのため政府の保護プログラムの監視下で、ブレイクという仮りの名を名乗って、フランスのノルマンディの田舎を転々としていた。 

  

重要な事件の目撃者、関係者が命を狙われる可能性があるため、政府の保護プログラム下に置かれるという設定のTVや映画は、これが初めてというわけではない。USAの「イン・プレイン・サイト (In Plain Sight)」は、プログラムを監督する立場の政府エージェントが主人公だった。一方昨年のCWの「リンガー (Ringer)」の主人公は追われる立場で、ショウタイムが放送した「メドウランド (Meadowlands)」は、一家揃って素性を偽って新しい場所で暮らすという、「マラヴィータ」とほとんど同じ設定だ。 

  

またこの設定をコメディとして製作したのがカートゥーン・ネットワークの「デロケイティド (Delocated)」で、素性を隠すために覆面を被って生活しており、そのせいで目立ってしまってまるっきり居所を隠せてないという話だった。いずれにしてもこういう設定の話が幾つも思い出せるところが、世の中に命を狙われている者がいかに多いかを物語っていると言える。 

  

とはいえ「マラヴィータ」の場合、元マフィアのブレイク家が移り住んで来たのはアメリカ国内ではなく、フランスの田舎だ。広いアメリカでは、その気になれば素性を隠して隠遁生活を送るのは、やってできないことはないと思うのだが、どうだろうか。あるいは年頃の子供たちを学校に通わせなければならないため、人の目を完全に避けることは難しく、国内は無理だとの判断か。抗争相手のボスの力が大きく、逃げ切るのは難しかったのかもしれない。 

  

しかし、それでもなんでフランスなんだろう。ブレイク家は既にフランスでも何度か居場所を変えているようで、それが目立たないことに貢献しているとは到底思えない。彼らが行くところ、お目付役の政府エージェントも必ずくっついて来るのだ。しかも田舎とはいえ両隣りには家が建っており、人のいないど田舎というわけではない。ブレイク家はコミュニティに門戸を開いてホーム・パーティまで開いている。要するに完全に隠遁するわけではなく、コミュニティに溶け込んで目立たなくしようとしているようだが、こういう癖のある一家が人の噂にならないわけがない。 

  

さらにブレイク家が皆流暢にフランス語をしゃべれるかというと、そうでもない。学校ではわざわざ彼らに合わせて周りの生徒が皆英語で話しかけてくる。いじめようとする相手にわざわざ合わせるか。フランスの片田舎で、いじめっ子の中学生が英語を流暢に話せる確率は、それほど高くないと思う。 

  

結局、フレッドやスタンスフィールドの努力も虚しく、フレッドの居所はバレて彼らを亡き者にするべく刺客が送り込まれる。フランスの片田舎で、ニューヨーク・マフィアの血で血を洗う抗争の火蓋が切って落とされる‥‥という展開。 

  

主演はデニーロとファイファーなんだが、それよりも気にかかるのがデニーロとジョーンズ。この二人、これまで共演しているようで、そういう作品が思い出せない。もしかしてこれが初めてかと調べてみると、どうやらこれが本当に初共演らしい。 

  

その事実にも驚くが、映画を見ていて本当に驚いたのが、本編が終わってスクリーンが暗転し、監督リュック・ベッソンとクレジットが出てきた瞬間だ。女房と一 緒に見てたのだが、二人して、えっ、これってベッソンだったのと同時に声に出して驚いた。そうか、だから舞台がフランスだったのか。知らなかった。さらにエグゼクティヴ・プロデューサーにはマーティン・スコセッシの名が。なんてこった。だから劇中で「グッドフェローズ (Goodfellas)」を見るなんて遊び、というかオマージュが入ってたのか。しかし、そこで「グッドフェローズ」でデニーロが出ているシーンを実際に見せたらどうなってたんだろう。さすがにそこまで行くとオマージュというより悪ふざけとなってぶち壊しになってしまうか。 

  

実は前日にもTVで「96時間/リベンジ (Taken 2)」を見ており、これは演出こそベッソンではないが、製作総指揮を担当している。一方でチェックしてみると、ベッソンの監督作を見るのは1999年の「ジャンヌ・ダルク (The Messenger: The Story of Joan of Arc)」以来14年振りだ。その間、ちょくちょく「アーサー (Arthur)」シリーズのような子供向けファンタジーは撮っていたようだが、いくらベッソンでも見ようという気にはならず‥‥というか、そんなの公開されていたことも知らなかった。 

  

それで調べてみると、やはりアメリカではDVDスルーで、2006年の第1作の「アーサーとミニモイの不思議な国 (Arthur and the Invisibles)」 以外劇場公開されていない。いくらベッソンでも、子供向けファンタジーならアメリカならディズニーを筆頭に有名どころが腐るほどいるし、特にお呼びではなかっただろう。それよりも、主人公アーサーに扮しているがフレディ・ハイモアということを発見して納得した。今年A&Eの「ベイツ・モーテル (Bates Motel)」に出ているのを見て、これまでいったいどこでどうしていたんだろうと思っていたのだが、数は少なくともちゃんと演じていたんだな。公開されてなかっただけか。 

  

上述のようにベッソンは、近年は監督としてよりもプロデューサーとしての活動の方が多い。「96時間 (Taken)」「トランスポーター (The Transporter)」 等、アクション系作品で米仏の映画人の橋渡し的みたいな位置にいる。現在アメリカ映画界で活躍しているフランス映画人の筆頭とも言えるルイ・レテリエは、 そもそも「トランスポーター」でベッソンに抜擢されて出てきた演出家だ。今回はスコセッシをプロデューサーとして迎え、デニーロとジョーンズを初共演させるなんて、アメリカ映画人の盲点というか、考えてもなかっただろうことを実現させる。ベッソンというと、どちらかというと斬新なアクションに冴えを見せる新世代の演出家という印象があったのだが、スコセッシやデニーロを起用して新作を撮るなんて、ちゃんと映画史に敬意を払ってんだなと感心する。特に現在のフランスとアメリカの映画界の結びつきは、ベッソンがいなかったら実現していない。 

 

ところでこの項を書くために映画の邦題を調べると、「ザ・ファミリー」ではなく「マラヴィータ」となっていて、一瞬、目が点になった。マラヴィータ、なんだ、それ。要するに仏題、原作の方をそのままカナ読みしたタイトルで、裏社会を意味するイタリア語ということだ。まあ、主人公はマフィアの一員だからそれもいいか。イタリア語ということは、とするとヴィータってのは、あれだろ、たぶんフェリーニの「甘い生活 (La Dolche Vita)」のヴィータだろう、とするとマラってのは接頭辞で、英語だと「悪い」を意味する「Mal」と関係がありそうだな、サイテーの生活って感じか、それが裏社会という意味になるのかと、納得する。因みにトニーノ・ブナキスタの原作の邦題は、「隣りのマフィア」というそうだ。芸はないけどわかりやすい。 

 

肩の凝らない気楽に見れるエンタテインメントとして楽しませてもらったが、一つだけこれをそのままにして終わらすかと気になったのが、ベルといい仲になる数学の補助教師。やはりここは家族総出で出向いて行ってぶっ飛ばすというのが、正しいギャング映画のあり方だと思うのだが。とはいえそのベルを演じるアグロンを、実は見ている間中エマ・ロバーツだと信じて疑っていなかった‥‥ という感触になにか既視感を覚え、これってなんだったっけ、オレ、なんかどこかでなんか抜本的なカン違いをしているな、なんだ、これという違和感を、やっと発見した。「アイ・アム・ナンバー4 (I Am Number Four)」で、アグロンを見てまったく同じカン違いをしているのに、また性懲りもなく同じカン違いを繰り返しているのだった。成長が見当たらん‥‥ 











< previous                                      HOME

元マフィアのフレッド・ブレイク (ロバート・デニーロ) はかつての抗争の挙げ句、政府の目撃者保護プログラムに則ってフランスのノルマンディ地方を転々としていた。根が短気のフレッドを筆頭に、妻のマギー (ミシェル・ファイファー)、長女のベル (ディアナ・アグロン)、長男のウォレン (ジョン・ディレオ) は全員気が強く、引っ越してきたばかりの土地でマギーはグローサリー・ストアでバカにされた腹いせに店ごと吹き飛ばしてしまうし、ベルは学校でちょっかいをかけてきた男子生徒をぼこぼこにし、ウォレンはすぐに裏で学校を仕切るようになる。彼らの面倒を見る立場にあるスタンスフィールド (トミー・リー・ジョーンズ) は、なにかと心の休まる暇がないのだった‥‥


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system