56アップ   56 Up 

放送局: PBS 

プレミア放送日: 10/14/2013 (Mon) 22:00-0:30 

製作: ITVステュディオス 

製作: マイケル・アプテッド、アレクサンダー・ガーディナー、クレア・ルイス 

監督: マイケル・アプテッド 

出演: ブ ルース・ボールデン、ジャクリーン・バセット、サイモン・バスターフィールド、アンドリュウ・ブラックフィールド、ジョン・ブリスビー、ピーター・デイ ヴィース、スザンヌ・デューイ、チャールズ・ファーノー、ニコラス・ヒチョン、ニール・ヒューズ、リン・ジョンソン、ポール・クリガーマン、スーザン・サ リヴァン、トニー・ウォーカー 

  

内容: 7年毎に英国の同じ人間を観測するシリーズ最新版第8弾。


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56 Up


56アップ  ★★★

あっという間に「56アップ」が放送される時が来てしまった。7年毎に新作が発表される「アップ」シリーズの前作「49アップ (49 Up)」が放送されてから既にまた7年が経ったということだ。「49アップ」を見たのはまだせいぜい数か月前くらいのような気がするのだが、もう7年か。あれから私はもう7年も歳をとってしまったのか。 


というのは、実は正しくはない。アメリカで「49アップ」が放送されたのは2007年暮れのことであり、正確には6年前だ。今回アメリカでの放送が早まったのは、「アップ」シリーズの知名度が上がり、視聴者の要望が大きくなってきたせいかもしれない。

  

それでも、その6年でも短いようでやはり実はそれだけの長さがある。6年前、私はマンハッタンの東側のクイーンズに住んでおり、1ベッドルームのアパートのリヴィングにあった、32インチのJVCのブラウン管TVで、録画してあったヴィデオテープを再生して「49アップ」を見た。 

  

それが今回、私はマンハッタンの西側のジャージー・シティにある2ベッドルームのアパートに引っ越して、リヴィングにおいてあるパナソニックの42インチのプラズマHDTVで、DVRに録画してあった番組をデジタル再生して見ている。単に画質だけでも比較にならないくらいの差がある。6年で生活環境は一変した。 

  

現在の登場人物の56歳という年齢は、実は私とは四つしか違わないのだが、「56アップ」に出てくる者たちを見ると、特に男性は、全員私より十以上は歳上に見える。欧米人はアジア系に較べて老けて見られやすいというのは確かにあるが、それでも、みなさん揃って髪の生え際が後退したようで。私も髪に白いものがかなり混じってきたが、それでも生え際の位置は変わらない。うちの家系は祖父も父も、髪が白くなり、薄くなっても生え際は後退していかなかったので、私も禿げという点では楽観しているが、改めて歳とると世に禿げて行く者は多いんだなと知れる。そして、禿げると歳とったように見える。 

  

あるいは、「アップ」の登場人物たちは、皆苦労してきたのかもしれない。私の学生時代、20代 の頃はバブルの真っ盛りで、単純に生計を立てるという点では、ほとんど苦労したことがない。金がなくなれば少し短期のバイトをして稼ぎ、それからしばらくは好きなことをして暮らすというのが、当時の若者の生き方だった。バイト雑誌を開けば求人は山のようにあり、ほとんどすべて即断即決だった。正社員より、 辞められたら困るバイトの方が優遇されていた時代だ。それと較べると、海の向こうでは状況はかなり異なっていたのは確かだろう。 

  

それでも、「49アップ」の時と比較して、男性も女性も登場人物は皆、7年前からかなり老け込んできたというのは確かに思える。ニールのように結婚しなかった者もいるが、スーのように結婚離婚を繰り返した者もおり、そして結婚して子供を持った者は、既に多くに孫がいる。 

  

健康を害している者もおり、身内にガンで死んだ者がいるなんて話を聞くと、もしかしたらたぶん次の「63アップ」の時には、鬼籍に入った者がいてもおかしくはないと思える。他人事ではない。彼らの成長そして壮年期、引退というのは、私にも重なる部分が多い。改めて私もそういう年齢になったんだなと感じる。 

  

とまあ自分と重ね合わせて感じ入る部分を抜きにしても、同時代ではない世代の人間が見ても、やはり「アップ」シリーズはそれなりに誰が見ても面白いと思えるドキュメンタリー・シリーズであることは間違いない。どんどん回数を重ねる毎に、ますます人の一生は先が読めないものであることを実証している。 

 

番組監督のマイケル・アプテッドは、もちろん「アップ」シリーズがライフワークなわけだが、唯一の後悔が、もっと女性の登場人物の比率を増やすべきだったこと、とどこかのインタヴュウで言っていた。因みにシリーズが追っている登場人物は男性10人女性4人で、これでは確かに女性が少な過ぎると感じるのは、現代に生きている者の目から見ているからだろう。シリーズが始まったのは1964年、英国といえどもまだ女性は家庭にいるものという意識が根強く、女性を何人も登場させることにメリットがあるとは誰も考えなかった。 

  

前回同様私が最も気になった一人がニールで、彼は明らかに生きるのが下手な迷える人間だ。大学へ行くも中退してホームレスになり、作家を試みるなど紆余曲折を経て、現在では地方の政界に関係しながら聖職者としても活動している。今では中途半端に禿げ上がった風采の冴えないおっさん以外の何ものにも見えないが、これが若い頃はダニエル・デイ-ルイスそっくりで、ああいう面構えってなんか悩める者という雰囲気が濃厚だ。 

  

もう一人、俳優に似ているという点で印象的なのが、ピーターだ。彼はクリストフ・ヴァルツにこれまたそっくりで、しゃべり方も似ていると思う。ピーターは実は前3回の「アップ」には出てはいない。TVに出ることに、害はあっても益はないと思ったようだ。それが考えを翻したのは、バンド活動に積極的に取り組むようになり、番組に出るのがバンドのいい宣伝に なると思ったからだ。ちゃっかりしている。彼のバンドはカントリーのバンドで、彼はギター、妻はアコーディオンを弾いている。英国にカントリーのバンドかと驚いたが地元ではそこそこ成功しているようで、ファン投票でも上位に来るらしい。遠目ではまったくヴァルツがギター弾いてカントリー歌っているようにしか見えない。 

 

回を重ねていく「アップ」シリーズの唯一の弊害、というか難しいところが、シリーズを初めて見る者のために、番組内である程度の登場人物の過去のおさらいをしなければならないというところにある。初めてじゃなくても、私だって見たのは6年前に一度きりであるわけで、登場人物の全員の細かいところまでなんて、とてもじゃないが覚えてはいない。そのためにある程度は彼、彼女のそれまでをざっとさらうが、これだけ番組の歴史があると、その部分の量が無視できないものになっている。


そのため、彼らの現在をとらえる部分がかなり短縮されているという印象を受ける。登場人物が14人もいるのだ。当然と言えば当然、仕方ないと言えば仕方ないが、この分だと、回を重ねる毎に彼らの現在のパートがどんどん減少していくという状況を回避する術はなさそうだ。単純に番組の総時間を長くするという方法もないではないが、そうやって番組自体がだれたり、長過ぎて視聴者の集中を乱すようなことは、製作側も避けたいだろう。さて、今後はどう折り合いをつけていくのか。 











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